奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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すいません、一夏戦は二話構成になりました。
いや、本当にすいません。


第14話「我」

「来ましたか」

 

 補給を終えてアリーナの上空で待機していると対面のピット・ゲートから彼が現れた。

 

 おや?

 

 現れた彼の面構えを見てみると私は今までの彼に感じていたものとは違う印象を受けた。

 

 悪くない顔になっていますね……

 

 私と向き合った彼の顔を見て彼のこの試合への向き合い方にどこかしらの変化があることを感じた。

 彼の目は緊張はしているがしっかりと私のことを見ていた。

 少なくとも、一週間前の「ハンデ」などとふざけたことを抜かしたりした「甘さ」やお情けに縋る「甘え」は消えていた。

 

 オルコットさんの「覚悟」が彼を変えたのでしょうか?

 

 私はオルコットさんの見せた最後の気迫が彼に何かしらの影響を与えたと思った。

 しかし、それだけでここまで変わるものだろうか。

 正直に言えば、先ほどの戦いを見ればほとんどの人間は戦意を失うと私は考えていた。

 私自身が先ほどの戦いは「圧勝」だと認識しているからだ。

 人は圧倒的な戦いを見せられたら怖気ついてしまうものだ。

 それは自惚れではなく、私自身が多くの制空権を制す敵の艦載機や私たち以上の数を見せつけて来る水上戦力、さらには「姫」や「鬼」、そして、「あの悪魔」を見てきたうえでの経験だ。

 私だって、怖いものは怖い。

 それでもその怖さと私は戦ってきた。

 恐怖を感じないで戦う人間など私は信用できない。

 だから私は気になって仕方なかった。

 

「ふふふ……」

 

 だが、同時に私はなぜか嬉しさ(・・・)も込み上げて来た。

 私が嬉しさを表していると

 

「へえ~……あんた、そう言う顔もできるんだ?」

 

「……え?」

 

 彼はいきなりそう言ってきた。

 

「いや、今までのあんたを見ていると何と言うか……

 あんたの笑顔て何と言うか、嬉しそうな顔じゃないと言うか……

 何と言うか……」

 

 これから戦う相手に向かって彼は拍子抜けしそうになる会話をしてきた。

 

 な、なんですか……この人は?

 

 私は困惑しながらも

 

 ですが……まあ……当たっているとは当たっているんですがね……

 

 彼の発言は的を射ていると思った。

 確かに私は更識さんや布仏さんや本音さんたちの前だけでは自然な笑顔を表に出していた。

 だけど、クラスの中ではどうも本物の笑顔を見せられずにいた。

 

「あなたが……大物なのか……ただの能天気なだけなのか分からなくなってきましたよ……」

 

「え」

 

 「お人好し」なのは一週間前の出来事で察することができたが、まさか、目が据わったと思った直後にこう言った日常的な会話をしてくるとは思いもしなかった。

 

「……まあ、嬉しいのは事実ですが」

 

 ただし、嬉しく思っていたのは事実だ。

 なぜならば

 

「少なくとも、今ここに立てるぐらいの意地を見せてくれたのですから」

 

「……!」

 

 逃げるのでもなく、恐慌状態になるのでもなく、彼は私と言う存在に向き合っているのだから。

 私は多少、威圧的にそう言った。

 

「一週間前のあなたからは考えられませんでしたが……

 どう言った心境の変化ですか?」

 

 私の長い経験の中でも彼のような初陣に対する向き方をする人間は初めてだ。

 似ているとしたら、あの子(・・・)しかいない。

 

 磯風……

 

 常に人を食ったような性格をしていて私が呉について先輩風を吹かしていると、後から呉に着任して私のことを小馬鹿にしたうえで彼女の初陣を気にしていると

 

『ははは、雪風は心配性だな』

 

 といつもの調子で私のことをからかった私の妹。

 彼女ぐらいだ。私が知る初陣を迎えた人間がいつもの調子でいたのは。

 もちろん、この戦いが命をかけたものではないからかもしれないが、それにしても不思議だ。

 実際、オルコットさんは途中で私に怖気づいていた。

 しかし、その中であの「覚悟」を見せたからこそ私は彼女を認めたくなったのだ。

 

「あんた……この一週間、俺のことを眼中に入れてなかったよな?」

 

 私が妹との思い出に浸り彼の態度を気にしていると私の質問に彼はそう返した。

 

「……ええ、そうですよ?当たり前じゃないですか?

