奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今作のゴーレムは原作とは違うギミックが存在します。
理由はとある人がいる原因です。


第21話「機獣、襲来」

 鈴の猛攻と罵倒で最近連日のように見ていた雪風の辛そうな表情を思い出し罪悪感に見舞われた後にせめてこの試合だけでも集中しようとした矢先のことだった。

 

「な、なんだ?

 何が起きたんだ?」

 

 それは突然、空から降りて来た。

 アリーナ全体を奮わせてそれは中央にいた。

 煙の中にいて正体は分からないが、どうやら何かがいるらしい。

 

「一夏!試合は中止よ!

 すぐにピットに戻りなさい!!」

 

 状況が把握できず混乱していると鈴がプライベート・チャネルを使って俺に呼びかけて来た。

 俺は一瞬、出遅れるがその言葉の意味を次の瞬間に嫌でも理解させられた。

 

―ステージ中央に熱源。所属不明の「IS」と断定。ロック(・・・)されています―

 

「なっ!?」

 

 ハイパーセンサーが告げた警告に俺はようやく「それ」が正体不明の機体が乱入し、尚且つそれが俺たちに敵対的だと言うことに気づいた。

 

「一夏、早く!」

 

 鈴は俺に向かって離脱するように指示してきた。

 その声には明らかに焦りが込められていた。

 あの無鉄砲な鈴でさえ、マズいと思っていると言う意味だ。

 

「お前はどうするんだよ!?」

 

 俺に離脱を指示しながらも鈴は全く引こうとする素振りを見せなかったことに俺は思わず訊ね返してしまった。

 

「あたしが時間を稼ぐから、その間に逃げなさいよ!」

 

「え!?」

 

 鈴のその言葉を聞いて一瞬思考が止まった。

 

「逃げるって……女を置いてそんなことができるかよ!」

 

 けれども考えるよりも先に鈴の指示に逆らってしまった。

 

「馬鹿!アンタの方が弱いんだからしょうがないでしょうが!

 それにあたしの攻撃でアンタのシールドはかなり減ってんでしょうが!!」

 

 鈴の言うことは尤もだ。

 俺は鈴よりも圧倒的に弱い。

 それに加えて鈴の猛攻で明らかにシールドは削られている。

 何よりもあの「IS」は「IS」のシールドと同じ強度の遮断シールドを破壊している。

 今の俺が確実にただじゃすまされないのは目に見えている。

 最悪の場合は死に直結することも考えられる。

 

 だけど……

 

 それでも俺は逃げたくなかった。

 この三週間、俺は箒を傷つけたくないからと言って、俺は雪風を傷つけて逃げてしまった。

 鈴に発破をかけられてようやく自分の中でケジメをつけようと決めたのだ。

 

 俺は……

 

「別にあたしも最後までやり合うつもりはないわよ。

 こんな異常事態、直ぐに学園の先生たちがやってきて事態を収拾―――」

 

 鈴が時間稼ぎをしようと身を乗り出そうとした時だった。

 

「あぶねえっ!!」

 

「―――え!?」

 

 俺は咄嗟に身体が動いて鈴を抱きかかえてその場を後にした。

 直後、ものすごい熱の流れが俺たちが先ほどまでいた場所を埋め尽くしていた。

 

「セシリアの奴よりも圧倒的に上かよ……!?」

 

 過ぎ去った視覚で認識できる熱線の量とハイパーセンサーで実際のその熱を知り俺は冷や汗をかいた。

 

「一夏、いつまでさわってんのよ!?」

 

「んなこと言ったって仕方ないだろ!?

 あっちがビームを連射してくるんだからよ!!」

 

 鈴は未だに俺が抱えていることに文句を言っているが、今はそんな事を気にしている暇はない。

 例の「IS」は俺たちが回避した後に容赦なくあのビームを何発も撃って来ている。

 威力は前に教えてもらった雪風のミサイル攻撃の三倍、それに加えて雪風のミサイル攻撃になかったセシリアのレーザー兵器と同じ速度で来るのだ。

 さらにはそれが()で。

 隙を見せたら確実にやられる。鈴には悪いがここは我慢してもらいたい。

 

「な、なんなんだあいつ……」

 

 ビームを回避してしばらく経つと例の「IS」が浮上してその全貌が明らかになった。

 それは深い灰色をして、手は足まで伸びて、肩と腕、さらには頭までも固定されており同化している。

 さらには「IS」の構造上考えられない「全身装甲」で通常の「IS」じゃ考えられない腰部にまでスカートの様な装甲まであり、それらに素肌が隠されていて本当に人間が操っているのかすら分からない。

 

「お前は一体……」

 

「………………」

 

 それは答えない。

 当然だ。

 正体を明かすなら、最初から「全身装甲」なんてものをして来ないだろう。

 

「織斑くん!凰さん!今すぐアリーナから脱出を!

