奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今年になっての初投稿。
今年もよろしくお願いします。

そして、気づいたのですが……いつの間にか、この作品を投稿して一年目になりました!
ここまで続けてこれたのも読者の皆様のおかげです!!
ありがとうございます。
重ね重ねになってしまいますがこれからもよろしくお願いします。


第16話「挑発」

「凰さん、待ってください!」

 

 一夏さんの部屋を出て行った彼女を追いながら私は彼女を引き止めようとした。

 

「来ないでよ!放っておいて!」

 

 自身を追いかける私に彼女は追い払うように叫んできた。

 傷心の彼女からすれば放っておいて欲しいだろう。

 

「ですけど……!」

 

 だけど、理解はできても私には彼女は放っておくことが出来なかった。

 それがお節介であり、独善であり、自己満足であり、余計に彼女を苦しめることにも繋がるかもしれないということを理解しながらも。

 そんな感情を抱いていると

 

「私を笑いたいの……?」

 

「……え?」

 

 彼女は立ち止まりそう言ってきた。

 そのまま彼女は振り返り

 

「勝手に自分が一夏の恋人だと思っていた私を笑いたいの!?」

 

 先ほどから流していた涙の跡に再び涙をなぞらせながら私を睨みながら自分の感情をぶつてきた。

 

「そんなことは……」

 

 私はそれを否定した。

 そもそもそんなことをするために追いかける程、私は暇でもないし、そんな趣味は持ち合わせていない。

 

「嘘よ!!

 じゃあ、どうして私を追いかけてくるのよ!?」

 

 傷ついた彼女はそれでも私を追い払うとする。

 当然だろう。

 彼女はある意味では一夏さんに裏切られたようなものなのだから。

 もちろん、一夏さんは自分では裏切っていないつもりだろうし、そんなことも考えてもいないし望んでもいないだろう。

 しかし、結果的にあれは「裏切り」だ。

 そして、裏切りによって彼女は傷ついた。

 今の彼女は傷だらけの獣だ。

 かつての私(・・・・・)と同じように。

 

『私は……消耗品ですから……』

 

『離してください……!!初霜ちゃん、アイツ(・・・)だけはぁ……!!』

 

 コロンバンガラ前で神通さんに言ってしまった言葉、「あの作戦」の撤退時に初霜ちゃんに制止されるまで磯風たちの仇を討とうとしていた時の光景を思い出した。

 あの二つの時、私は自棄だった。

 今なら神通さんが私を叱った時の気持ちも、初霜ちゃんが私を気絶させても連れて帰った気持ちも理解できる。

 神通さんはあの時、私に失望したと同時に私を失いたくなかったのだ。

 初霜ちゃんは「あの作戦」以前はただ数回一緒に任務を共にした程度の認識でしかなかったが、あの後に彼女と一緒にしばらくいて理解できた彼女の心優しい性格から私を死なせたくなかったのだろう。

 私はかつての自分と凰さんを重ねてみてしまった。

 心が傷ついている時は誰もが構って欲しくないし、自棄になってしまうものだ。

 別に私は凰さんとは親しくない。

 それでも彼女を見ていると放っておけないのだ。

 

「……笑いませんよ……私は……」

 

 だけど、それだけじゃない。

 少なくとも私は笑わない。

 なぜならば、私は

 

「恋に真剣な人を……私は笑()ませんよ」

 

「……え」

 

 心のどこかで目の前の凰 鈴音と言う人間を私は尊敬しているからだ。

 私は艦娘であり、「司令」と言う一人の男性に恋をし、愛した女だ。

 そして、今でも「あの人」を慕っている。

 それなのにどうして、他人の、それも恋に真っ直ぐな乙女を馬鹿にできるだろうか。

 私にはそれはできない。

 

「……確かにあなたの「告白」は無駄だったかもしれません。

 だけど―――」

 

「……!?」

 

 私はただただ

 

「告白をする……そんな勇気が必要なことをできたあなたを私は笑えませんよ」

 

「アンタ……泣いてるの……?」

 

 彼女が眩しかった。

 彼女は私が生前出来なかった「告白」と言うことをしたのだ。

 私は生前、臆病だった。

 意中の男性がいながらも私は自分の想いを伝えなかった。

 相手に既に想う人がいた。

 相手は自分のことを妹や娘のようにしか見ていない。

 そう自分に言い聞かせるように私は「告白」をしなかった。

 私自身、「司令」には幸せになって欲しかったし、金剛さんや榛名さんたちのことも大好きだった。

 だけど、それでも私はどこかで後悔してもいる。

 そんな私だからこそ、私は恋に真剣な女性を見下すことなどできない。

 何よりも羨ましかった。

 多分、今の私は凰さんが言うように涙で情けないものになっているだろう。

 だから、少しだけでいいから笑顔を繕ってから

 

「……だから、私はあなたを笑いません」

 

