奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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よ、ようやく第三章終了……
鈴編は次回からです


第19話「信頼」

「お疲れ様、雪風ちゃん」

 

 私は少し(・・)予想よりも外れたとは言え、ほとんどの私の予想通りの結果で勝ってきたうえにしっかりと自らの役割を果たしてきた雪風ちゃんに労いの言葉をかけた。

 

「……ありがとうございます」

 

 雪風ちゃんはそれに対して少し疲れ気味に返した。

 

 ……変ね?

 

 私は雪風ちゃんのその調子に疑問を抱いた。

 雪風ちゃんと三週間近く訓練をしてきた私は時に雪風ちゃんと長時間戦うこともあったが、ここまで彼女の疲労した様子は見たことがない。

 それに雪風ちゃんはそう言った訓練をした翌朝に走り込みをしたりするなどしていることからも今回の試合で疲労することなどあり得ないはずだ。

 理由としては雪風ちゃんがどこか川神先輩と似ていると言う神通さんと言う人に鍛えられたこともあってとても不可解だ。

 

「どうしたの雪風ちゃん?

 そんなに疲れて?」

 

 私は不可解に思って彼女に訊ねた。

 すると

 

「いえ……その……」

 

 なぜか雪風ちゃんはとても困ってしまっていた。

 

 ……なぜかしら?

 とてもおもしろそうな(・・・・・・・)匂いがしてくるわね?

 

 今の雪風ちゃんは目を泳がしている。

 私の知る雪風ちゃんが言いにくそうなことを言う時はどこかうつむきがちな時が多くてこう言った表情は初めてだ。

 雪風ちゃんが後ろめたいことをする人間じゃないことを知る私は面白そうな匂いがしてきた。

 

「ねえ、雪風ちゃん?どうしてそんなに疲れているの?」

 

「え!?いや、その……」

 

 私は白々しくも下心を隠しながら彼女に訊ねた。

 愉悦の香りがしてきた。

 

「うぅ……それが……試合後のことなんですけど……」

 

 と彼女は少し躊躇いながらも語ろうとしだした。

 余程、疲れているらしい。

 好都合だ。

 

 

 

「で、その……織斑さんのことを一夏さん(・・・・)と呼ぶことになりました……」

 

 私は更識さんに試合後にあったいざこざを半分ほど洗いざらい吐いた。

 あれは今まで経験したことのない修羅場だった。

 それぞれの鎮守府の提督をめぐる艦娘の修羅場でもあそこまでぎすぎすしていなかったはずだ。

 

「………………」

 

「更識さん?」

 

 私がふと目を向けると更識さんは扇子で口を覆っていて彼女の目はいつも余裕たっぷりの目をしていることもあって真意を読み取れない所があるので表情が読み取れなかった。

 だが、なぜか肩が妙に震えている気がしていて、違和感を感じる。

 

「ぷっ……!!」

 

「え?」

 

 そして、その違和感の正体はすぐに発覚した。

 

「あっははははははははっははははははっはあははは!!」

 

 彼女は盛大に笑い出した。

 いつもの冷静で何かと品を感じる彼女らしくない姿に私は戸惑いを隠せなかった。

 いや、人をからかってニヤニヤしたりと人を食った人ではあるけど。

 

「さ、更識さん……?」

 

「ごめん、ごめん……

 まさか、そんな雪風ちゃんのそんな一面を見れるなんて……

 あっはははははははは!!」

 

「もう……!こっちはかなり気まずかったんですよ!?」

 

 私は謝罪している癖に全く悪びれた様子を感じられない姿にムッとしてしまった。

 

「『もう……!』て、ぷぷぷ……」

 

「つぅう~!!」

 

 私のつい出てしまった素に更識さんは再び笑った。

 ここまで私のことを手玉に取った人間は久方ぶりだ。

 よく空母や戦艦のお姉様方は私のことを小動物みたいに可愛がったりしていたが、それは私がまだひよっこの時の話だ。

 

 流石に神通さんの前では大きな声で言えませんけど……

 

 よりによって、今日はストッパーである布仏さんがいないこともあって性質が悪い。

 

