奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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雪風の声帯の妖精さんが出てるゲームをやったんですが、
サブキャラだったんですがその子の出てくる話が泣けました。
ちなみにそのキャラの語尾は「でち」なんですけど(58じゃないですよ)。
あの人はあどけない声も上手いですが、その中に気迫がこもるとすごいです。
雪風か時津風が改二になったら相当、すごい気迫が込められるボイスも実装される気が。
かなりワクワクしています。


第10話「悔しさ」

「安心しましたわ。

 まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

 昼休みに入るとオルコットさんが再び織斑さんの弟さんに挑発するかの如く絡みだした。

 いや、きっとあれは挑発なのだろう。

 どこまでもこの人は尊大なのだろうか。

 

「うわぁ……また、やっているよ……」

 

 私の隣で本音さんが呆れていた。

 私たちはこの後、相川さんと夜竹さんと合流するために食堂に行く予定になっている。

 

「まあ?一応勝負は見えていますけどね?さすがにフェアではありませんものね」

 

「……?なんで?」

 

「あら、ご存知ないのね。

 いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。

 このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……

 つまり、現時点で「専用機」を持っていますの」

 

 オルコットさんは「専用機持ち」の意味を知らない弟さんに不毛な自慢話をした。

 この後のことは目に見えているが。

 

「へ~」

 

 織斑さんの弟さんはやはりと言うべきか、その重要性が実感できていないこともあって間の抜けた反応をした。

 「専用機」の意味を先ほどまで全く知らなかったのだから無理なことかもしれないが。いや、勉強不足と言う点には納得はいかないが。

 

「……馬鹿にしていますの?」

 

 自分の望んでいるような反応が返ってこなかったことに不満を覚えたオルコットさんは低い声を出した。

 

「いや、すげーなと思っただけだけど。

 どうすげーのかはわからないが」

 

「ぷっ……」

 

 私は思わず吹いてしまった。

 まさか、正直にそれを言うとは思わなかったからだ。

 

「それを一般的に馬鹿にしていると言うでしょう!?」

 

―バン!ー

 

 彼の本人も自覚していない無神経さに憤りを爆発させたオルコットさんは彼の机に怒りを叩きつけた。

 気持ちも解らなくはないが、淑女の国の代表候補生としてヒステリックになるのはどうかと思う。

 彼のあれは一種の才能なのかもしれない。

 と私がそのやり取りを見て色々と心の中で茶地を入れていると

 

「あなたもです……!!」

 

「……はい?」

 

 なぜか、突然オルコットさんに指をさされてしまった。

 

「週末の決定戦において、「代表候補生」と「専用機持ち」と言う肩書を持つ人間が相手なのになぜ何も言わないのですか!?」

 

 どうやら、オルコットさんは私が今までの会話を耳に入れていながら動揺も驚愕も示さなかったことに彼に対する感情と同じものをぶつけて来た。

 この人はどれだけ承認欲求が強いのだろうか。

 

 めんどくさいですが……「初霜」のことを説明しておくいい機会になりますね。

 

「本音さん、ちょっと先に行っててくれませんか?」

 

 私は多分、拘束されると考えて本音さんに先に食堂に行くように言った。

 

「うん、わかった」

 

 本音さんは私の言葉を聞くと素直に食堂へと向かって行った。

 

「……私は普通(・・)は「代表候補」が「専用機」を持っていると考えていますので別に驚かなかっただけですよ」

 

 本音さんが教室から出た後に私はなるべくオルコットさんの神経を逆撫でしない様にしつつ、ある程度はこちらの面子を保てる受け答えをした。

 だが

 

「なっ……!?

 「専用機持ち」を馬鹿にしていますの!?」

 

「へ?」

 

 なぜかあちらは挑発と捉えてしまった。

 なんでそうなる。

 

「いえ、馬鹿になんてしていません。

 私は代表候補生ならば「専用機」を持っている可能性を十分、考えられることだと思ったまでです」

 

 私は弁明と言うよりも説明と言う方が正しい主張を彼女にぶつけた。

 相手が確かに強敵なのは厄介なことだと思うがそれが解っているのならば逆に「油断」と言う甘い罠に嵌まらないですむのだから恐れることなどない。

 

「何を言っていますの!?