 すぐに先生たちが「IS」で制圧に向かいます!」

 

 普段は落ち着かない態度でたまにこっちが心配になってくる山田先生がどこか雪風みたいな口調で俺たちに脱出を指示してきた。

 先生の言う通り、確かに避難しなくてはならないだろう。

 だけど

 

「――いや、先生たちが来るまで俺たちが食い止めます」

 

 俺はそれでも引く訳にはいかなかった。

 目の前の「IS」はアリーナをハチャメチャにする程の破壊力を持っている。

 と言うことはここで食い止めなかったら観客席を狙う可能性もあり得る。

 

 箒に注意もしていなし、雪風にも謝っていないのに……

 あいつらに手出しさせるかよっ!!

 

 奴が観客席を狙う。

 それはつまり、俺が叱らなければいけない奴と謝らなければいけない奴も巻き込まれる可能性もあると言うことだ。

 そんなことをされてたまるか。

 俺はこの三週間、最低な奴だった。

 そのケジメをつける機会すらも奪われてたまるか。

 

「……いいよな、鈴」

 

「……当然!

 それよりもとっとと離しなさいよ!

 動けないじゃない!!」

 

「ああ、悪い」

 

「ふん……!

 たっく、さっきまで情けなかったくせにこういう時は男らしくしちゃって……」

 

 鈴の言う通りだ。

 俺は逃げていた。

 箒からも。雪風からも。

 だから、俺はこれ以上逃げたくない。

 

「まあ、いいわ……

 付き合ってやるわよ!」

 

「ああ、ありがとう。鈴」

 

 面倒事に付き合わせてしまった事を詫びながらも俺は鈴に感謝した。

 鈴がいなかったら俺はきっと腐っていた。

 だからこそ、感謝してもし足りない。

 

 

「とりあえず、あたしが接近戦でシールド削るから、アンタは隙を見て不意打ちして」

 

 鈴はかなり大雑把な指示を出してきた。

 

「おいおい、危なくないか?

 ここは俺が―――」

 

 その作戦では明らかに鈴が危険すぎるうえに「雪片」しか持たない俺では攻撃が限られていることもあり鈴の負担が大きいことに異議を唱えようとした時だった。

 

「馬鹿言わないの。

 アンタがいるだけで十分、牽制になるしアンタのシールドは削られているんだから、一発でも直撃したらアウトでしょ?

 それだけで十分よ」

 

「ぐっ……」

 

 鈴の正論に俺は黙るしかなった。

 確かに二対一なら、相手は片方だけに集中できないので俺がここにいるだけで相手に重圧をかけられることで鈴の被弾のリスクも下がるし、鈴が攻撃し続ければ俺の「零落白夜」で決定打も与えられる。

 それと鈴の言う通り、俺のシールドはかなり減っている。

 俺がメインを確かにやるのは確かに危険だ。

 

 くそっ……!情けない……!

 

 これも雪風の訓練を受けなかったツケと考えると自分を殴りたくなってきた。

 

「じゃあ、いくわよ!」

 

「……おう!!」

 

 自分の不甲斐なさに憤りを感じていると鈴が先端を切り、俺はビームが当たる距離ギリギリまで移動して、敵の様子を窺った。

 

 

 

「もしもし!?

 織斑君、聞いてます!?

 凰さんも!

 聞いてますか!?」

 

 真耶は一夏たちからの通信から返答がなくなったことに教師としての責任感に満ちた真剣な表情で呼びかけ続けた。

 その顔には冷静が欠けていた。

 アリーナの遮断シールドを破壊できるほどの破壊力を持つ相手なのだから当然だ。

 

「本人たちがやると言っているのだから、やらせてみてもいいだろう」

 

 だが、私はなるべく平静を装ってそう言った。

 一夏は一度やると決めたら絶対に曲げない。

 と言うよりも曲げることができない。

 それは姉としては弟のことを想うと短所だとは思うが、ここで下手に止めようとすれば一夏たちの集中力を奪って逆に危険かもしれない。

 

「お、お、織斑先生!?

 何をのん気なことを言ってるんですか!?」

 

 真耶は私の態度に当然ながら反発した。

 確かに私はこの非常時にコーヒーを飲んでいるのは不謹慎だろう。

 だが、遮断シールドとアリーナへの扉がハッキングで閉ざされ、待機しかないできないこの状況で教師である私たちが慌てるのは周囲の不安を煽り立てる可能性もある。

 何よりも私は周囲には「世界最強」として見られている。

 ゆえにここで動揺を見せるわけにはいかない。

 

「落ち着け。コーヒーでも飲め。

 糖分が足りないからイライラするんだ」

 

 私は普段通りに真耶を扱おうとした。

 

「……あの、先生。

 それ、「塩」ですけど」

 

 ……なんだと?

 

 真耶に言われて自分が手にしたビンを確認するとそれは「塩」だった。

 馬鹿な。確かに私は家事炊事の一切を一夏に任せているが、「塩」と「砂糖」の違いを間違えるほどではないはずだ。

 

「なぜ「塩」があるんだ」

 

「さ、さあ……?

 でも、あの……大きく「塩」って書いてあるんですけど……」

 

 よく見ると確かに大きく「塩」と書いてあった。

 

「………………」

 

「あ、なんだかんだで心配してらっしゃるんですね?」

 

 やめろ!なんだか恥ずかしくなってきた!

