奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
まさか、エンタープライズでしょうか?
まさか……最後にお互いに同じことをするとは……
オルコットさんにとどめの雷撃を放ち、それが直撃し私の「勝利」で試合が終了した後に私は最後に彼女が見せた「意地」に感慨を受けた。
試合の最初の彼女には何も感じられなかった。
だが、後半の彼女の姿には「深海棲艦」との戦いの中で人類側の参謀などが追い詰められた時に見せる醜悪さは感じなかった。
ああ言った参謀の多くは自らの頭の中で考えただけの必勝戦術が一度でも崩されると恐慌状態になるものだ。
そして、自らの失態や過失を認められぬままに多くの将兵を巻き込む。
しかし、私がトドメを刺そうとして「逆落とし」をする直前に、彼女は何か決意したらしく私に向かってきた。
その目に込められていたのは自らの面子のために兵士を死地に放り投げる破れかぶれでも、追い詰められたものが生きることを放棄して自棄によるものでもなかった。
あれは僅かな可能性でも「勝利」を信じる者のするものだ。
少なくとも、最後の彼女の覚悟には「重さ」があった。
この試合を見て彼はどう思うのでしょうか?
セシリア・オルコットと言う人間の覚悟を見た彼はどう思うのだろうか。
彼に何かしらの変化があるのかもしれないし、ないのかもしれない。
一方的過ぎる……
陽知とオルコットの試合を見終わって俺は両者の圧倒的な実力差に唖然とするしかなかった。
最初、俺は二人の試合はある程度拮抗するものになると思っていた。
だが、蓋を開けてみれば陽知の圧勝だった。
しかも、専門家とか経験者が語る圧勝ではなく、初心者の俺ですらも解る圧勝だった。
さらにその事実に加えて肩を重くさせたのは隣で解説してくれた「世界最強」の千冬姉だった。
千冬姉は今の試合における陽知の全ての行動の
そして、同時に陽知の恐ろしさも教えてくれた。
『陽知にあって貴様、いや、オルコットにすらないものは戦いの中で駆け引きをする余裕だ』
千冬姉は断言した。
―ギュー
全部、あいつの読み通りってことかよ……
最初の命中、オルコットの右ばかりを攻める戦い、オルコットの攻撃を避けながらビットを引き寄せる。
それら全てが陽知の思い描いた通りだったらしい。
あんな奴と戦うのか……?俺は……
「IS」が安全だと言うのはこの一週間の授業で聞かされている。
それでも俺は怖かった。
彼女の攻撃は暴力的ではない。
しかし、自分のやることなすことを先読みされてそれらが徒労に終わらされることは恐ろしいことじゃないのか。
これだけの実力があるのならば、俺のことを歯牙にもかけなかった理由が今なら理解できる。
むしろ、俺を見ることがあったのならばそれこそ驚きだ。
余りにも彼女は大きすぎる。
戦う前から俺は怖気づいてしまった。
だけど……
『あなたは相手が自分より強いと思ったら犬みたいに尻尾を振るんですか?』
ここで逃げたら……
『あなたのような人間を「腰抜け」と言うんでしょうね』
俺は逃げたくなかった。
彼女に言われたあの言葉を覚えている。
彼女はきっと、誰に対してもああ言うんだろう。
だからこそ、俺は逃げたくない。
少なくとも、もう一度同じことを言われたら今度は『違う』と堂々と胸を張って言い返せるようになりたい。
『どうしたんですか?そんな風にへこたれて。
あなたは女の子が泣いてるのにそれを放っておけるほど弱虫なんですか?』
状況も相手も年の差も全く異なるが、小学生の俺に稽古をつけていてくれた
そうだった……
これだけ、「男」が馬鹿にされるんだから……
だからこそ、強くなくちゃいけないよな……
本当は怖いし、適当に早く終わればいいと思っているし、なんで俺がここにいるのかと思ってもいる自分がいる。
でも、それじゃいけないんだ。
ありがとう……那々姉さん。
多分、那々姉さんの言葉がなかったら俺は戦う前から負けていた。
いや、既に負けていると思うが。
情けないなぁ……勝てないことが既に解ってるなんて……
先程の戦いで勝ち目のないことは骨身に染みるほど理解させられている。
実力差があるとは思っていたけど、まさかここまでとは正直思っていなかった。
「ふふふ……」
「一夏……?」
勝ち目のない戦いに挑むことへの情けなさとそれでもなぜか戦いたいと言う感情が混ざったのか、不思議なことに俺は笑ってしまった。
その様子に箒は当然ながら戸惑っていた。
「なあ、箒……
あいつ、いや、陽知の強さの理由はなんなんだろうな?」
「そ、それは……」
意地っ張りで強情な箒でさえも陽知は素直に強いと認めさせる程に強く見えたらしい。
この一週間、付き合ってもらった身としてはどうかと思うが箒の指導に対して俺は疑問を抱いていた。
箒はなぜか「IS」のことを教えてくれはせず、基礎知識を教えることぐらいはできるはずだと訊ねてもだんまりを決め込むなどどこか不自然だ。
そのため、てっきり俺が今みたいに陽知の強さに少し怯んでいる姿を見たら『戦う前から怖気づいてどうする!!』とか言いそうとは思っていたが。
「なんかさ、俺……
あいつと那々姉さんが似ている気がしてきたんだ」
「な、那々姉さんと……?」
