奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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雪風が活躍する公式メディアが少ないのがちょっと寂しいこの頃です。


第9話「姉として、妹として」

「う~ん……」

 

 0600。

 私は日課である走り込みをするために起床した。

 大戦前の二水戦の訓練の内容と大戦中の苛烈さの中で余力なんてなかったが、戦後は老朽化していく「艤装」による負担を和らげるために始めたことだ。

 そもそも、総旗艦であり訓練艦である私がへこたれていては他に示しがつかないのが大きな理由だ。

 今は軍人ではないがそれでも身体は自然に起きてしまう。

 慣れと言うのは案外、すごいものだ。

 

「さてと……」

 

―カキカキー

 

「それじゃ、いってきますね」

 

 私は走り込みの準備を終えると本音さんがいつでも起きてもいいように書置きを残してから走り込みに向かった。

 それに少し、走り込みを終えてからとある用事も済ませなくてはならない。

 

 

 

―コンコンコンコン―

 

「入ってもいいぞ」

 

 朝早く寮監室のドアをノックする音が聞こえたので私はドアの前にいるであろう人物に入室の許可を与えた。

 恐らくだが、彼女だろう。

 

―ガチャー

 

「失礼します」

 

 学生にありがちな「ながらお辞儀」をせず、お辞儀と挨拶を別々にしたメリハリのある作法で彼女は入ってきた。

 入ってきたのは私の予想通りの人物だった。

 

「陽知か、朝食の30分前に訪ねて来るとはどうした?」

 

 私はあくまでも担任と生徒と言う体を装いながら雪風を迎えた。

 

「朝早くからすみません。

 どうしても織斑先生に謝罪したいことがあって訪ねさせて頂きました」

 

 と言って、雪風もまた生徒として私に接してきた。

 こいつは本当に公私の分別ができている。

 育ちがいいのが窺える。

 

「……別に昨日のことなど私は気にしていない」

 

 私は昨日の件における彼女の言動を咎めるつもりなどない。

 むしろ、私の方こそ不注意も多かったうえに彼女に学んだことも多くあった。

 と私が「体罰」の件で彼女が来たと考えていると

 

「いいえ……私が謝りたいのはもう一つのことの方です」

 

「……そっちの方か」

 

 彼女はそれを否定した。

 私はある程度の察しがついた。

 

「この学園では私とあいつは「姉弟」ではなく、「教師」と「生徒」だ。

 だから、お前が気にすることはない」

 

 雪風が訪ねてきた本当の理由は一夏に対しての罵倒と侮辱に対してらしい。

 確かに私も大切な弟を『腰抜け』呼ばわりされたのは気持ちのいいものではないが、それを言ったらオルコットの罵倒ではない誹謗中傷の気分が悪い。

 むしろ、雪風がオルコットの日本に対する侮辱と「女尊男卑」発言に対してよくぞあそこまで耐えてくれたと思ってもいる。

 「女尊男卑」に対しては彼女と出会った翌日からの反応からどれだけ彼女が悲しみと怒りを抱いているのかは知っている。

 しかし、忘れてならないのは雪風はあの戦争に匹敵する(・・・・・・・・・)戦争の中で国を守っていた人間だと言うことだ。

 そして、何よりも彼女は元とは言え「帝国海軍」の軍人だ。

 どうしても「大日本帝国」と言うと「愛国心」と言うものが頭にちらつくが、恐らく雪風の「愛国心」は我々の想像する盲信とか狂気などではない。

 私自身は「愛国心」とは無縁の存在だし、国家とか政府よりも愛する弟の方が大切だ。赤の他人よりは先ずは家族だ。

 そうでなくては「モンド・グロッソ」の二連覇を達成していただろう。

 だが、この私も一夏の生きる居場所を奪われるのならば戦うだろう。

 結局の所、「平和」とか漠然としたものよりも家族や友人とか大切な誰かのためにしか人は戦えないだろう。

 

 ただ……雪風はそうじゃないんだろうな……

 

 雪風は文字通り国のために戦ったのだろう。

 まるで特撮ヒーローに出てくるヒーローのように自分の知らない誰かのために。

 きっかけは何かは分からない。

 しかし、それでも彼女は戦って生き残った。

 そして、「大和」を始めとした仲間や「陽炎型八番艦」と言う名前から多くの姉妹と戦い彼女たちを失ったのだろう。

 

『世の中には……

 守りたいのに……

 力を持っているのに……

 守れない人もいるんです……!!』

 

 そんな彼女が仲間や姉妹たちが命を懸けて守ろうとした国に対して何の感情も持たないはずがない。

 「日本」と言う名前と土地しか共通点がないとは言え、彼女にとってもこの「日本」は大切なものなのかもしれない。

 いや、「日本」と言う名だけで大切なもののはずだ。

 

