奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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公式でまさかの初風雪風。
大本営よ。もっと早く燃料を投下してください。
どれだけこの二人の絡みを待っていたことか……!


第5章「矜持と羨望」
第1話「噂」


「……「学年個別トーナメント」ですか?」

 

「はい」

 

 とある日曜日と言う名前の月曜日の自主訓練を終えた私は神通さんに呼び出され、彼女からのこの学園での名物の一つであるトーナメントについての話題を出された。

 神通さんと衝撃的な再会をし神通さんがこの学園の実技担当官と言う建前の警備員として着任してから既に一か月が経った。

 彼女を警備員とは余りにも豪華すぎて牛刀を以って鶏を割くような人事だとは思う。少なくともこの人がいる場所に攻めて来る暴徒に関しては哀れに思えて来る。

 最初、神通さんの着任時の様子は織斑さんと同じくらいの黄色い悲鳴がわき出した。

 

『……すまんな……川神……』

 

 その時の織斑さんの呆れとお詫びが同時に顔が浮かんだ瞬間は忘れられないだろう。

 

『……いえ、もう慣れましたから……』

 

 その後の神通さんの遠い目をした表情も忘れらないだろう。

 両者ともひどく哀愁が漂ってたのは恐らく、気のせいではないはずだ。

 そして、授業における神通さんの訓練はと言うと、少し物足りないものであった。

 具体的に言うと、明らかに「二水戦」、いや、「帝国海軍」のどの部隊よりも生ぬるくて私は信じられず、鈴さん(・・・)を除く生徒たちはあれだけで満足そうだった。

 完全に私と鈴さんは不完全燃焼で拍子抜けで不満に思ったほどだ。

 しかし、それらのことに対しての認識は初めての訓練の放課後に改めることになった。

 神通さんは急遽、募集制で「IS」の訓練を自らの指導の下にやると宣言した。

 当然ながら、私と鈴さんは半強制的に(と言ってもノリノリだが)、一夏さんとセシリアさんも興味あったらしく、他の生徒たちも神通さんと一夏さん目当てで応募した。

 まあ、結果は火を見るよりも明らかだったが。

 私も久しぶりにお魚に餌を、いや、地面に肥料をばら撒いたと言った方が良いだろう。

 ただそれだけの言葉で十分なはずだ。

 その時、私の胸には訓練の辛さ、苦しみ、屈辱感と共に懐かしさと嬉しさ、感動が訪れた。

 若干、他の面々に引かれたが。

 結果的に神通さんの指導を受けることになったのは私たち四人だけしかいなくなった。

 本当に充実した日々だ。

 しかし、日々の訓練に関しては自由参加だ。

 私は不満を覚え、神通さんも残念そうにしているが彼女曰く

 

『ここは軍じゃありませんからね。

 しがらみもあるんですよ』

 

 とのことらしい。

 ただそれでも週休二日なのになぜ全員が参加しないのか不思議だ。

 一夏さんとセシリアさんも週に四日しか参加しないのもどこか奇妙だ。

 ただ私は再び神通さんの訓練を受けられるだけ幸せなのだが。

 

「それで……なぜ私がその件で呼ばれたのでしょうか?」

 

 例のトーナメントは自主参加だったはずだ。

 なので私は極力関わらないようにしていたはずなのだが(一夏さんたちには物凄く残念がられたが)、この件でなぜ私が呼ばれたのか皆目見当もつかない。

 更識さんからも自由参加と言われているので出ても大丈夫だとは思うが。

 一体、トーナメントの何が理由なのだろうか。

 

「実はですね。今、一年生の間でとある噂が出回っています」

 

「……()ですか?」

 

 困った顔をして神通さんは言った。

 どうやら例のトーナメントに関わっている噂らしいが、それこそ私には無関係のはずだ。

 余計に私がなぜ呼び出されたのか解らなくなった。

 だが、次の一言でこのモヤモヤがさらに悪化することになった。

 

「はい。

 『トーナメントで優勝したら、一夏君と付き合える』とのことらしいです」

 

「……はい?」

 

 一瞬、彼女が何を言ったのか理解できなかった。

 いや、彼女が訓練中に『山城さんに向かって全速力で反航戦をしましょうね?』とか言われた事があるけれど、今回の件はそう言ったものとは全く違うはずだ。

 

「……すみません。神通さん……

 ちょっと、おっしゃった意味が理解できなかったので大変恐縮ながらもう一度お願いします」

 

 元教官と元教え子及び元上官と元部下の関係の時の癖から彼女にかなり気を使いながら確認を求めた。

 こんなことはあの「月月火水木金金」の日々でもなかったのだが。

 

