奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「あ、雪風!」
神通さんと別れてから私室への帰路に着いていると、私の姿を確認して一夏さんたちが駆け寄ってきた。
「あ、皆さん」
色々なことがあって、色々な感情が胸の中に存在するが私は平静を装って彼らに接しようとしたが
「雪風!アンタ、大丈夫だった!?」
「……え?」
なぜか血相を大きく変えた鈴さんに妙に気遣われてしまった。
「あの……?どうしたんですか?」
私はその心配ぶりに戸惑った。
よく見てみると、一夏さんもセシリアさんも、いや、特にセシリアさんの方がかなり心配を顔に浮かべていた。
彼らの様子に私が不思議に思っていると
「先生と二人きりとか大丈夫だったの!?」
余りにも身に覚えがあり過ぎる理由を彼女はぶつけて来た。
「あ~……そう言うことですか……」
私はなぜ彼らがここまで私の身を案じて来たのか納得してしまった。
私も良く、大反攻作戦が始まる前に「二水戦」で神通さんに鍛えられていた時はよく、朝潮型や陽炎型の姉妹たちと一緒に神通さんの一挙一動、いや、言動に対してすらおっかなびっくりであった。
鈴さんは神通さんのことを『先生』と呼んでいることから、きっと彼女もまた神通さんの教えを受けたのだろう。
……となると、彼女は私の妹弟子になりますね?
まさかこの世界に来てから妹弟子が新しくできるとは思いもしなかった。
そして、同時に彼女に抱いたどこかしらの親近感にすら納得がいった。
一対一で私が神通さんと話し合いをしたのを考えたら彼女が杞憂を浮かべるのも仕方がない。
一夏さんやセシリアさんの反応も恐らく、鈴さんの話と先ほど見た神通さんの平手打ちを見たことによるものなのだろう。
……何というか、神通さんらしいですね……
そんな三人の様子を見て、私は微笑ましかった。
まさか、「この世界」で「二水戦」の光景を目にできるとは。
最早、二度と会うことも叶うまいとしていた師に再び出会うとは。
彼女のあの威圧を受けられるとは思いもしなかった。
それなのに「奇跡」が起きて彼女と再会した。
今まで存在した寂しさが薄まり、再会と期待による喜びが今の私を包んでいる。
「大丈夫ですよ。
じ……川神さんとは積もる話があって少し、お説教と思い出話に花を咲かせていただけです」
「「「……え?」」」
危うく『神通さん』と呼びそうになったのをすぐに言い直して、彼女との会話の内容を嘘ではない建前を私は口に出した。
三人は予想外な私の発言を耳にして呆気に取られた。
「……ちょっと、待て……雪風……
お前、那々姉さんと……知り合いなのか?」
私と神通さんの関係に疑問を抱いたことで一夏さんが訊ねてきた。
すると、一夏さんの問いを皮切りにセシリアさんと鈴さんも答えを待ち望むかのような目を向けて来た。
ここまでは予想できてたことだ。
神通さんとはこれからこの学園で三年間付き合っていくことになる。
その期間の中で私はきっと、神通さんとは他人のフリをしようとしてもボロが出ると思う。
「はい。彼女は私の
だから、なるべく
「「「えええええええええええええええ!?」」」
当然ながら三人は驚愕した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!?
それ、いつの話なの!?」
どうやら一年前から神通さんの指導を受けていた鈴さんは信じられないようだったらしく、詳しいことを訊ねて来た。
「……そうですね……
二年前に「初霜」を受領して倉持で彼女の訓練を受けましたよ?一年間ほど」
私は偽りの過去を話した。
この世界における私は孤児と言う扱いだ。
だからこそ、私はそれを基に神通さんとの関係を相談の上で考えた。
彼女のこの世界における経歴と共に。
「……え?雪風ってそんなに早くから「IS」に関わってたのか?」
「そ、そうですわ……
「IS学園」入学の二年前からなんて……普通は……」
一夏さんがその疑問を投げかけ、専門家であるセシリアさんが乗ったことで話題はどうやらそちらにずれそうだ。
「……ええ、まあ、それが高等教育を受ける条件でしたので……」
再び私は嘘半分、事実半分のことを口に出した。
「……え?それってどういう……」
どうやら一夏さんは完全に私の過去に食いついたようだった。
これならば、神通さんとの関係をこれ以上詮索されることもないだろう。
「……私、両親がいないんですよ……」
艦娘にとっては当たり前のことだが、人間としては異常な事実を私は明かした。
「……え」
「それって……」
予想外だった私の答えに一夏さんとセシリアさんは困惑してしまった。
「……私の「IS適正」がAでしたので、倉持との取引で経済的な事情で高校に入れなかったので「IS学園」に入ったんですよ……私……」
私は全て嘘を吐いた。
「あ、ごめん……」
「ごめんなさい……辛いことを訊ねてしまって……」
「いえ、大丈夫ですよ」
嘘を吐いて彼らの罪悪感を煽るやり方に対して心苦しいが私にはそうするしかなかった。
特にセシリアさんに対しては彼女が両親を亡くしていることもあって、できればこう言った嘘は吐きたくなかった。
だけど、私の本当のことなど話してもきっと信じてはもらえないだろう。
だから、こうするしかなかった。
……あの頃が懐かしいです……
私は嘘とは無縁であった一駆逐艦としての時期が懐かしくて仕方なかった。
そもそも、嘘を吐いて恥と感じないような人間には私はなりたくないし、嘘を吐くこと自体に私には抵抗感がある。
それでも嘘を吐くしかないと言うのはある意味、生き地獄だ。
そんな時であった。
「……あぁ!?
