奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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夏イベやって思ったことは……
これ……深海の方々はバカンスに来ていてそれを攻撃しているみたいでなんか罪悪感
半端ないんだけど……て感じですね
とりあえず、E―2攻略したので水無月は迎えられて嬉しいです。


第15話「痛みの中に立つ者」

 なるべくあいつに考える暇を与えないように……!

 

 俺は再び陽知に接近をしようと試みた。

 陽知に考える時間を一度でも与えれば全て陽知の掌の上で踊らされることは俺でも理解できるし、俺の武器は刀しかない。だから、俺は白兵戦に持ち込んで戦うしかない。

 何よりも先、感じた手応えは本物だった。

 

 今度こそは……!!

 

 陽知の「読み」に勝った。

 それだけで俺は戦う気力が湧いた。

 その手応えを再び求めて俺は陽知に前進していると

 

―ドゴン!―

 

 来た……!

 

 陽知は迎撃と牽制のために撃ってきた。

 俺はそれを当たるか当たらないかのギリギリの距離で避けた。

 陽知相手に隙が生まれる回避は危険と思ってのことだ。

 同時にこれこそが陽知への最短距離だ。

 

 だけど、ここで油断するとあれが来るな……

 

 さっきと同じ轍を踏まないようにと俺は陽知のミサイルによる迎撃を警戒した。

 警戒するのとしないのでは違うことを俺は陽知の戦いを見るのと実際に戦うことで実感した。

 だが、

 

「え?」

 

 なぜか俺の予想したよりも早くそれは俺の目の前にあった。

 

「うおっ!?」

 

 運よく、俺はそれがミサイルだと気づく前に咄嗟に身体が動き避けることができた。

 

―ドカァン!―

 

 爆音を耳に入れながら、俺は実際にミサイルが飛んできたことが現実であったことを実感させられた。

 しかし、俺が視線を前に戻すとさらに信じれないものを目にした。

 

「……なっ!?」

 

 俺の右斜め前に右手の銃口を向ける陽知が俺のすぐ傍にいた。

 それはまるで、ネコ科の肉食獣が獲物に忍び寄って今にも跳び掛かるかのようだった。

 

―ドゴン!―

 

「うわっ!?」 

 

 そして、当たり前の如く避けられない距離で迷いなく彼女は引き金を引き、何が起きているか分からない俺は避けられず直撃を食らった。

 さらに時間が経たないうちに

 

―ドゴン!―

 

「がっ!?」

 

 今度は背中に衝撃が訪れた。

 

―ドサ―

 

「ぐっ……」

 

 背中に受けた衝撃と初めて受けた直撃に俺は飛行の制御が上手くいかずそのまま地面に墜落した。

 そして、今度は墜落の衝撃が去らないうちに

 

―プシュ!―

 

「ちっ……!」

 

 あの発射音が聞こえてきた。

 俺の身体は条件反射のように咄嗟に動いた。

 我ながらよく動くものだと思った。

 

―ドオォォン!―

 

「うわっ!?」

 

 直撃は避けたが、後ろから迫る熱風と爆風を肌に感じて俺は冷や汗を感じた。

 しかし、

 

―ドゴン!―

 

「くっ!」

 

 俺に休む間を与えないように、いや、実際与えるつもりなど毛頭ないと感じるほどに陽知の追撃は続いた。

 なんとか逃げるうちに体の向きを変えることができた俺は陽知のことを真正面から見据えた。

 すると、俺の目に映ったのは上空から迫り来る陽知の姿だった。

 

 そうか……そういうことだったのか……!

 

 ようやく、俺は陽知の先ほどからの絶え間ない攻撃の理由が理解できた。

 陽知はただ俺との距離を詰めただけだったのだ。

 そうするだけで彼女は俺に避ける時間を与えず、命中しやすいようにしていただけだったのだ。

 あまりに単純明快だが、同時にそれゆえに対処するのが難しい。

 しかし、よく考えてみればオルコットとの戦いで最後に陽知が突撃したのはこれが理由なのだろう。

 

 射撃メインでこれかよ……!

