奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ちょっと、雪風が一夏に厳しくなっている場面があります。
どうかご了承ください。


第17話「笑い合う」

 鈴が来てから一週間が経ち、俺は鈴と雪風の試合を見るために見学席にいる。

 アリーナ全体を見回すと、アリーナには生徒どころか教師の方々までいる。

 どうやら、みんな二人の戦いに関心があるらしく、今回の件は殆ど公認状態らしい。

 そして、俺がなぜ見学しているかと言えば、雪風と鈴の二人と知り合いと言うことと

 

『しっかりと今日の試合は見ててくださいね?』

 

 雪風にとてもにこやかな表情で命令(・・)されたからだ。

 あの後、直ぐに公表されたことだがクラス代表戦における俺の初戦の相手は鈴だ。

 恐らく、雪風は『よく観察しておけ』と言う趣旨で言っているのだろう。

 だが、これは気のせいだろうが、鈴との一件があってから妙に雪風の笑顔が怖い。

 

「一夏、どうしたんだ?」

 

「一夏さん、どうしましたの?」

 

「い、いや……何でもない……」

 

 二人の気遣いに俺は何事もないように装ったが、実際は雪風の態度に参っている。

 この一週間、訓練の間は雪風は普段通りに接してくれているが、訓練以外の時は妙にニコニコしていて他人行儀だ。

 それどころか最近、俺のことを前と同じように『織斑さん』と苗字で呼ぶようになった。

 なんとなくだが、あれは怒っている。

 

 ……鈴との一件が原因だよな?

 

 雪風の態度が変わったのはあの日以降から、彼女が怒っているのはそれが理由だろう。

 多分、鈴を泣かせてしまって、それを見たことが理由だろう。

 あの一件は箒にもかなりキツイ一言を貰っているし、箒に何が悪かったのかを相談しようとすると箒が不機嫌になってしまって増々、その理由がわからない。

 鈴とも仲直りできていないし、八方塞がりだ。

 「約束」は覚えていたのになんでだ。

 もしかすると、『おごってくれる』と言う言い方がダメだったのだろうか。

 

 どうすればいいんだ……

 

 今まで、箒とセシリアの機嫌を悪くして痛い目に遭ってきたが、今度はそこに鈴と、(試合以外で)痛い目には遭っていないが雪風が加わった。

 つまり、痛い目に遭う可能性がほとんど倍になってしまった。

 しかも、何だかんだで雪風は色々とフォローしてくれる一面があっただけにかなりの落差だ。

 頭が痛い。

 

 

 

「いつつ……全身が痛いわ……」

 

「お、お嬢様、余り無理はなさらない方が……!」

 

 一週間ぶりに「IS学園」に生還した私は激しい筋肉痛に襲われている。

 そんな私を待っていたのは雪風ちゃんと中国の代表候補生の試合であった。

 

 確かに多少は目立つことも計算していたけど……

 まさか、こうなるとは……

 

 虚ちゃんと本音ちゃんにことの成り行きを簡潔に説明してもらったが、雪風ちゃんの情け容赦のない戦い方を知ってもなお、戦いを挑む物好きがいるとは思いもしなかった。

 良くも悪くも「IS学園」はお嬢様学校に近い。

 「IS」に対する見方もどちらかというと、セシリアちゃんのようなスポーツ感覚で見ている人間が多く、雪風ちゃんのような戦場スタイルで見ている人間は少ない。

 それを知りながら挑むとは本当に珍しい。

 

 でも、あの人(・・・)の教え子ならある意味、当然なのかもしれないわね……

 

 しかし、そんな事さえもたったそれだけのことで納得してしまう。

 中国の代表候補生は川神先輩の教え子だ。

 前から知っていたが、川神先輩は容赦がない。今回の合宿で嫌と言うほどそれは骨身に刻まれたが。

 先輩の容赦のなさは指導の方でもあるが、「IS」による戦い方でもだ。

 彼女の戦い方は美しくもあるが、苛烈でもある。

 十八番の「逆落とし」もあれは普通の人がやれば大博打だが、先輩がやればほとんど当たる。

 彼女曰く、秘訣は『ためらわない』ことらしい。

 そもそも、川神先輩が「もう一人の世界最強」と呼ばれているのは、第二回「モンド・グロッソ」で優勝者を負かしたこともあるが、非公式の試合であるがあの織斑先生に唯一、黒星をつけているからでもある。

