奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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ちょっと、今回一夏に対するヘイト描写ありです。


第20話「涙への怒り」

 雪風さん、いませんわね……

 

 雪風さんと凰さんの試合から三週間が経ち、ようやく訪れたクラス代表戦当日。

 本来ならば、この場で一夏さんの試合を見守るはずだった一人がこの場にいない。

 

 やはり、気にしてらっしゃるのですね……

 

 その理由は篠ノ之さんとのあの一件が原因だ。

 雪風さんはここしばらく一夏さんの訓練に顔を出していない。

 いや、出せないのだ。

 

『私がいると、一夏さんの訓練時間が削られてしまいますので……』

 

 心配になってわたくしがその理由を訊ねた時、彼女は無念そうに言った。

 彼女は自分がいることで訓練の場において篠ノ之さんと衝突することを恐れて、今は参加しないのだ。

 雪風さんは良くも悪くも冷静だ。

 篠ノ之さんが絶対に折れないことを悟っている。

 彼女はそれならばと自分が遠ざかることで時間の浪費を抑えようとしている。

 

 雪風さんは何も間違っておりませんのに……

 

 あの試合の後に篠ノ之さんが雪風さんに発した言葉はわたくしとしても憤りを隠せない。

 そもそも、「IS」の試合はほとんど何でもありだ。

 「IS」の武器と言うのはそれを扱いやすくするための決められたプログラムに過ぎない。

 わたくしの「ブルー・ティアーズ」にしてもそれは同じだ。

 あれは空間制圧、つまりは自らの狩場を形成すると言うスタンスだ。

 

 そう考えると雪風さんの「IS」はシンプルですわね……

 

 改めてわたくしは雪風さんの「初霜」の思い切った戦闘スタイルに驚きを感じる。

 「初霜」は砲撃戦だけを重点に置いた単純な機体だ。

 他に特筆することがあるとすれば、推進力の高さや固定型の多彩な銃火器を持つところだろう。

 やはり、あれは「第二世代」なのだろう。

 しかし、雪風さんはその「初霜」で「第三世代」相手に勝利している。

 雪風さんが完全に使いこなし、十二分にまで力を発揮しているからなのだろう。

 それに加えて、この前の凰さんでは独自の攻撃を使っている。

 わたくしは「IS」の試合で素手(・・)で戦う人間など見たことも聞いたこともない。

 いや、都市伝説ではあるが織斑先生はかつて後輩としたことがあるらしいが。

 だが、いずれにせよ素手(・・)と戦うにはそれこそ高い技術が求められる。

 「IS」の性能を完全に引き出し、独自の戦闘スタイルを確立させている雪風さんは只者じゃない。

 型に囚われないと言うのは、型を知らないのではなく型を超えると言うことなのかもしれない。

 

 それに……全力を出した彼女が責められるのは我慢できませんわ……

 

 凰さんとの戦いで雪風さんがあの戦い方をしたのは相性の問題でもある。

 あの戦いは悔しいことだけどほぼ互角で凰さんが最初は優勢だった。

 凰さんの「衝撃砲」は雪風さんの最大の武器である「逆落とし」すら封じ、攻撃面でも白兵戦で雪風さんを苦しませていた。

 だから、攻撃手が限られていた雪風さんが勝つにはあの常識破りの戦い方しかなかった。

 雪風さんはただそれだけのことを出来る技術があっただけだ。

 それを責められるのはおかしい。

 

 それに彼女のあのストイックさを知らないで言われるのも腹立だしいですわ……

 

『今の私は自分を甘やかしている気がするんです』

 

 雪風さんが努力家なのは彼女の語った訓練に対する不満からも理解できた。

 それを理解もしない人間がとやかく言うのは傲慢だ。

 

 

 

「ゆっきー、大丈夫?」

 

「大丈夫ですよ、本音さん。

 すみません……

 私の都合であなたに負担をかけて……」

 

「うんうん。

 ゆっきーはゆっきーで頑張ってるもん。

 仕方ないよ」

 

 この三週間、私は一夏さんの訓練に参加することが出来ず、監視の役割すらも遠巻きにしかできていない。

 理由は篠ノ之さんとの間に深まってしまった軋轢だ。

 そのために私は本音さんに負担をかけてしまっている。

 

 ……「暴力」……ですか……

 

 彼女はそう言って私を糾弾した。

 確かに私は試合に勝つために戦った。

 しかし、その中で私は手段を選ばなかった。

 それは彼女の目には「暴力」と映ってしまったのだろう。

 元々、私は一夏さんの試合でも相手に「痛み」を与えるやり方で戦っていた。

 それは確かに「暴力」だろう。

 

 いつの間にか、私自身が「IS」の性能に囚われていたのかもしれませんね……

 

 私は自分の愚かさを自覚した。

 あれ程「IS至上主義」を嫌っていた自分が「IS」の試合の中で全力で相手を倒そうとした。

 心のどこかで私は「IS」の「絶対防御」を理由にしていたのかもしれない。

 だから、あの戦い方が出来ていたのだ。

 

 何が「伝説の駆逐艦」ですか……

 これではただの増長した新兵と変わらないじゃないですか……!!

