奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回は雪風が語る過去話中心です。


第4章「二水戦の航跡」
第1話「二水戦旗艦」


『―――さん!!

 応答してください、―――さん!!』

 

 次発装填を終えて再度突入のために浜風たちとそのまま逆落としをしようとした矢先に最初の戦闘のあった地点から響き渡る轟音を耳にして私は久方ぶりに共に戦うことのできた師の名を無線を通して呼びかけ続けた。

 私が最後に見たあの人は探照灯を最後まで照らし続けて私たちの砲雷撃戦を手助けし続けていた。

 だが、それ故に相手の集中攻撃も受け続けていた。

 

『―――さん!!』

 

 何度呼びかけても彼女からの応答はなかった。

 それでも私は呼びかけた。

 この水雷戦隊の旗艦は彼女だ。

 現在の状況では彼女しか、この部隊を率いることなどできない。

 だけど、どれだけ指示を仰ごうとも彼女からの返答はなかった。

 

『雪風……』

 

 私の先ほどからの行動を目にして、私と共にあの人の指示通りに行動していた陽炎型の妹艦である浜風が声をかけた。

 今、私たちがいる地点は急反転することで最短時間で敵艦隊の不意を突ける場所だ。

 後は次発装填装置のない三日月ちゃんを退避させて、そのまま私たちを追跡してきた敵を殲滅しその勢いで敵本隊に逆落としをかけて叩き潰すだけだ。

 

 どうすれば……!!

 

 だけど、それは大破したあの人を三日月ちゃんに護衛させて退避させると言う選択肢を捨てると言うことでもある。

 このまま三日月ちゃんを伴って突入すれば三日月ちゃんの身が危ない。

 そして、何よりも離脱を指示できるあの人からの指示がない。

 これでは部隊の指揮系統が乱れて乱戦になってしまう。

 

―目の前を見なさい……!!

 私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!―

 

『……っ!!』

 

 その時、私の脳裏にあの人が私にこの駆逐隊の指揮権を預けた時に私を叱った言葉が浮かんだ。

 この作戦に参加することが決まり、久しぶりに「二水戦」に復帰したにも関わらず私はあのこと(・・・・)を引き摺って最低の一言を口に出してしまい、初めてあの人にぶたれた。

 そして、いつまでもクヨクヨする私に彼女は

 

―この中で最も私と共に戦ってきたのはあなたです―

 

 と言って、私のことを励まし私に誇りを取り戻させた。

 そして、大破しながらも彼女は

 

―絶対、大丈夫ですから―

 

 と言って私たちを見送った。

 

『………………』

 

『雪風……?』

 

 浜風が私のことを案じて窺ってきた。

 なぜ師とのやり取りを思い出したのか分からない。

 

『三日月ちゃん、あなたは離脱してください』

 

『え……?』

 

『ゆ、雪風……?』

 

 だけど、決意は固まった。

 私は三日月ちゃんに離脱を指示した。

 その私の様子に浜風、いや、その場にいた駆逐艦は全員、戸惑いを隠せなかった。

 でも、

 

『旗艦神通(・・)応答なし。

 これより、雪風が指揮を受け継ぐ!!

 我、再度突入する!!』

 

 私はそのままなるべく彼女らに動揺が走らないように発破をかけながら前進した。

 これがあの人が私に託した最後の役目であった気がした。

 

 

 

「夢ですか……」

 

 私は夢を見ていたようだ。

 あれは私が神通さんと共に戦うことのできた最後の戦での出来事だった。

 最初に私が神通さんと出会ったのは私が呉鎮守府に配属された時であった。

 当時の最新鋭艦、いや、水雷戦に限れば最も優れていたとされる陽炎型の私は「華の二水戦」に優先的に配属された。

 そして、最初の僚艦となるお姉ちゃんや黒潮お姉ちゃんたち第十六駆逐隊を結成し、初めて私たちの水雷戦隊の隊長となる神通さんと出会った。

 神通さんの第一印象は何と言うか、軽巡らしからぬお淑やかな人であった。そのため、三人の間でそれぞれ、不安、楽観、安堵の三つの感情が漂っていた。

 だが、それは一日目で認識を改めさせられることになった。

 

『ふ、二人とも大丈夫か?』

 

『だ、大丈夫な訳ないでしょ……』

 

『………………』

 

『ちょ、雪風!?しっかりしなさいよ!?』

 

『あかん……こりゃ、あかんで……』

 

 私たち三人は全員で初めての神通さんの訓練であの人の言葉を借りるのならば「お魚の餌やり」をしてしまった。

 さらに追い討ちで

 

『みなさん、よく頑張りましたね。

 では、明日からもっと頑張りましょうね?