 もちろん、先輩も黒星をつけられているが。

 「IS」の初期におけるあの二人の存在は既に「伝説」扱いされている。

 ただ残念ながら、織斑先生は「例の事件」でドイツに教官として転向し、川神先輩はそう言ったことに興味がなかったらしく「モンド・グロッソ」には代表としては出ず、そのまま自衛隊に入隊した。

 そもそも、川神先輩は『適性が高い』と言うだけで無理矢理学園に入学させられただけらしいので、ある意味当然なのかもしれない。

 ただ、その後に先輩は父親を人質に取られる形で「IS部隊」に配属させられたが。

 そして、その川神先輩の教え子ならば、雪風ちゃんの戦いに抵抗感がないのだろう。

 だが、私には川神先輩について一つだけ腑に落ちないことがある。

 それは彼女の教え子についてではない。

 

『これは個人的な質問なのですが……

 その少女は自分の教官(・・・・・)について何か言ってましたか?』

 

 川神先輩はどうして……あんな質問をしてきたのかしら?

 

 合宿中のあの質問についてだ。

 先輩は確かに雪風ちゃんの存在を知っているし、雪風ちゃんのことを護衛することになっているので、ある程度気になるのは仕方がない。

 だが、あの質問はそう言った「務め」としてで訊いているのではなく、どこか「情」で訊いているように思えた。

 そして、何よりも

 

『……そうですか』

 

 答えを聞いた後のあの表情はどこか嬉しそうだった。

 彼女は明らかに雪風ちゃんのことを知っていて、雪風ちゃんのことを気にかけていて、雪風ちゃんが何を想っているのかを気にしているようだった。

 

 先輩は雪風ちゃんを知っている……?

 

 私は川神先輩、いや、川神先輩と雪風ちゃんの関係に疑問を抱いている。

 雪風ちゃんを信じたい気持ちはある。

 しかし、先輩のあの反応は奇妙過ぎる。

 そして、この頃とある疑念が湧いて来た。

 

 まさか……雪風ちゃんは「デザイナーズベビー」?

 

 私はドイツで秘密裏に行われていたとある実験を思い出した。

 生まれながらの「IS」専用の兵士を作る。

 明らかに非人道的で非倫理的なことだ。

 更識の諜報能力で調べても日本ではそう言ったことはされていなかったらしいが、ああ言った人の狂気は否定できない。

 しかし、あの並外れた雪風ちゃんの戦闘能力や知識力、あの「初霜」を起動させたこと、戸籍が存在しないこと、さらにはあの並々ならぬ洞察力についてもそれならば納得がいく。

 

 それで先輩は……雪風ちゃんの教官……?

 

 そして、続けて生まれた疑念は川神先輩の雪風ちゃんに対する想いだった。

 そう、まさに川神先輩のあれはそう言う「情」であった。

 

 だけど……それだと些か回りくどくないかしら?

 

 用心に越したことはないが、私は自分の考え付いた推測に対しても疑問を抱いている。

 確かに雪風ちゃんに対する先輩の気に掛ける様子は尋常じゃない。

 だが、当の雪風ちゃん自身が語る出自はいくら何でも怪しさに溢れている。

 そもそも、川神先輩の知人ならそんな嘘がばれるのは目に見えているはずだ。

 

 ……どっちにせよ、全ては先輩が来てから問い質さないとね……

 

 川神先輩はこの学園に非常勤の講師として転任してくる。

 さすがの先輩でも、雪風ちゃんの前ではどこかでボロが出るはずだ。

 そして、それは雪風ちゃんにも言えることだ。

 だけど、私は心のどこかで「答え」を求めることに避けている。

 

 雪風ちゃんのことを結局の所、信じたいのよね……

 

『こう言うのもどうかと思いますが、「帝国軍人」として……

 いや、一人の人間として敬意を表したいです』

 

 私は雪風ちゃん(友人)を信じたいのだ。

 裏の世界に身を置くと言うことは常に何かを疑うと言うことだ。

 人の善意に対しても、人の悪意に関してもだ。

 だからこそ、私は簪ちゃん(愛する妹)を憎まれようが遠ざけたい。

 でも、同時に私個人(更識 刀奈)の願望として、何かを信じたい時もあるのだ。

 それが「甘さ」だとも自分で理解している。

 それでも私は信じたいのだ。

 

「お嬢様、雪風さんが出てきました」

 

「そう……」

 

 どうやら試合の準備ができたらしい。

 私は友人を目に入れて

 

 雪風ちゃん……あなたを信じさせてね?

