奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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独り身でもいいじゃないですか?


第14話「焦り」

 説教をするとは……

 我ながら悪い癖です……

 

 訓練が終わった後、セシリアさんと篠ノ之さん相手に説教をかましてしまった事に私は恥ずかしさを感じた。

 中華民国時代に私はある程度、有志連合によってある程度の戦力の地盤が固まると次の世代を育てるために若い艦娘たちの指導に入ることになった。

 ただ彼女らもやはり、若いと言うこともあって若い娘同士でぶつかり合うことが多かった。

 そんな彼女たちに対して、私はよく説教をしてしまう時があった。

 今回の件は長年に渡る癖が爆発してしまったのだ。

 本当に悪い癖だ。

 そして、肝心の訓練の様子はと言えば

 

「では、今日はこの辺りで終わることにしましょう」

 

「ぜえぜえ……」

 

 一夏さん一人だけ(・・)が息切れを起こしていた。

 しかし、それは当然だろう。

 素の体力も一夏さんは訓練をある程度積んでいるセシリアさんと剣道などで鍛えている篠ノ之さんと比較しては劣っているはずだ。

 それに技術面も無駄な動きの少ない二人と比べて一夏さん圧倒的に無駄が多くて効率が悪い。

 それに加えて

 

「ふん。

 鍛えていないからそうなるのだ」

 

 いえ……今回ばかりは多少大目に見てもいいのでは?

 

 今回の一夏さんは実質三対一で訓練を受けている。

 しかも、私たちは交代制で。

 一夏さんの試合で見せた気概となんだかんだで訓練を確り受けている姿勢に彼は辛いからと言って投げ出さないのは理解できる。

 ただこれでは効率が悪すぎる。

 一日交代制にすべきではないだろうか。

 また理性以外にも私を焦らせていることがある。

 それは

 

 訓練をした気になりません……

 

 私自身が訓練をしている実感が湧かないのだ。

 当然ながら訓練においては普通は(・・・)指導する人間と言うのはそこまで疲れないものだ。

 そう、普通(・・)ならば。

 

 これでは自分を甘やかしているに等しいじゃないですか……

 

 ただ私は元が付くとは言え「華の二水戦」だ。

 「二水戦」においては指導する側も指導される側と同じ質と量の訓練をこなす。

 少なくとも、私の師はそうだった。

 

 せめて不知火姉さんがいたら……

 

 陽炎姉さんの戦死後、私たち姉妹をまとめていたのは次女であった不知火姉さんだった。

 あの妙に厳しくて取っつきにくい姉は長姉亡き後の私たちに厳しかった。

 その厳しさは神通さんよりも厳しかったかもしれない。

 理由としては神通さんには多少、訓練以外では甘えることはできたが、不知火姉さんは公私共に厳しかったからだ。

 特に時津風を除いた私たち十六駆の面々に対しては特に厳しかった。

 理由は不知火姉さん以外を除いた姉妹の中で年長だったのが既に二水戦では末っ子組だった私たち十六駆で、残っていた元二水戦も私たちだけだったからだ。

 不知火姉さんの厳しさには当初、姉妹内では反発が強く下手をすれば姉妹間で瓦解しそうにもなった。

 当時の帝国海軍はハワイの米軍の態勢が整うまで持久戦を強いられており、激しい消耗戦の中で人間、艦娘問わずに多くの戦死者を出していた。

 さらにはいつまでも来ない友軍に誰もが希望を捨てそうになっていた。

 陽炎型でも既に半数近くが戦死しており、姉妹の間でも気を遣うことが多かった。

 私も当時はソロモンで比叡さんを守れず、ダンピールでは目の前で半身とも言えた時津風を失い、コロンバンガラでは神通さんを失ったこともあって彼女の厳しさが苦手だった。

 時には私がいつまでも泣いていると冷徹とも言えるほどにきつく当たってきてお姉ちゃんと天津風が抗議していたほどだった。

 あの頃は姉妹の誰もが不知火姉さんを『感情もない人』と嫌っていたほどだった。

 だけど、ある時だった、私たちはその認識を改めることになった。

 それはトラック泊地で舞風を失いそのあまりの最期を報告されてその悲しみと怒りと苦しみからしばらく何も立ち直れずにいた時のことだった。

 

