奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

4 / 332
第3話「告げられた事実」

「帝国海軍……?」

 

「陽炎型駆逐艦だと……?」

 

 目の前の見たこともないISを身に纏った少女はそう名乗った。

 彼女が現在の台湾に所属しているのは先程から繰り返された自己紹介で理解できた。

 だが、それでも私たちにはとても理解できないことがあった。

 それは帝国海軍と駆逐艦という単語だった。

 ISを持つ者が独立した部隊ではなく海軍に所属していることも驚きではあるが、明らかに目の前の少女は日本人ないしはアジア人である。それにアジアの中で帝国の名を冠した近代化した海軍は一つしかない。

 いや、正確には一つしかなかった(・・・・)はずだ。

 また彼女の口に出した駆逐艦とは恐らく軍艦の級名の駆逐艦のことだろう。

 だが、日本では自衛隊の艦種で旧日本軍における駆逐艦の役割を持つ艦種は護衛艦と呼ばれるはずだ。

 だが、不可解なのは彼女は自分をその軍艦の艦長や乗組員(そもそも、このISが最強と言う風潮の中であえて女性が海軍に所属している時点で稀なのだ)と言った風に言ったのではなく、まるで自分こそがその軍艦そのものだと主張するように名乗ったのだ。

 そして、もう一つの謎は彼女は仮に彼女が帝国海軍の駆逐艦ならば、一種の骨董品扱いされている兵器であるあの駆逐艦を名乗っていることになるのだ。

 今の世界では最早、イージス艦や空母すらも「ISを使えない男が使う代用品」程度にしか思われていないのだ。

 実際、今年の国会の予算案では防衛費は「ISがあるから」と言って、既存の兵器群の予算はかなり削られており、世界中の軍隊でも同じような状態になっている。

 そんな時風の中で彼女はあえて自分を駆逐艦と言ったのだ。

 しかも、女がだ。

 

 今時、変わってるな……

 

 私は心の中で彼女に疑問と警戒心を抱くと同時に好奇心を抱いてしまった。

 幸いにも彼女は私たちのことを敵として見てはいない。

 

「雪風って……あの……」

 

 しばらくすると、真耶は彼女の名前に何か思い当たることがあったらしい。

 

「山田先生……?」

 

 真耶がもしかすると、この状況を打開すると思い私は期待を寄せた。

 

「……「奇跡の駆逐艦」……雪風ですか?」

 

 奇跡の駆逐艦……?

 

 彼女の名前、と言うよりも彼女が口に出した「雪風」という駆逐艦の名前について、何か思うことがあったのか、目の前の雪風を名乗る少女に訊ねると

 

「……「奇跡」なんかじゃありません……

 けれど、その名前の方が世間では知られていますね」

 

 一瞬、目の前の彼女は苦い顔をしてから、少し不機嫌気味に真耶の言った内容を肯定した。

 だが、それは

 

「え、あ、すいません……!

 で、でも……雪風は……

 もう四十年も前に沈んで……それにあなたは人間じゃないですか!?」

 

 真耶をさらなる混乱へと陥らせることになった。

 いや、真耶だけじゃない。

 私たちから先程から抱いていた疑問。

 それは明らかに人間の少女でありながらも自分のことをあたかも軍艦のように話しているのだ。

 それこそが我々と彼女の話が平行線を辿る最大の理由であると私は考えている。

 

「四十年……私はそんな長い間、眠っていたのですか?

 それに私たち、艦娘が人間の姿をしているのは当たり前じゃないですか?」

 

 雪風と名乗る少女は真耶の発言にどこか納得したのか全く否定せず、逆に駆逐艦である自分が人間の姿をしているのは当たり前のことだろうと言いたがるかのように語りかけてきた。

 

「か、艦娘……?」

 

「眠っていた……?」

 

 「艦娘」と「眠っていた」という言葉に私たちはさらに頭を悩ませた。

 先程から彼女の発する「中華民国」、「帝国海軍」、「駆逐艦」、「眠っていた」、そして、「艦娘」という私たちの知る知識や見解とは異なる彼女の発言。

 それが意味することが未だに理解できない。

 