 

 苦虫を噛み潰したように俺は心の中で毒を吐いた。

 俺は射撃が主な攻撃手段だった陽知はてっきり、接近戦は苦手だと思っていた。

 そもそも、頭脳派に見えた陽知がこんなにもラフな戦いをしてくるとは思いもしなかった。

 だが、それは俺の思い込みに過ぎなかった。

 苦手どころか、むしろ今までよりも陽知の攻撃はかなり激しくなっている。

 

 これが……本当の戦い方なのか?

 

 俺はふと思った。

 陽知は戦い慣れている。

 さっきから、俺に対する攻撃に全く躊躇いがない。

 外すとか、外さないとかそう言うことを考えていない。

 それなのに確実に当てて来る。

 まるで、炎のような苛烈な戦い方に俺は戸惑いを覚えた。

 

 だけど……!

 

 俺はそれでも、陽知に接近戦を挑むために相打ちを狙った。

 どれだけ、早撃ちであろうと左右の腕による誤差は生じるのは千冬姉の「利き手」による「死角」から理解した。

 何よりも俺にはすれ違った後の勝算がある。

 

―ドゴン!―

 

「ぐっ……!」

 

―カキン!―

 

 やはりとも言うべきか、陽知は前進しながら撃ってきた。

 しかし、意外にもあのミサイルは撃って来ず、俺は刀で弾を弾いた。

 そのまま、俺は直進してくる陽知に向かって速度を落とさずに攻めに入った。

 

「くっ……!」

 

 激突する直前、俺と組み合うことで白兵戦に持ち込まれることを警戒したのか陽知は苦虫を噛み潰したように俺の左方向にずれながら

 

―ドゴン!―

 

 すれ違い様に撃ってきた。

 しかし、流石の陽知でも今の一瞬では狙い撃つことは難しかったらしく、この距離でありながら俺は避けることができた。

 あるいは陽知が外したのかもしれないが。

 そのまま、俺は直進しながら抜けたが

 

 今だ……!

 

 身体を反転させて陽知の背後に迫った。

 俺の狙いは交差後に振り返ることで後ろから白兵戦に持っていくことだ。

 そして、俺は目論見通りに上手くいったと思い、そのまま斬りかかろうとした。

 だが、俺は一つ忘れていたことがあった。

 

―ガゴン!―

 

「なっ……!?」

 

 しまっ―――!?

 

―ズドドドドドドドドドドドドドド!!―

 

「くっ……!」

 

 俺の背後からの攻撃は陽知の背中と肩から現れた五つのガトリングによって放たれた大量の銃弾によって勢いを殺されてしまい防がれてしまった。

 おまけにかなりのダメージまで食らった。

 

 クソ……!すっかりと忘れてた……!

 

 オルコットとの戦いで決定打はこのガトリングだった。

 それによく考えてみれば、陽知は視界から見えていないオルコットのあの動くビットを全て撃ち落としている。

 これぐらいは訳ないはずだ。

 

 早く、間合いを取らないと……!

 

 俺は陽知のミサイルの間合いから外れるようにと距離を取ろうとした。

 陽知の射撃は怖いが、射撃よりもミサイルの直撃の方がやばい。

 俺は陽知からまるで熊から逃げる時のように目を離さず後ろ向きに離れようとした。

 だが

 

―ジャラララララララララララララララララララ!!―

 

「え」

 

 突如、何か鎖が伸びて鳴り響くかのような音とともに、俺の右側から何か黒くて重量感のある影が迫り

 

―ドゴォッ!―

 

「ぐっ!?」

 

 まるでその重量感をそのまま体現化したかのような鈍痛と衝撃を「それ」は俺に与えた。

 

―ドサ!―

 

 そして、その力によって薙ぎ倒された俺はボールのように地面に弾き飛ばされた。

 

「っう……」

 

 痛みと息苦しさの中、俺は何が起きたのかを確認するためにぼやけた視界をこらしながら陽知に目を向けた。

 すると、俺の視界には再び容赦のない追撃を加えようとしている陽知の姿と陽知が右手にぶら下げている「それ」が入ってきた。

 

 錨……?