 また言った。

 私はそのことだけを伝えたかった。

 それに対して、凰さんは

 

「はあ~……アンタ、会った時から思ったけど変わってるわね……」

 

「……え?」

 

 今まで見せていた悲憤をどこかへと投げ捨てたかのように多少、呆れながらもそう言った。

 だけど、確かなのは今の彼女には先ほどまでの痛ましさを感じなかった。

 

「ごめん……ちょっと、言い過ぎてた……」

 

 彼女はバツが悪そうにしながら謝ってきた。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 私はまだ残っているであろう涙をぬぐってからそう返した。

 確かに彼女の言い方は多少感情的で攻撃的だったけれど、私は傷ついてもいないし、気にしていない。

 ただ感傷に浸っていただけだ。

 

「そう?」

 

「はい」

 

 それでも凰さんは心配そうに訊ねて来た。

 他人のことを心配するようになってきたということは心にゆとりが戻って来たという証拠だ。

 もう大丈夫だろう。

 私は安堵すると同時に一つだけ彼女に言っておきたいことがあった。

 

「でも、凰さん……

 酢豚じゃちょっと分かりにくかったと思いますよ?」

 

「……え?」

 

 それは彼女の「告白」の内容についてだった。

 

「あれって、要するに日本人の『味噌汁を毎日作ってあげる』と言う意味ですよね?」

 

「そうだけど……」

 

「ちょっと、遠回し過ぎませんか?」

 

 私としてはもう少し分かり易い告白をしていた方がよかったと思う。

 もちろん、ド直球に本心をそのままぶつけるのは難しいだろう。

 

「だって、恥ずかしかったんだもん……」

 

 凰さんは顔を赤らめながらそう言った。

 うん。その気持ちは分からなくない。

 私も「司令」に告白する勇気はなかった。

 

「気持ちは理解できますけど……あの一夏さんですよ……?」

 

 しかし、今回の件や短期間とは言え織斑一夏と言う青年と関わってみると理解できるが、彼は色々な意味で鈍い。

 しかも、無意識に相手を苛立たせる。

 最近は慣れたと思ったが、今回の件で私も(・・)怒っている。

 護衛としては彼が無用なトラブルに巻き込まれないか不安だ。

 

「……なんか、妙に実感が籠ってるけど……

 アンタも苦労してるの?」

 

「……はい」

 

 一応、凰さんもその原因の一つであるが哀れまれた。

 特に二日間における私を最も苦しめたのは彼女ではあるので多少複雑だ。

 ここは言わぬが仏だろう。

 

「あの、今から私が説明してきましょうか?」

 

「え」

 

「いくら何でも今回の件は酷過ぎます。

 せめて、本当の意味だけでも伝えて来ますよ」

 

 確かに本来の言い回しでも遠回しであるものをさらに変化球をつけてしまったあの「告白」は少し問題があるだろう。

 ただ、女が勇気を出して口に出した告白をあんな捉え方をしたのには憤りを隠せない。

 基本的に私的暴力を気に食わない私でさえも先ほどの彼女の平手打ちに関しては許容できてしまうほどだ。

 と言うか、あれは下手したら「ジゴロ」のやることだ。

 本来ならば他人の恋愛に干渉することなどしたくないし、するとしても助言程度しかしないが、今回は別だ。

 これは応援ではない。

 ただの指摘だ。

 もちろん、セシリアさんに対する後ろめたさはあるにはあるが、今回ばかりはそれも背負うつもりだ。

 だが、これに関しては目の前の彼女の許可が要る。

 私は彼女からの返答を待った。

 

「いいわよ……今回(・・)は」

 

「……え?」

 

 しかし、帰ってきたのは意外過ぎる返答だった。

 今の彼女はどこか新たな一歩を踏み出そうとしているかのような表情であった。

 

「今から、アンタに説明してもらって一夏と付き合えるとしてもアイツのことだから、どうせ『後ろめたいから』付き合うだけじゃない……

 だから―――」

 

 そして、決意に満ちた表情で

 

アイツが(・・・・)私に惚れるようにしてやるわ!!」

 

「……!」

 

 負けず嫌いなのか、相手を惚れさせることを宣言した。

 あれだけの目に遭いながらもそれでも彼女は彼を好いている。

 惚れた弱みと言うべきだろうか。

 だが、もっとも私も既に妻帯者である「司令」を今でも慕っていることから彼女のことは言えないが。

 

「だから、雪風……

 今週末の試合、勝たせてもらうわよ?」

 

 彼女は昨日から見せていた勝気を取り戻したかのように私を挑発してきた。

 どうやら、彼女は一夏さんと一緒にいれる時間を少しでも増やしたいがために私に勝つつもりらしい。

 私はそんな彼女を見て

 

「……ええ、ですが―――」

 

 心が躍ったのか

 

「私も負けませんよ?」

 

 どこか自然に笑顔になってそう返していた。




おめでとう、雪風はようやく胃痛から解放された!

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