奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、かなり箒のアンチ描写があります。
……いや、何と言うか二巻のあれを見てるとどうしてもやってしまう気がするんですよ……


第19話「和解と新たな火種」

「え、えげつねえ……」

 

 鈴と雪風の試合の決着を見届けた俺は雪風の仕掛けた攻撃手段を見て思わずそう呟くしかなかった。

 今回の試合はお互いに譲らず、どちらが勝つか最後の瞬間まで分からず誰もが白熱していたと思う。

 初心者の俺でさえ、最初の回り込みからの鈴の先制攻撃、その後の互いの正面からのチキンレース、雪風のミサイル攻撃と鈴の反撃、再び距離を取ってからの砲撃戦、そして、雪風の突撃とその攻撃の内二段まで打ち破った鈴の迎撃。

 まさに目を全く離せない試合だった。

 しかし、やはりだが雪風の三段目の攻撃には誰もが度肝を抜かされただろう。

 まさか、鈴もやっていたが爆発直後に自分からその中に突入して、そのままタックルをかますとかは考えられないだろう。

 

 あの飛行方法……

 俺が受けたやつと同じだよな……

 

 雪風の見せた宙返りは完全に俺が体感したものと同じであったが速さは俺の時よりも圧倒的に速かった。

 

 しかも、投げたよな……

 あれ?じゃあ、下手したら俺も……?

 

 もしかしたら、自分も彼女に投げ出されていたらと考えたら突然寒気を感じた。

 隣を見てみると、セシリアはトラウマもあってか気が抜けていた。

 箒はと言うと。

 

「………………」

 

 ……箒?

 

 雪風のことをなぜかすごい剣幕で睨んでいた。

 なぜなのだろうか。

 

 もしかすると、また雪風の戦い方が気に食わないのか?

 

 俺との試合の後でもそうだったが、箒は雪風の多少、いや、多少どころじゃない荒さのある戦い方を嫌っているところがある。

 

 まあ、確かに雪風の戦い方は見ていると……

 何というか、心臓には悪いとは思うけど……

 

 幼馴染の鈴が喰らったこともあってか、改めて雪風の戦い方は確かに相手の安否が気にかかる。

 だけど、何となくだが雪風は雪風なりに頑張っている気がし、俺は彼女の戦い方を否定できない。

 それによく見てみると近くに寄って来た雪風に対して、鈴は怒るどころかヘラヘラしているようだ。

 さらには会話をし始めている。

 

 あいつら、何を話しているんだ?

 

 俺は会話をし始めている二人を見てそう思った。

 

 

 

「鈴さん、大丈夫ですか?」

 

 自分でやっておきながらどうかと思うが私は鈴さんに対して無事を訊ねた。

 

「……それ、自分でやっておいて言うこと?」

 

 当然のことながら彼女は呆れながら言い返してきた。

 だが、呆れがあると言う分、余裕がある証拠なので大丈夫だろう。

 それに加えて、彼女はいつの間にか立ち直っていて多少であるが笑っている。

 

「いや~……その……」

 

 一応、無事とは言え荒々しい攻撃をしたことに関しては後ろめたさを感じることもあって私は言葉に詰まってしまった。

 

「アンタねぇ……勝った奴が何そんな顔してんのよ?」

 

「え?」

 

 そんな私の態度に鈴さんは気分を悪くしたようだ。

 

「勝った奴にそんな顔をされたら、こっちはどんな顔をすればいいか困るじゃない」

 

「あ……」

 

 その言葉で鈴さんは私を責めるのもでなく、皮肉や嫌味を言っているのではないことに気づいた。

 彼女は悔しそうだ。

 だけど、彼女は私に『誇れ』と言っているみたいだ。

 私はそれを見て

 

「はい、すいません」

 

 笑いながらも自分の心配が杞憂であり、彼女を不本意ながらも馬鹿にしていたことを謝った。

 

