奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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Eー2の駆逐古姫の先制雷撃を避けた雪風……マジ、幸運艦(しかも、これで作戦成功で対空カットイン、魚雷カットイン連発してるし)


第23話「鬼百合」

 例の無人機との戦いの後、俺、鈴、セシリア、箒、そして、雪風の五人は呼び出しを喰らった。

 誰に呼び出しを喰らったかと言うと、先ず一人は当然ながら責任者である千冬姉だ。

 ただ千冬姉自体はそこまで気にしていないようだった。

 だけど、問題なのは俺たちを呼び出したもう一人の人物(・・・・・・・)である。

 そのもう一人とは例の無人機に本当の意味でのトドメをさした人物である。

 

―バチンッ!―

 

「……いた!?」

 

―バチンッ!―

 

「……痛っ!?」

 

―バチンッ!―

 

「……ぐっ!?」

 

―バチンッ!―

 

「……!?」

 

「え!?」

 

 そして、たった今そのもう一人の人物はセシリアを除く俺たち四人に対してビンタをかました。

 その顔は明らかに不穏だった。

 ただその表情はとても見慣れたものであった。

 いつも心配をかけると目の前の人はいつもそんな顔をする。

 彼女(・・)は俺にとっては近所のお姉さんで俺の憧れ(・・)の人でもあった。

 

「なんで、私がぶったのかわかりますか?」

 

「な、那々姉さん……」

 

「せ、先生……」

 

 俺と鈴は那々姉さんの剣幕に圧されて怯んでしまった。

 そう、俺たち五人を呼び出しているのはこの人、川神 那々だ。

 ちょうど無人機襲撃時に那々姉さんは学園の外にいて、雪風が俺を庇って例の無人機の砲撃を喰らおうとした直前に、例の無人機が作ったアリーナの遮断シールドの穴から突入して間一髪の所で雪風を救った。

 久しぶりのお姉さん分との再会と雪風が無事であったことに喜びを感じようとした矢先、かなり険しい顔をした那々姉さんの見て俺は焦りを感じた。

 これは必ず雷が落ちる前兆だからだ。

 それと鈴もかなりビビっている。

 理由としてはここに連行される途中で鈴が那々姉さんのことを『先生』と呼んだことが気になり訊ねてみると、なんと鈴を中国で鍛えていたのは那々姉さんだったのだ。

 世間は狭いと思ったがまさかそうだとは思わなかった。

 しかし、そう言った話題で会話に花を咲かせようする前に俺たちは那々姉さんに大目玉とビンタを喰らってしまった。

 そんな中、俺は那々姉さんの登場について現在起きていることで二つの疑問を抱いている。

 

 でも……箒の奴、どうしたんだ?

 せっかく、那々姉さんと会えたのにノーリアクションなんて……

 

 一つ目は俺が不思議に思ったのは箒の態度だった。

 箒の例の行動に関しては後から俺も何か言おうと思ったが、それでも箒が那々姉さんと久しぶりに会えたと言うのに無反応なのが気になって仕方がない。

 箒は那々姉さんに物凄く懐いていた。

 それも実の姉よりも。

 そんな箒が那々姉さんを前にしているのに目を背けているのはどこかおかしい。

 と俺が箒の態度に訝しんでいると

 

「か、川神さん!?

 いくら何でもあんまりではありませんの!?

 一夏さんたちは学園の皆様を守ろうとしただけですのに!!」

 

 この中で唯一、ビンタを喰らっていないセシリアが那々姉さんの行動に抗議した。

 前に調べてみたことがあったけれど、那々姉さんは千冬姉と並んで「世界最強」と呼ばれる「IS」操縦者である。

 その那々姉さん相手に盾突くのは「IS」に関わる人間にとってはかなりの勇気がいることだと思えるのでセシリアの度胸に驚いてしまう。

 

「セシリア・オルコットさんですか?」

 

「は、はい!」

 

 セシリアの抗議に那々姉さんは向き合った。

 一瞬のうちに空気が張り詰めた気がする。

 セシリアも先ほどからかなり目が泳いでいる。

 それとは対照的に那々姉さんはかなり冷静だ。

 俺は那々姉さんが何を言うのか固唾を飲んで見守ろうとした。

 

「あなたは少し、勘違いをしています」

 

 え?