 

 心の底でそう思った。

 

 

 

「来たわね」

 

「はい」

 

 ピットを抜けてアリーナに出ると彼女が待ち受けていた。

 今の彼女は不敵に笑っている。

 だが、決してそれは私の気分を害する者じゃない。

 むしろ、私にとっては好ましいものだ。

 

「しっかし、まさかここまで大事になるとはね……」

 

「あはは、そうですね……」

 

 彼女はアリーナにいる見物客の多さに対して呟いた。

 一応、事の発端は彼女ではあるが、彼女も流石にこの状況に関しては予想外だったらしい。

 私はそれに対して苦笑いで返した。

 

「ま、気にしないでいこっか」

 

「はい」

 

 どうやら彼女の肝はかなり太いらしい。

 と言っても私も別にこの状況に対して、別に怖気づいていないが。

 

「でも、悪いわね……色々と巻き込んで」

 

 彼女は謝罪してきた。

 どうやら、一応自分が面倒事を起こしていると言う自覚はあるらしい。

 少々困った性格ではあるが、何だかんだで人としての礼儀は弁えている限り、嫌いになれない。

 

「いいえ、いいですよ……

 ()さん」

 

 彼女の『堅すぎるから、鈴と呼んでくれない?』と言う要望通りに私は彼女のことを苗字ではなくて名前で呼びながら謝罪に対して私は気にしていないことを伝えた。

 先程からの態度、いや、この一週間の付き合いで理解したが彼女はかなり砕けた性格だ。

 流石に今回のようなことを連続でやられたら私も堪忍袋の緒が切れるかもしれないが、割と一緒にいると気持ちのいい相手だ。

 

「そう、でも多少後ろめたいからと言って、勝負は譲らないわよ?」

 

 私の反応を見て彼女は不遜な言い回しを好戦的な笑みを浮かべながらそう言ってきた。

 それを見て私は

 

「ええ、それは当たり前です。

 それに鈴さん……そちらも負けた時のことを考えていてくださいね?」

 

 そう言い返した。

 勝ちはもらうものじゃない。

 奪い取るものだ。

 

「そんなの考える必要ないわよ。

 だって、私負けないし(・・・・・)

 

 私の挑発に鈴さんはあくまでも自信を崩さない。

 どこまでも清々しいのだろうか。

 あれは私を見下しているのではない。

 ただ己を信じているだけだ。

 

「そうですか……偶然ですね……

 実は私も負けるつもりはない(・・・・・・・・・)ですよ?」

 

 私も彼女に釣られてそう言ってしまった。

 ここまで楽しく思うのは更識さんとの試合以来だ。

 セシリアさんとの戦いは多少の苛立ちが存在し、一夏さんとの戦いにもどこか驕りがあった。

 だが、今の私には楽しい。

 呉時代を思い出す。

 あの時は二水戦と一水戦の体育祭の騎馬戦とかでお互いに挑発し合って私も悪乗りしたものだ。

 ただ、磯風には物凄く、馬鹿にされたが。

 今の彼女とのやり取りはそれに似たものだ。

 

「あはは……」

 

「ふふふ……」

 

 彼女と私は笑っていた。

 どうやら、彼女も楽しいらしい。

 そして、そんなお互いの笑い合いの中

 

―試合開始―

 

 試合開始が告げられて

 

―ドゴォン!―

 

 いつもの様にその直後に私の単装砲が火を吹いた。




重巡の改二がまさかの海外艦で笑いました(笑)
せめて、通常海域でドロップ可能な艦でして欲しいところです。
ただこれで雪風含む陽炎型の改二のハードルも下がったと思えば……

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