奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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今回、雪風は妙なキャラ崩壊しています。
すみません。


第5話「真っ赤な……」

「では、本日から格闘及び射撃を含む実践訓練を開始する」

 

―はい!―

 

 織斑さんの号令の直後に一組と二組の生徒たちが一斉に返事をする。

 心なしか一組の生徒たちのやる気を感じられる。

 やはり、初めての実践訓練に対する期待があるのだろう。

 あと、多少の緊張感が感じられるが、決して織斑さんの背後にいる神通さんがニコニコと笑顔でこちらを見守っているからではないだろう。

 

「くぅ……校庭十周なんて……」

 

「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」

 

 いや、その理屈はおかしいでしょ……

 

 織斑さんの罰と神通さんの無言の肯定を受けてセシリアさんは不慣れそうな体力作り(「IS」なしの)に難色を示し、特に鈴さんは教官である神通さんの前で罰則を受けたことで屈辱感を感じている様だった。

 ただし、鈴さんの主張には私は異を唱えたい。

 

「鈴さん。

 止めるのが遅かったことは私も悪いとは思いますが、それはどうかと思いますよ?」

 

「……え?」

 

 止めるのが遅かったこともあって多少の後ろめたさは残るが、いつまでも背後で恨み言を聞かされ続ける一夏さんが可哀想に思えたこともあり、なるべく首を曲げないで視線を少し彼女に向けて止めようと思った。

 

「一夏さんが今朝はたかれそうになったのはあれはどう見てもあなたの時と違いましたし」

 

「え?何それ?」

 

「詳しいことは後で話します。

 ですから、今は授業に集中した方がいいと思います」

 

 とりあえず、鈴さん自身の名誉のためにもそれだけは言っておこうと思った。

 ボーデヴィッヒさんのあの行動と鈴さんの感情的な衝動を同列に扱うのは彼女が事の顛末を知ったら不快だろうし。

 それと鈴さんは納得していないようだが、説明は後回しにしておこう。

 この件は説明がややこしいし、それに今は授業中だ。

 ここでさらに文句を言い続けて罰則を与えられるのは酷だ。

 後、私も神通さんに叱られるのは嫌だ。

 

「今日は戦闘を実演してもらおう。

 川神先生。人選はお任せする」

 

「はい……それでは―――」

 

 織斑さんが授業内容を述べて神通さんに人選を承ると一瞬にして一組、二組の生徒たちがクラスの垣根を超えてまるで祈る様に目を瞑り出した。

 私としては別に「IS」の技術に対しては披露したい訳ではないが、神通さんの弟子として彼女に当てて貰いたいところだ。

 

「―――凰さん、オルコットさんのお二人に頼みましょう」

 

「「えっ!?」」

 

 残念ながら私ではなかったようだ。

 そのことに私は少し落胆した。

 

「お二人とも専用機持ちですし、態度面では見せられなかった「代表候補生」としての肩書をせめて技術面では見せて欲しいので選ばせていただきました」

 

「うっ……!」

 

「そ、それは……」

 

 神通さんは笑顔でかなりえげつないことを言い放った。

 特に鈴さんに対しては神通さんはにこやかに視線を向けている。

 多分、彼女は割と本当に自らの指導不足を嘆きながら鞭を加えようとしているのだろう。

 

「ですが、それでも不満そうなので……

 織斑先生。例のペナルティーを半分にすると言うのはいかがでしょうか?」

 

「「え?」」

 

 しかし、信じられない提案を神通さんは織斑さんにし出した。

 まさか、あの神通さんが訓練量を減らすと言ったのだ。

 あり得ない光景だ。

 

「そうだな。では、それに加えてお前たちが(・・・・・)勝った場合は残りの分も帳消しだ」

 

「なっ……!?」

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

 続いて織斑さんが示し合わしたかのように破格の条件を持ち出した。

 私にはそれが信じられなかった。

 あの二人が、特に神通さんが自ら科した罰則を取り消しに近いことをするとは。

 

 丸くなり過ぎでは……?

 

 私は一瞬、師を疑った。

 一応、一か月前からの自主訓練で彼女が昔のままだと言うことは理解している。

 だが、彼女はそんなことを言うような人ではなかったはずだ。

 

「あと、それと―――」

 

 私が困惑していると織斑さんが少し、ニヤついてセシリアさんと鈴さんに何か耳打ちした。

 すると

 

「さあ、かかってらっしゃい!」

 

「実力の違いを見せてやるわよ!」

 

 二人はすぐに対峙し合い、意気揚々となった。

 何を囁いたのだろうか。

 

「先輩……あなたと言う人は……」

 

 二人の反応を見て神通さんは困った顔をしだした。

 私は知っている。

 神通さんのあの表情は大体、彼女が姉妹に対して向けるものと同じであることを。

 

「まあ、こうした方がやる気を出すだろう」

 

 どうやら、織斑さんは神通さんを困らせるようなことをしたらしい。

 二人がやる気を出し、神通さんが困惑し、織斑さんが楽しそうな事。

 つまるところ『一夏さんにいい所を見せられる』と言ったところだろう。

 

 ……あなたはそれでいいんですか?