もしかすると、先生が言っていた「教え子」てアンタのこと!?」
「……え?」
私が嘘を吐いてでもずらした話題が鈴さんのその一言で再び
注目を浴びようとしていた。
「……なんだよ、鈴?
那々姉さんがどうしたんだよ?」
鈴さんの言葉によって完全に私の目論見は崩れ去った。
一夏さんどころか、セシリアさんすらも好奇心に煽られている。
しまった……この世界の神通さんの知名度をなめていました……
どうやら神通さんと親交のある一夏さんや鈴さんとは異なり初対面であるセシリアさんも私と神通さんとの関係は気になるようだ。
「もう一人の世界最強」の肩書を持つ神通さんは「IS」に携わる者としては気になるのは仕方ないのかもしれない。
……どうして、もっと早く気づかなかったんでしょうか?……私は……?
「IS学園」に入る前に私は「IS」関係のことは頭に叩き込んだつもりだった。
しかし、それは技術面のことだけであり、「IS」の著名人に関しては生みの親である篠ノ之博士、この学園の教師でもある織斑さんぐらいしか入念に調べておらず、それもある程度周囲と会話ができる程度のものでしかなかった。
おかげで致命的なことに神通さん、いや、川神那々さんの顔を私は知らなかった。
見たのは資料ぐらいだった。それも試合内容ではなく概要と結果だけの。
自分には関わりのないことだと断定したのが完全に裏目に出た。
しかし、今はそんなことよりもなんとしても鈴さんの発言に大袈裟な反応を示す二人のことを鎮静化する必要がある。
「い、いや……いつも私に先生は『あなた以上の才能がある教え子
その内の一人が雪風なら納得だわ……」
「……
「雪風さんレベルの人が何人もいるんですか!?」
だが、しかし先に鈴さんが恐らく、「二水戦」の面々のことを言ったことでさらに白熱化してしまった。
「い、いえ……それって多分遠回しに『自惚れるな』と言ってるだけなんじゃ?
基本的にあの人は褒めるよりも先にさらに訓練の内容を増やす方なので……」
私は若干焦りと気恥ずかしさを感じてそう言った。確かに私と同じ実力の面々ならば「二水戦」総員を考えて十六人、さらには私たちの前の「二水戦」も加えれば計32人いることになるだろう。
ある意味では彼らの言うことも間違ってはないだろう。
ただし、鈴さんの語った言葉は決して神通さんが私たち「二水戦」を特別扱いしたわけではないはずだ。
神通さんは基本的に褒める暇があったらさらに訓練量を増やす人だ。
ちなみに私は陽炎姉さん、不知火姉さん、天津風、霞ちゃん、大潮ちゃん、朝潮ちゃん達と共に「二水戦」の中では特に訓練量が多かった。
神通さん曰く『余裕そうなので、もう少し訓練を続けましょうか?』とのことらしいがそんなことは全くなかった。
個人的には神通さんの鈴さんへのその発言は少しお転婆っぽい鈴さんに対して神通さんが窘めただけだと思う。
だとは思うのだが、
……それでも、嬉しいんですけどね……
それでも私はそれが嬉しかった。
神通さんは私たちのことを忘れずにいてくれた。
「この世界」で過去のものであったところが、事実でさえ怪しかったのに彼女は私たちのことを記憶として扱い、覚えてくれていた。
それだけで嬉しかった。
……司令、どうか私のことも……気にしないでください……
たまに思い出すだけでいいです……
私はようやく初恋の人である司令に対して、そう思えた。
私が最期に目を閉ざすときに彼は来てくれた。
それだけで私は嬉しかった。
けれど、彼は私を忘れてくれるだろうか。
彼は私や磯風のことを娘のように見ていてくれた。
それなのに私は戦後、彼とは手紙だけのやり取りしかしなかった。
それなのに彼は来てくれた。
気に病んでなければいいと思っているが、私はたまには彼に思い出して欲しいとも思っている。
ワガママであるが、それが私の想いだ。
神通さんとの再会で私は自分の行動がいくらか振り返ることができた。
「……うわ……アンタて本当に先生の弟子ね?」
「……え?」
私がもう会えない人への思慕に駆られていると鈴さんはそう言ってきた。
「ああ、確かに……」
すると、今度は一夏さんが彼女の言動に頷いた。
「あの……それって一体どういうことですの?」
私と同じく困惑しているセシリアさんは彼らの納得に気になったらしく、二人に訊ねた。
「いや、何と言うか……」
「雰囲気が……似ていると言うか……」
「え?そうでしょうか?」
私はちょっと嬉しく感じつつもまさか彼女に似ていると言われるとは思わず、驚いてしまった。
敬愛する神通さんと似ていると言われるのはお世辞でも嬉しい限りだ。
それに鈴さんは神通さんの教え子で新しい私の妹弟子に当たる。
そう考えると、不思議な気持ちになったと同時に心のどこかで嬉しさも感じている。
私が改めて新たな妹弟子に対して微笑ましく思っている時だった。
「しかし……まさか、
「……はい?」
一夏さんのよくわからない発言が出て来た。
「……あの……何を言っているんですか?