「はい。

 ですから『トーナメントで優勝したら、一夏君と付き合える』とのことらしいです」

 

「……すみません、神通さん。

 どうやら、私の理解力と知識不足のようです。

 その……神通さんの言われた噂の内容が理解できないのですが……」

 

 私は理解できなかった。

 いや、正確には理解したくなかったのだろうか。

 なぜ、トーナメントで優勝することが一夏さんと付き合う、いや、交際することになるのだろうか。

 この世界では男女の恋愛事情は自由恋愛が当たり前だったはずなのでは。

 おのれ、「女尊男卑」。

 この世界では男子の恋愛事情も女性の圧力によって決められるのだろうか。

 それが事実ならばこれは我々、艦娘にとっての宣戦布告でもある。

 我々、艦娘にとっては「恋愛」は踏み荒らしてはならないものだ。

 

「……大丈夫です。雪風。

 私もなんでこのような噂が流れているのか、理解できませんので……」

 

 神通さんは余裕を崩すことはなかったがどう見ても呆れてることが窺えた。

 彼女も艦娘だ。

 それも亡き「呉の提督」を愛した。

 きっと、私と同じような感情を抱いているのだろう。

 

「……一応お聞きしたいのですが、この世界では男性を巡って女性が争い合うことは当然ではありませんよね?」

 

 思わず私は本気で訊いてしまった。

 「女尊男卑」がまかり通っているこの世界ならば、野生動物の争いのように群れのリーダーを決める戦いの様に勝者が男性を自らのものにしそうな可能性もありそうだ。

 ただ野生動物は雄同士が群れの雌を巡るものだが。

 それが本当ならば私は呆れを感じると共に怒りを感じるが。

 好きな異性がいるのならば、相手を無理矢理自分のものにするのではなく、相手を自分に惚れさせることが恋愛と言うもののはずだ。

 それを相手の都合や感情を無視するのは同じ女として苛立ちを覚える。

 少なくとも、私の価値観ではそうだ。

 

「……あなたがどう思っているのかは理解できますが、安心してください。

 流石にそんな無法がまかり通るほどこの世界は歪んでいません」

 

「……そうですか……でも、どうしてそのような噂が流れているのでしょうか?」

 

 笑顔で神通さんに否定された。

 否定されたことで安心感を覚えながらも私はなぜ蔓延しているのか理由が解らなかった。

 私は今でも「司令」に未練がある女々しい女であるが、榛名さんから「司令」を奪うようなことはしたくないと思えるほどには良識を弁えていると自負している。

 人の恋愛事を景品扱いするような噂に対して呆れしか感じない。

 

「……まさか、一夏さんがそう言ったんですか?」

 

 『強い女性と付き合いたい』と一夏さんが公言でもしたのだろうか。

 それならば、私も文句は言えない。

 人の恋愛観に関しては強制されたものではない限りは自由のはずだ。

 これでもあの世界で私たちは恋愛を貫いたのだから。

 ただ、『それでいいのか?』とは一夏さんに苦言を漏らしたくはなるが。

 私が思い付きで訊ねると

 

「いえ。それだけはないはずです」

 

 再び神通さんに否定された。

 

「……どうしてですか?」

 

 大体、見当がついているが私は確認を求めた。

 

「あの子はそもそも恋愛に対してがっつくような子じゃありませんし、女の子の心を故意には(・・・・)踏みにじる子じゃありませんから」

 

 神通さんは明らかに根拠はないが、ある意味では根拠に満ち溢れた見解を示した。

 妙に『故意には』と言う部分に力がこもっているような気がしたが、気のせいではないだろう。

 

「……本人に訊ねたんですか?」

 

 多分、訊いていないだろうと思うが、一応私はその是非を求めた。

 

「いいえ……これは私の個人的な推測に過ぎません」

 

「そうですか……」

 

 神通さんはやはり何の証言も証拠もなしに断言したらしい。

 それでは信憑性に著しく欠けるとは思うが

 

「……ですけど。実に説得力のある推測ですね」

 

 彼女の『故意に』と言う部分があまりに実感があり過ぎて私は納得しそうになってしまった。

 先入観を持って物事を判断することは危険だと私は十分理解している。

 だが、一夏さんのこの二か月の間での色男ぶりと女子に対する思わせぶり、さらには鈴さんの告白の件を思い出すと簡単に否定できないのだ。

 彼は鈍感だ。

 鈍感と言う言葉が彼のためにあるようだ。

 余りの鈍感さで不作為に女性を傷つけることが多くある。

 ただ擁護させてもらうと彼は決して、本人の意思では(・・・・・・・)女性を傷つけることはない。

 紳士的過ぎて、相手を傷つけるだけなのだ。

 詰まる所、彼が女性を試すようなことをすることはあり得ない。

 それが彼の欠点にして美点なのだ。

 