 

 陽知が手にしていたのは泊まっている船が波に流されないようにするために自らを固定する鉤型をしている重りともいえる錨のようなものだった。

 その見た目から、いや、持っている陽知の姿もあってとても重そう(・・・)だった。

 

―ドゴン!―

 

 俺が陽知の姿を確認した直後、陽知は俺にトドメと言うばかりに撃ってきた。

 

 

 

「一夏!!!」

 

 一夏……!!!

 

 私は弟の姿に隣でこの試合を観戦していた篠ノ之と違い、立場もあって表に出せずにいた。

 しかし、それでも私は一夏が雪風のトドメを食らったことに思わず声を出しそうになった。

 

 もういい……

 

 一夏の成長を見込んで私は今回の件を仕向けた。

 恐らく、今回の試合は川神が見ても『まだまだ』とは言うが、失望はしないはずだ。

 既に一夏は十分戦った。

 それでも激しすぎるこの試合を見て胸が苦しくなってきた。

 「IS」の安全性は確かなものだ。

 だが、痛みまでもを完全に遮断しない。

 

 わかっている……わかっている……私自身が望んだことだと言うぐらいは……

 

 私はいつだって身勝手で愚かだ。

 『雪風と戦わせる』ということはこうなることぐらいはわかっていた。

 雪風は決して妥協などしない。

 私はこれ以上、一夏が戦う必要がないと思い、試合の終わりを望んだ。

 それが一夏の「敗北」と言うことにも関わらずだ。

 だが

 

「……一夏?」

 

 私の期待、いや、それ以上をとっくのとうに超えているかのように一夏は立っていた。

 

 

 

 どうして……あなたは立つことができますの?

 

 わたくし、セシリア・オルコットは敗北と実力差にショックから抜け切れずにいながらも、あの女性、陽知さんと「あの男」の戦いを観戦していた。

 最初はすぐに陽知さんの圧勝で終わると思った。

 しかし、意外にも彼は善戦した。

 わたくしは相性の関係もあるとは思っていたが、終始、陽知さん相手に果敢に挑む彼の姿に私は驚きを隠せなかった。

 だけど、わたくしはもろにあの錨のような打撃武器を食らい、トドメとも言えるあの追い討ちの射撃を食らったことで彼も『終わった』と思った。

 陽知さんの攻撃は怖い(・・)

 一度でも食らえば、焦り、怯み、恐れに繋がる。

 なのに彼は右側のパーツが完全に破損しているほどの攻撃を受けながら立っていた。

 何よりも彼の目はまだ彼女を真っ直ぐ見ていた。

 

 織斑……一夏……

 

 彼の姿に私は困惑を覚えた。

 

 

 

「―――――――――」

 

 私は黒煙が晴れた後に現れた彼の姿に自分でも分かるほどに目を大きく見開いた。

 私の更識さん対策に編み出した錨による薙ぎ払いと砲撃の二連続攻撃による戦術を食らったことでどことなく気概を見せ始めていた彼も今回ばかりは『終わった』と思った。

 それは試合の勝ち負けとかの柔なものではない。

 『心が折れる』と言う意味でだ。

 私の唯一使用したことのない武器であるあの「錨」は「重さ」を相手にそのまま直接ぶつけるものだ。

 「重さ」と言うのは、衝撃そのものに繋がるものだ。

 それをもろに食らえば、たとえ怪我をしなくとも痛みは並大抵のものではないはずだ。

 実際、その痛みは彼の表情から読み取ることができる。

 彼は右目を辛そうに歪ませている。

 さらに私はそこに砲撃まで加えた。

 

 痛みをこらえて身体を動かした……?

