奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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箒も悪い子じゃないと思うんですけどね……
ただ鈴以上にちょっと……情緒不安定なだけで……


幕間4「瞳に宿すもの」

「……一夏さん?」

 

 一夏さんはいきなり謝罪した。

 彼が何に対して謝罪しているのか理解できず、私はただただ戸惑ってしまった。

 

「箒の言葉でお前が傷ついたのを知っていたのに俺はお前に何も言わなかった!

 本当にごめん……!!」

 

「……!一夏さん、それは……」

 

 一夏さんは篠ノ之さんが私に対して糾弾したことについて、私が気にしていた時に自分が何もしなかったことに謝罪したらしい。

 私はそんな彼に何と声をかければいいのか理解できなかった。

 

「鈴、お前に対しても謝りたい……

 ごめん!!」

 

 一夏さんは立て続けに鈴さんにも謝罪した。

 なぜ彼が鈴さんに対しても謝罪しているのか私には理解できない。

 

「ちょっと!?なんでアンタが謝るのよ!?」

 

 私と同じくそう思っていたのか鈴さんは訳が分からなかった。

 そう思っている時だった。

 

「……箒の件に対して、幼馴染(・・・)として謝りたいんだ!!」

 

「……え?」

 

 私は一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。

 なぜ彼が篠ノ之さんの分まで謝らなければいいのか理解できなかった。

 別に私は篠ノ之さんの発言に対しては傷ついたには傷ついたが気にしていない。

 だから、彼が私に何も言わなかったことに対しても怒ってなどいない。

 だが、鈴さんの場合は別だろう。

 私はピットの入り口を突破する寸前に「あの声」が聞こえたが、なぜあの時篠ノ之さんの声が響いたのか解らなかった。

 その後、私が目にしたのは例の無人機に鈴さんが拘束されていた姿であった。

 その直後、私は考えるよりも先に無我夢中で彼女を助けようとした。

 あの時の私は完全に冷静さを失っていた。

 私の胸に走ったのは怒り、そして、脳裏には「第二次ソロモン」、「ケ号作戦」、「ダンピール海峡」、「コロンバンガラ」、「レイテ」、「天一号作戦」、そして、彼女の触雷だった。

 たったあれだけの時間だったのにそれら全てが頭に過ぎり、形振り構わずに行動していたので篠ノ之さんの行動の意味など考える暇などなかった。

 しかし、今なら理解できる。

 どうやら篠ノ之さんのあの声と鈴さんが捕まったことは関係しており、鈴さんが先ほど篠ノ之さんに食って掛かったのはそう言うことらしい。

 

「はあ!?だから、なんでアンタが謝るのよ!?」

 

「そうですわ!!

 確かに……その……雪風さんの件に関しては確かに一夏さんにも非はありますけれど……凰さんのことに関しては一夏さんに謝る理由がありませんわ!!」

 

 鈴さんとセシリアさんは一夏さんに非がないことを必死になって主張した。

 一瞬、鈴さんに霞ちゃんの影が重なって見えた。

 きっと、霞ちゃんがここにいたらあれぐらい言うだろう。

 

「そうですよ!私もあの件については全く気にしていません!!

 ですから、謝らないでください!!」

 

 彼女らに続いて私も懇願した。

 私はそもそも「あの件」に関しては一夏さんどころか、篠ノ之さんに関しても憎んでなどいない。

 そんな風に謝られても困るだけだ。

 勝手に私が傷ついただけなのだ。

 

「……いや、だけど、―――」

 

 しかし、次の一夏さんの言葉で私は言葉を失いそうになった。

 

「―――せめて俺だけでも…あいつの分まで謝らないといけないだろ?」

 

「「「え」」」

 

 よく解らないことを彼は口に出した。

 どうして、彼が彼女の分まで謝らなければならないのだろうか。

 私たち、三人はしばらく同じような反応をするしかなかった。

 

 ……いえ、違います……これは……

 

 私はすぐに彼が何を以ってこのような行動を取ったのか理解できてしまった。

 

「……多分、俺が言っても今の箒は素直に謝らないと思うんだ……

 あの那々姉さんにもあんな態度なんだから……

 だから、俺が謝るしかないだろ。箒には後で俺が話しておくから」

 

 確かに篠ノ之さんのあの性格では謝ることはできないだろう。

 神通さんや一夏さんが言う通り、己の非を無意識のうちに感じていてもそれを高過ぎる自尊心が邪魔をする。

 それ故に一夏さんは自分が謝ることで彼女を庇おうとしている。

 

 ……あなたはそうやって守るつもりなんですか……?