「初めて見たわよ。

 ニッコリしながら謝罪する奴を……

 まあ、その顔見てると憎めないのが少しむかつくけどね」

 

「……そうでしょうか?」

 

「なんとなくだけどアンタが小動物(・・・)と言われる理由が理解できた気がするわ」

 

「……小動物(・・・)ですか」

 

「ん?何、その落ち込みようは?」

 

「いえ……もう慣れたことなので……」

 

 自分なりに噂を集めてみたが、やはりなぜか私は動物に例えられている。

 「猛獣」や「ラーテル」は何となくだが褒め言葉なので百歩譲ってもいいが、やはりこの年齢になっても「小動物」は多少だが泣けてくる。

 よく考えてみると、姉妹の中でも私は八女なのに妹たちから姉扱いされることが稀だった。

 特に同郷の磯風なんかはいつも私を子ども扱いしていた。

 さらには姉妹だけでなく、戦艦や空母のお姉様方、終いには同僚の駆逐艦たちにさえ小動物扱いされることも多くあった。

 

 それに懐かしい気分になれるだけいいのかもしれませんね……

 

 だが、今の私の心の半分はどこか懐かしさもあった。

 私のことをそう思ってくれた人たちは既に過去のものとなってしまった。

 思えば、そう言う短いながらも楽しかった時間は既に遠い時代のものとなってしまったものだ。

 

「ま、とりあえずありがとうね。雪風」

 

「……え」

 

 私が思い出に浸っていると鈴さんになぜかお礼を言われた。

 

「いきなり試合を申し込んだのに受けてくれたうえに全力で戦ってくれたのは本当に嬉しかったわ」

 

「………………」

 

 彼女の勢いに圧されると共に彼女に清々しさを感じた。

 確かに彼女の行動は突拍子がなさ過ぎて私は彼女に振り回された。

 しかし、こう感情を包み隠さずに言われるとそう言ったことがどうでも良くなってしまう。

 ある意味ではこれは彼女の人徳なのだろう。

 

「いえ、こちらこそありがとうございます。

 ところで鈴さん。試合前のことを覚えていますか?」

 

「……ん?」

 

 私はお礼を言うと共に忘れないうちに彼女に試合前の約束のことを口に出した。

 

 

 

「あ、鈴!雪風!」

 

 二人の様子が気にかかり俺はピットの方へと向かっていると前からの件の二人がやって来た。

 

「あ、一夏」

 

 俺に気づいた鈴はすぐに駆け寄ってきた。

 

「鈴、大丈夫なのか?

 ケガはないのか?」

 

 様子を見た限りでは大丈夫とは思えたが俺はそれでも鈴のことが心配になったので声をかけた。

 

「あれぐらい大丈夫よ。

 それより、一夏。どうだった、私の試合?」

 

 すると、鈴は俺の心配をよそに今日の試合のことを訊いて来た。

 どうやら、その様子だと俺に対しての怒りは収まってくれたようだ。

 

「え?いや……何というか……」

 

 俺はその質問に困ってしまい、つい

 

「すごかった……としか言えないんだが……」

 

 漠然とした言葉しか言えなかった。

 鈴は負けたと言っても少なくともセシリアや俺以上に雪風と戦えてたし、何よりも最後の駆け引きは俺たちなら確実に二段目で負けてた。

 だから、単純にそう言うしかなかった。

 

「え~……まあ、今は(・・)これでいいか♪」

 

 俺の言葉を聞くと最初は不満そうであったが、鈴はすぐに嬉しそうになった。

 ただ彼女が嬉しそうなら良かった。

 

「「ぐぬぬ……!!」」

 

 ただし、俺の後ろの二人の様子を除けばの話だ。

 なんでこの二人はこんなに機嫌が悪いんだ。

 

 機嫌が悪いで思い出した……

 

 俺はふと思い出してこの場にいるもう一人の方を向いた。

 

「えっと、その……雪風?」

 

 俺は恐る恐る視線の先にいる雪風の方に声をかけた。

 

「なんですか?織斑(・・)さん?」

 

「い、いや……その……」

 

 やはり、なぜか雪風は笑顔なのにどこか怒っていた。

 その証拠にまだ俺のことを『織斑』と呼んでいる。

 俺はたじろいでしまった。

 

「ん?雪風、どうしたのよ?