 「専用機」なのですよ!?

 普通ならば驚くべきでしょう!?」

 

「……は?」

 

 私はごく当たり前の反応を示したつもりなのだが、彼女は不満らしい。

 今ので分かったが彼女は要するに私が「専用機」に対して恐怖を抱いていないことが気に食わないらしい。

 さすがの私でも不機嫌さを隠せなくなってしまった。

 

「なんで私が驚かなくちゃいけないんですか?」

 

 相手が子供とは言え、感情の押し付けをされるのは気分が悪くなって私は苛立ちを込めてそう言った。

 それに大人気ないが私は「華の二水戦」出身だ。

 血の気の多い水雷畑の中でも特に血気盛んな「二水戦」で育った私は虚勢に怯むなんてことはしたくない。

 怖気づくことを作戦指揮を執っているわけでもないのに強要されるのは我慢ならない。

 

「私は相手がなんであろうと慢心も怯むことなく掛かるだけです。

 ただ「専用機」を持っていると言う理由だけ(・・)に怯む必要があるんですか?」

 

 目の前の彼女はともかくとして、どれだけ機体が優れようが肝心の操縦者の腕が劣っていればそれは所詮は玩具だ。

 

「わ、わたくしを愚弄するつもりですの!?」

 

 ……なんでそうなるんですか?

 

 私の言葉にオルコットさんは遠回しに侮辱されたと思ってか詰め寄ってきた。

 確かに今のはケンカ腰であったがもう既に私は品性なんてかなぐり捨てようと思った。

 自分のことを下に見るような人間相手に敬意を示せるほど私は人格者じゃない。

 

「だから、あなたを侮辱なんてしてません!

 どれだけ自意識過剰なんですか!?」

 

 埒のいかない現状に私はつい怒鳴ってしまった。

 織斑さんの弟さんも人をイラつかせる才能があるが、オルコットさんも十分その才能がある。

 いや、彼よりも積極的に絡んでくることを考えるとこっちの方が質が悪いかもしれない。

 本気でいい加減にしてもらいたい。

 そもそも、この人は自分よりも強い相手と戦うことになったら戦う前から怯むのだろうか。

 

「大体、「代表候補」になるにはそれ相応の実力が必要でしょうが!

 そんな相手に油断するほど私は腐っていません!!」

 

 本当は彼女も彼女なりに努力を積み重ねたうえで今の地位を築いてきたことを理解していることを伝えようと思った。

 彼女は私や彼と違って実力(・・)で「専用機」を受領している。そのことは素直に評価しているつもりだ。

 しかし、ここまで高圧的な姿勢を向けられるのならばさすがに反発もしたくなる。

 

「あ、あら……い、意外にも解ってらっしゃるのですね」

 

 私の怒鳴り口調に圧されながらも都合のいい耳をしているのか、オルコットさんは初めて自分の実力を認められたことに気分を良くした。

 なぜか損をした気分だ。

 

「まあ、このわたくしに練習機で挑むことには同情をしますわ」

 

 私が自分の実力を知っていることを把握したオルコットさんは織斑さんの弟さんに調子を狂わされる前のように勝ち誇りながらそう言った。

 

 ……この人は量産機の安定性とこの場合は関係ありませんが「量」の優位性を馬鹿にしているんですか?

 

 「駆逐艦」と言う集団戦闘を主とする艦種である私からすれば、オルコットさんの今の発言は失笑物だ。

 と言うか、これは「数」と言う「絶望」を知らない人間が言う戯言だ。

 私たちはそれこそ数に限りの見えない敵と戦い続けた。

 それに彼女の発言は量産機の製造される過程を否定しているようなものだ。

 量産機と言うのは試行錯誤の果てに得られた情報を基にした完成品なのだ。

 確かに「専用機」には成長すると言う利点は存在するが、不確かな可能性に欠けるのは運頼み(・・・)に等しい。

 私は「奇跡の駆逐艦」とか「幸運艦」とか「強運艦」とか言われていたが、無理な作戦は嫌いだ。

 私の「相棒」でもあった妹はそんな滅茶苦茶な作戦を立てた「司令部」に殺されたようなものだからだ。

 そもそも「運」に頼っている時点でそれは作戦として破綻している。

 そう考えると量産機の方が安定性に優れていることから使い易さと信頼性は上だ。

 