 

 彼は篠ノ之さんのことを守ろうとしている。

 彼女のしたことに対して、自分が背負うと言う形で。

 余りにもそれは歪過ぎる。

 あの時、彼に対して感じた不安が今、片鱗を見せた。

 

 それが男の矜持とも言うんですか……?

 

 私は内心、苛ついている。

 彼がしたのは確かに純粋な優しさと勇気が動機で、人間としては美徳だろう。

 中にはこう言ったことに男気を感じて、彼に落ちる女性もいるし、称賛する人間もいるだろう。

 現に鈴さんとセシリアさんも僅か、ほんの僅かだが女の目をしている。

 

 あなた一人のそんな自己犠牲が……何になるっていうんですか?

 

 だが、私は違う。

 彼は確かに好青年だろう。

 年頃の恋を知らない少女ならば惚れるだろう。

 守られた女性も嬉しいだろう。

 だが、私は決して彼に対する評価を認めない。

 

 ……ああ、これが……神通さんに私が抱かせてしまった怒りですか……

 

 神通さんは生前の私の生き方に憤慨した。

 己を犠牲にすることなどそれは自己満足であり、遺された者や己に何かを託した者を傷つけ、裏切る行為なのだと言うことを私は自他の全てを見て来たことで理解していた。

 それでも私は進んでしまった。

 そして、目の前の少年はこちら側に来そうである。

 己のような人生を歩もうとする人間を見て激昂しないほど、私はできた人間ではない。

 それも私は神通さんに改めてそれを自覚させられた直後だ。

 私は彼の歪みを指摘しようとしたが

 

 いえ……私にそんな資格なんて……ないか……

 

 すぐに過去の己と目の前の少年を重ねてしまって言葉が喉から出なかった。

 私もかつては姉妹や戦友、司令達のために戦っていた。

 その私が目の前の少年を否定していいのだろうか。

 いや、否定はするべきなのだ。

 それは理解している。

 けれども、行動できない。

 彼と自分が重なって、彼の歪みを否定することが出来ない。

 少なくとも、彼は私と違ってまだ間に合う(・・・・・・)

 それなのに私は彼を否定できない。

 それはみんなを守ろうとしたことが間違いだったと自分に言う様に思えて。

 

 篠ノ之さん……あなたは本当に馬鹿ですね……

 

 初めて私は個人的な感情で篠ノ之さんに対して、怒りと嘲りを感じた。

 これは感傷から来る八つ当たりだろう。

 だが、そうでもしないと私はこの怒りを抑えきれない。

 今、一夏さんや先ほどの神通さんが自分たちに非がないのに自身のことで謝っているのに彼女は何を感じているのだろうか。

 そこに惚気を感じるのならば、それをさも当たり前だと思うのならば私は殴りたくなる。

 惚れた異性に頭を下げさせておいて守られた気分になるのならば無知蒙昧なんてものじゃない。

 大人が頭を下げているのに何も感じないのならば愚鈍なんてものじゃない。

 子どもそのものだ。

 見た目は成長しながら中身は丸っきり成長していない歪な存在だ。

 

 ……神通さんは気にかけているようですが……個人的には良い感情を抱けませんね……

 

 なぜ神通さんが篠ノ之さんを気にかけるのか理解できない。

 篠ノ之さんが不幸だから同情でもしているのだろうか。

 この世界での彼女の知り合いだからなのだろうか。

 だが、私は神通さんや一夏さんと違って彼女のことを特別扱いなどできる自信がない。

 少なくとも、己が守られてことに気づかないで己の不幸を免罪符にするような人間とは私は解り合えないだろう。

 しかし、それでも今は一夏さんのことをどうにかしなければならない。

 その場しのぎであろうと。

 

「……わかりました……

 では、今回の件に限ってはあなたに免じて気にはしません」

 

 背負う必要もないのに篠ノ之さんの分まで背負おうとする一夏さんに何の意味もない「許し」を私は与えた。

 

「雪風……」

 

 一夏さんはそれを聞いて嬉しそうだった。

 それを見て私は心の中で苦虫を噛み潰したような気分に陥った。

 

「ええと……一夏がそこまで言うんだし、雪風も許すんだったら私も……」

 

「本人たちが言うのならば、わたくしも言うことはありませんわ……」

 

 私に釣られて鈴さんも許し、セシリアさんは元々謝罪を受ける立場でもなかったことから何もいうことはないようだ。

 