「伊達にあの子のお姉さんをしてはいませんでしたので……」

 

 私の反応に神通さんは懐かしさとため息を混ぜたような声を漏らした。

 それはきっと弟のような一夏さんが少なくとも他人の心を弄ぶような人間にはならなかったことへの安堵もあるのだろうが、幼いころから女性の心をいつの間にか奪うような無自覚な悪癖が残ったことに複雑な気持ちを抱いているのだろう。

 

「それで、雪風。

 あなたにお願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 神通さんは少し困ったような表情をし出した。

 それをみて私はついに本題だと感じて気構えた。

 どんなことであろうと私は承るつもりだ。

 神通さんからわざわざ頼まれているのだ。

 それを無下になどできない。

 

「「学年個別トーナメント」に出場して、優勝してくれませんか?」

 

「はい!頑張りま―――!!……はい?」

 

 私は意気揚々と昔の様に彼女の指示を受けようと思った。

 しかし、彼女の口から出て来た言葉が予想外過ぎたことで口が止まってしまった。

 

「……あのどうして、私が……?」

 

 元教官であり、元上官である神通さんの言葉に疑問を抱いて真意を求めようとすることに少しばかり恐れ多くも私は訊ねた。

 どうして、私が参加することになるのだろうか。

 少なくとも、例の噂とは私は無関係だったはずだ。

 一夏さんのことを景品扱いし、他人に恋愛を強要することには強い不快感を抱いてはいるが、今の話の流れでは明らかに不自然だ。

 

「簡単なことです。

 今回の噂の件は明らかに一夏君の意思を無視したものだからです」

 

「……はい。確かにそうですが……」

 

 神通さんの指摘は正しい。

 一夏さんはこんな馬鹿げたことをするような人ではない。

 彼は基本的に真面目だ。

 真面目な馬鹿だ。

 あの人は多少、他人を苛立たせることはあっても人の心を弄ぶような人ではないと心の底から叫べる。

 だから、今回の件はもしかすると

 

 ……鈴さんの件と同じ臭いが……

 

 例の鈴さんの告白の件と同様なもののはずだ。

 火のない所に煙は立たない。

 それが悪意にせよ、善意にせよ、好奇心によるものにせよ、噂には必ず何かしらの火種があるものだ。

 双方の意思疎通ができていないものや、一方的な思い違いな可能性もあるが。

 ただ今回の噂はそれが深刻化して生まれたのかもしれない。

 いや、正確には今回も(・・・)だが。

 

「ですが……その噂を真に受けた女の子が優勝して、それがただの噂だとなったら……どうなりますか?」

 

「……ああ……」

 

 神通さんのその予想を聞いて私の頭には考えられるだけの修羅場が思い浮かんだ。

 恐らく、この噂を耳にしたら学園中の女子は学園唯一の男子であり、見た目も中々な一夏さんを求めてこぞって参加するだろう。

 その中には当然ながら、篠ノ之さん、セシリアさん、鈴さんは含まれるだろう。

 ただでさえ、一夏さんを巡って牽制し合い、互いに悪態をつく仲の悪い方々だ。

 試合自体もそうだが、仮に一夏さんが交際しないとなれば頭に血が上ってひと悶着で済めばいいと言えるほどの状況に陥るだろう。

 どう転んでも一波乱あるだろう。

 この世界に来てから学んだ事ではあるが、異性を巡る戦いは熾烈らしい。

 鎮守府でも異性を巡る戦いはあったがここまでの物ではなかった気がする。

 

「ですので、あなたにお願いします」

 

「ですが、それでは逆効果になるのでは?」

 

 確かに私はこの学年の中では彼らに引けを取ることはないと言う自負はある。

 しかし、それでも私が参加すればさらにムキになりそうな生徒が出てきそうな気がしてならない。

 私が一夏さんに思うことがないにも関わらずに。

 だが、次の神通さんの指摘によって私は考えを改められることになった。

 

「いいえ。元々ただで収まりがつかないことです。

 ならば、一夏君に対して好意を抱いていないあなたが優勝すれば全て収まるでしょう」

 

「……!なるほど!そう言うことですか!!」

 