 そもそも嫌々ながら戦おうとする人間相手に向き合うほど、私は暇じゃありませんよ?」

 

 私は素直に彼を無視した理由を明かした。

 そもそも私が彼に注目はしたが期待しなかったのは彼自身が自らの意思で立とうとしなかったからだ。

 そんな人間に期待を込めるのは時間の無駄なうえに、本人自身にも残酷なことだ。

 

「それで……

 悔しくなったんですか?」

 

 私は彼に再び訊ねた。

 すると

 

「ああ……悔しかったさ」

 

 彼は否定しなかった。

 どうやら、「悔しさ」を感じる程度には負けん気があるらしい。

 それはそれで安心した。

 しかし、それだけではなかった。

 

「あんた、人を色眼鏡で見ない人間なんだろ?」

 

「………………」

 

 彼は問いかけるように言った。

 彼の言っていることは間違ってはいない。

 私は彼の特異性には注目はしたが(・・・・・・)ただそれだけだ(・・・・・・・)

 確かに彼の「世界初」、いや、「世界唯一」の男性IS適合者と言う性質は注目には値する。

 しかし、それだけだ(・・・・・)

 彼がそれだけで強いか弱いかなど決まるはずなどない。

 少なくとも、彼の言う『色眼鏡』では私は彼のことを見ていない。

 私は「織斑 一夏」と言う一人の人間としてしか、彼を見ていない。

 だからこそ、彼は私に「警戒する価値もない」と言う評価に悔しさを感じたのだろう。

 

「だから、俺は―――」

 

 そして、彼は一呼吸置いてから

 

「あんたに認められたい!!」

 

「……!」

 

 そう言い切った。

 

「なるほど……それがあなたの戦う理由ですか……」

 

 なんともまあ、我欲丸出しの理由なのだろう。

 若さそのものとも言えるだろう。

 ただ

 

 悪くないですね……

 

 私はそれを聞いて満足した。

 どんな人間だって戦う理由はある。

 そこには我欲がある。

 私たち、「艦娘」の『暁の水平線に勝利を』と言うのも結局の所、我欲だ。

 そして、私の叶わなかった「願い」もまた、我欲だ。

 

「少なくとも、一週間前のあなたよりもいいと思いますよ?」

 

「……え?」

 

 私は彼の我欲を否定するつもりはない。

 元々、我を張ること(・・・・・・)に関しては私も負けない前科がたくさんある。

 

 むしろ、()を失っているのは私かもしれませんね……

 

 私は胸に虚しさを感じながら自嘲した。

 だが、そんな私でも

 

「ただし……私の及第点はそんなに低くはありませんよ?」

 

「……!」

 

 妥協するつもりはない。

 威勢の良い言葉をどれだけ並べようともそこに実が伴わないのならば、それはただの虚勢だ。

 そんなものに評価を高くするほど、私は陶酔主義者ではない。

 

「さて、前口上はここまでです……

 私に認められたいと言うのならば―――」

 

 彼の決意表明を聞き終え私は彼を見据えながら

 

「行動で示しなさい」

 

 断言した。

 彼の勇ましい言葉を聞くのはこれだけで十分だ。

 

「ああ……!」

 

 それに対して、彼は肯き、私たちは互いに得物を構えた。

 試合の準備が整い試合の始まりを待った。

 

―試合開始―

 

―ズドン!―

 

 試合開始と同時に私はいつものように砲撃し、そのまま左手の連装砲で追撃の準備を整えた。

 構えから考えられる彼の利き手は右手だ。

 ならば、私の左側を抜けてくるはず。

 私は12時から10時の方向に注意した。

 我ながら単調だとは思うが最善手と言うのは、どう転んでも悪くないから最善手なのだ。

 私は彼の反撃に対する備えを固めた。

 だが、

 

「うおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「……え?」

 

 彼は私の予想外の行動を行ってきた。

 彼は直進(・・)してきた。

 つまりは私の放った弾丸の直線状に鉢合わせる形で。

 一瞬、私は目を疑ったが

 

―キーン―

 

「なっ!?」

 

 それどころではなくなり私はこれが現実だと認識した。

 彼は自分の得物である刀で私の弾丸の弾頭に切っ先を当てて、軌道をずらしてそのまま私にとっての12時から2時の方向に向かって前進した。

 

 

 

―ドーン!―

 

 よし……!なんとかうまくいった! 