 

「勘違い……ですか?」

 

 那々姉さんは突然、そんなことを言ってきた。

 俺は彼女が何を言っているのか理解できなかった。

 

「そうです。

 私は別にその子たちを咎めるつもりはありません。

 なぜなら、私はまだこの学園の教師でありませんので」

 

「「「「……え?」」」」

 

 那々姉さんの予想外過ぎる発言に雪風以外の俺たちは思わず、声を出してしまった。

 俺はてっきり、俺と鈴は避難命令を無視したこと、箒は中継室を乗っ取ったこと、雪風はピットの遮断シールドを破壊するために大量の爆薬を使ったことで怒られると思っていた。

 

「少なくとも、この場の責任者であった織斑先輩が何も言わないのであれば私は今回の時点で部外者に過ぎないので懲罰を与えるつもりはありませんし、私にはその権限もありません」

 

 那々姉さんは千冬姉の方を見ながらそう言った。

 どうやら、千冬姉は俺たちを咎めるつもりはないらしい。

 そして、那々姉さんもそれに従うしかないらしい。

 

 え?じゃあ、どうして俺らはぶたれたんだ?

 

 ただそれだと俺たちがなんでぶたれたのか理解できなかった。

 そう思っていると那々姉さんはその理由を言った。

 

「これは心配させられたことに対する私なりの行動です」

 

「うっ……」

 

「そ、それは……」

 

 それを言われると俺と鈴は弱かった。

 よく考えなくても今回の件はいつ命を落としてもおかしくないものだった。

 実際、箒は例の無人機に狙われそうだったし、鈴は敵に拘束され死にかけ、俺は最後に油断して敵の砲撃を受けるところだったし、雪風はその俺を庇おうとした。

 今、考えるとかなりゾッとする。

 そう考えると、俺と箒を弟や妹のように可愛いがってくれて、さらには鈴のあの慕いっぷりからすると鈴の先生である那々姉さんからすれば心配で仕方がなく怒るのも無理がない。

 

 後で千冬姉と山田先生にも謝らないと……

 

 那々姉さんに言われて改めて自分が色々な人間に心配をかけたことを認識させられた。

 

 あれ?

 ちょっと待て……それじゃあ、なんで雪風もぶたれるんだ?

 

 しかし、ここで気になるのはなんで那々姉さんが雪風にまで感情的になっているかだ。

 確かに那々姉さんは子どもに優しいイメージがあるが、流石に見ず知らずの人間相手にはビンタはかまさないだろう。

 あれはなんだかんだで姉さんなりの愛情の現れだし。

 

 そう言えば……雪風の奴……

 

 俺はもう一つの気になったことを思い出した。

 それは雪風の様子だ。

 明らかにいつもとは違う。

 俺がよく見る雪風は独特な大人っぽさがあるが、どこか朗らかさがあり、真剣な時には本当に真剣だ。

 こう言った状況では彼女は毅然としているイメージが強い。

 だけど、今の彼女はそうじゃない。

 今の彼女は那々姉さんのことを見つめているが、どこか心在らずと言った感じに思える。

 

 どうしたんだ?雪風の奴……

 

 俺が雪風の様子が気になっていると

 

「……何が心配ですか」

 

「……箒?」

 

 箒がそう呟いた。

 そして、

 

「私のことを置いていったくせに今さらになってそんな保護者面しないでください!!」

 

「なっ!?アンタ、先生に向かって何言ってんのよ!?」

 

「お、おい、箒!?」

 

「………………」

 

 突然、箒が那々姉さんのことを罵り始めた。

 その箒の突然の行動に鈴は自分の師を罵倒したことに対して怒りを示し、俺は訳が分からなかった。

 さっきから箒の那々姉さんに対する態度に違和感はあった。

 俺の知る箒の那々姉さんに対する尊敬の念や慕い様からすると今回の件は到底考えられない。

 那々姉さんはと言うと、その罵倒を甘んじて受けているようにも見えた。

 

「アンタねえ……!!

 雪風の件もそうだけど、今回の中継室も何やってるのよ!?

 危うく、死人が出るところだったのよ!?

 それに加えて、先生まで馬鹿にすんの!?」

 

 鈴が怒鳴りたくなるのも無理はない。

 実際、鈴は箒の行動のせいで間接的に死にかけたし実際に箒は中継室の中にいた何人かを気絶させている。

 下手をしたら死人が出てもおかしくはなかった。

 

「黙れ!貴様には関係ない!!」

 

「な、何ですって~!!?」

 

 それに対して、箒は冷静になれず鈴のことを怒鳴ってしまい、それが火に油を注ぎ鈴も我慢の限界で今にも掴みかかろうとしていた。

 

「お、おい!?二人とも、落ち着けって!!」

 

「落ち着きなさい!!」

 

 俺とセシリアは二人を止めようとした。

 こんな時はいつも雪風が冷静になおかつ、かなり高圧的に止めてくれるのだが、今の雪風には無理そうだった。

 まさに一触即発と言う空気が漂う中だった。

 

「……箒ちゃん」

 

「……!」

 