 本来なら、私が止めねばならかったのにな……

 

 私は教師であったのにオルコットを止めなかった。

 それは一夏の存在が理由だ。

 私とあいつは「姉弟」であり、仮に私がオルコットに注意を促したら『肩を持った』と思われる可能性がある。

 

 川神がいればなぁ……

 

 私の抑え役にして、恐らく一夏に対しても最も公平な態度を示せる後輩はまだこちらに来ていない。

 このままでは「公」に縛られて「厳」を徹底できない。

 そう考えると

 

「お前の発言は本来ならば私が言わなくてはならなかったことだ。

 むしろ、ありがたい」

 

 川神がいたのならば、言ってくれるはずだったことを自分の立場を悪くしても言ってくれた雪風には感謝している。

 

「しかし……!」

 

 それでも雪風は気にしてくれている。

 どこまで律儀なのだろうか。

 

「お前が言わずともあいつ(・・・)がいたらそう言うさ……」

 

「え?」

 

『どうしたんですか?そんな風にへこたれて。

 あなたは女の子が泣いてるのにそれを放っておけるほど弱虫なんですか?』

 

 昔、一夏に稽古をつけていた川神が言った言葉を思い出した。

 あいつは「女尊男卑」で『男が女を守るのは時代遅れの発想』なんて言う風潮が出来てからもそう言って一夏に厳しくしていた。

 その川神にそう言った言葉を叩き込まれていたあいつがあんな情けない姿を見せたのは少し呆れたが。

 

 川神が帰ってきたら……覚悟しておけ……一夏……

 

 あの場に川神がいた方が良かったのか悪かったのか自分でも分からなくなってきた。

 

「それよりも陽知。

 お前も朝食の準備をしろ。

 私は言っておくが『公私の加減ができない』不器用な人間ではあるが、贔屓をするつもりはないぞ?」

 

 私はこれ以上、雪風が気にしないように話を切り上げようとした。

 雪風の様子は既に制服を着こなし、髪の乱れもなくシャワーも浴びたのか体臭も感じさせなかった。

 恐ろしいのは化粧品とか使っていないのに十人が十人見れば『可愛い』と言えるほどに顔も整っているところだ。

 最低限の身だしなみでこれだ。

 こう言った支度を既に終わらせているのは教師としては嬉しい限りだ。

 彼女が遅刻するとは思えないが。

 

「わかりました……ですが、先生。

 これだけは同じ姉(・・・)として言わせてください。

 ごめんなさい」

 

 雪風は渋々ながら承諾して食堂に向かっていった。

 

 

 

―キーンコーンカーンコーンー

 

 学園生活兼任務二日目。

 やはりかと思うが、今日も私の護衛対象の周りには多くの女生徒が人垣が生まれていた。

 私は好機と怪訝の目を向けられながら護衛対象を監視しながら先ほどの授業における「IS」との付き合い方についての説明を考えていた。

 

 パートナー……相棒ですか……

 

 多くの生徒たちは男女交際の例え方に年頃の女子らしく色々とはしゃいでいたが、私はそう言った感情よりもむしろ、どこか切ない気持ちに浸った。

 

 初霜ちゃん……

 

 それは私の「IS」である「初霜」の名前と武装が理由だ。

 私にとっては「初霜」と言う名前は特別なものだ。

 あの地獄から帰還した後にさらなる絶望に見舞われた私を支えてくれた大切な戦友の名前だ。

 そして、「約束」を交わしながらも私を置いて行った人だ。

 

 また……私と戦ってくれるんですか?あなたは……?

 

 その彼女の名を持つ「IS」が「相棒」と言うのは何とも言えない気持ちになった。

 だけど、どこかそれは頼もしさにも感じられた。

 戦友のことを偲んでいると

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

 織斑さんがいつの間にか弟さんの背後に現れて周りの女子たちにそう言い放ち彼女たちに着席を命じた。

 さすがに織斑さんは「世界最強」の異名があるだけあって気配を消す才能があるらしい。

 どうやら、今回は口頭注意だけですましたらしいがどこかイライラしている気がした。

 弟さんが何かやらかしたのだろうか。

 

「ところで織斑、お前の「IS」だが準備まで時間がかかる」

 

 唐突に彼女はそう言った。

 

「へ?」

 

「予備機がない。だから、少し待て。

 学園で「専用機」を用意するそうだ」

 

 「専用機」のことですか……

 

―がやがやー

 

 彼女の説明が終わるとクラス中の人間が羨望と驚愕の目を彼に浴びせだした。

 以前、倉持に「初霜」のメンテナンスと私自身のある程度の身体検査(言っておくが、決して非人道的なものではない)を受けに行った時、彼に急遽「専用機」が用意されることを知ったので私は驚かなかったが気持ちは分からなくもない。

