奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
ご注意を。
後、成長した雪風て西住みほみたいな感じになりそうな気がします。
―パン!―
―パン!―
―パーン!―
「と言うわけで!織斑くん、クラス代表決定おめでとう!」
「おめでと~!」
お祝いのクラッカーが鳴り響き、紙テープが宙を舞い、恐らく一組の全メンバーが飲み物を各自持ってわいわいと盛り上がっている中、俺は今日の放課後の訓練と雪風の「地獄のジェットコースター(空中ver)」による疲れもあって愛想を良くする余裕もなくただそう言った。
いや、確かに嫌々ながらで、しかも、雪風には負けて、セシリアには「不戦勝」と言う形でこの地位になし崩しで地位に就いたことには思う所はあった。
それでも、お祝いしてくれるクラスメイトの厚意には感謝したい。
だけど、本音を言えば今回はすぐに休みたかった。
だって、こっちは雪風との濃厚な三十分にも渡る彼女の言う『校庭に肥料をばら撒く』ことを覚悟のうえでの訓練をさせられたのだ。
幸い、不幸中の幸いか、
理由は俺がばらまきそうになると、すかさず雪風が訓練を中止してどこに用意していたのか知らないが、エチケット袋を取り出して俺に手渡していたからだ。
そして、しばらく呼吸を整えると
『さて、肥料回収の時間は終わりです。
いきますよ』
再び俺を拘束して飛行を再開した。
恐ろしいのは俺と同じことをやっているのに彼女は全く動じていないところだ。
自動車の運転手が車酔いしないのと同じ原理なのだろうか。
で、その後に箒とセシリアがやって来て、いつもと同じ訓練をした。
ちなみに雪風はと言うと、多少荒れてしまった運動場の片づけを終わらせてからアリーナに来た。
そこら辺の所は本当に律儀だ。
「いや~、これでクラス対抗戦も盛り上がるよね~」
「ほんと、ほんと」
「ラッキーだったよねー
同じクラスになれて」
「ほんと、ほんと」
そこら辺で談話している女子の集団がいたが、なぜか二組の女子がいるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいじゃない。
よく見れば、明らかにこのクラスの総数を超える人数の人間がいるぞ。
これ、クラスの集まりだよな。
「人気者だな、一夏」
「……本当にそう思うか?」
「ふん」
箒は不機嫌そうにお茶を飲む。
箒よ、確かにこの女子たちは俺目当てで来てるのは確かだ。
だが、これは明らかに珍しい動物を見に来ているような動機だ。
人気と好奇心は別物なんだ。
と言うか、こいつはなんで機嫌が悪いんだ。
「はいは~い、新聞部で~す!
話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」
―オー!―
新聞部と言う俺のことを知ることができる情報手段が現れたことで周りが歓声をあげた。
俺としては訓練で疲れているので、質問攻めは勘弁して欲しいところだが。
そして、社交辞令で、二年生の「黛 薫子」と書かれた名刺を差し出してきた。
それを受け取ると
「ではではずばり織斑君!
クラス代表になった感想をどうぞ!」
自らの好奇心と探求心を隠すところなくボイスレコーダーを突き付けて来た。
何と言う記者魂と言うべきだろうか。
その質問に関しては俺には確かにはっきりと答えることができる。
と言っても……あのことを大っぴらに話すのはな~……
最初はセシリアに対する買い言葉に売り言葉、そして、雪風に認められたいだけだった。
だけど、今は違う。
雪風との戦いとその後の彼女の問いが俺が「クラス代表」になった最大の理由だ。
そして、俺はそのことに関して、自分で言うのもどうかと思うが前よりは積極的だ。
それは今日、見た雪風の一面を目にしたことによる。
思えば、雪風と言う少女は不思議だ。
俺は彼女が抱えている何かを知りたいと思ってしまっている。
でも、これは軽々しく語るべきじゃない。
だから、俺は
「……何というか、強くなりたいと思っています」
ただ単純に自分の抱いている当たり障りのない答えを口に出した。
今の俺じゃあ……頼りないってことなんだよな……
―キャー!―
「お~!
