奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
反省しているのですが、どうしても箒はこう言った役回りが来てしまうんですよね……
「これより飛行訓練を開始する。
織斑、オルコット、陽知、各自「IS」を展開しろ」
「「「はい」」」
専用機持ちである二人と実質的に専用機持ちである私たちに経験者と言うことで他の生徒の前で飛行をやらせようとした。
この中で基本がまだなっていない一夏さんを選んだのは彼に慣れさせるためでもあるのだろう。
―キィーン―
私は織斑先生に返事をした後に即座に「初霜」を展開した。
言われたら即座に考えて行動。
それが私が生き残ってきた理由の一つでもある。
「陽知は既に展開したぞ。
二人とも急ぐように」
「……え?」
織斑さんのその催促を耳に入れて私は二人の方を見てみるとまだ二人は展開していなかった。
「陽知さん、はや~い」
「さっすが、テストパイロット……」
「何と言うか、試合もそうだけどまさに女武者て感じよね」
し、しまった……!
早くやり過ぎました……!!
常に全力を出す。
神通さんの下で『訓練で全力を出せない者は戦場でも全力を出せない』と言う暗黙の了解と実戦の情け容赦のない空気を知る身として、染みついてしまった私の癖だ。
マズい……
一夏さんはともかくとして、セシリアさんより早いのは……
「IS」の展開は熟練者であればあるほど一秒もかからない。
私の今の展開には一秒もかかっていなかった。
一応、テストパイロットと言う肩書があるとは言え、「代表候補」であるセシリアさんよりも早いのは不自然だ。
「……陽知は適性の高さと本人の都合でかなり早い時期から訓練している。
努力の末の結果であることを忘れないように」
少し目立ってしまった私に対するフォローのためとあくまでも訓練の賜物であると言うことでクラス全体の意欲の向上を織斑さんはこの世界における偽りの経歴を基に嘘を吐いた。
この世界での私は幼少期に両親が事故で死亡しており、孤児であったが「倉持」の研究者に高いIS適性に目をつけられて高校進学の返済不要の奨学金と引き換えに「IS学園」への入学と「初霜」のテストパイロットを承諾したことになっている。
肉親を失った点、親がいない点、何らかの組織の庇護にいると言う点は変わりないが。
―キィーン―
隣を見てみるとセシリアさんも一夏さんも展開できたようだ。
あれ程、私がボロボロにしてしまった二人の専用機は既に修復が済んでいた。
……深海棲艦との戦いで「IS」があったらどれだけ犠牲を抑えることができたんでしょうね……
改めて、私は「IS」の自己修復力の高さに驚愕してしまった。
私の知る艦娘の中では私とは異なる意味で「不死身」と呼ばれた人たちもいた。
何度ボロボロになっても戦場に戻り続けた「ソロモンの狼」こと青葉さんや「不死鳥」こと特型Ⅲ型唯一の生き残りである響ちゃん、そして、米国、いや、あの大戦で最も「英雄」の名前が相応しいその名が如く常に困難な試練に挑戦し続け、どれだけ傷ついても勝利し続けた最強の武勲艦である彼女などはどれだけボロボロになってもすぐに立ち向かっていった。
ただ、青葉さんは妹の衣笠さんや準姉妹艦である加古さんを失い、さらにはとある一件で多くの旗下の駆逐艦やもう一人の準姉妹艦である古鷹さんを目の前で失ったことで彼女の陽気さがどこか陰りが見えるようになってしまい、響ちゃんは特型としては潮ちゃんや曙ちゃんが残っていたが、第六駆に所属していた特Ⅲ型の姉妹を全て失ったことや直前の触雷で私も参加した「あの作戦」に参加することができなかったことをいつまでも悔やんでいた。
もし、「IS」があれば制空権の確保や私たちの妖精さんの加護と私たちの装甲より強固なシールド、運動性や速度、さらにはダメコンの優秀さもあってそこまで人類は苦戦せずに多くの死者を出さずに済んだのかもしれない。
いや……この世界の現状を見ると……
戦いが終わってから……虚しさが生まれるだけですね……
「IS」があればと言うのは浅はかな考えだと言うのは私自身が一番知っていることだ。
確かに「IS」は兵器としては優秀だ。
けれど、この世界の「歪み」を見れば、私たちの世界でもそうなることは考えられる。
たとえ「平和」になってもその「平和」が価値あるものでなくては散っていった者が浮かばれない。
それが生き残った者が胸に刻むべきものである。
「よし、飛べ」
私が物思いに耽っていると織斑さんがそう指示した。
それを耳に入れた瞬間、私は我に返り、他の二人と同時に飛び立った。
その中で一夏さんが少し遅れ気味であった。
う~ん、まあ、仕方ないですね……
私とセシリアさんはある程度、上昇してから停止した。
「セシリアさん、聞こえますか?」
私は一夏さんの飛行の様子を観察してみて訓練の内容について懸念すべきことがあると思って
「どうしました?」
私の呼びかけにセシリアさんは応答した。
「実は一夏さんの今日の放課後の飛行訓練なんですが……
今回だけは私が指導してもいいですか?」
「え!?」
ちょっと説得に骨が折れそうではあるが彼女に登板の臨時の交代を申し出た。
