奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
ENTERキーミス怖いです
「鈴、いつ日本に帰って来たんだ?
おばさん、元気か?
いつ代表候補になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。
アンタこそ、何「IS」使ってんのよ。
ニュースで見た時びっくりしたじゃない」
昼食の席を共にすることになってから久しぶりの恋人同士の再会とあってか、一夏さんと凰さんは会話に花を咲かせている。
そして、それをセシリアさんと篠ノ之さんはかなり嫉妬を込めた目で眺めている。
普通ならば、恋人同士の再会として微笑ましいはずが、かなり息苦しくて仕方がない。
「ゆっきー、大丈夫?」
私の心労を知ってか本音さんは心配してくれている。
「大丈夫です……
私はそれに対していつもの様に『絶対』を付けられなかった。
本心では付けたい所だが、今回は付けられる自信がない。
先程から恋人二人は会話が弾み、周囲のクラスメイトも好奇心から二人の会話に耳を傾けていて楽しそうではあるが、私と本音さんは事情を知っていることから一言々々に戦々恐々だ。
「そう言えば、雪風と鈴って知り合いなのか?」
「……!?」
一夏さんのそのさり気ない一言に私はギクりと動揺しそうになってしまった。
よりによって、私を巻き込むとは。
「あ~、それね……
ちょっと、昨日の夜、偶然出くわしたのよ」
一夏さんの指摘に凰さんは包み隠すことなく昨夜のことを明かした。
周囲を見てみると注目が集まっていた。
セシリアさんの視線が痛い。
「そうなのか?」
「あ、はい」
私はそれが事実であることを肯定した。
下手に隠しても後が怖いので。
「でも、意外だわ。
色々とおっかない「噂」を聞いてたから、結構いい子じゃない」
「ん?「噂」……?
そんなもんがあるのか?」
……私は周りにどう思われているのでしょうか?
転校生にさえ知られているほどに私の知名度は高いらしい。
しかも、『おっかない』とまで言われているらしい。
「小動物」扱いは慣れているし、「猛獣」は駆逐艦としては褒め言葉だけれど、「ラーテル」とはなんなのだろうか。
いずれにせよ、任務に支障を来たさなければいいが。
更識さんは「お披露目」と言っていたが、やり過ぎた気もしなくもない。
「まあ、よろしくね?」
「ええ、こちらこそ」
凰さんに改めて、声をかけられたこともあって私はそれをなるべく笑顔で受け止めた。
よく考えてみれば、初対面が酷いながらも目立った争い事をせずに友好関係を築けたのは初めてかもしれない。
そして、またしてもセシリアさんの視線が痛い。
「一夏、そろそろどういう関係か説明して欲しいのだが」
「そうですわ!一夏さん、まさかこちらの方と付き合ってらっしゃるの!?」
爆薬の方から自然発火ですか!?
先ほどまで置いてきぼりにされたこともあってか、かなり気が急いている二人がよりによって、最も私が訊いて欲しくない一言を効いて来た。
それに対して、私と本音さん以外のこの場の人々が『待ってました』と言わんばかりの少女の顔になっていた。
あの頃の私ならば純粋に彼女らと一緒に楽しんでいるだろう。
この時ばかりは若さが羨ましかった。
よく考えてみれば、この歳で学生服を着ている時点で……私は……
実年齢と見た目年齢のことで私は私は急に恥ずかしくなってきた。
「べ、別に、あたしは付き合っている訳じゃ……」
照れ隠しなのか凰さんはそう言った。
個人的にここで彼女が事実を言ったら確実に話が拗れるどころか、事が起きていたと思うので思わず安堵した。
何よりもセシリアさんが悲しむ顔を見ないですんだのは嬉しい限りだ。
「そうだぞ。
なんで、そんな話になるんだ?
ただの幼馴染だよ」
あ、あれ……?
私は一夏さんのその一言に驚いた。
失礼ではあるが私の知る限り、一夏さんはこんな機転が利くような人間じゃなかったはずだ。
しかし、
「………………」
「何、睨んでるんだ?」
「何でもないわよっ!」
恋人として何かしらの言葉を言って欲しかったのか、凰さんは機嫌が悪くなってしまった。
気持ちは解らなくはないが。
気の毒ではあるが私としては最初の修羅場を回避できたことにただただ安堵を覚えるだけだ。
「幼馴染……?」
一夏さんの説明に篠ノ之さんの顔が若干険しくなった。
無理もない。
彼女もまた、一夏さんの幼馴染なのだ。
面白くないはずだ。
「あ~、鈴は箒が引っ越してから転校して来たんだよ」
一夏さんは凰さんとの当たり障りのない関係を口に出した。
先程から、「幼馴染」として説明するのは彼も大っぴらに「恋人」と言うのが恥ずかしいからなのだろうか。
「で、鈴。こっちが箒だ。
前に話したもう一人の幼馴染」
「ふうん……そうなんだ……」
そのまま流れるように一夏さんは篠ノ之さんのことを凰さんに紹介した。
篠ノ之さんのことを見る凰さんの顔はどこか優越感に満ちていた。
お願いだから、事を荒立てないで欲しいのだが。
「初めまして、こちらこそよろしくね」
「ああ、こちらこそ」
二人とも挨拶を交わすが、私の時と違って全く友好的に見えない。
この程度ならまだいい。
と思えるようになってきた私は疲れて来たのだろうか。
そんな時だった。
「ンンン!
わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。
中国代表候補生、凰 鈴音さん?」
完全に出遅れていたセシリアさんが今までの遅れを取り戻そうと少し、偉そうに会話に入ってきた。
ただ、友人としては応援したいところだが、「幼馴染」と言う共通点があるこの二人には些か分が悪いし、何よりも「恋」に関しても凰さんにも負けている。
不憫すぎる。
あと、彼女が多少上から目線なのは自尊心も高いので余程無視されていたことが腹が立ったのだろう。
しかし、
「……誰?」
「なっ!?」
そんな彼女のプライドを粉々にするかの如く、凰さんは彼女の存在に無関心のようだった。
これは応えただろう。
「わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!?
まさか、ご存知ないの?」
プライドを傷つけられたセシリアさんが私や一夏さんの時の様に訴えるも
「うん、あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ!?」
うわぁ……
私や一夏さんの時よりもかなり酷い追い討ちを受けるだけだった。
「い、い、言っておきますけど、わたくしあなたのような方には負けませんわ!」
プライドを逆撫でされたことで顔が真っ赤になったセシリアさんがまたケンカ腰になってしまった。
以前とは異なり相手を見下さなくなった分いいが、感情的になりやすいのは彼女の戦術的に不安だ。
彼女は突撃型の戦いにでも戦術を変えた方がいいのでは。
「あ、そっ……
それで?私は誰であろうと負けるつもりはないわよ」
「……?」
私は凰さんの自信、いや、そんなものでは表せないその言葉に込めた何かを感じて反応してしまった。
「なんですって……?」
「………………」
しれっとそう言える彼女の姿にセシリアさんと篠ノ之さん、いや、この場にいる全員が圧倒されている。
そして、
「私は誰が相手であろうと
「……!」
彼女はそう言い切った。
その啖呵に私は興味を持ってしまった。
その後、彼女は何喰わない顔で中華そばをすすっている。
「あ、そうだ!
一夏、アンタ、クラス代表なんだって?」
彼女は唐突に言ってきた。
「お、おう。
成り行きでな」
「ふ~ん」
一夏さんは一応、自主的にやることになったと言えるまでの過程が過程なので少し弱めに言った。
確かに一夏さんの「クラス代表」になるまでの過程はまさに事実は小説よりも奇なりと形容できるものなので彼の態度にも納得がいく。
それを凰さんは中華そばの汁をがぶ飲みしながら聞いていた。
そして飲み終わると
「あ、あのさ……
「IS」の操縦、見てあげてもいいけど?」
「……はい?」
とんでもないことを言ってきた。
彼女としては一夏さんと少しでも一緒にいたいのだろうが、流石にこれに関しては私も許容できない。
ただでさえ、面倒臭いことになっているのにこれ以上ややこしくなるのは本当に困る。
私はすぐにでも異議を唱えようとしたが
「い、いや……悪い……それなら、もう間に合っているんだ……」
私が言うよりも先に一夏さんが断った。
一夏さんは何となくだが、頼まれたら断れなさそうにないお人好しのイメージがあったので本当に意外だった。
「ど、どうしてよ?
それに……『間に合っている』て?」
そんな彼の断りに凰さんは衝撃を受けたようだった。
「いや、もう箒やセシリアと雪風がやってくれてるんだよ……
気持ちは嬉しいだけど……」
本当に申し訳なさそうに一夏さんは言った。
多少、鈍い一面を除けば本当に好青年だ。
彼の言葉を得てかセシリアさんと篠ノ之さんが妙に嬉しそうだ。
「へえ~……
「……え?」
なぜか凰さんはセシリアさんと篠ノ之さんの名前ではなく私の名前を口に出してきた。
「ちょうどよかったわ」
そのまま彼女は私の方に顔を向けてきて
「ねえ、雪風」
強い意思と好奇心、そして、闘争心に満ちた目をしながら
「私と勝負してくれないかしら?」
私に挑戦状を叩きつけて来た。
サラトガの登場でつい、「ハルゼーさん、こっちです」タグが出来そうな気もしなくはありません。
アイオワはスプルーアンス提督ですけれど(笑)