勇ましいですね!」
俺はかなり曖昧なことを言ったつもりなのだが、周囲からは歓声を受けてしまった。
隣を見ると箒はさらに不機嫌になっている。
だけど、周囲がどれだけ何を言おうともこれだけは譲れない。
今の俺は雪風の口に出した『強くなれる』と言う条件を理由に「クラス代表」になったのだ。
そして、何よりも
今の俺じゃあ……頼りないってことなんだよな……
雪風が俺に自分のことを語ってくれなかったことに悔しさを感じた。
そりゃ、誰だって家庭の事情なんて語れることじゃない。
別に「正義の味方」なんてなろうとも思ってもいない。
それでも、あの切なさと悲しみをどこか隠している表情を見れば話して欲しいと思ってしまう。
だから、俺は強くなりたいんだ。
「なるほど~……
これは良い記事を書けるわ。
じゃあ、次はセシリアちゃん」
俺のインタビューに満足したのか、先輩は今度はセシリアに振った。
「その前に一つ、この場を借りて皆様に言わせて頂きたいことがあります」
「え?」
セシリアはインタビューを受ける前に神妙な顔つきになった。
そして、自分にクラスの注目が集まり出すと彼女は背筋を延ばしてから
「皆様、数々のご無礼……
申し訳ございません!」
何の言い訳もしていない、ただ誠意だけの謝罪を口に出してから彼女は深々と頭を下げた。
そんな彼女に対して、クラスの面々はどう反応すればいいのか理解できずにいた。
場の空気は静まり返っていた。
そんな中、
―パチパチ―
その空気を壊すかの如く、手を叩く音が響いて来た。
そして、それを境に
―パチパチパチパチパチパチパチパチ―
徐々に拍手が起こりそれは雪崩のようになっていった。
それは彼女の謝罪を受け止めるということに他ならない。
「皆さん……!
ありがとうございます……!!」
その光景を目の辺りにして、感極まったのかセシリアは今まで見たこともない朗らかな笑顔をした。
それを目にして、俺もいつの間にか拍手をしていた。
「オォ~、いいですね~!」
―カシャカシャ―
そんなベストショットを逃すまいと先輩は写真を撮り続けた。
「じゃあ、セシリアちゃん。
改めて質問なんだけど、どうして織斑君との試合を放棄したの?」
え?それ訊くの?
絵的には満足したらしいが、先輩はその光景を撮った後に間を置かずに再びインタビューを再開した。
しかし、それはかなり訊きにくいことだと思うのだが。
それに対して、セシリアは
「それについては……自分の未熟さを感じたからですわ」
と俺に対しても言ったことを言った。
「雪風さんとの試合で私は自分がまだまだと理解し、そして、雪風さんと一夏さんの試合を見て自分で自分の世界をいつの間にか狭めていたことに気づきました」
「あ~、確かに陽知ちゃんの強さには驚いたわよね」
先輩の言葉にほとんどの生徒たちがうんうんと頷いた。
それについては同感だ。
なにせ、雪風は千冬姉が『新入生最強』と公言しているほどだ。
「普段、あんなに可愛いのにあれには驚いたよね……」
「あの打撃はね~……」
「えげつないと言うか、何と言うか……」
「容赦ないよね……」
「でも、なんかかっこよかったよね」
「しかも、千冬様相手に怯まない所とか」
セシリアが雪風のことを口に出した途端にあの試合を目にした面々は揃って雪風のことを話題にした。
「その雪風さん相手に果敢に戦った一夏さんの姿を見て私は彼を推薦しました」
セシリアは高らかに自らの放棄の理由を明かした。
「なるほど~。
つまりは自分が戦っても勝てなかった相手に挑んだ織斑君に見惚れたのね?
いいネタを手に入れたわ♪」
「なっ!?
そ、それは……その、大体は合っていますけど……
言い方が……」
先輩の少し事実を捻じ曲げた言い方にセシリアは顔を真っ赤にして、しどろもどろに抗議した。
これはいくら何でも思春期の女子相手にとってはデリカシーが欠けていないだろうか。
よく中学の時に好きでもない異性のことを、好みのタイプを質問して例えば、『どんな子が好きか?』と訊ねて、その具体例を使ってその異性のことが『好きだ』と言いふらされるようなものじゃないのか、これは。
よし、ここはセシリアのために一肌脱ごう。
「いや、それはないんじゃないか?」
「え?そうかしら?」
俺のその一言に先輩は首を傾げた。
「多分、セシリアはスポーツマンシップで俺のことを買っているだけじゃないのか?