 特に一番お姉さんの黒潮さん?』

 

 神通さんはにっこりとそう言った。

 あの時ほど、笑顔が怖いと思ったことはなかった。

 

『い、いや~……その……うちよりも雪風の方が竣工が早いので……』

 

『そ、そうね……』

 

『こんな時だけ妹になるなんて二人ともズルいよ!?』

 

 私たち三人の関係はかなり複雑で艦娘としての誕生は私が最も先であったが、ネームは私が一番後だった。

 そのため、ある意味では三つ子同然だった。

 

『あらあら……では、三人とも頑張りましょうね?』

 

 しかし、どんな言葉を使っても結論は同じだったのだろう。

 上手く誘導させられた気がする。

 恐らくだが、彼女は書類で私たちの出生も知っているはずだ。

 

『世の中、諦めも肝心よ?』

 

 二水戦の先輩であった朝潮型姉妹の面々は私たち、陽炎型にどこか遠い目をしながらそう言った。

 そして、その日から続く「月月火水木金金」の日々はとても激しいものであった。

 だけど、決して神通さんは厳しいだけの人じゃなかった。

 訓練がある程度終わり、私たち陽炎型駆逐艦の初陣が決まった。

 私はその前日、余りの緊張のために眠れずに規則違反であったが気を紛らわせるために夜の寮をうろついた。

 あの時の私は「二水戦」とかの肩書きなど関係なく、ただの一駆逐艦に過ぎなかったのだ。

 そんな時だった。

 

『雪風さん、こんな時間に何をやっているんですか?』

 

『ひっ!?』

 

 私は運悪く、訓練の時はまさに鬼教官として恐れられた我らが「華の二水戦旗艦」に出くわしてしまったのだ。

 声には怒気がなかった。

 だが、それが逆に怖かった。

 当時の私、いや、ほとんどの陽炎型の面々は神通さんとは付き合いがそこまで長くなかったことで彼女のことをただ厳しい上官と恐れていたぐらいの認識でしかなったのだ。

 私は出撃もしていないのに死ぬかと思った。

 

『……就寝時間はとっくに過ぎています。

 なぜここにいるんですか?』

 

『あ、いえ……その……』

 

 別にギンバイなどのやましい目的で夜の寮をうろついていた訳でもないのに私は返答に窮してしまった。

 

『ここでは他の方の迷惑になりかねませんね。

 付いてきなさい』

 

『は、はい……』

 

 このままでは埒が明かないと思ったのか、神通さんは尋問のために場所を変えようとした。

 その道中の間、私はこのまま「営倉行き」と杞憂してしまった。

 そして、そのまま私たちは彼女の部屋に着いた。

 少なくとも、「営倉行き」直行ではないことに安堵したがそれでも私はあの鬼教官であった神通さんの私室と言うこともあって物凄く不安だった。

 

『さて、なぜあなたはこんな時間に寮をうろついていたのですか?』

 

 再び、彼女の尋問が再開された。

 私のやっていることは規則違反で何よりも私はあの「華の二水戦」に所属しているのだ。

 「二水戦」は水雷屋の花形だ。

 ゆえに少しの落ち度でも許されないと私は思っていた。

 

『………………』

 

 本当は『実戦が怖い』と言えたら、どれだけ楽だったのだろうか。

 しかし、それは「二水戦」に所属している身としては最も許されないことだと思っていた。

 「二水戦」は切り込み部隊だ。

 そんな部隊に臆病者の私が所属していていいはずがないと信じ込んでいた。

 

『わ、私は……』

 

 沈黙と尋問による重圧に耐えられずに私は口を開こうとした瞬間だった

 

―ギュ―

 

『……え?』

 

 突如、私は何かに包まれる感覚に陥った。

 当初、私はそれが何なのか理解できなかった。

 だけど、

 

『……神通さん?』

 

 それは神通さんの抱擁によるぬくもりだった。

 それを理解しても私は信じられなかった。

 あの『鬼百合』と恐れられていた神通さんが規則違反をした私のことを抱きしめるなんて。

 

『ごめんなさい……

 今の私にこれぐらいしかできません。

 ですが、今は甘えてもいいんですよ?』

 