「二人とも、ありがとうな」

 

「ま、まあ……先生にも言われてるし……」

 

「わたくしもこの件に関しては部外者ですし……」

 

 一夏さんに礼を言われて二人は悪い気はしないようだ。

 私はそれを見て少し残念だった。

 彼女たちの一夏さんを思う気持ちは本物だろう。

 だけれども、それ故に彼女たちは気づいていない。

 彼の危うさ(・・・)に。

 

 ……決めました……

 

 その時、私の心にとある感情が生まれた。

 

 彼が自分の背負ったもので潰れないように……

 せめて、私が彼を守りましょうか……

 

 それは背負わなくていいものまで背負うとするまだ未熟なこの弟弟子を守っていこうと言うことだった。

 きっと、彼は私が彼の歪みを指摘しても曲げないだろう。

 だから、私が彼が守っていくしかない。

 それが姉弟子としての私が思ったことだった。

 

 

 

「はあ~……箒の奴、話聞いてくれるかな……?」

 

 俺は自室に向かいながらこれから俺がやらなくてはならないことについて考え込んでしまった。

 箒は果たして、素直に今回の件を聞き容れてくれるだろうか。

 最近の箒はただでさえ、すぐにカッとなりやすい。

 いや、昔からだったのかもしれないが、最近は以前よりもどこか怒りやすくなっている。

 那々姉さんが来てくれたから少しは落ち着いてくれるかと思ったが、その那々姉さんにも噛みついたのだ。

 どうすればいいのだろうか。

 

 しっかし、まさか雪風が那々姉さんの教え子だったなんて……

 

 ふと俺は雪風と那々姉さんの意外な関係を思い出してしまった。

 最初、俺は雪風まで那々姉さんにぶたれたのは衝撃的過ぎて何とも言えなかったが、二人の関係を知ってからは腑に落ちた。

 那々姉さんは昔から俺たちがやんちゃが過ぎると必ずビンタをする人だった。

 普段は決して暴力は振るわないが、俺たちが心配をかける時に限ってはあの人は珍しく怒る人だった。

 あれは一種の愛情表現なのだろう。

 たまに俺は千冬姉と那々姉さんのことを前者を父親、後者を母親みたいに思ってしまう時があるが、俺に母親がいたらあんな感じなんだろう。

 

 ……雪風も家族がいないのか……?

 

 詮索するべきではないのは理解しているが、どうしても俺は「家族」のことが関係している時の雪風のことが気になってしょうがない。

 彼女はどうやら、かなり特別な事情で「IS」で携わり、高校の教育を受けるために「初霜」を受領して「IS学園」になったらしい。

 彼女は『経済的事情』と話しているが、俺はその先のことを想像してしまう。

 『聞かないで欲しい』と言うことは、恐らくただ貧しいとかの理由じゃないはずだ。

 

『私の目の前で二度と(・・・)誰も死なせない……!!!』

 

 例の無人機が鈴の命を奪おうとした時の彼女の剣幕は明らかに異常だった。

 今までの彼女も確かに戦闘時は普段と打って変わって激しい一面があったし、誇りを見せる時もどこか他人を寄せ付けない強さもあった。

 だが、あの時の彼女は目はいつもとは全く異なっていた。

 熱があるのにまるで機械の様だった。

 ただ生命を奪おうとする者を絶対に許しはしない。

 感情的なのに無感情。

 あるのは怒りだけ。

 それなのに荒々しさがない。

 戦闘面も明らかに違った。

 まるで相手を破壊し、生命を守る。

 たったそれだけのために生まれて来たかのようだった。

 

 あの状態の雪風と戦ったら……いや、戦いにもならないか……

 

 一瞬、俺はあの時の雪風と相対した時の仮定を考えたが、それは無駄だと瞬時に理解した。

 多分、あの雪風は戦いを戦いだと認識していない。

 あれは完全に相手を駆逐し、他者を守る。

 それだけの行為でしかないと思ってしまった。

 

『ええ……特に「姉」と言うものはそう言うものです……』

 

 彼女があの時、漏らした言葉がなぜか頭に浮かぶ。

 懐かしむように言いながらもどこか切なそうな彼女の顔がちらついた。

 彼女の無人機に対する、純粋なまでの殺気は彼女が歩んできた人生を物語っているのだろうか。

 

 ……増々、雪風のことが解らなくなってきたな……

 