『舞風……辛く当たってごめんなさい……

 こんなことになるのだったら……もう少し、いい姉でいるべきでした……

 陽炎……不甲斐ない私を叱ってください……お願いですから……』

 

 決して彼女が見せることのなかった彼女の弱音を耳にして、私たちは彼女の背負っていたものを理解してしまった。

 その日から私たちは彼女を恨むことができなくなってしまった。

 長女でネームシップで、相棒でもあった陽炎姉さんに置いて逝かれ、ネームシップを継ぐことになったが自分を補佐してくれるはずだった黒潮お姉ちゃん以下の妹たちも既におらず、彼女は彼女なりに「陽炎型」の名前を守ろうと必死だったのだ。

 それを知ってからは生き残っていた私、天津風、浦風、磯風、浜風、谷風、野分、秋雲は覚悟を決めた。

 散っていた姉妹たちの分を生き残り、最後まで戦い、そして、陽炎型の名前を残すことを。

 唯一、私が生き残ったことに胸を張れるとしたら「陽炎型」の名を守れたことだ。

 だからこそ、私は妥協などしたくない。

 

「雪風さん、どうしましたの?」

 

 そんな風に私が焦燥感に駆られてピットに向かっているとセシリアさんが声をかけて来た。

 どうやら、一夏さんと篠ノ之さんは反対側のピットに向かっているようだ。

 幸い、セシリアさんはそのことに気が付いていないようだ。

 

「いえ、その……

 これはただの私自身の問題なんですけど……」

 

 そう、私が考えているのは私事だ。

 どれだけ燃焼不足であってもそれは一夏さんとは無関係だ。

 

「今のままの訓練で果たして良いのか?

 とたまに思ってしまうんですよ」

 

「……?

 それはどういう意味ですか?」

 

 私は自分が抱えている悩みを打ち明けた。

 セシリアさんは私の言っている意味が解らないようだ。

 だから、私は

 

「今の私は自分を甘やかしている気がするんです」

 

 自分の感じている空虚感を言葉に出した。

 

「そんなことは……

 雪風さんの実力は誰の目から見ても―――」

 

 私の悩みを耳にしてセシリアさんは私を慰めようとした。

 確かに私は現状において、この学年では強い部類に入るだろう。

 だけど、今のままじゃいけないと私は思っている。

 なぜならば

 

「私は一夏さんの訓練ばかりで自分を追い詰めていません……」

 

 最近の私は一夏さんを鍛えてばかりで自分で満足できるほどに鍛錬が出来ていない。

 

「確かに一夏さんは強くなっていくはずです……」

 

 一夏さんは強くなっていく。

 それは今日の訓練を見ても解る。

 彼は自分がかなりきつい訓練を受けながらも泣き言を言わずに確りと受けている。

 何よりも彼は私の出した問いに確りと答えてしまった(・・・・・・・)

 だからこそ、彼は強くなっていく。

 何時か自分で自分を守り、そして、大切な人を守れるほどになるだろう。

 でも、

 

「だけど、それだけじゃいけないんです」

 

「え?」

 

 だからと言って、それを理由に自分のことを疎かにはしたくない。

 もちろん、私は一夏さんには強くなって欲しいとも思っている。

 だが、だからこそ私自身も強くならなければならない。

 それは「陽炎型」の誇りのためでもあるが、同時に一夏さんに指導する人間としての意思だ。

 今のまま行けば彼は私よりも強くなるだろう。

 誰であろうと自分よりも劣る人間には指導を乞いたくはないだろう。

 だからこそ、私もまた強くなる必要がある。

 しかし、今日の出来事を見ると一夏さんの訓練は篠ノ之さんとセシリアさんだけに任せるのは危なかっしい。

 

 神通さんはやっぱり、すごいですね……

 

 私たちのことを鍛えながらも己も鍛え続けていた私の師の偉大さを改めて私は実感した。




唐突ですがゆきしもてよくないですか?

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