 神通さんの言う通りだった。

 今回の噂は信憑性が大してないにもかかわらず信じ込む生徒が多くいる。

 これでは優勝して何も得られるものはないと言ったら収拾がつかないだろう。

 人はどうしても己にとってうまい話に乗ってしまったり、信じてしまう所がある。

 捕らぬ狸の皮算用と言う言葉があるように。

 例えば、日露戦争後の日比谷焼き打ち事件がいい例だろう。

 日清戦争で多額の賠償金を得られたことで国民は日露戦争でも同じだと思い込み、自分たちの思っていた結果と違ったことに反感を覚えて帝国政府だけでなく、仲介を務めた米国政府の大使館も襲撃してしまい、米国からの評価がガタ落ちになったのだ。

 噂によるものであろうとそれが徒労で終わった時の人の不満から来る凶暴性は危険だろう。

 日比谷焼き打ち事件については金剛さんがあの伝説の戦艦に聞かされたことだ。

 それを金剛さんは佐世保で私と磯風に

 

『いいですか二人とも。

 たとえ、私たちは国民に理解されない時があるかもしれません。

 ですが、それでも私たちは彼らを守らなくてはなりません。

 誇りを忘れてはいけませんよ?』

 

 時に守るべき国民から石を投げつけられることがあっても、その国民を決して見捨てるべきではないと言いながら語ってくれた。

 思えば私が中華民国の総旗艦時代に日中の一部の国民にたまに『臆病者』と呼ばれても腐らなかったのは多くの戦友たちとの誇りもあったが、長門さんが私に与えた「総旗艦としての誇り」の訓辞と生まれたばかりの何も知らなかった私たちに語り掛けてくれた金剛さんとの記憶があったからなのだろう。

 金剛さんは未だに神通さんと並んで私の最も敬愛する艦娘の一人だ。

 私の誇りは私だけの誇りではない。

 今まで出会った戦友や姉妹たちによるものだ。

 

「私たちが否定するのは難しいと思いますしね……」

 

「確かにそうですね……」

 

 こう言った噂は真偽はともかく消すことはできない。

 それに噂はまだ表面化していないのも事実だ。

 学園側はまだ動く訳にはいかないだろう。

 いずれにしても私は保険と言うことになるだろう。

 本来ならば参加する義理はないが、生徒が暴徒化することで治安が著しく低下するのは各国の顧問がいる状況ではそんな失態は見せるわけにはいかない。

 それこそ日比谷の二の舞いだ。

 ここは決して私の日本ではない。

 それでも同じ名前を持つ国だ。

 愛着はある。

 そんな国が監督するこの学園でそのような乱痴気騒ぎを各国の有力者に見せる訳にはいかない。

 ただでさえ、例の無人機の件には緘口令が敷かれているのだ。

 これ以上の問題は防ぐ必要があるだろう。

 

「それに……あの子を「景品」のように見ている女の子にはあの子を任せられませんからね……」

 

「……神通さん」

 

「すみません。これは私の私情も入ってます。

 恐らく、こちらが最大の動機かもしれませんね」

 

 神通さんにとっては一夏さんは弟のような存在でもある。

 確かにそんな弟のような存在が自分の意思とは関係なしに交際の自由を奪われそうになっているのだ。

 彼女にとっては許容できないだろう。

 艦娘であった彼女にとっては尚更、認められないだろう。

 

「……わかりました。

 それを聞いたら余計に断れなくなりました。

 謹んで承ります」

 

 彼女のその言葉で完全に乗り気になった。

 今回の件は唐突なものであったが、それでも艦娘として、いや、一人の女として今回の件に関しては黙っていられない。

 まだ恋の何たるも知らない小娘たちの思い上がりを叩き潰す必要があるだろう。

 ただそれだけが今回の私の動機だ。

 相手を求めるのは間違いじゃないだろう。

 私もそう言った恋心は素晴らしいものだとは思っている。

 だけれども、自分の感情を相手に押し付けて強要させるのは間違いだ。

 

 でも、ちょっと司令に対して未だに未練がたらたらな私が言うのも……役者違いかもしれませんけどね……

 

 今回のことは多少同族嫌悪もある。

 もし私が榛名さんや金剛さんから力づくで司令を奪っていたら、きっと私は私自身を許さないだろう。

 確かに司令は愛おしい。

 だけど、司令の幸せこそが私の幸せだ。

 榛名さんとその娘が一緒にいて司令が笑顔でいるのならば、私はそれでいいと思っている。

 だから、己の恋心を言い訳にして想い人を傷つける人間に関しては苛立ちを覚える。

 そんな己の醜さと歪さを理解しながらも私は押しつけがましい恋や愛は粉砕するつもりだ。

 

「ありがとうございます。

 それともう一つ話しておくことがあります。

 実はですね。月曜日に転校生が来るのですが―――」

 

 私の目標が決まると同時に神通さんは感謝の言葉と共に新しい情報を伝えようとしてきた。




神通さんは割と過保護です。
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