奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「戦争から逃げる……?」
会長が妹に選ばせようとする二つの道。
それを知った先ほどまでのものとは異なる種類の衝撃を受けていた。
それは事実を知ったからではない。
その選択を選んだ会長への疑問を彼女たちなりに考えたからだ。
「いくら何でもそれは……」
「非難されることだぞ……」
シャルとラウラは会長のわがままに等しい方針に対して、先ほど俺が会長と話していた際に会長自身が自覚していたその道を選んだ時に彼女たち姉妹に降りかかるであろう苦難の道を指摘した。
やっぱり、そうなるよな……
俺は自分がそもそも「IS」と無関係であったことから価値観が多少ずれていると考えてはいたが、どうやら、「IS」と関係が深い「代表候補生」にとってもそれは当然の感情らしい。
まずいな……
同時に俺はそこに危機感を覚えた。
「IS」に関わる面々ですらそう思うだろうし、「IS」と無関係だった、つまりは一般人だった俺だって想像が付く。
ということは、それは他の一般人、つまりは大衆が知れば会長と更識は酷い非難にさらされるのは容易に想像出来ることだ。
そこに俺は不安を覚えた。
「それは家の役目を放棄しているのに等しいですわ」
「!?」
加えて、そこにセシリアまでもが指摘してきた。
それは同じ様に特殊な家の下に生まれ、その当主として役目を全うしようとする彼女らしい言葉だった。
貴族の彼女としては会長の明らかに役目を放棄している行動には思うところがあるらしい。
言わないほうが良かったか……
俺は四人の反応を見て自分の行動に僅かながらの後悔を抱いた。
全員の疑問を晴らすために俺はそれに応えた。
しかし、疑問を払拭する事ができたが、その代わりに不信感を抱かせてしまった。
何時かは避けられないことではあった。
だが
半分は俺のエゴだ……
俺がこのことを明かしたのは俺のエゴも含まれていた。
本当は共感が欲しかっただけだったのかもしれない。
会長の妹を守る為に妹が戦いを怖れるのなら守りたいという姉の願い。
それが間違った選択だったとしても、決して、そこに込められた想いがある限りは悪だと思っては欲しくはなかったという願いが俺にはあった。
ああ……分かってる。
守りたいんだ、俺は……
最初はただ守れる人間になりたいと思っていただけだった。
ただ今は違う。
誰か大切な人を守りたいと願う誰かの願いを俺は守りたいと願うようになった。
会長の行いは間違っている。
それでもその誰もが願うささやかな願いを守りたいと俺は願えるようになった。
だって、そうじゃなかったらこの世界を守る意味がないだろ
はっきり言えば、俺はこの世界を守りたいなんていう高尚な理由があるはずなんてない。
俺はただ千冬姉を守れるぐらい強くなりたいという願いしか持つことのできなかった人間だ。
それでも男性で唯一「IS」を使える。
たったそれっぽちの理由で戦う力を得た俺が戦うのは雪風という友達の為だけだった。
自分が世界がどうとか背負える人間じゃないのは百も承知だった。
だから、もし世界を守ることも理由の一つになるのなら、誰かのささやかな願いや想いを守るという前提がなければ土台無理だ。
「それでも俺は……!」
俺は四人に『自分だけは納得している』と言おうとした。
自分の勝手な感情に誰かを巻き込むのは間違いだからだ。
「ですが……
危うく、わたくしは間違った考えを押し付けるところでしたわ」
「え?」
しかし、その言葉は最もこの場において会長の行動を批判しそうであったセシリアによって続くことはなかった。
「そうだね。
下手をしていたら、僕らとんでもない方向に向かっていたよ」
「ええ。
本当に間が良すぎるわね」
「シャル?鈴?」
セシリアに続いて、シャルと鈴までもが彼女の意見を支持し出した。
そのことに鈴は『タイミングが良かった』と言った。
「ああ。
恐らく、お義姉様がいなければ私も理解できなかった。
本当に良かった」
「ラウラまで!?
一体、どういうことなんだ?」
加えて、ラウラまでもが賛同してきた。
その言葉には何かを恐れている様なうかがえた。
しかし、どうして四人が一様にその反応をしているのかが分からず、今度は俺が混乱してしまった。
「……天龍さんに言われたのよ」
「?
天龍さんに?」
その疑問に鈴が答えた。
どうやら四人が余り会長の行動に反発しないのは、天龍さんが何かしらの言葉を伝えた為らしい。
「……アタシたちの覚悟は兎も角としてアタシたちを想ってくれている人の気持ちを考えたことはあるのか?ってね」
「!!」
その内容はまさに会長が妹にしようと思っていたものと同じだった。
「……アタシたち、今まで考えてなかったわよ。
自分たちは大丈夫だからって、だからそれで十分なんだって」
「僕も勇気を出さなきゃいけないって自分を追い詰め過ぎていたよ」
「わたくしに至ってはそれを他人に押し付けようとしてましたわ」
三人は三者三様に自分たちが天龍さんに言われるまで気づけなかったことを告白した。
同時にそれがどれだけ危ういことであったのかを自覚していた。
「……弱い人だっている。
僕だって、そうだよ。
本当は恐くて、恐くて仕方がなかった。
でも、自分だけなら我慢出来るって思ってた。
だけど、それは自分だけなんだって!」
「アタシも……
いつもみたいに思ってたけど、違うのよね。
大切なことを忘れてたわ」
「誇りや義務は大切なものですわ。
ですが、それと同時に周囲の人たちにもかけがえのないものを背負っている人たちだっている……
そこに気付けないのは迂闊でしたわね」
三人は思い思いに自分たちが気付いたこと。
そこには決して押し付けなどなかった。
シャルは恐らく、母親のこと。
鈴は離婚しているとは言え両親のこと。
セシリアは家のこと。
きっとそこに連なる何か大事なことに気付きだしたのだろう。
そうか……これが大事なのか……
俺は天龍さんと龍驤さんが伝えようとしてくれたことが分かった。
恐らく、俺たちは危うい考えを抱いていたかもしれない。
『自分たちが戦っているのに他の連中は』。
そんな考えをもしかすると、今回の件がなかったら抱いていたかもしれない。
違うんだよ、みんな何かしら頑張っているんだよ
人間は何かしらの為に戦っている。
家族や友人、愛する者の為に。
それはきっと忘れてはならないことだったのだ。
もし、それを知らなかったら俺たちは思い上がっていたかもしれない。
「そうか……
そうだったのか……」
ラウラは俺たちの様子を見て、何処か遠い過去を見るような眼をしていた。