 

 私は彼の右側の部品が中破どころか大破状態とも言えることから砲撃が外れていないことは理解できた。

 しかし、それにも関わらずまだ(・・)シールド・エネルギーが尽きていないことを考察してその答えに至った。

 彼は右脇腹に植え付けられた痛みの中で私の追撃を紙一重で避けて直撃とは言え致命傷だけは回避した。

 あまりにも単純だ。

 だが、あまりにも単純過ぎて驚きだ。

 

 強い(・・)人ですね……

 

 そんなことができるなど並大抵の人間じゃない。

 そもそも、私がこの戦術を考えたのも更識さんのような強敵相手に「痛み」によって一時的に判断力を鈍らせるためだ。

 何よりも「痛み」が判断力を鈍らせることになることを理解しているのは他ならぬ私だ。

 かつて、私よりも時津風の方が幸運艦扱いだった時に被弾した私はあの「痛み」を忘れることはない。

 それなのに彼は「痛み」の中で「勝利」を求めて未だに刀を向けている(・・・・・・・)

 その姿は人間の尊厳に満ち溢れていた。

 そして、私はようやく彼の「強さ」を知覚した。

 何よりも私は彼の姿に「彼女たち」の姿を重ねてしまった。

 何発ものの敵弾を浴びてもそれでも戦い続けた私の尊敬した戦友たちと。

 

 ですが……

 

 私はこのまま彼にトドメを刺そうと「逆落とし」に入ろうとした。

 彼の覚悟は「本物」だった。

 しかし、だからと言って勝利を譲るわけにはいかない。

 それこそ、彼への侮辱になる。

 彼に狙いを定めて必中させようとすると私が向かって来ているのに既に彼は動かない。

 最早、彼は立っているのがやっとだった。

 

 終わりです……!

 

 既に彼が避けることが不可能である距離まで詰めて私は雷撃しようとした。

 その時だった。

 

「―――るんだ」

 

「……え?」

 

 彼は何かを口ずさんだ。

 

「俺が―――」

 

 どこにその力を残していたのかは分からなかった。

 彼は自らの得物を右斜め上に構えて私を目に入れた。

 

「守るんだ……!」

 

「……!?」

 

 そう言いながら構えた状態で身を乗り出した。

 その言葉に私は息を詰まらせた。

 

「今度は俺が千冬姉を―――」

 

『私はお姉ちゃんや天津風、時津風を―――』

 

 切なさと虚しさが波の様に胸に押し寄せて来て私の思い出が蘇る。

 

「守るんだあああああああああああああああぁぁああぁああぁ!!!」

 

『守れるぐらい強くなります……!!』

 

「……っ!!?」

 

―キュイーン!!―

 

 彼の刀が突如輝き出し、彼が前に進みだし言い切った直後に私は果たせなかった「誓い」を思い出してしまい

 

「しまっ―――!?」

 

 気を取られた私は「逆落とし」のタイミングを完全に逃がし彼の間合いに入ってしまった。

 私には理解できる。

 あの「輝き」は『マズい』と。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉおぉおぉぉぉおぉぉ!!!」

 

 そして、彼の白刃が私を切り伏せようと下ろされた。

 

 

 

―ガキーン!―

 

「はあはあ……!」

 

 浅い……!

 

 最後に無我夢中になりながら理解できた。

 俺の一撃は確かに入った。

 しかし、浅かった。

 

「はあはあ……!」

 

 陽知の方を見ると陽知自身も銃を構えながらも撃とうとしていたが、その顔は自分が最小限で俺の攻撃による被害を止めたことに信じられないようだった。

 

 錨か……

 

 陽知の右手を見てみるとその手にはあの錨が逆手で握られていて錨の先端は地面に落ちていた。

 陽知は俺の攻撃を避け切れないと考えて咄嗟の判断で先端を落として俺の間合いに完全には入らないようにしたのだ。

 

 すごいな……

 

 改めて、俺は目の前の彼女が大きく思えた。

 そして、そのまま彼女の至近距離からの射撃で幕が落ちると思ったが

 

―試合終了。勝者 陽知 雪風ー

 

 意外な形で勝敗は決した。




とりあえず、一夏戦終わりました……
もう少し、雪風のスピードを表現したかったのに……
自分の表現力のなさが残念に思えます。

錨の武器化はガンバスターさんの感想による意見のおかげです。
ありがとうございました。

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