……一夏さん?」
ちょっと、いや、ちょっとどころではない納得のいかない彼の発言の意味に少しムッとしたことで私は彼に訊ねた。
「いや、俺も昔は那々姉さんに鍛えられてたんだよ……
それで雪風て多分、中二の時位から那々姉さんの教え子になっていたんだからある意味、俺の
と思ってさ」
一夏さんは全く悪意無しの自嘲染みた独白を述べた。
………妹弟子……?私がですか……?
その冷静な事実と全く反する考察に対して、私はなぜか無性に腹が立ってきた。
確かにある程度一夏さんの言う通りかもしれないが、私が仕方なしに弟子としての経歴を詐称したのもあるが、とても納得がいかない。
少なくとも私の方が彼より年長の弟子だ。
つまり、私が姉弟子で、彼が弟弟子のはずだ。
なんだろうか、この磯風に
『はっはははは!私に『お姉ちゃん』と呼ばれたければ、もう少し大人らしくなれ』
と散々馬鹿にされた時と同じくらいの屈辱感は。
「……そうですか、では次回からの訓練は私以上に頑張ってくださいね?
「へ?」
「「なっ!?」」
私は腹立ち紛れにそう言った。
その私の一夏さんに対する呼び方にセシリアさんと鈴さんは驚愕しているが、決してそう言った色目を使ったわけではないのでそんな反応をしないで欲しいのだが。
「……あの……雪風?
もしかすると……怒ってるのか?」
一夏さんはどうやら私が怒っていることに気づいたらしい。
だが、ここで肯定するわけにいかない。
ここで肯定すれば私の過去がばれる可能性があるからだ。
しかし、それでも本来ならば弟弟子の彼に妹弟子と言われるのはあれだ。
私の姉弟子としての沽券に関わる。
言っておくが、私はこういう件に関してはお姉ちゃんとどっちが姉かと言うことで言い争いになったり、舞風以外の妹たち(と言うか、その舞風からも姉扱いされたのかも微妙だった)からも姉扱いされなかったりしたことで割と気にする方だ。
「……いえ?別に怒ってなんかいませんよ?」
私は何とか笑顔を取り繕ったが
「……あれ、絶対に怒ってるよな?」
「……
「……なんだかいつもの雪風さんとは違うような……?」
逆に怒っていると思われてしまった。
どうやら、セシリアさんと鈴さんには私が色目を使っている訳ではないのを理解してもらったらしいのだが、これはこれでマズい。
一応、笑顔は繕ったはずなのだが。
それどころか、さらに幼く見られてしまっている。
これでも私はお姉ちゃんで姉弟子なのだが。
ま、マズいです……
神通さんとの再会でかなり気が緩んでる気が……
我ながら一連のやり取りの中で大人気ないと思った。
今までこんな余裕などなかったのになぜ今の私はこんなことをしているのだろうか。
きっと、これは神通さんと言う存在がいることで甘えてしまっているからなのだろう。
私が焦りを覚えている時だった。
「雪風」
一夏さんが私に対していきなり真摯な目を向けて来た。
そして、そのまま
「ごめん!!」
一夏さんは唐突に謝罪してきた。
それも土下座までにいかなくとも、かなり頭を深々と下げてだった。
今の雪風は割と素だったりします。
雪風は成長したら普段お姉さんぶってますが、怒る時はものすごく可愛いと思います。