奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第5話「流す涙の違い」

「……何のつもり?」

 

「ラウラ!?」

 

 目の前の生徒に殴られる瞬間、ラウラがその少女の右腕を抑えていた。

 

「……事情はよくわからない。

 それだけはやめておけ。

 きっと貴様にも何か譲れない事情があるにせよ」

 

「………………」

 

 先程まで雪風を馬鹿にされて冷静さを失っていたラウラであったが、冷静さを取り戻すと件の生徒の気持ちを汲んだうえで殴ることを止めていた。

 それは恐らく、転校初日に俺を殴ろうとして雪風に止められていた自分と目の前の生徒を重ねての行動なのだろう。

 

 成長したなぁ……

 

 以前は殴る側だったのに今はそれを止める側になった。

 そして、それはきっと相手にとって不幸なことになると考えての行動なのだろう。

 過去のことを反省する。

 間違いなく、ラウラは後ろ指を指されるような人間ではなくなっている。

 

「あなたには関係ない」

 

 そんなラウラの制止を例の女性は冷淡な声で返した。

 彼女からすれば赤の他人であるラウラに止められた、いや、首をツッコまれたのは腹が立つのだろう。

 

「そうはいかない。

 私と同じ様なことをしようとしている人間がいるのだ。

 止めない訳にはいくまい」

 

「ラウラ……」

 

「ラウラっち……」

 

「………………」

 

 それでもラウラは彼女を止める様に説いた。

 ただ他人がかつての自分と同じ事をしようとするのならばそれを止める。

 それは一度同じ過ちをしてしまったことで受けた傷と背負った十字架を表している。

 

 ……お前、すごいよ

 

 冗談抜きでラウラはすごいと思う。

 世の中には自分と同じ失敗を誰かがすることを望む人間はたくさんいる。

 だけど、ラウラは真逆で他人に望まない。

 むしろ、それを止めようとする。

 明らかに雪風に助けられる以前と比べればラウラは人間的に成長している。

 

「そもそも、ズルとは何だ?

 私の知る限りお義姉様も織斑もその様なことをする人間ではない」

 

 ラウラは俺たちの性格上、ズルはしないと言ってくれた、

 その言葉は嬉しかった。

 何かしらの理由で目の前の生徒から僻みを買っているのは理解出来る。

 それでも「ズル」という言葉に関しては聞いておきたかった。

 

「……知らないって……本当に……!!」

 

「!?」

 

「むっ!?」

 

 しかし、その質問は彼女を怒らせるだけだった。

 彼女から苦しんでいるというのにその原因の張本人が知らないと言うのだ。

 怒るのも無理はない。

 ラウラの顔は苦しそうだった。

 そうだった。

 ラウラはこれにも思い当たる節があるのだ。

 彼女も俺があの大会のことで自分の恨みを買っていたことも知らないことも気に食わなかったのだ。

 

 ラウラにとっては見たくない自分の過去そのものだな……

 

 目の前の生徒は尽くラウラにとってのかつての過ちを彷彿とさせる。

 ある意味、自分の過去の過ちを突き付けられているのだ。

 

「か、かんちゃん……」

 

 そんな幼馴染の感情的な一面を見て、のほほんさんは声を掛けようとした。

 

「……出て行って」

 

「え……」

 

 彼女は静かに、だが、そこに怒りと悲しみを込めていった。

 そして

 

「出て行って!!!」

 

「っ!」

 

「かんちゃん……」

 

「………………」

 

 訴える様に泣きながら俺たちにこの場から出ていくように俺たちに叫んだ。

 その剣幕、いや、慟哭に俺たちは黙るしかなかった。

 彼女の事情は知らない。

 だけど、彼女の心からの叫びと彼女を泣かせてしまったという罪悪感からどうしようもなかった。

 

「……わかった。

 すまない。行くぞ、二人とも」

 

「え?でも……」

 

 そんなどうしようもない空気と気持ちが満ちる中、ラウラがこの場から去ることを口に出してきた。

 のほほんさんは幼馴染をこの場に一人にすることへの躊躇いを見せた。

 

「……そうだな。

 のほほさん、ここは……」

 

「う、うん……

 ごめん……かんちゃん」

 

「………………」

 

 だけど、俺もラウラの言葉に従ったことでのほほんさんも少し申し訳なさそうに去ることになった。

 そんな去っていく俺たちに対して例の生徒は俯きながら何も言わなかった。

 

 一体、俺は何をしたんだ……?

 

 殴られそうになって多少の反感を覚えたが、目の前の人間をここまで泣かした自分の罪とは何かわからず戸惑ってしまった。

 

 でも、雪風もなんて……

 

 しかし、同時に雪風も彼女を泣かせたことが不思議だった。

 今まで雪風が誰かを泣かす時はそれは彼女が抱えている過去や他の誰かの涙の意味を変える時だけだった。

 そんな雪風が俺と同じ様に先ほどの生徒を苦しめ、泣かせてしまったと言うのだ。

 それが信じられないのだ。

 

「一体、どういうことだ……?

 お義姉様が一体……?」

 

 ラウラも同じ様に悩んでいた。

 雪風によって自分を省みることが出来る様になった人間だ。

 だからこそ、彼女も信じられないのだ。

 

「おりむー、ラウラっち。

 その……ごめんね」

 

 格納庫から出た直後、のほほんさんは俺たちに謝罪してきた。

 

「いや、のほほんさんが謝ることじゃない」

 

「そうだ。むしろ、こっちの方こそ下手に話に首を突っ込んでしまった。

 すまなかった」

 

「……ありがとう」

 

 彼女が謝ることなんてない。

 むしろ、謝るべきは話をややこしくしてしまったこっちの方だ。

 

「布仏、

 すまないが、どうしてさっきの生徒はあんな風に泣いてしまっていたのか教えてくれないか?」

 

 こんな状況で理由を訊ねるのはどうかしているのかもしれない。

 けれども、何故かあの生徒が泣いているのは俺たちのせいらしい。

 それは知っておかなければならない気がして俺は知りたいと望んだ。

 

「……わかったよ。

 じゃあ、話すよ」

 

「ありがとう」

 

「すまない」

 

 苦しそうにのほほんさんは決意を込めて話そうとしてくれた。


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