 那々姉さんとの再会の後にどこか大人っぽかったのに妙に子供っぽさを見せるようになった雪風。

 誇り高さを見せて、間違った事を嫌い、決して相手を見下さない雪風。

 敵を倒すことに特化し、味方を守るためだけに戦う雪風。

 そして、「家族」のことになるとどこか切なそうな顔をする雪風。

 それら全てが同じ人物だと言うのが信じられないほどだった。

 

「一夏……」

 

 と俺が考え込んでいる時だった。

 

「箒か、どうしたんだ?」

 

 部屋の前で箒が待っていた。

 よく見ると、何か言い辛そうな顔だ。

 

 はあ……自分が悪いと思っているのなら、怒らなきゃいいのに……

 

 その箒の様子を見て、俺は那々姉さんが箒を庇った理由に納得がいった。

 妙にささくれているが、箒は箒のままだ。

 きっと、自分の心の中で自己嫌悪に駆られているのだろう。

 

「とりあえず、部屋に入ろうか?」

 

「……え?あ、あぁ……」

 

 積もる話はある。

 とりあえず、俺は部屋に入ってからある程度のけじめをつけようと思った。

 

「箒、雪風の件と今回の件だけど……

 お前にとっては嫌な事かもしれないけど、しっかりと聞いてくれ」

 

「………………」

 

 部屋に入ってから俺は前以って箒にとっては不愉快になることを伝えてから箒に今回の件を話そうと思った。

 

「……今回の件は俺はお前がやったことは間違っていたと思う」

 

「……っ!」

 

「……あの時、お前は放送室にいた人間を気絶させてたよな?

 それで、放送室から大声を出して……もし狙われたらどうするんだ?」

 

「そ、それは……」

 

 あの時、箒は放送室にいた生徒たちを木刀で気絶させた。

 そして、あの無人機はばっちりと箒の放送で放送室の方を見ていた。

 もし、あの時、無人機がビームを放っていたら放送室の人間はタダじゃすまなかっただろう。

 箒はようやく、自分のしたことの意味を理解したのか、いや、理解はしていたのだろうが、受け止めることが出来たことで顔に恐怖が浮かんだ。

 そのことに俺はどこか安心した。

 

「……それと、俺は雪風の戦い方を否定しない」

 

「……え?」

 

 俺は続けて、雪風のことについても俺の感じるままに伝えた。

 

「なんでだ……

 あいつの戦い方は……あんなに乱暴じゃないか……」

 

 俺の言ったことが信じられないと言った様子で箒は言う。

 箒は雪風の戦い方を嫌っている。

 確かに雪風は相手に痛みを与えることなどのラフプレイをして来る時がある。

 その姿に箒はとあることから思うことがあるんだろう。

 

 きっと……昔の自分を思い出しているんだろうな……

 

 初めて出会った時の箒は力を絶対視していた。

 力を振るうことに抵抗がなく、強い奴が一番と言う感じだった。

 だから、多少乱暴な雪風の戦いを見ていると昔の自分を思い出してムカつくんだろう。

 

 でも……

 

 俺は雪風は力を振るうことや自分の強さを鼻にかけるような奴ではないと俺は感じている。

 

「……箒……少なくとも、そんな乱暴な戦い方をする奴が……

 俺のことを自分の身を犠牲にしてでも守ろうとしてくれたんだぞ?」

 

「……っ!?」

 

 雪風のあの目は確かに異常だ。

 そして、彼女の戦い方がある意味常識から外れているのもひしひしと感じる。

 だけど、彼女の何かを守ろうとする。誰かを死なせまいとする意思は本物だと俺は感じる。

 そんな奴が単純に暴力的だとは俺は到底思えない。

 

「……とりあえず、今は(・・)謝らなくていい……

 だけど、それだけは覚えていてくれ」

 

「……わかった」

 

 きっと箒はまだ納得はしていない。

 いや、理解はしていても色々な感情がごちゃ混ぜになって困惑しているだけだろう。

 けれどもいつかは箒も彼女の異常さとそこにある真摯な何かを目にする時が来るだろう。

 

 ……雪風、お前がなんだろうが……俺はきっと……納得するよ……

 

 雪風の謎が深まるばかりではあるが、彼女がどんな過去があるにせよ、少なくとも俺は彼女を拒絶はしないだろうと思った。

 それほどまでに彼女のあの姿は彼女のことを物語っていた。




一夏が見た雪風→某魔眼持ちの「」接続者みたいな感じです
if歴史ですが、「天一号作戦」の名前は同じです。
戦場がアメリカ大陸寄りの太平洋のになっただけですが……

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