「どうしてですの!?」
恋する乙女であるセシリアさんが意中の男性である一夏さんに他の女性が近づくのは好まないのは予想がついていた。
これが篠ノ之さんだったら、もっと面倒なことになっているのはここ数日の出来事から理解できた。
「一夏さんの様子を見ているとセシリアさんの飛行技術はもう少し後の方がいいです。
あなたのはアクロバティック過ぎますので……
ダメですか?」
私は正直にありのままに下心などないことを彼女に伝えた。
セシリアさんの飛行技術は確かに優秀なのだが、一夏さんにやらせるのはまだ早過ぎる。
今の一夏さんに必要なのはイメージと共に生じる臨場感だ。
「でも……」
そんな提案にセシリアさんは苦虫を噛み潰したような表情をしてしまった。
これは仕方ないと私も思っている。
「大丈夫ですよ。私は彼に異性としての情は持っていません」
私は渋る彼女にそう言った。
「本当ですの?」
彼女はまだ私を疑っているようだ。
まあ、確かに一夏さんとの名前の呼び方の件もあるので彼女が警戒したくなるのも理解できてしまうが。
「本当ですよ。絶対、大丈夫!」
今日、神通さんの夢を見たこともあって私はそう強く言った。
「わかりましたわ……
おや?どうやら、一夏さんも来たようですわ?」
「そうですね」
私たちが今日の訓練の内容について相談し終えると一夏さんがようやく私たちと同じ高度に達してきた。
すると、セシリアさんは彼にアドバイスを建前に語り掛け始めた。
その中で「イメージ」のことについても触れられていた。
空を飛ぶイメージですか……
それを耳にして私は突き進むと言うことを私に教えた風を愛した妹艦である天津風のことを思い出すのと同時に「司令」のことも思い出した。
「司令」は元々は山口提督の下で訓練していた戦闘機乗りであった。
『いつか、お前にも空を飛ぶことの楽しさを教えてやるからな』
佐世保時代、「司令」が空を見ながらどこか焦がれるような表情をしながら口に出した「約束」だった。
「司令」……あなたが言っていたのはこの景色ですか?
約束は果たされなかったけど、「司令」のことを想ったことで私の飛行能力はかなり向上したと思えた。
そう考えると私もセシリアさんのことを言えませんね……
機動部隊の運用に定評があった「司令」への恋心と神通さんを含めた「二水戦」の仲間への誇りが今の私の「空」における在り方を形成している。
そんな気がした。
私が切なさと高揚感の中に浸っていると
「一夏!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」
セシリアさんと一夏さんに対して嫉妬を剥き出しにした篠ノ之さんがインカムを山田さんから奪って怒鳴り出した。
これはダメな例ですね……
「恋心」と言うものは良いところもあれば、悪いところもある。
私がこの世界に来て初めて学んだ事の一つだ。
私の知る限りでは佐世保の「司令」を巡って金剛さんと榛名さん、飛龍さん、瑞鳳さんたちの修羅場はあったにはあったが、あそこまで感情的になった艦娘はいなかった。
「はあ……
私はため息をついた。
私たち三人による一夏さんに対する訓練は主に三分野で分割されている。
まず、飛行などの細かい技術的な面に関してはセシリアさんに担当を任せている。
彼女の知識と飛行操縦の高さは私たち三人の中では明らかに群を抜いているからだ。
次に私が担当しているのは戦場戦法だ。
要するに自らの間合いを測る事や実戦における心構えなどを説いている。
少し、感覚的過ぎるが私が教えられるのはこれぐらいだ。
そして、篠ノ之さんには「IS」ではなく、「剣術」を担当してもらっている。
はっきり言えば、篠ノ之さんは「IS」を指導
しかし、「剣術」に関しては一夏さんになくてはならないものだ。
ゆえに彼女に「IS」の指導をさせる予定はないはずなのだが、私とセシリアさんが指導しようとすると割って入ってくることがかなり多い。
自分の意中の男性と他の女性が近づくのは面白くはないだろう。
彼女の経歴を見れば、一夏さんに依存するのも無理はない。
しかし、それならばセシリアさんに頭を下げてでも「IS」の指導を先に受けるべきではないのか。
「織斑、オルコット、陽知、急降下と完全停止をやって見せろ。
目標は地表から十センチだ」
そんな中、織斑さんが今度は急降下と完全停止の実行を指示してきた。
「了解です。では、一夏さん、雪風さん、お先に」
そう言ってセシリアさんはすぐに急降下していった。
「さすがですね……
では、私も……!」
彼女に少し遅れながらも私も降下を始めた。
更識さんの指導や「艤装」による慣れもあってやはり飛行に関しては更識さんやセシリアさんには負ける。
そんな風に上には上がいると思っていると
―ギュン―
「え?」
何かが私の横をすごい勢いで過ぎ去っていった。
そして、
―ズドォォオオォオオンッ!!―
すごい音を立てて、それは「降りる」と言うよりも「堕ち」ていった。
……今日の訓練……少し厳しめでいきますか……
下で「IS」の安全性を披露した一夏さんを目にして私はそう思った。
雪風が空を飛ぶ……それって、どこの戦闘妖精?