「……艦娘をご存知ないのですか?」

 

 私たちがあまりの未知との遭遇に遭遇したかのような状態に陥っていると目の前の少女は信じられないものを見るかのような目で私たちを見てきた。

 だが、それは「IS」のことを知らない彼女に対して、こちら側も同じことだ。

 

「どうやら……お互いに情報交換の必要があるな」

 

「そうですね……」

 

 私はそう考えた。

 すると、真耶も多少消極的だが同意した。

 確かに目の前の得体の知れない少女を信用し過ぎるのはマズイのかもしれない。

 だが、少なくとも私は目の前の彼女が嘘を吐いてるようには見えなかった。

 何よりも彼女は未知のISを所持している。

 相手の戦力が分からずに、さらには相手が敵意を見せていないことを考えるとここで事を荒立てるのは最善の策じゃない。

 それに彼女は自らの情報を開示してきた。

 それは彼女がこちら側の情報を求めると同時に助けを求めていることに他ならない。

 それを無下にするのは間違いだとも私は考えた。

 

「解かりました。その提案に乗らせて頂きます。

 私も自分がどのような状態にいるか把握できていません」

 

 彼女は乗ってきてくれた。

 まだ彼女がスパイや工作員、テロリストの可能性がなくなったわけではないが、一々、それらのことを疑っていたら余計な敵まで作ってしまう。

 私と真耶は少しだが、安堵した。

 

「解かった……では、先ずそのISを収納してくれ」

 

 私はとりあえず、目の前の少女にISをしまうことを要請した。

 武器を向けられたままの交渉ではお互いに気が置けないからだ。

 

「……え?」

 

 すると、彼女は私のその一言に彼女は躊躇いをみせてきた。

 これはどう言うことか、先程まで平和的な解決を望んでいた彼女が武装を放棄することに躊躇いを見せるのは。

 

「貴様は武器を向けられたままで対話ができるか?」

 

「え……いや……その……それはそうなんですけど……」

 

 と私は彼女にさも当然に言うように装いながらも警戒した。

 そして、真耶も彼女のその態度に同じように警戒した。

 武装を放棄することを躊躇するということは、それはどこかへ逃げる算段を調えていると言うことにもなる。

 

「どうしたんだ!早く、ISをしまえ!」

 

 私は彼女がISを展開したままなのを不審に思い、声を荒立てた。

 

 やはり、こいつはスパ―――!!

 

 私は彼女の不審な素振りに敵だと想定するが

 

「あの~……これ、どうやってしまうんですか?」

 

「は?」

 

「え?」

 

 彼女は少し、困ったような笑顔でそう言ってきた。

 

「……もしかすると、ISのしまい方を知らないのか?」

 

 私はさすがにそれはないと思ったのだが

 

「……はい」

 

 目の前の少女は申し訳なさそうにそう言った。

 私は先程の考えを改めて、撤回したくなった。

 と言うか、こんなISを使用できない人間をIS学園にスパイとして送り込む諜報機関があってたまるか。

 

 

 

「では、まずはこちらからの質問でいいか?」

 

「はい、どうぞ」

 

 私は織斑さんの要求に対して承諾した。

 理由としてはここは彼女たちが所属するであろう軍属の施設であり、私はそこに迷い込んだ招かれざる客であるからだ。

 そうなると、私がスパイであると疑われてもおかしくなく、ここは情報を得ると同時に彼女たちの警戒を解く必要があると考えての判断だ。

 私はこれでも十年以上は旗艦を務め上げてきた艦娘であり、その立場にいる者ならばこれぐらいの配慮をするのは当然の能力として身に付いていくものだ。

 私は先程の「IS」という名称の艤装の外し方を教えてもらい、何とか目の前の織斑さんと山田さんのお二人に応接室らしい部屋に案内されて、交渉の席に着くことができた。

 

「では、まず……「艦娘」とは何だ?」

 

 彼女はいきなり、私にとっての常識を訊ねてきた。

 私としては、どうして彼女たちが「艦娘」の存在を知らないのかが気になるが、先ほどのやり取りでそれを一々、詮索していたら話が進まないのはお互いに認識しているので私は素直に質問に答えようと考えた。