 

 新装備とかに憧れを抱くのも無理はないですね。

 

 弟さんが呆れた自らの姉に「専用機」の説明を読まされている中、私は昔のことを思い出して今回だけはクラス全体の気持ちに理解できた。

 「武器」に憧れを抱くのは少々、「軍人」としては複雑ではあるが、長門さんや大和さんを始めとした戦艦、一航戦や二航戦を始めとした帝国海軍の航空部隊、そして神通さんを始めとした水雷部隊の雄姿を初めて見た時は私も胸が熱くなった時がある。

 と、私が心に刻まれた帝国海軍の栄光を感じていると

 

「あの、先生。

 篠ノ之さんってもしかすると篠ノ之博士の関係者ですか?」

 

「あ」

 

 「ISコア」の説明の中で出て来たとある人物の情報から一人の女子が目ざとくその事実に気づいた。

 これは不味い。

 資料で読んだ篠ノ之さんの家庭事情は他人が軽々しく触れるべきではない。

 もちろん、有名人の近親者と言うのは注目してしまうのは仕方ないことかもしれないが。

 実際、私の世界にも司令と榛名さんが結婚した後に生まれた娘さんに注目していた報道機関も多くいた。

 

「……そうだ。

 篠ノ之はあいつの妹だ」

 

「……!?」

 

 私は織斑さんの返答に驚きを隠せなかった。

 確かに篠ノ之さんと博士の関係は私の「初霜」と同じくいつかは隠せなくなる事実だろうし隠すと逆に怪しまれることではあると思う。

 だが、彼女の家庭事情のことは彼女にとっては心の傷に等しいはずだ。

 これは戦後に質問された大和さんたちのことを質問される度に心苦しかった私の経験から来るものだ。

 

「ええええええええ!?

 す、すごい!

 このクラス有名人の身内が二人もいる!」

 

「ねえねえ、篠ノ之博士てどんな人!?やっぱり天才なの!?」

 

「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度「IS」の操作教えてよ」

 

 一瞬で篠ノ之さんに生徒たちが群がってしまった。

 無理もないことではあるが。

 質問責めに遭っている本人を見ているとやはり痛ましい表情をしていた。

 

「ちょっ―――!!」

 

 私はたまらず、既に立ち位置が悪いので彼女たちに制止を呼びかけようとするが

 

「あの人は関係ない!!」

 

 私が制止を呼びかける前に他ならぬ篠ノ之さん本人が大声を出してしまった。

 すると、クラス中の人々が唖然とした表情をしてクラス全体が静まり返った。

 

 遅かったか……

 

 彼女の家族のことを考えれば彼女が感情的になるのは目に見えていた。

 その気持ちは痛いほど理解できる。

 

「……大声を出してすまない。

 だが、私はあの人じゃない。

 教えられるようなことは何もない」

 

 我に返った篠ノ之さんは集団に非礼を詫びた。

 根は真面目な人なのだろう。

 ただ周囲の人々は彼女が自分の期待していたことをしなかったことに不満と訝しさを向けていたが。

 

 お姉さんを「あの人」か……

 

 私は彼女の自らの姉に対する扱いにどこか複雑な気持ちを抱いた。

 

 お姉さんを嫌うって……どんな気持ちなんでしょうね……

 

 彼女の姉に対する拒絶に近い呼び方に私は考えた。

 19人いた姉妹の中でただ一人だけ残された私は実の姉妹を嫌うことや憎むことなんて想像できなかった。

 仮に私が彼女たちを恨んでいるとすれば、私一人を残していなくなったことぐらいだ。

 

 ……もし、時津風や磯風に拒絶されたら立ち直れそうにないです。

 

 私と小隊を組んでいた時津風とある意味、人間の関係に当てはめるのならば最も妹の定義に当てはまる磯風に嫌われたら立ち直れる気がしない。

 数多くいる妹の中であの二人は戦友とか同型艦とかを超えた特別な妹だ。

 もちろん、他の妹たちも大切なことには変わらないが。

 

 お姉ちゃんが私のことを大切にしてくれたのは初めての妹だったのも大きいんでしょうね……

 

 七番艦であるお姉ちゃんは同郷の妹がいない。

 だから、彼女が私に姉妹論争をしたのはそう言うことだったのだろう。

 

 黒潮お姉ちゃんやお姉ちゃんを嫌うなんてそれこそ想像できませんね……

 

 私にとっての特別な姉二人を嫌うなんてことはありえないことだ。

 私のことを初めて()として大切にしてくれた二人を嫌うなんて。




ふと思ったこと。
劇場版……青葉大丈夫かな……

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