 と言っても……「専用機」を持っている私が言っても説得力に欠けますかね……

 

 私は自分の考えとは矛盾している現状に自嘲した。

 本来ならば、「訓練機」で戦いたかったところだが。

 しかし、更識さんからの指示もあってここは「初霜」で戦う必要がある。

 

 ごめん……

 

 私は戦友とその名前が刻まれた愛機に心の中で謝った。

 

「「打鉄」の新型パーツの試作品で挑むので心配せずとも結構です」

 

 この場以外において「初霜」の表向きの情報を明かせる機会はないと思って私は「初霜」のことを公表した。

 ぶっつけ本番で見慣れない機体を見せられるのでは混乱を生みかねないだろう。

 

「試作パーツですって?」

 

 私の発言にオルコットさんは今までと違う感情を露わにした。

 

「試作品?」

 

「え?陽知さんて、もしかすると実はかなりすごい人なの……?」

 

「でも、それならあの堂々とした態度も納得かも……」

 

 オルコットさんだけでなく、クラス中の織斑さんの弟さんを除く生徒たちも驚きだした。

 「IS」に対して物怖じしないのはいいことだとは思うが、それが無知から来るのでは今後が不安だ。

 

「そうです。

 安定性に優れる「打鉄」に工夫を凝らして火力面に加えて機動力も向上させる仕様です。

 少なくともただの二世代機と見たら痛い目を見ることだけは断言しておきます」

 

 私は表向きの「初霜」の開発経緯を公言した。

 本当は「専用機」であり、戦い方は「ラファール」の方が似ていると思うが、さすがに他国の企業のものを使うのは怪しまれるので「打鉄」にしておいた。

 また、「打鉄」は割と私の戦い方に合っていたのも大きな理由だ。

 実際に「打鉄」にグレネードランチャーを装備したカスタム機も借りてみたが、「初霜」ほどではないがしっくり来た。

 本来ならば、「打鉄」にロケット弾等を加えた機体で挑みたかったが。

 

「ふん、所詮は量産機……私の「ブルー・ティアーズ」の前では……」

 

 オルコットさんはあくまでも自分の優位性を曲げなかった。

 ここまで来ると一種の清々しさまで感じられる。

 

「そうですか……では、互いに悔いの残らない戦いをしましょう」

 

 私はそれだけを言い残して教室から出た。

 本音さんたちをこれ以上、待たせるのは嫌だったので。

 

 

 

 なんなんだ……あいつは……

 

 俺は昨日、自分のことを『腰抜け』と言ったクラスメイトの立ち振る舞いに何と言えば分からなかった。

 彼女は不思議だ。

 誰よりも礼儀正しいと思ったら、誰よりも苛烈で、誰よりも真っ直ぐだった。

 クラス中を見回すと誰もが教室から去っていく陽知に視線を向けていた。

 先ほどまで不機嫌であった箒でさえもだ。

 

 那々姉さん……?

 

 俺は昔、優しくとも厳しかった近所のお姉さんをも思い出した。

 なぜか解らないが、俺は那々姉さんと陽知のことを重ねてしまった。

 そして、俺は胸に違和感を感じた。

 

 なんだろうな……この感じは……

 

 今、俺が胸に感じていたのは先ほどまで感じていた「IS」に対する知識不足から来る焦りとは違ううずきだった。

 

『では、互いに悔いの残らない戦いをしましょう』

 

―グッー

 

 あの時、彼女はオルコットだけ(・・)にその言葉を贈った。

 なぜか俺はそのことに

 

 悔しい……

 

 悔しさを感じた。




個人的にセシリアて子どもだと思います。
今まで一人で頑張ってきたのでこうなるのも仕方ありませんし、甘えさせてくれる人がいなくなりましたのでしょうがないと思いますが。

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