 アンタ、前は『一夏さん』て呼んでたじゃない?」

 

 雪風の一週間前までと異なる態度にどうやら訝しく思ったのか鈴が訊いた。

 

「いえ……その……」

 

 鈴に訊かれたことで困ったのか雪風は返答に詰まった。

 その様子を見た鈴は

 

「もしかすると、アンタ……

 「あの事」で怒ってくれているの?」

 

 何か気づいたのか確かめるようにさらに訊ねた。

 

「………………」

 

 やっぱりか……

 

 雪風が無言になったことで原因が一週間前であることは分かった。

 恐らく、女の子を泣かせたことに雪風は怒っているのだろう。

 俺としても理由は分からないがかなりマズいことをしたと言う自覚はある。

 それに鈴を泣かせたことは事実に変わりないためかなり罪悪感がある。

 

「はあ~……雪風、私はもう別に気にしていないからいいわよ?」

 

 そんな雪風の様子を見て鈴は言った。

 

「ですけど……」

 

 鈴のその言葉が予想外だったのか雪風は少し反抗的になったが

 

「そんなこと言うと例の件はなかったことにするわよ?」

 

「うぐっ……!?」

 

 鈴の一言で止められた。

 

「ん?何だそれ?」

 

 俺は気になってしまって鈴に訊ねた。

 

「あ~、実はね。

 試合前に雪風と賭けをして、私が勝ったら一夏のコーチを譲って負けたら雪風の「お願い」を一つだけ受けることになっていたのよ。

 それで雪風の訓練に付き合うことになってるのよ」

 

「……え?」

 

 俺はそれを聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 そして、直後に

 

「鈴……お前、大丈夫か?」

 

 鈴のことが心配になって確認してしまった。

 

「ん?どうしてよ?」

 

「いや、だって……お前……」

 

 雪風の訓練のきつさを身を以って知っていることから俺は忠告しようとしたが

 

「アンタ、さては雪風の訓練がきつかったりしてそれで私のことを心配してんの?」

 

「え?ああ……」

 

 鈴に図星を突かれたことで俺は圧されてしまった。

 

「……大丈夫よ。

 ぶっちゃけると、この一週間の自主練がぬる過ぎて物足りなかったし今回の試合で雪風との訓練ができるのは願ったり叶ったりよ」

 

 一体、どんな訓練を受けて来たのか、それとも雪風の訓練を知らないから言えることなのだろうか。

 それでも鈴の訓練にかける情熱は本物だった。

 

 ……なんで雪風と言い、鈴と言い……

 俺の周りの女子は逞しいんだ?

 

 鈴の本音を耳にして改めて鈴と雪風が本当に女なのかすら分からなくなってきた。

 もちろん、「ハンデ」とかの件でそう言う扱いが時に失礼になるのは理解しているが、それでも信じられない。

 

「で、雪風……

 どうすんの?」

 

 俺が黙ったのを見て、鈴は少し意地悪な笑みを浮かべて雪風に訊ねた。

 

「わかりました……

 一夏(・・)さん。今回の件に関しては私も大人気なかったです。

 すみませんでした」

 

 鈴の脅しが効いたのか、雪風は俺を許してくれた。

 いや、この場合はどちらかと言えば鈴の顔に免じて許してくれたのだろう。

 それどころか、彼女は俺に深々と頭を下げて来た。

 

「い、いや……!