「ま、護衛対象に違和感なく近づけるようになるからいいんじゃないかしら?」

 

 ようやく私を玩具にするのをやめてくれたのか、更識さんは私が一夏さんと親交を深めることに関しては薦めてくれた。

 

「そうですね……あはは……」

 

 私は表向きは素直に評価を受け止めたと同時にこれからも続くであろう一夏さんを巡る篠ノ之さんとセシリアさんの修羅場のことを思い浮かべて空笑いした。

 あの後、セシリアさんと私が一夏さんに指導することを提言した途端に篠ノ之さんが思いっきり抗議してきたのだ。

 彼女も気持ちは分からなくないし、彼女には彼女にしかできない訓練があったので彼女の積極さは問題はなかった。

 しかし、一夏さんを巡る女としての感情が邪魔になってセシリアさんと篠ノ之さんのいがみ合いが始まりそうになったのだ。

 そこで私があることを提言して訓練を三人で分けることにしたのだ。

 それに対して、一夏さんは強くなれることもあって納得してくれたが、セシリアさんは私との「取引」もあってか渋々と承諾し、篠ノ之さんは全く納得していない様子であった。

 

「いや~、その様子だと雪風ちゃんも恋のレースに参加かしら?」

 

 と更識さんはニヤニヤと邪推してくるが

 

「あ、それはないです」

 

 私は即座に彼に対する異性としての感情は否定した。

 

「あらら、即答……なぜかしら?」

 

 更識さんは私がすぐにそのことを否定したことに戸惑いながらも訊ねて来たので私は

 

「確かに彼の意地には惹かれるところはありましたけれど―――」

 

 一夏さんの戦いぶりに心がどこか高揚したのは事実であったけれど

 

「私の知る限りではまだまだですので……」

 

 「司令」を始めとした帝国海軍のいい男を見て来た私としてはあまり異性として特別には感じられない。

 それに未練がましいことではあるが、私は未だに既婚者でありもう会うこともできない初恋の人である「司令」が忘れられないでいる。

 そう言ったこともあって彼に惚れることはないだろう。

 

「あらあら……」

 

 私の答えに納得したのか、更識さんはこれ以上の追及をして来なくなった。

 

―コンコンコンコン―

 

 私たちの定時報告がキリのいい感じになったと同時に生徒会室の扉をノックする音がしてきた。

 

「お嬢様、虚です」

 

 やはりとも言うべきか、それは布仏さんによるものであった。

 この生徒会室に委員会などの用事がない限りは一般生徒は訪れることはなく、訪れる人物は教員か、私か布仏さんか、本音さんぐらいしかいない。

 その中であそこまで丁寧なノックをするとしたら布仏さんぐらいだろう。

 

「入ってもいいわよ」

 

「はい」

 

 従者であり心の許せる友人の帰還に更識さんは入室を促した。

 それを聞くと、布仏さんは応答してから

 

―ガチャ―

 

「失礼します」

 

 静かに、そして、速やかに入室してきた。

 真面目な彼女が最低限の礼儀だけで入室するのはやはり付き合いの長さを感じさせられる。

 

「あ、雪風さん。

 今日の試合、お疲れ様でした」

 

「ありがとうございます」

 

 私を見ると布仏さんはすぐに労いの言葉をかけてきた。

 さすがの気配りだ。

 彼女のそう言った補佐官としての資質は数多くの秘書艦の中でも最も秘書艦らしい秘書艦であった大淀さんと比べても劣ることがない気がする。

 私が布仏さんの振る舞いに感心していると

 

「虚ちゃん、どうしたのそんなにかしこまっちゃって?」

 

「え?」

 

 更識さんのその一言に次の瞬間、呆気に取られた。

 すると

 

「はい……その……」

 

 主である更識さんに言われたおかげが何かを言い淀め始めた。

 

 い、今のどこにそんな要素があったんですか?