 

 私は自分の愚かさを恥じた。

 「深海棲艦」との戦いが終わった後、私は一駆逐艦に過ぎないのにも関わらず、中華民国海軍の総旗艦となり、その後名誉職として訓練艦となり後進の育成に励んだ。

 だが、私を面と向かって罵倒する娘はいなかった。

 それはもちろん私が最善を尽くしてきたこともあるが、どこか皆が私を「伝説の駆逐艦」、「一国の総旗艦」、「英雄艦」として特別視してきたからかもしれない。

 これではお山の大将だ。

 

 いっそのこと……もっと過激な戦いをした方がいいのでしょうか?

 

 身体に染みついた戦いの記憶が私を駆り立てる。

 そして、それは私に手抜きを許さない。

 戦い方を変えることなど私にはできない。

 私がいた世界とこの世界がやはり違うことを実感させられる。

 きっと、私は受け入れられないだろう。

 なら、私ができることはこの世界に「力への恐怖」と「力を行使する者の愚かさ」を見せつけることでしかない。

 私に「IS」から離れると言う選択肢はない。

 なぜならば、私は「IS学園」にいる。

 この時点で私は「IS」に関わらざるを得ず、常に見られていることになる。

 

 でも……私は……

 

 それでも私はそんなことはしたくない。

 私がやろうとしていることは誰かを傷つけることに他ならない。

 それだけはしたくない。

 私は元軍人だ。

 それも誇りある帝国海軍の。

 そして、陽炎型八番艦であり、神通さんの二水戦の一人でもある。

 力を持たない人々を守るために戦うことはできるが、他者を傷つけるだけの戦いなど私はしたくない。

 軍人は守るべきものがなければ、ただの力のあるだけの獣以下だ。

 

 磯風の姉としても……初霜ちゃんの名を借りている身としても……私は……

 

 あの最期まで軍人であり、私を()として尊敬してくれていた愛しい妹と今現在、私の相棒として戦ってくれている二水戦最後の旗艦であり優しく強かった最後の戦友の名を穢したくはない。

 

 お姉ちゃん(・・・・・)……私、どうすれば……

 

 もう死に別れてから二十年以上も経った姉に意味のない問いを投げかけた。

 

 

 

「来たわね、一夏」

 

「お、おう……」

 

 ようやく訪れた好きな男子との試合と言うのに私は高揚感を感じなかった。

 理由は簡単だ。

 それは私は無性に一夏に対して苛立ちを覚えているからだ。

 

「ねえ、一夏……

 アンタ、どうして雪風に訓練を見てもらわなかったの?」

 

「え、それは……」

 

 私は一夏に対する疑問の理由を知りながらも嫌味で訊いた。

 一夏はその返答に困り出した。

 その一夏の煮え切らない態度に私は増々、苛立ちを募らせた。

 

「アンタ、雪風がどれだけ辛いのかわかってんの?」

 

「……それは」

 

 我慢できなくなった私は噛みつくように言った。

 雪風は最近、一夏の訓練に参加していないようだ。

 その原因は間違いなく、あの「箒」と言う女のあの言葉だ。

 雪風はあの言葉で深く傷ついた。

 そして、気にしなくてもいいのに真面目で優しい彼女は自分が争いの火種にならないために訓練の参加を自粛したのだ。

 だけど、その彼女自身の行動すらも彼女を余計に辛くした。

 雪風は一夏に対して、恋心を抱いていない。

 彼女は本当に善意で一夏を訓練している。

 だから、一夏を訓練できない自分を許せないのだろう。

 それを一夏は薄々と気付きながらも何もしない。

 私はそれを見ていて許せなかった。

 

「そんなにあの「箒」って女が大切なの?」

 