 

 真耶はそんな私の動揺を見て微笑ましい表情を向けて来た。

 それを見て、私はいたたまれない気持ちになった。

 

「先生!わたくしに「IS」使用許可を!

 すぐに出撃できますわ!」

 

「……!」

 

 この恥ずかしい話題を切ってくれる救世主が来た。

 渡りに船と言わんばかりに私はオルコットに話しかけようとした。

 

「コホン……!

 オルコットか……そうしたいところだが―――

 ん?ちょっと待て、お前一人か?」

 

 アリーナへの侵入を封じられたことをオルコットに説明しようとした時に私はオルコットが単独行動をしていることに気づいた。

 私はてっきり彼女のこの学園唯一ともいえる友人である雪風と一緒にいると思っていた。

 

「ええ、その……

 最近は雪風さんは……」

 

 どうやら、雪風と彼女は別行動らしい。

 

「……!?」

 

 それを聞いた瞬間、私はとあることが過ぎった。

 

「ど、どうしたんですか!?

 織斑先生!?」

 

 真耶は私が焦りを顔に出したことに気付いた。

 

 それだけはいけない……!

 あれだけの想いをしたのだ……!!お前(・・)はこの世界だけでも……!!

 

 私の懸念が正しければ必ず彼女は必ず行動を起こす。

 この世界の「歪み」に涙を流し、力なき者を守ろうとすることに誇りを抱き、「軍人」と呼ばれた時にどこか嬉しそうな表情を見せた彼女ならば。

 

 

 

「くそっ……!

 やっぱり、近づくのも難しいな!!」

 

「焦らないの!

 必ずチャンスは私が作るから!」

 

 例の「IS」相手に俺たちは何度も決定打を与えようとしたが、そうは問屋は卸さずと言うべきか、相手は鈴の攻撃を受けると俺の接近を許さないようにあの長い腕を振り回して回転しながら反撃してくる。

 さらにはそこにビームも加わり実際の攻撃範囲は倍を超える。

 攻撃こそ最大の防御を体現してる。

 

 回転しながらのビームの威力が弱くても俺のシールド残量じゃどうにもならねぇ……!

 

 相手のビームが弱くなることを理解しても「零落白夜」をかますにはエネルギーが足りず捨て身すらもままならない。

 となると、鈴が隙を作るまで待たなくてはならない。

 鈴は巨大な敵相手に果敢に挑んで確実にダメージを与えている。

 しかし、鈴もまた敵の反撃を受けてダメージを負っている。

 鈴のことを信じてはいるが鈴のことが心配で仕方なく見ているだけの自分を許せない。

 

「くっ……!」

 

 そんな自分の無力感を噛み締めている時だった。

 

「一夏ぁっ!!!」

 

「な、なんだ!?」

 

 突然、アリーナに大声が響き渡った。

 その声の持ち主は

 

「男なら……男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

 箒だった。

 よく見てみると、箒は中継室にいて箒の周りには審判とナレータが伸びていた。

 どうやら、箒が気絶させたのだろうか。

 全く、起きる気配がない。

 俺が箒の行動に呆気に取られていた時だった。

 

「あいつ、何やってんのよ!?

 とっとと逃げ―――!!」

 

 鈴も箒の行動によって中継室を見たのだろうか箒に避難しろと言おうとしていた。

 だが、俺は鈴の方に目を向けた瞬間

 

「……!?

 鈴!!早く逃げろぉ!!!」

 

 俺は鈴に向かって力のある限り叫んだ。

 

「―――え?」

 

 しかし、最悪なことに鈴は俺の叫びの意味が分からなかった。

 そして、俺の嫌な予感は当たろうとしていた。

 

―ガシっ!―

 

「―――きゃあ!?」

 

「鈴!!」

 

 箒の声で鈴の集中力が途切れたほんの一瞬であった。

 例の「IS」も一瞬ではあったが、箒の行動に動きを止めたが鈴が箒に避難を指示しようとした瞬間に鈴の背後に回り、腰のスカートの様な装甲を変形させた巨大な一対の腕で鈴を拘束した。

 

「くっ……!!

 とっとと離しなさいよ!このぉ……!!」

 

「待ってろ、鈴!

 今、助けに―――!!」

 

 例の「IS」の「隠し腕」に捕まった鈴は身体をなんとか動かして抜け出そうとするが、相手の腕はびくともしない。

 俺は鈴のことを助けようと駆け寄ろうとした。

 

「……!?」

 

「鈴ぃん!?」

 

 だが事態はさらに悪化するだけであった。

 敵の「IS」はまるで処刑器具の拘束具のように鈴のことを逃がさず、彼女目掛けて処刑器具の刃であるビームの発射口のある腕を鈴に向けた。

 このままでは鈴は逃げられない。

 俺はただひたすら何も考えず、がむしゃらに鈴を助けようとした。

 次の瞬間

 

―ドゴォン!!―

 

 響き渡ったのは轟音だった。




ゴーレムの「隠し腕」。
なぜできたかと言えば、天災が一つ下の生意気な後輩に対して激しい対抗心抱いていてその結果の彼女の十八番戦術潰しのためです。

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