 と今まで見せたことのない穏やかな表情を浮かべながら、私の頭をゆっくりと髪を梳くように撫で下ろした。

 それはとても心地よかった。

 私には母と言うものがいなかったが、恐らく、母に甘える子どもが感じるものはこう言った安堵感なのだろう。

 

『ただし―――』

 

 しかし、私が初めて感じる感覚に浸っていると

 

『規則違反は規則違反です』

 

『え?』

 

 彼女はいつものようににこやかにそう言い

 

『あなたには懲練を科します』

 

『え~!?』

 

 いつものように私に訓練をやらせようとした。

 せっかく安心しだしたと言うのにこれである。

 いつの間にか、私が抱いていた不安や恐怖はどこかへと去っていった。

 神通さんはやはり神通さんだった。

 

『そうですね……時期は任務が終わってからですね』

 

『……え?』

 

 私は彼女の言葉の意味が解らなかった。

 

『ですから、今はしっかりと寝て英気を養いなさい』

 

『あ……』

 

 だけど、その言葉と私の髪を撫で下ろす行動を再開したことで私は彼女の真意を知ることができた。

 

『絶対、大丈夫ですから……』

 

『……はい』

 

 それを理解した私はいつの間にか、彼女に誘導されるがままに彼女の膝を枕にして眠っていた。

 翌朝、私が目覚めるといつの間にか私は、私は自室のベッドで眠っていた。

 しっかりと睡眠を取れた私はその日からの初陣を成し遂げることができた。

 そして、その後に彼女との約束通りに「懲練」を受けた。

 あの時から、私は神通さんのことを本当の意味で敬愛するようになった。

 その後の大反攻作戦においては私は彼女の旗下の部下として転戦し続けた。

 思えば、司令や磯風、金剛さんたちと過ごした佐世保の時期と神通さんの二水戦時代こそが私にとっては最も幸せな時代だったのかもしれない。

 だけど、それはあの「悪夢のミッドウェー」で終わりを告げた。

 あの後、帝国海軍は一気に損失した精鋭の正規空母の三人の分を埋める雲龍型姉妹と虎の子の装甲空母である彼女の練度向上までは米軍との合流は諦め、防戦に回るしかなかった。

 そして、私は再編成のために十水戦に回されて、神通さんと共に戦う機会はあの「コロンバンガラ」まで失われた。

 あの時は私も少し気落ちした程度だった。

 それでも私は()二水戦の誇りを忘れなかった。

 そう、あの時はまだ。

 

『なぜ貴様のような駆逐艦は生き残り、栄えある御召艦の化身は沈んだのだ!!!』

 

 ソロモンの陸上型の姫級の討伐に失敗して、護衛対象であった比叡さんに逆に生かされる形で生き残った私に対しての中央の人間はそう罵倒した。

 あの件に関しては司令や呉の提督、比叡さんが所属していた横須賀の提督、山本長官もこぞって反論し、さらには比叡さんの姉である金剛さんが同時期に霧島さんも失っているのに関わらず最も憤慨し庇ってくれたことで幾分かは救われた気もしていた。

 それでも比叡さんのことを守り切れなかったことは未だに拭えない私のトラウマだ。

 しかし、その後に

 

『駆逐艦たった(・・・)四隻程度の損失で何もここまで……』

 

 あの二水戦時代の仲間を三人も失ったダンピールの地獄から生還した後に呉の提督が怒りの余りにあの無茶な作戦を立てた人間たちを弾劾している最中に私の耳に入ったとある参謀の一言。

 あの地獄で他の艦娘(特に朝潮ちゃん)の奮戦のおかげもあってか、人間側の兵士はかなり生還した。

 しかし、彼の発言で私は人間にとっては私たち駆逐艦は消耗品程度にしか思われていないことを痛感させられた。

 あの頃からか、私は戦う気力を失っていた。

 そんなある時、私は神通さんの指揮下の「二水戦」に一時的だが復帰することになった。

 久しぶりの師との作戦、本来ならば戦意が湧くはずだった。

 でも、久しぶりに師と再会した私は

 

『神通さん、探照灯の役は私がやります』

 

 と言ってしまったのだ。

 彼女はそれを聞くと

 

『なぜ、そのようなことを言うんですか?』

 

 目を険しくして私にその発言をした理由を訊ねて来た。

 そんな彼女に私は最低な一言を言ってしまった。

 

『私は……消耗品ですから……』

 