 本来ならばあんな暴言を吐いたあの女を一夏は怒らなければならない。

 それなのに一夏はそれをしない。

 どうして、雪風が見当はずれな言葉に傷ついて、あの女がのうのうと一夏と一緒にいるのか私は納得できない。

 きっと「嫉妬」もあるだろう。

 それでも試合が始まる前に私は問わねばならない。

 

「当然だろ。

 幼馴染(・・・)なんだから」

 

「………………」

 

 一夏はそう答えた。

 

「……そう」

 

 私はまだ試合が始まっていないことに感謝した。

 なぜならば

 

「だったら―――」

 

―試合開始―

 

「そのふざけた考え毎殴り飛ばしてやるわ!!!」

 

「ぐあっ!?」

 

 既に自分を抑えきれなくなっていたからだ。

 試合開始と同時に私は龍砲をお見舞いしてやった。

 一夏はその一撃を受けて吹き飛ばされたがなんとか着地には成功していた。

 だが、私はそんなことには満足せず全速力で接近した。

 

「ぐっ……!!」

 

 カキーンッと頭蓋骨を割るぐらいの気迫で私は青龍刀「双天牙月」を振り下ろしたが一夏はそれを受け止めた。

 

「どりゃあ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 私は雪風の時にはできなかったが双天牙月を軸にして一夏に先生直伝の回し蹴りをかましてやった。

 

「そらっ!まだまだ!!」

 

「……がはッ!!?」

 

 体勢が完全に崩れた一夏に生まれた隙を見逃さず、龍砲の二連砲撃で追撃を仕掛けた。

 そして、それらは一夏の腹部に当たり鈍痛を与えたようだった。

 

「どう?一夏、私の強さは?」

 

 一連の攻撃が全て当たり、私は一度攻撃を止め倒れ伏した一夏に私は自分でも馬鹿だと思うが勝ち誇るように。

 こんなのは「情け」であり、「蛇足」であり、「油断」であり、相手にチャンスと隙を与えることに他ならないのは十分理解している。

 それでも私はどうしても一夏に言いたいことがあった。

 

「幼馴染一人叱ることもできないで貴重な教官を呼び止めることもできないアンタなんかじゃ私の敵じゃないのよ」

 

 一夏は三週間前に私の戦いを見たはずだ。

 それなのに今の攻撃を全く避けることもできず、攻めに回れていない。

 理由は簡単だ。

 雪風の訓練を受けていないからだ。

 雪風なら必ず私への対策を用意してくるはずだ。

 

「アンタ……

 雪風がわざわざくれた情報を無駄にしたの?」

 

 私は憤りを吐き出した。

 今の私は失望している。

 だけど、私は心のどこかで一夏を信じたい。

 だから、次の事実をぶつけたい。

 

「雪風はね、アンタのため(・・・・・)にわざわざ私との訓練をしていないのよ」

 

「なんだって……?」 

 

 あれだけ嬉しそうにしていた私との訓練を一夏に義理立てするために雪風は先延ばしにした。

 私に対しても申し訳なさそうに。

 それなのに一夏はのうのうと大切なもう一人の幼馴染とやらを傷つけたくないからと言って何もしない。

 それが無性に腹が立つ。

 

「だけど、それも今日で終わりよ。

 この試合が終わったら雪風もアンタに義理立てする必要なんてなくなるんだから」

 

 私は突き放すように言った。

 

「雪風も私もずっと先に行くわ」

 

 私は雪風ほど優しくない。

 ここで立ち上がらないなら私は一夏をここで置いていく。 

 

「それとも、アンタの言う『守る』ってその程度のもんなの?

 笑えるわね?」

 

「……!」

 

 私はトドメとして雪風から教えてもらった一夏の強くなりたい理由を馬鹿にするように口に出した。

 口先だけなら誰だってできる。

 ここで立ち上がらないならその程度と言うことだ。

 だけど、私の知っている織斑一夏と言う男は違うはずだ。

 私の知る織斑一夏は女の子が泣いていたらそれを止めようとするはずだったはずだ。

 

「………………」

 

「……立ったわね」

 

 一夏は立った。

 私との「約束」を最低最悪な捉え方をしたが、どうやら一夏はなんだかんだで真っ直ぐなままだ。

 恐らく、雪風の辛そうな顔でも浮かんで起き上がったのだろう。

 だから、私は

 

「さあ、行くわよ!!

 一―――」

 

 一夏が口先だけではないことを証明したいがために試合の仕切り直しをしようとした。

 しかし、その時だった。

 

―ドゴオォォォォォオォォン!!―

 

 突然の無粋な横やりによってそれは叶わなかった。




鈴がかなりアグレッシブなのは師匠の影響です。

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