 

「「艦娘」とは、人類の脅威「深海棲艦」に対抗する戦力です」

 

 と単純かつ簡潔に私たちの存在意義を彼女に説明した。

 だけど、この発言を口を出すことに私は「あの人」に申し訳なさを感じた。

 戦うことが存在意義である私たちを兵器としてではなく、人間として扱ってくれた「あの人」に対して。

 

「人類の脅威だと……?」

 

「深海棲艦……?」

 

 この反応だとどうやら彼女たちは私たち「艦娘」のことだけでなく、「深海棲艦」すら知らないらしい。

 艦娘を知らないのならそれも当然だと思えるが。

 私は四十年近く眠っていたらしいが流石にたった四十年で人類が、それもあの戦いを忘れるとは考えられない。

 それも軍属の者がだ。

 しかし、ここで一々、躓いていたら話が進みにくいと考えたことから、とりあえずは「艦娘」のことだけは説明しようと考えた。

 

「私たち、艦娘は艤装と呼ばれる兵装を装着することで水上を高速で移動し各艦種の持つ兵装を用いて戦闘を行います。

 また、潜水型ならば水中における戦いも可能です」

 

 軍の人間なら誰しも知り、一般国民や一部の他国民も一種の人類の英雄の様に見ていることからある程度は知る「艦娘」の基礎知識を説明した。

 

「まるで、水上戦専用の「IS」のようだな……」

 

 再び織斑さんは「IS」と例の艤装の名をこぼしてきた。

 と言うよりも、艤装が「IS」と呼ばれる兵装の一種扱いされているようにも聞こえるのだが。

 

「あの~、すみません……」

 

 と私が艤装と「IS」の関係性に違和感を感じていると山田さんが何か言いたげにしていた。

 

「はい、何でしょうか?」

 

 私はそれを見て、彼女の質問を受けつけようとした。

 

「あの……その……」

 

 すると、彼女は何か言い淀んでいた。

 と言うか、何か躊躇っている。

 何だろうか。

 

「大丈夫ですよ?

 大抵のことは私も答えますから」

 

 私は彼女がそのまま質問を続けられるようにとにっこりとした表情をした。

 中華民国にいた時を思い出す。

 中華民国の艦隊に着任したばかりの子たちの世話を緊張した時はやはり、こうやって安心させていた。

 訓練の時は、帝国海軍時代のかつての私が所属していた水雷戦隊の旗艦であった彼女ほどではないけど厳しくしていたが。

 

「いえ、その……」

 

 しかし、それを見ると彼女の表情は再び曇っていた。

 そして、彼女がなぜこんなにも戸惑っていたのか、私は分かることになった。

 

「……「大和」という戦艦はそちらの世界にありますか?」

 

「……!?」

 

 彼女が口に出したのは、私が最後の作戦で護衛するはずだった最強の戦艦である彼女の名前だった。

 人類の勝利のために囮として敵の注意を引きつけて編成された彼女を護衛する最強の水雷戦隊の名を受け継いだ私たちとその艦隊を率いる旗艦を務めた最強の彼女。

 あの絶望的な戦場の中で彼女は最後まで堂々としていた。

 普段はおっとりとしていて優しい人だったけど、戦場に立つ姿はまさに最強の名に相応しかった。

 それなのに私は守れなかった。

 そして、その戦いから帰投した私は19人いた姉妹の中で一人になってしまった。

 待っていてくれるはずだった妹すらもいなかった。

 

「あの……雪風さん?」

 

「どうした……?」

 

 私は何度も慣れたはずの感傷に浸ってしまった。

 大和さんの最期を知るのは私と同じように終戦を迎えられた彼女たちぐらいだ。

 人類のために散った彼女と最強の名を持つ彼女の雄姿を知りたいと思う人々は多かった。

 そして、そのために私に訊ねてくる人が多かった。

 だけど、やはりどれだけこの話を訊かれても時が経っても私は彼女を含めた守れなかった人たちのことを思い出す度に心が苦しくなる。

 でも、今は悲しんでいる場合ではない。

 

「はい……大和さん(・・)はいました……

 とても綺麗でかっこいい()でした……」

 

