奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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まさか……イベント最終海域が……あそことは……


第10話「苦悩と苦労」

 最悪です……

 

 件の彼女の早過ぎる顔見せに私は心に一度も経験したことがないが、中破級の損傷を受けた気がする。

 なぜよりによって、セシリアさんと篠ノ之さんと言う可燃物がいるこの状況で来てしまったのだろうか。

 余りにも最悪だ。

 

「鈴……?お前、鈴か?」

 

「そうよ。

 中国代表候補生、鳳 鈴音。

 今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 そんな私の心労とは裏腹に一夏さんたちは会話しだした。

 どうやら、件の彼女、鳳さんは「中国の代表候補生」が二組のクラス代表になったこと、そして、その「中国の代表候補生」であることを明かしつつ、勝負を挑みたかったらしい。

 

 どうりで見慣れた顔のはずです……

 

 彼女の名前と所属国家を知り、私が彼女に対して抱いた第一印象の理由に納得がいった。

 伊達に私は世界と歴史、国家が違うとはいえ「中華民国」の総旗艦をしてきたわけではない。

 

 この状況じゃなければ、恋人同士の逢瀬として喜ばしいんですけどね……

 

 私とて「艦娘」だ。

 そう言ったことに関してはなるべくならば、見守りたいし、祝福したい。

 と私が感慨深く思っていると

 

「何、格好つけてるんだ?

 すげえ、似合わないぞ?」

 

 ……え?

 

「なあっ!?なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 久しぶりの恋人との再会ですよ!?

 

 一夏さんは全く普段と変わらなかった。

 あまりのことに私は一瞬、身を乗り出そうになったが

 

 い、いや……

 この世界における恋人て意外にこんな感じなんでしょうか?

 

 今、私がここで動いたらそれこそさらに収拾がつかないと考えてこらえた。

 意外にああ言った感じの夫婦もいるのかもしれない。

 例えば、瑞鶴さんとか、陽炎姉さんとかも結婚してたら実際はあんな感じだったのではないだろうか。

 普段、さばさばしている人はああ言った付き合いになるのかもしれない。

 

 あ、よく考えてみたら三人とも髪型が同じですね……

 ああいう髪型の人はああいう性格の人が多いんでしょうか?

 

 意外な共通点に私はそんな感想を抱いた。

 そして、周囲を見まわしてみると、クラスの生徒は突然の来訪者に「中国の代表候補生」や「一夏さんと親しい人間」に対しての好奇心に満ちた目を向けていた。

 肝心のセシリアさんと篠ノ之さんはと言えば、かなり衝撃を受けていた。

 

 どうしましょう……

 

 友人のセシリアさんはともかくとして、妙に敵愾心を抱かれている篠ノ之さんにどうすれば波風を立てずに済むか、私は悩んでしまった。

 クラスがざわついていると

 

「おい」

 

 ……あ

 

 この事態を収めることのできる存在が現れた。

 

「なによ!?」

 

 そんな存在に対して、命知らずにも彼女は食って掛かろうとするが

 

「……ほう、教師相手に随分な口を叩くな?」

 

「げっ!?」

 

 すぐに自分の背後にいたのが「世界最強(織斑さん)」と言うことを理解し、陽炎姉さんや霞ちゃんが機嫌の悪い時にうっかりと神通さんに失礼な態度を取ってしまった時と同じような反応を見せた。

 その気持ちは何となく理解できてしまう。

 

「SHRの時間だ。

 教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

「織斑先生と呼べ。

 さっさと戻れ、そして、入り口を塞ぐな。

 邪魔だ」

 

「す、すみません……」

 

 織斑さんに対して、鳳さんは昨夜とさっきまで見せていた勝気な態度はどこに行ったのか、打って変わってかなり大人しく従った。

 彼女たちとの間に存在する力関係を垣間見た気がする。

 

「また、あとで来るからね!

 逃げないでよ、一夏!」

 

 織斑さんが相手ではかなり分が悪いと判断したのか、この場は素直に帰ろうとするも、やはり、一夏さん相手には何か言いたかったらしく、鳳さんは啖呵を切ろうとするが

 

「さっさと戻れ」

 

「は、はい」

 

 容赦のない織斑さんの教師としての言葉を受けて早々と自分の教室へと帰っていった。

 やはり、今のやり取りは「二水戦」を思い出す。

 ただ、個人的に織斑さんよりも神通さんの方が怖ろしいが。

 

「て言うか、あいつIS操縦者だったのか。

 初めて知った」

 

 恋人との再会に抱く感情はそれですか……

 

 一夏さんのあまりの態度に私は多少、鳳さんに同情してしまった。

 何となくだが、彼女が不機嫌になる気持ちも理解できなくはない。

 彼はもう少し、女心を弁えるべきじゃないだろうか。

 

「……一夏、今のは誰だ?

 知り合いか?えらく親しそうだったな?」

 

「い、一夏さん!?あの子とはどういう関係で―――」

 

 篠ノ之さんとセシリアさんの質問を皮切りにクラスの生徒たちも一夏さんに鳳さんとの関係の説明を求め出した。

 ただ、前者二人と後者多数の動機は全く違うが。

 

「席に着け、馬鹿ども!」

 

 しかし、その質問の機会はなくなった。

 

 いつ話せば……

 

 どう説明しても大荒れになりそうだ。

 その後、セシリアさんと篠ノ之さんが授業中に腑抜けた態度を取ったことで織斑さんが久しぶりに「げん骨」を二人にお見舞いしてしまい、私の苦悩はさらに増した。

 

 

 

「はあはあ……おえぇ……」

 

―ポチャ―

 

 私、更識刀奈は「IS」を纏っていると言うのに海の上で死にそうだ。

 なぜならば、私の目の前には

 

「お魚への「餌やり」は終わりましたか?