 先ほどまで箒の罵倒を黙って受けていた那々姉さんが口を開き、昔と変わらない呼び方と窘めるかのような声音で箒の名前を呼んだ。

 その彼女の静かな声にこの場にいる全員が注目した。

 

「あなたが私のことをどう思っていても構いません。

 ですけど、これだけは言わせてください。

 あなたはそんなことを言う子じゃないはずです」

 

 那々姉さんは箒よりも少し高い目線を彼女に合わせるために身をしゃがませて箒のことを優しく諭した。

 

「な、那々姉さん……」

 

「せ、先生……?」

 

 これだ。これが那々姉さんなんだ。

 いつも穏やかではあるが、どこかおっかないところがある。

 けれども、時に相手を包み込むような包容力を垣間見せる。

 だから、俺たちは彼女のことを慕っていたんだ。

 

「……っ!」

 

「あ、おい!箒!!」

 

 そんな那々姉さんの姿に耐えられなかったのか箒は部屋を飛び出して行った。

 昔から箒は那々姉さんに頭が上がらない。

 それは那々姉さんには敵わないこともあるとは思うが、同時に箒のことをしっかりと真っ直ぐと受け止めるからだ。

 両親の記憶がない俺にとっては仮に母親がいるとすれば、それは那々姉さんみたいな存在だと考えている。

 当然、そんな那々姉さんの包容力は箒にとっても同じだろう。

 那々姉さんの方を見てみると那々姉さんは全く怒っていない。

 それどころか、どこか切なそうだ。

 

「川神、その―――」

 

 そんな那々姉さんと箒のやり取りを見て千冬姉が那々姉さんに声をかけようとするが

 

「いいんです。先輩」

 

 那々姉さんはそれを微笑みながら制した。

 そして、そのまま

 

「これも自分が蒔いた種ですから」

 

 え……

 

 彼女はまるで何かを背負っているかのように言った。

 俺は那々姉さんが何を言っているのか理解できなかった。

 

「―――そうか……」

 

 千冬姉はそれ以上は何も言わなかった。

 俺、いや、俺たちは二人のやり取りを見て自分たちが追究できるものではないことを痛感させられた。

 

「鈴音さん」

 

「は、はい!」

 

 那々姉さんに何か言われると思って鈴は緊張しだした。

 鈴だけではなく再び俺たちの間に緊張が走った。

 だけど、那々姉さんがしたことは

 

「ごめんなさい。

 あの子の代わりに今回のことを謝ります」

 

「え!?」

 

 謝罪だった。

 那々姉さんは箒が鈴を不愉快にさせたことを頭を深々と下げながら謝ったのだ。

 俺たちはその行動に度肝を抜かされた。

 けれども、俺はなんとなくだけど那々姉さんのこの行動に納得がいってしまう。

 那々姉さんは本当に「お母さん」みたいな人だ。

 俺たちを叱ることもあるけど、同時に見捨てないし、俺たちのために頭を下げることすら厭わない。

 だから、俺や箒、さらには千冬姉でさえ彼女のことを信頼してしまう。

 

「や、やめてください!

 先生が謝ることじゃ……!」

 

 那々姉さんの行動に対して、鈴は頭を上げて欲しいと懇願した。

 鈴のその慌てぶりは千冬姉に対する苦手意識とは異なっていた。

 それは鈴が本当に那々姉さんのことを慕っていて尊敬する証拠だと物語っていた。

 鈴は明らかに自分の先生がそんな行動をすることを望んでいない。

 

「そうですか……

 ありがとうございます。

 鈴音さん」

 

「い、いや……その……」

 

 鈴のその言葉を聞いて那々姉さんは感謝を口に出した後に頭を上げた。

 鈴はその行動に安堵している。

 二人の間に信頼関係が出来ていることが解る光景だ。

 ようやく、一段落ついたと思った時だった。

 

「……先輩。

 すみません。一つだけお願いがあります」

 

「……なんだ?」

 

 那々姉さんは千冬姉に頼みごとがあるらしい。

 一体、何なのだろうか。

 すると、彼女はある人物のことを指差した。

 

「その娘と話をさせてもらえませんか?」

 

「「「「……え?」」」」

 

 それは雪風だった。

 そう、那々姉さんは雪風との会話をしたいと頼み込んだのだ。

 俺たちは一斉に呆気に取られた。

 その俺たちの中には雪風もいた。

 先ほどまでボーっとしていたのに彼女まで反応した。

 

 那々姉さんは一体……何を……?