 彼女のあの勇ましい姿を私は伝えようとした。

 あれだけの攻撃を何十発も受けても彼女は最後まで立ち続けた。

 ただ人類の未来を信じて、私たち護衛部隊を奮い立たせながらも戦艦である彼女にとっては天敵に等しい空からの波状攻撃をどれだけ受けても彼女は戦い続けた。

 彼女、いや、彼女たちを始めとした多くの姉妹や戦友の最期を決して忘れない。

 それが私にできるたった一つのことだと思ったからだ。

 だけど、

 

「……さん(・・)?……それに()?」

 

 私はただ、山田さんの質問と要望に応えて彼女の最期を伝えた。

 それなのに質問をした当の本人がなぜか大和さんがまるで人間であるのを驚きを隠せずにいた。

 私としてはようやく、彼女たちとの意思疎通が可能な共通の知識があると思い、涙を忍んで答えたのだが。

 一体、これはどういうことなのだろうか。

 と言うよりも彼女たちはまるで、私や大和さんが人間であることに驚いているようにも聞こえる。

 確かに艦娘は厳密には人間じゃないのかもしれないが。

 それでも人の形をして、心を持つのは人間の筈だ。

 それを教えてくれた人が「あの人」を始めとした帝国海軍の人々だった。

 まあ、軍の上層部の中には私たちのことを消耗品扱いする人もいたけど。

 仮に彼女が私たちを兵器扱いするのならば腹立たしいことこの上ない。

 

「なるほど……そういうことか」

 

 私と山田さんとの間に密かな緊張感が漂っていると織斑さんが今のやり取りで何か理解できたのか、妙に落ち着き始めた。

 

「あの~……織斑先生、どうしたんですか?」

 

 山田さんは同僚が得た情報が何か気になりだして織斑さんに説明を求めた。

 

「山田先生、これは私の考えついた彼女、いや、彼女の言う「艦娘」についてのことなのだが。

 よく落ち着いて聞いてもらいたい」

 

「え?あ、はい……」

 

 織斑さんはどうやら自分が考えついた答えが自分たちにとって、信じられないものと考えたのか山田さんにまずそう言った。

 そして、

 

「どうやら、「艦娘」というのは()日本海軍の軍艦を人の形にしたものらしい」

 

「は?」

 

 彼女は冷静にそう言った。

 だけど、私には一つ不可解なことがあった。

 

「……()?」

 

 私はなぜ、彼女が「旧」などという明らかに帝国海軍が過去のものであるかのような呼称を付けたのか理解できなかった。

 だが、彼女はそんな私に

 

「……雪風と言ったか……これから話すことはお前にとっては信じられないことかもしれない。

 いや、正確には信じたくないことかもしれないが……聞いてくれ……」

 

 とまるで哀れむ様な表情をして何かを告げようとしてきた。

 その憂いを秘めた表情になぜか私はざわめきを感じた。

 そして、彼女は言い放った。

 

「この世界には……「艦娘」という存在はいない……」

 

「―――え?」

 

 彼女が口に出したのは信じがたいことだった。

 

 艦娘がいない……?

 

 そんな事実などなどありえない筈だ。

 

 では、私は何なの?

 なぜ、私はここにいる?私は「艦娘」なのだ。「艦娘」である私がここにいるのになぜ「艦娘」がいないのだと言える……!?

 あの戦いは全て夢だと言うの!??あれだけの多くの姉妹や戦友の死が嘘だと言うの?私が流してきた涙は無意味だと言うの!?

 

 私の頭の中には次々と湧き立つ苛立ちと疑念、喪失感が渦巻いた。

 彼女の言葉は私の存在意義を否定する言葉でもあるのだ。それはあってはならない。

 だけど、さらなる残酷な一言が彼女から放たれた。

 

「……大日本帝国は連合国側に敗れて、日本軍は解体された。

 陸軍も海軍も……60年以上も昔にな……」




 なんか、某翠の星のアニメみたいな会話になっちゃいました(しかも、啓発支援システムなしの)。
 後、どこか某野球バラエティゲームみたいな感じになっていくと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。