 比叡さんを守れず上層部から受けた罵倒、ダンピールで相棒であった妹を含めた僚艦を四人も失った後に聞いた参謀の言葉。

 それらの事実を受けて私は、自分は、駆逐艦は消耗品でしかないことを思い知らされた。

 そして、それをよりによって神通さんの前で自棄で言ってしまったのだ。

 その直後、

 

―バチンッ!!―

 

 頬に痛みが走った。

 私は訳が分からず目の前を見た。

 すると、私の目に映ったのは

 

『………………』

 

 今まで見たことのない神通さんの表情、いや、彼女が見せたことのない怒りの表情であった。そして、手の構えから彼女が私のことをぶったことは明白だった。

 

『神通さん……?』

 

 今まで、どれだけ厳しくても決して体罰をしなかった彼女が私のことをぶったのだ。

 そして、

 

『今のあなたには失望しました』

 

『え……』

 

 彼女はそう言って、その場を去った。

 私たちはその後の鼠輸送の護衛に入るまでの一言も言葉を交わさなかった。

 そして、作戦が始まり、あの「コロンバンガラ」に入り夜戦が始まった。

 あの時は数は圧倒的にあちらが多かった。

 犠牲は必須だと誰も腹を括った。

 その時

 

『雪風、あなたが駆逐艦の隊長をやりなさい。

 探照灯はいつものように私がやります』

 

『……!?』

 

 彼女は「二水戦」の当たり前である旗艦の役目を行うと発言した。

 私が彼女に抗議しようとすると

 

『あなたの逆探はこの戦いにおいて重要な目です。

 異論は認めません』

 

 それだけを言い、私の反論を許さず突入しようとした。

 私はずっと俯いたままであった。

 そんな時、

 

『目の前を見なさい……!!

 私はあなたをそんな柔に育てたつもりはありません……!!』

 

『!?』

 

 と神通さんは叱責しだした。

 そして、

 

『この中で最も私と共に戦ってきたのはあなたです』

 

 そう言って叱咤した。

 その言葉を聞いて私はようやく自分が彼女の弟子であったことに誇りを取り戻した。

 そして、囮役である彼女と事前の打ち合わせ通りに分かれて二手に分かれて突入した。

 初撃はまずまずの戦果だった。

 だが、同時に

 

『きゃあっ!?』

 

 探照灯の照射を続けていたこともあって攻撃が集中して砲火が彼女を襲い、彼女は大破してしまった。

 

『神通さん!?』

 

 私たち駆逐艦は彼女の危機を目にしてすぐに彼女を助けようとした。

 しかし、

 

『来てはいけません……!!』

 

 彼女は腹部から大量に出血しながら未だに探照灯を照らし続け後ろを決して振り向かないで砲撃を続けて私たちを追い返そうとした。

 

『でもっ……!!』

 

 私はこれ以上、誰かを、何よりも師である彼女を失うことを恐れて彼女の制止を聞かずに駆け寄ろうとするが

 

『あなたの役目を忘れてはなりません……!!』

 

『……っ!』

 

 私に彼女は自らの役目を果たすことを説いた。

 そして、最後に彼女は

 

『絶対、大丈夫ですから』

 

 私をあの時と同じように安心させるような優しい声でそう言った。

 彼女は私たちの位置を敵に悟らせまいとするために決して振り向きはしなかった。

 だけど、あの言葉を言った彼女の顔はきっとあの時と同じものであった気がした。

 私は彼女の心意を汲み取ってすぐにでも一時離脱して、次発装填装置がない三日月ちゃんを退避させて、神通さんを助けようとした。

 そして、あの轟音が鳴り響き私は不安に駆られながらも彼女に指示を仰ごうとした。

 だけど、無線からはなんの応答もなかった。

 その後、私は神通さんに代わって旗艦の務めを果たした。

 結果、「コロンバンガラ」は一人の犠牲だけで味方に被害もなく敵を殲滅したと言う大戦果で終わった。

 その代償に私は師を失った。

 

「今になって……あの頃を思い出すなんて……」

 

 私は師との別れを思い出して感傷に浸った。

 今、彼女を思い出すのはきっと久しぶりに思う存分、砲雷撃戦を行うことができ、一夏さんを指導することになったからなのだろう。

 もしかすると、今回の夢は神通さんからの『怠るな』と言うメッセージなのかもしれない。

 

 神通さん、あなたに教えてもらった「水雷魂」は決して忘れません……

 

 私は師への変わらぬ敬意を込めて心で念じた。




個人的に神通さんはかなり母性が強いと思います。

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