 

 俺は彼女の行動の真意が読み取れず混乱してしまった。

 

「……分かった。

 だが、私たちも後で色々と話をしよう。

 積もる話もある」

 

「「「え」」」

 

 千冬姉は雪風との会話を許可した。

 どうやら那々姉さんと雪風の二人だけの会話が決まったらしい。

 俺たちはただただ流されるだけだった。

 

「織斑、凰、オルコット。

 貴様たちはもういい。

 いくぞ」

 

「え!?だけど……」

 

 千冬姉はいきなり雪風以外の全員に部屋から出るように言った。

 俺は反論しようとしたが

 

「いいから早くしろ」

 

「「「は、はい!」」」

 

 千冬姉の迫力に圧されて俺たち三人は従った。

 一体、雪風と那々姉さんは何を話すのだろうか。

 気になるけど、どうやらかなり込み入った話になる気がする。

 

 雪風に謝らないと……それと……

 

 部屋を去る時俺はある決意をした。

 今度は逃げたくないから。

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 彼女(・・)が望んだことでこの部屋は私と彼女の二人きりになった。

 私は声をかけられずにいる。

 理由は簡単だ。

 怖いからだ(・・・・・)

 私は心の中で彼女(・・)彼女(・・)だと思っている。

 彼女は似ている。

 容姿も、動作も、性格も、声も、あの頬を打つ痛みも、叱責も、そして、あの言葉も。

 全部、彼女のものと同じだ。

 だから、私はどこか心の中で期待してしまっている。

 彼女(・・)ではないだろうかと。

 

 でも……あの人は……

 

 彼女は死んだ。

 そう、いないはずだ。

 確かに私も死んだ。

 だから、彼女がここにいても不思議ではないとも思える。

 けれども目の前の彼女は既にこの世界にいた。

 しかも、違う名前で。

 期待が大きくなるたびに違かったらと思うと苦しい。

 だから、私は今、彼女に否定されることが怖い。

 期待と希望を失うことが。

 私は何も言えずただ俯くことしかできなかった。

 

「……立派になりましたね」

 

「……え」

 

 彼女はまるで私を知っているかのように言った。

 私はそれを聞いた瞬間、何も考えられなくなった。

 けれども私はその言葉を、この声で、この人に言われることを求めていたかもしれない。

 

雪風(・・)

 

「……っ!」

 

 目の前の彼女は私の名前をニッコリと微笑みながら呼んだ。

 それは普段は何を考えているんだと、どんな無茶を吹っ掛けて来るのかと、今日の訓練はどれほど大変なのかと私たちを震え上がらせていたよく見た笑顔だった。

 だけれども、私は怖くはなかった。

 なぜならば、それはあの時(・・・)と同じだからだ。

 あの初陣の時と。

 私はそれを見て勇気を振り絞って

 

「……神通(・・)さん?」

 

 彼女の名前を声が震えて上手く伝えられなかったかもしれないが、そうであって欲しいと思いながら彼女(・・)の名前をぶつけた。

 すると

 

「……その名前(・・・・)で―――」

 

「……!」

 

「呼んでくれる娘とまた(・・)会えて嬉しいです」

 

「……っ!?」

 

 彼女は否定しなかった。

 決して、否定しなかった。

 それどころか目に涙を浮かべながら喜びを浮かべていた。

 

「うぅ……」

 

 私はそれを聞いた直後

 

「うわああああああああああああああああ!!」

 

 今までこの世界では泣くまいと思っていたのに我慢できずに子供のように泣きじゃくりながら彼女に駆け寄って彼女に飛びついた。

 彼女はそんな私を受け止めた。

 

「神通さん……!!神通さん……!!

 神通さん……!!!

 うあああああああああああぁぁあぁぁああぁあ!!!」

 

 泣きながら私は彼女の名前を呼び続けた。

 私に「水雷魂」を叩き込み、厳しいけれど私たちのことを誇りに思い、私が「目標」にしてきた「華の二水戦旗艦」。

 その彼女がそこにいる。

 コロンバンガラの戦いで再度突入する前や戦いの後に浜風に指揮を任せて一人残って彼女を捜索し続けた時と違って応答を待つのではなく、彼女の存在が確かにそこにあるかを確かめるように私は呼び続けた。

 

「ううぅ……ぐすっ……!!ひっく……!!

 神通さん……」

 

「本当に……本当に立派になりましたね……」

 

 彼女は、神通さんはそんな母親に縋る子供の様な私をあやす様に優しく抱きしめてくれた。

 あの時(・・・)と同じだ。

 もう30歳にもなると言うのに私は大人気なくそうしていたかった。

 既に彼女と別れてから28年も経ったのにそれでも私は彼女に甘えたかった。

 このぬくもりをただ感じていたかった。




みんな、どうして川神さん=神通さんだと解っちゃんだろう……
隠すのに苦労したのにな……

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