 

 俺は後ろで響き渡る轟音を耳に入れながら陽知の最初の一撃を凌いだことを確信して高揚感を抱いた。

 陽知の攻撃が正確で速いのはオルコットとの戦いで理解していた。

 それに俺にはこの刀しか戦う武器がない。

 もし、最初の一撃を食らっていたら、俺はそのまま一太刀も陽知に浴びせることなく負けていただろう。

 だから、俺は「すり上げ面」の要領で弾丸の先端から刀を沈みこませて上げて軌道をずらした。

 こんなことができるとは自分でも半信半疑だったが、陽知の弾丸は速度は速いが大きさはかなり大きい上に何よりも陽知の射撃は正確過ぎる。

 だから、成功した。

 

 いける……!!

 

 俺は軌道がずれた弾丸からそのまま左から陽知に迫った。

 今の俺は陽知にとっての死角にいる。

 このまま至近距離で攻めて攻めまくれば俺にも勝ち目は出てくる。

 俺はそう思った。

 

「くっ……!!」

 

―プシュ!―

 

 そうは問屋は卸さずと言うのか、彼女は俺に対して真正面から向き直るとオルコットとの戦いで最後に見せたミサイルを放ってきた。

 

「うおっ!?」

 

―ドカァン!―

 

 俺は慌てて避けたが

 

―ズドン!―

 

 無防備になった俺に容赦なく彼女は時間が生まれて動かすことのできた左手の砲身を向けて来た。

 

「ちっ……!」

 

 紙一重で俺はそれも避けることができた。

 

―ドーン!―

 

 ……今、考える暇もなかったのに撃ってきたよな

 

 後ろで響き渡る炸裂音を耳に入れながら俺は予想外の陽知の反撃に驚くしかなかった。

 陽知の「読み」に俺は確かに勝った。

 「読み」と言うのは一度でも破綻すれば動揺するものだと思っていた。

 これは中学時代に定期試験の時に山を張って失敗して頭の中が真っ白になってしまった同級生から得た俺の経験だ。

 普通、頭脳プレイの人間と言うのは動揺すれば、混乱すると思っていた。

 しかも、今の戦いは立ち回りを考える時間は完全になかったはずだ。

 

 だけど……今のは確かに手応えはあった……!!

 

 一瞬ではあるが、陽知は俺の戦いに驚きを見せた。

 このまま畳みかければ勝機は訪れるはずだ。 

 

―ギュ―

 

 俺は刀を握る手に力を込めた。

 

 

 

 ……弾丸の軌道を刀でずらした?

 

 私は最初の攻防の中で見せた彼の行動に驚きを隠せなかった。

 

 更識さんも雷撃を薙ぎ払いはしてみせましたが……

 

 彼と同じ白兵戦用の機体の操縦者である更識さんも自らの槍で同じようなことをしてみせたが、流石に弾丸を弾くようなことはしなかった。

 いや、更識さんのは水で彼のは刀だからこそ、条件が同じならば更識さんも同じことをしてみせるとは思うが。

 

 鍛え方次第では……もしかすると、彼も……

 

 彼のした戦い方は「IS」の防御性によって保証された無茶ではある。

 しかし、実際に迫りくる弾丸相手に真正面から挑めるのは余程の「馬鹿」か「勇者」しかいないだろう。

 どちらかはわからないが、更識さんとの戦いやオルコットさんとの戦いで最後に感じたものを確かに私は感じた。 

 

「ふふふ……」

 

 私はなぜか笑いが込み上げて来た。

 まさか、こんな無鉄砲な戦いをしてくるとは思いもしなかった。

 彼はこのまま猛攻を続けるだろう。

 それも至近距離からの私に反撃を許さないほどの連撃を浴びせてくるだろう。

 

 接近戦になったら……

 今の戦い方(・・・・・)じゃ不利ですね

 

 「読み」に頼る今の戦いではどこかで押し負けることになる。

 私はそれを確信した。

 彼は更識さん程「読み」に優れないし戦い方は粗だらけだ。

 だが、それ故にどのような手を打ってくるかが分からない。

 何よりも「避ける」のが上手い。

 驚くべき反射神経だ。

 これでは読み疲れる。

 

 いいでしょう……

 「水雷屋(私たち)」の戦い方をしますか……

 

 私は戦い方をオルコットさん相手、いや、「あの地獄」を経験してからしていた戦い方ではなく、本来の私の戦い(・・・・・・・)に切り換えた。




一夏が強くなっているように思いますが……
実際、一夏の反射神経はかなり高いと思います(才能もあるとは思いますが、誰かさん方のおかげで)。
と言うか、書いていて思ったのですが雪風が悪役ぽく感じるのは気のせいでしょうか?

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