なんでも、イギリスて紳士淑女の国らしいし」
俺は雪風がセシリアを糾弾した時に口に出したイギリスのお国柄を使って、セシリアの顔を立てるようにしてフォローした。
「あ~、なるほど。
確かにそう考えるとそれはあり得るわね」
先輩も納得してくれたようだ。
これで新聞の記事でセシリアが気にするようなことは書かれないだろう。
「……ズルいですわ」
だが、肝心のセシリアは不満そうだった。
何故だ。
「ところで、もう一人の注目の新入生の陽知ちゃんはどこかしら?」
先輩は次の獲物、いや、取材相手である雪風を求めて辺りを窺った。
そう言えば、雪風の姿が見当たらない。
雪風は普段は訓練の時以外は俺たち以外の友人と一緒にいるが、今、そのグループにもいない。
どうしたんだろうか。
「あ、そのことなんだけど、ゆっきーは夜のトレーニングで留守にしてるよ~」
そんな雪風の行方について、妙にのほほんとした女子、通称のほほんさん(仮)が答えた。
この娘は雪風がいつもいるグループの中心人物で、雪風と一緒にいる娘だったはずだ。
雪風と一緒にいるとどこか雪風の妹に見えてくるほど雪風に懐いていると言ってもいいぐらい仲が良い。
そののほほんさんが言うには、雪風は自主トレをしているらしい。
雪風は確か俺と同じ量のトレーニングをしていたはずだが。
どれだけ、ストイックなんだ。
「へえ~、それは残念。
『最強のダークホース!強さの秘訣は日々の努力にあるのか?』……うん、良い記事になりそう」
先輩は多少残念そうに言っているが、妙に見出し文に力が入っている気がする。
と言うか、『最強のダークホース』の部分は明らかに事前に決めていたんじゃないのか。
あと、俺個人としては雪風の強さの秘訣は合っていると思うが、それだけでは表現不足だと思う。
雪風のことだから、シャレにならない自主トレをしているんだろう。
「これで十周目……」
運動場の周回を終えて私は今日のノルマを終えた。
「物足りないですね」
時間が時間とは言え、これだけしか走れなかったことに私は不満を覚えた。
今の私は一夏さんの指導にも時間を割いていることもあって、訓練をする時間が足りない。
だから、たったこれしか自分を追い込めない。
もっと強くならないと……!
あの試合の後に私には「我欲」が生まれた。
それはこの世界において、「強さ」を示すことだ。
セシリアさんとの試合、そして、一夏さんとの試合の中で私は「輝き」を見ることができた。
あれは「女尊男卑」による「幻想」を霞めるものであった。
僅かであるが一夏さんの見せた姿は「女尊男卑」から来る優生論を打ち破ったはずだ。
あの時、あの場で最も力を持っていたのは紛れもなくこの私だ。
そして、その圧倒的な力相手に挑んだ一夏さんのことを誰もが勇者だと認めたはずだ。
確かに「IS」を使えると言う点では一夏さんは特別なのだろう。
しかし、「IS」があろうとなかろうと中身は所詮は人間だ。
どれだけ「IS」と言う鎧を身に纏っていようが心までも鎧を纏えるわけではない。
セシリアさんと一夏さんが見せたのは紛れもなく強弱など関係のない人間としての「尊厳」であった。
それを見せられれば、いずれは人々も「IS」等関係なしに本当の強さを知ることができるはずだ。
ならば、私がすべきことはただ一つ。
これじゃあ、「最強」にはなれませんね……
強い相手に勝ち続けて、その果てに絶対的な強者となって一夏さんに全身全霊の戦いを挑む。
これがこの世界に私ができることだ。
だが、同時に一夏さんを鍛えなくてはならない。
何よりも彼個人のためにも、彼自身が通るであろう道筋のためにも彼は強くならないといけない。
ゆえに私には時間が足りない。
だけど、同時に私はそれとは別に悩みがある。
……でも、これは彼を利用していることに他ならないんですよね
人が人を利用する。
私は自分のしようとしていることに醜さを感じた。
かつて「総旗艦」を務めていた時に感じた己に対する罪悪感が蘇った。
どれだけ、長い間経験しようがこれだけは慣れない。
『何が「英雄」だ……!!俺はそんなもののためにあいつらを死地に送っているんじゃない!!
「名誉」なんて、「勲章」なんてクソくらえだ!!
ちくしょう……!!』
かつて、愛した人が抱えた葛藤を私は思い出した。
だけど、今の私とかつての私と彼とでは全く違うのはかつての私と彼は
それは全く意味が異なるのだ。
「最低ですね……私は……」
本当は一夏さんには平穏に生きて欲しいともどこかで思っている。
なぜ、一夏さんだけがこのようなことをしなくてはならないのか納得できない。
彼自身はどこかで何かを守りたいとも思っている。
だけど、彼に背負わせ過ぎるのは間違っている。
彼は英雄譚の英雄でもないし、ただの少年だ。
世界が間違っているのならば、それでもいいはずだ。
それなのに私は「この世界」の人間でもないのに「この世界」を変えたいとどこかで思い始めている。
それは傲慢ではないのか。
「私は――」
自分に何かを言いつけるように口を開こうとした瞬間
「あ~!!
アンタ、さっきの!!」
「――え?」
妙に元気な声が私の思考を奪った。
セシリアに最初に拍手を送ったのは雪風に自分の想いを打ち明けた少女です。
今回の雪風はなんだかんだで葛藤を抱えています。
「IS」の世界観は確かに歪んでいます。
しかし、それは我々が見るから歪んでいるのであってそこに住む大多数の人にとっては当たり前なのかもしれません。
それを「歪んでいるから変える」と言うのはなんだか相手を見下している気もします。
雪風が「人を利用していることに~」については雪風は総旗艦と言う地位にいることで否応にも多くの旗下の部下や教え子を死地に送らないといけない立場でもあったからです。