 

 私は二人の以心伝心ぷりに驚いてしまった。

 いくら何でも、情報が少なすぎる気がする。

 

 あ、よく考えてみれば私も「二水戦」のみんなと戦っているときはこんな感じでしたね……

 

 しかし、二人の以心伝心ぷりに圧倒されながらも、私が第十六駆や二水戦の姉妹や朝潮型のみんなとの訓練で培われた連携を思い出したことで私はそこに不自然さを感じなかった。

 

「そう……雪風ちゃん、今日はもういいわよ?」

 

 唐突に更識さんはそう言ってきた。

 どうやら、布仏さんの用とは私がいると話しにくいものらしい。

 このお人払いには普通なら隠し事をしていると訝しく思ったり、不快に思ったりすることであろうが

 

「わかりました。

 では、お二人とも、おやすみなさい」

 

 私は承諾した。

 忘れがちであるが、彼女らは「暗部」だ。

 そこに傭兵に近いとも言える外部の人間である私がいるのは守秘義務などのことから都合が悪いだろう。

 私はそれぐらいの線引きはできる。

 

「ごめんね、雪風ちゃん」

 

「すみません……」

 

 二人は一応、「追い出す」と言うことをしていることに対して申し訳なさを感じてかそう言ってくるが

 

「いえ、大丈夫です」

 

 私は信頼を込めてそう応えた。

 この二人が私に不利になることを隠し事するとは到底思えない。

 仮に私のことを裏切ることがあったとしても、事前に何かしらの伝達をしてくるはずだ。

 

「そう、おやすみなさい」

 

「ありがとうございます。

 おやすみなさい」

 

 私の言葉に込めた意図を汲み取ってくれた二人は快く私に言い放った。

 

「はい、おやすみなさい」

 

 こうして、私の激動の学生生活一週間目は終わりを告げた。

 

 

 

「さて、わざわざ雪風ちゃんを外してまで私に話すことて何かしら?」

 

 私は雪風ちゃんの気配が完全に遠のいたことを確かめてから虚ちゃんに訊ねた。

 

「はい……あの……」

 

「……?」

 

 おかしいわね?

 いつもの虚ちゃんだったら、たとえ言いにくいことでもきっぱりと言うはずなんだけど……

 

 私は虚ちゃんのその躊躇いに不自然さを感じた。

 

「どうしたの、虚ちゃん?

 私とあなたの仲じゃない?

 それとも、私のことを信じていないのかしら?」

 

「そ、それは……!」

 

 私はわざと虚ちゃんに意地悪気に用件を述べるように促した。

 私は自分が虚ちゃんを裏切ることはあるとしても、虚ちゃんが私を裏切ることは絶対にないと信じている。

 だから、彼女の報告はなんであろうと受け止めるつもりだ。

 

「解りました……申し訳ございません……

 実は織斑先生に先程、出会ってお嬢様への言伝を頼まれたのですが……」

 

 私の言葉を耳に入れて虚ちゃんは気を楽にして、意を決したのか私に語り出した。

 

「へ~、織斑先生から……それで?」

 

 私は意外な用件であったことに多少予想外であったが広い心を持ってそれを聞き容れようと思った。

 それは更識の当主として、そして、虚ちゃんの主としての義務であるから。

 

 ま、虚ちゃんのことを今まで部下とは思ったことはないけれどね……

 

 私は彼女が何を語ろうとしても受け入れるつもりだ。

 

「『川神(・・)がお前の資料映像を見て、やる気満々だったぞ。

 まあ、奮闘を祈る』

 とのことです」

 

「そうなの―――

 え?」

 

 そのつもりだった。

 

「……今、なんて言ったのかしら?」

 

 私はその言葉だけを聞けばとても嬉しい言葉であるが、とても(・・・)不穏な雰囲気な包まれたその一言に寒気を覚えしまい、もう一度訊ねてしまった。

 

「はい。ですから、川神さんが帰国してからお嬢様にお手合わせをしたいとのことらしいです」

 

 虚ちゃんのそのご丁寧な要約に私は

 

「う、う~ん……」

 

「お、お嬢様!?」

 

 トラウマを思い浮かべて気を失いかけながらも

 

「あ、悪夢再来だわ……」

 

 そう呟いた。




楯無がここまで怖がる川神さん……
いったい何者なんだ(すっとぼけ)!?

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