 さて、呼吸が整い終わったら訓練を再開しますよ?」

 

 「もう一人の世界最強」と言う情けもへったくれもない鬼教官がいらっしゃるからだ。

 

「もう……限界……」

 

 私が思わずそう言うと

 

「「限界」と言うのは本人が勝手に作るものですよ?

 さて、本当の(・・・)限界を見つけましょうか?」

 

「………………」

 

 精神論なんて生易しいものじゃない、鬼の一言が返ってきた。

 強化合宿開始から一日と、いや、半日と二時間、既に私は死にそうだ。

 と言うよりもお嫁にいけない。

 前にも一週間彼女の訓練を受けたが、やはり慣れない。

 だが、お嫁にいけないのは私だけじゃない。

 

―はあはあ……―

 

―ポチャ―

 

―オェええええ―

 

 周囲の日本の「IS部隊」の面々も私と同じ、いや、それ以上に凄惨な光景を繰り広げていた。

 まさに死屍累々。

 今、私がいるのは約一年ぶりに帰還した「もう一人の世界最強」による日本の各地、各部隊の「強化合宿」及び「合同訓練」における最初の一週間の「IS部隊」の訓練のためだ。

 彼女はこの一か月の間、それぞれの週を日本の「IS部隊」と「陸海空自衛隊」と訓練をすることになっている。

 ちなみに彼女の影響で自衛隊の「対IS戦闘能力」は他国と比較にならないレベルで高い。

 そんな彼女の訓練を受けているのだが、訓練を受けている私たちは死にそうだと言うのに

 

「ほら、皆さん頑張りなさい。

 私はあなた方よりも年齢の下の子たち(・・)がこれ以上の訓練を何年もしてきた現場を見てきましたよ?」

 

 同じ内容の訓練をこなしているのに物凄い涼しい顔でそう言った。

 私は思わず

 

「雪風ちゃんみたいな子がいるなんて……」

 

 あの無自覚な努力する天才である友人の名前を出してしまった。

 その時だった。

 

「……そうですか、彼女(・・)は」

 

「へっ!?」

 

 意外にも彼女はその話題に食いついて来た。

 辺りを見回すと、ほとんどの人たちが「なるべく話を延ばせ」と言いたげな目で見て来た。

 

 ええい……!!ままよ……!!

 

 私はその圧力に後押しされながら意を決した。

 

 

「あ、はい……何と言うか、私との訓練を終えると自主的に夜のトレーニングとかもしています……」

 

 雪風ちゃんはいつも自分を追い込もうとしている。

 ただ、その度に

 

『ダメです……これじゃあ……』

 

 と言っているが。

 雪風ちゃんの怖ろしいところは天性の才能に加えて、どうやら一国の旗艦と言う立場もあって指揮能力も高く、実戦における経験の豊富さやさらには自ら訓練しようとする所にある。

 全く、隙が見えない。

 ただ、個人的に「普通に生きて欲しい」とは思うのだけれど。

 

「そうですか……それは楽しみ(・・・)です」

 

 ごめん……雪風ちゃん……

 

 織斑先生を余裕で超える範疇の鬼教官は雪風ちゃんに目をつけてしまったようだ。

 

「更識さん」

 

「は、はいぃ……!?」

 

 そんな風に私が雪風ちゃんに心の中で詫びていると彼女は再び声をかけて来た。

 私は思わず、何を言われるのか分からずびくついてしまった。

 

「これは個人的な質問なのですが……

 その少女は自分の教官(・・・・・)について何か言ってましたか?」

 

「……え?」

 

 しかし、彼女が投げかけて来たのはあまりにも予想外な質問だった。

 私にはどうして、彼女がそんな質問をしてきたのか理解できなかった。

 確か、雪風ちゃんの師匠は「神通さん」と言う人らしいのだが、私の今、目の前にいる「もう一人の世界最強」と同じかそれ以上にスパルタな人だったらしい。

 あの雪風ちゃんが吐くのだから、相当だろう。

 私は思わず、そのことを口に出そうとしたが

 

『い、いえ……!私なんて、神通さんに言わせればまだまだですよ!』

 

『私の……その、教官で目標です』

 

『はい!何せ、「華の二水戦」の旗艦を長く務めあげた方ですので強いのは当たり前です!』

 

『どんな人でも神通さんの指導を受ければ精鋭になれます!』

 

『少なくとも……神通さんは私たちには厳しいけれど、それには優しさもありましたし

 厳しさの理由には少しでも私たちにも生き残って欲しいという思いから来るものでした。

 恐らくですけど、川神さんも同じだと思います』

 

『はい!私の……いいえ、私たち、「二水戦」の自慢の先生です!』

 

 雪風ちゃんの自分の教官を語る際の目を輝かせていた姿を思い浮かべて私はそれを止めようと思った。

 だから、私は単純に

 

「『私たちの自慢の先生』で『自分の目標』って言ってました……」

 

 そう言った。

 

「……そうですか」

 

 それを聞いた彼女は今まで見せたことのない表情をし出した。

 こんなのは初めてだ。

 

「……川神先輩?」

 

 私は先輩が初めて見せる姿に声をかけるが

 

「では、皆さん休憩はもういいですね?」

 

「え!?」

 

 それをはぐらかすかのように彼女は一瞬で鬼教官の顔になった。

 

「皆さん、「IS」は最も訓練の影響が現れます……

 ですので、時間は一秒たりとも無駄にはできませんよ。

 それでは訓練を再開しましょう」

 

 無慈悲にも訓練は再開された。

 

 ……簪ちゃんともう一度、話したかったな……

 

 私は死を覚悟した。




個人的にはエンタープライズだけは深海棲艦にはならないと思います。

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