箒にとっても那々姉さんは特別な存在だ。
箒が引っ越すまでの間は道場までよく足を運んで俺たちに稽古をつけてくれていた。
そして、俺たち二人にとっては千冬姉と並ぶ「強さ」の象徴だ。
千冬姉と那々姉さんの試合を見る度にどっちが勝つか分からない試合を見てワクワクしたものだった。
何よりも那々姉さんは
「IS」が世に出る前から那々姉さんは相手が男であろうと女であろうと間違っているのならば怒り子どもが相手ならば優しく諭す人だった。
俺は千冬姉と並んで強かった那々姉さんに憧れを抱いていた。
『那々姉ちゃんはどうしてそんなに強いの?』
そんな幼い時に俺は那々姉さんに訊ねた。
はっきり言えば、あの時の質問は子供心から来る憧れと好奇心から来るものだった。
俺はいつものように那々姉さんは近所のお姉さんらしく仕方なさそうに答えてくれると思っていた。
だけど
『一夏くん……私は強くなんてありません』
彼女はどこか悲しそうに自分は強くないと語った。
『え~?だって、千冬姉と同じくらい戦えるんだから強いんじゃ?』
俺が困惑しながら那々姉さんにさらに訊ねると
『そうですね……確かに私は先輩とそれなりに戦えます……
ですが、私は強くなんてありません』
と、頑なに彼女は自分の強さを否定し続けた。
あれ程、
しかし
『でも……唯一、私が胸を張ることができるとしたら……
最後にあの人はどこか遠くを眺めるように嬉しそうに、いや、誇らしげに
その「誰か」をあの人は教えてくれなかった。
未だに那々姉さんの「強さ」の秘密も、あの悲し気な表情の理由も、彼女の言う『あの子』が誰かなのかも分からない。
どうして、今になって千冬姉と那々姉さんに対する「憧れ」を思い出したのかは分からない。
もしかすると
「那々姉さんとどこか似ているあいつと戦えば何か分かるのかもしれない」
陽知を見て思い出したのかもしれない。
川神……どうやら、お前が失望するような試合は見せずにすむようだ……
弟の試合への向き合い方に私は安堵した。
『先輩、この雪風と言う少女の記録を随時送ってください』
雪風と更識の試合映像を送った後に川神は比較的に小さいながらも声を荒げながらも雪風の情報を求めた。
私がその理由を訊ねると
『すみません……
ですが、この子と話をしてから……必ず話します……』
珍しく川神は防衛や安全保障などの守秘義務がないのに私に隠し事をした。
川神は……雪風を知っているのか……?
最初、私は川神と雪風の関係を疑った。
もしかすると、雪風が語った話が全て嘘で彼女は川神と関係のあるどこかの国の工作員なのではないのかと言う邪推すらも浮かんだ。
しかし
『……先輩、お願いします。
どうか、この子を私がそちらに行くまででもいいので……
川神のその一言で殆どの疑念が晴れた。
あの川神が『守って欲しい』と言ったのだ。
中学生の時から自衛官志望と言うこともあって、川神は元から『誰かを守る』と言うことに強い意志を見せていたが、それは同時に『守るのは当然』と言う義務感と使命感から来るものに近かった。
しかし、その彼女が個人的に『雪風を守って欲しい』と言ったのだ。
だから、私も信じてみることにした。
川神……訳はちゃんと話してもらうぞ……
だが、今は……
「ようやく、少しはマシな顔になったな」
少しだけだが弟がある程度の踏ん切りをつけたことに私は安心した。
実のところ、私はこの一週間、勝敗など関係なく一夏と雪風の試合が心配で仕方なかった。
この試合も川神は見るはずだ。
この試合は特別なものだ。
なぜならば、この試合は川神がなぜか気に掛ける少女と、川神が昔世話をしていた少年の戦いだ。
あいつが注目しないはずがない。
「ちふ―――じゃなくて、織斑先生」
一夏は相も変わらず、うっかりと私のことを家での呼び方をしそうになった。
こういう抜けた所は中々、直らんとは思うので仕方ないと思うが。
「織斑、貴様も見たから理解できると思うが……
陽知はお前が初心者とかそう言うのを抜きにしても強い」
私は断言した。
雪風への疑念が生まれたと言っても、少なくともあいつの実力は本物だ。
一夏と雪風の実力は相対的にも絶対的にもかけ離れている。
はっきり言えば、一夏には万に一つにも勝ち目などない。
「だが、一週間前と比べたらこの試合を見て失望する者はいないだろう」
しかし、今の一夏なら一週間前と比べたら何かを響かせることができると私は信じている。
「千冬姉……」
「織斑先生だ……馬鹿者……
だが、今はいいだろう」
一夏は珍しく、自分のことを認めたことに驚きを隠せなかった。
「どうやら、あっちの補給も完了したらしい。
行ってこい、一夏」
私はそう言って、弟を急かした。
「ああ、行ってくる」
私の「期待」を確かに受けとめると一夏は
「箒」
「な、なんだ?」
圧倒的な雪風の実力に圧されていた篠ノ之に声をかけ
「行ってくる」
と少し緊張を込めながらもそう言った。
「あ……ああ。
勝ってこい」
篠ノ之はそれに対して無理難題に等しい言葉を言うが、一夏は篠ノ之を安心させるために、いや、自らが求める「答え」と「面影」を陽知から探ろうと首肯で応えた。
そして、一夏は立ち塞がる壁に向かって行った。
艦これの楽しさは資源確保もあると思うこの頃。