 俺の方こそごめん……!二人とも」

 

 彼女の謝罪を受けて俺も謝った。

 本来ならば、俺の方が先に謝らなければいけないのに情けないことだ。

 だが、どうやらこれで俺と雪風の問題は解決したようだ。

 俺が一安心していると

 

「陽知、少しいいか?」

 

 俺たち三人の和解の直後に珍しく箒が雪風に声をかけて来た。

 

「何でしょうか?」

 

 意外な人物に声をかけられたことに雪風は多少驚きながらも聞き容れようとした。

 彼女は一体、どんな質問をされるのか気になるようだ。

 しかし、俺は何となくだが察してしまった。

 

 あの攻撃のことだよな……

 

 それは試合が終わった後の箒の表情から読み取れることだった。

 

「どうしてお前はあんな戦い方ができるんだ」

 

 箒はどこか嫌悪感を滲み出しながらそう言った。

 

「……え?」

 

 どうやら俺の予想は的中した。

 箒は確かに途中まで二人の試合に対して俺たちや他の観衆と同じように惹かれていたところがあった。

 しかし、雪風が鈴を放り投げた瞬間から箒は嫌悪感を露わにした。

 

「答えろ……どうして、お前は―――」

 

 返答に困る雪風に箒は急かすように訊ねようとしたが

 

「ちょっと、アンタ。

 そんなことを訊いてどうすんのよ?」

 

 鈴が間に入って来た。

 

「お前には関係ない!

 これは私と陽知との問題だ!」

 

 質問の邪魔をした鈴に対して箒は怒鳴って追い払おうとするが

 

「大ありよ!!

 アンタ、雪風の戦い方にケチをつけるつもりなの?

 それは試合の対戦者としてこの私が許さないわよ!」

 

 鈴は雪風を庇うかのようにそう言った。

 

「だが、あんな乱暴な戦い方は暴力と変わらないじゃないか!!」

 

「……!?」

 

「………………」

 

 鈴のその態度に箒は自分が抱いたことをぶつけ、それを聞いた瞬間俺は箒がなぜ今回、いや、俺の試合以降に雪風に突っかかるのかを理解した。

 雪風は目を大きく開いて呆然としていた。

 

「……はあ?

 アンタ、マジで言ってんの?」

 

 鈴は箒に対してどこか呆れを込めるかのように視線を向けた。

 

「アンタさあ……

 勝てる勝負を逃がしたり、相手の土俵に乗ってやったり、わざと手を抜くことが素晴らしいことでも思ってんの?

 だったら、馬鹿じゃないの?」

 

「な、なんだとぉ!!?」

 

「お、おい!?

 鈴、いくら何でも―――」

 

 鈴の畳みかけるかのような暴言ともいえる面罵に箒は当然ながら怒り出し、俺は流石に言い過ぎだと思って止めようとしたが

 

「一夏さん、ここは黙っておくべきですわ」

 

「せ、セシリア?」

 

 意外なことにセシリアに止められた。

 その顔はどこか真剣だった。

 そして、同時にどこか憤りが込められていた。

 それを見て俺はただ事ではないと思い自分が口を挟むべきではないと思って口を噤んた。

 

「雪風は全力を出して私と戦っただけよ!!

 それをアンタは『見苦しい』とか、『乱暴』とか言うの?

 そんなの頑張っている連中のことを見下しているも同然じゃない!!」

 

「なっ!?ち、違う!私は―――!!」

 

 鈴の言葉に箒は反論しようとするが

 

「ふん。アンタみたいなのを相手にしても無駄ね。

 行こっ、雪風」

 

「え!?ちょっと、鈴さん!?」

 

 鈴はまるで諦めたかのようにそう言い残して、先程から呆然としていた雪風の手を引いて去って行ってしまった。

 それはまるで雪風をこの場から連れていくためのようだった。

 俺はそれを見送ることしかできなかった。




個人的には箒の気持ちも解るんですけどね。
箒は色々と力に振り回される人生を送っているからどうしても暴力的な戦い方に眉を顰めてしまうとは思うんですよ。
そう言ったことも含めラウラ編に早く突入したいところです。

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