 

 織斑さんは二人を煽って楽しんでいる気がしてならない。

 もしかすると、今回の「学年個別トーナメント」に関しても同じ筋が考えられる。

 なぜ血縁関係的な意味で他人である神通さんの方が一夏さんの交際関係に対して危惧しているのだろうか。

 いや、もしかすると実の姉弟だからこそ織斑さんは遠慮がないし、心配もしていないのだろうか。

 

「それで、相手は鈴さんですの?

 それでもかまいませんが」

 

「ふふふ。こっちの台詞。返り討ちよ」

 

 二人は一夏さんに良いところを見せ少しでも相手よりも優位に立ちたいと思ってか意気揚々である。

 ただ私としては「IS」の腕と女性としての魅力は別物ではないのかと思ってしまう。

 確かに強い女性にはそこに美しさがある。

 金剛さんや大和さん、長門さんを始めとした戦艦娘、一航戦や二航戦、五航戦を始めとした空母娘、足柄さんや羽黒さん、古鷹さんを始めとした重巡娘、神通さんを始めとした水雷戦隊を率いる軽巡娘、奇襲や誘導を行う潜水艦娘、補給線を支える海防艦娘、そして、初霜ちゃんや不知火姉さん、朝潮ちゃん、霞ちゃん、磯風たち駆逐艦娘の雄姿を見て来た私は彼女たちを美しかったと心の底から自信を持って言える。

 だけど、篠ノ之さんを含めた一夏さんを取り巻く女性たちは自分たちの魅力を相手に見せつけるよりも先ずは普段の生活面において一夏さんへの態度を和らげるなり、直ぐにカッとならない方がいいのではないだろうか。

 前にはセシリアさんにも一応はその配慮ができる余裕があったが、最近はその余裕がなくなっている。

 確かに恋は競争の要素はあるにはある。

 しかし、恋の本質は相手の全てを受け容れる愛へとつながるものだから、競争ばかりに気を取られてはならない。

 そこら辺を彼女たちは履き違えている気がする。

 

 これは誰が恋人になっても荒れますね……

 

 古代ギリシャの戦争の発端となったパリスの審判。

 まさに一夏さんは三人の少女たちにその判断を求められている。

 だが、厄介なことに黄金の林檎を持つ少年は自らがそれを持っていることに気づいていない。

 

「ん?どうしたんだ、雪風?」

 

「……いえ。世の中には本人は知らない方が幸福だけど周りが災難なことがあると思っただけです」

 

「……なんだそりゃ?」

 

 私の視線を感じてか、一夏さん小声で話しかけて来て私は思ったことをただ述べた。

 一夏さんはそれを聞いて意味が解らないようであった。

 ただ私としてはこのまま直接本当のことを話した方が多少の問題は解決するとは思うが、一夏さんの性格上、彼女たちの三人の想いを知ったら迷うだろうし、もしかすると、なあなあで誰かと付き合ったら下手をしてその一人と破局し全員に傷を負わせかねない。

 何とかならないだろうか。

 手っ取り早いのは一夏さんが本当に誰かを好きになることだと思うが。

 

「慌てるなバカども。

 対戦相手は―――」

 

「……ん?」

 

「あれ?」

 

 突然、この世界で知った音の壁を壊すと言う音のようなキィーンと言う音が聞こえて来た。

 その時、私は身体が咄嗟に動いて背後を確認した。

 

「あああああっ!

 ど、どいてください~っ!」

 

「なっ!?」

 

 なんと背後から今にも着陸しようとしているが全く着陸の速度に落ちていない山田さんが迫っていた。

 私は即座に「初霜」を展開し、一夏さんを弾き飛ばそうとしたが

 

「ぐっ……!」

 

 間に合わず二人はドカーンと言う爆発音にも似たような音を出しながら激突した。

 またもや、私は遅かった。

 私は授業中でありながらも慌てて一夏さんと山田さん転がっていった地点に駆け寄った。

 一夏さんは生身だったはずだ。

 怪我の可能性が捨てきれない。

 

「一夏さん、大丈夫です―――うっ!?」

 

 一夏さんたちの近くに寄った私は無事を確認しようとしたが、二人の様子を見て違う意味で声を失った。

 

「ああ、なんとか「白式」の展開が間に合ったから無事だ。

 しかし、一体、何事―――」

 

 一夏さんはどうやら、突然のことにも関わらず「白式」の展開に成功して無事だったらしい。

 普段ならばさすがの危機察知能力、判断力と言いたいのだが、残念ながら今の私にはそんな余裕がなかった。

 

「う?」

 

「なあっ!?」

 

 一夏さんはとんでもないことをした。

 恐らく、本人は故意ではないのだろう。

 だけど、彼のしてしまったことは私には刺激が強過ぎた。

 しかし、本人は多少の違和感を感じているようだが己の行動に気づいていない。

 

「あ、あのう……織斑くん……ひゃんっ!

 

「な、な、な、なななぁ……!!?」

 

 一夏さんの手が動いたことで一夏さんの身体の下にいる山田さんが私が今まで聞いたこともない声を出した。

 私はその光景を目にして汗が流れ出し頭がクラクラしてきた。

 

「そ、その、ですね。

 困ります…………こんな場所で……

 いえ!場所だけじゃなくてですね!

 私と織斑君は仮にも教師と生徒でですね!……

 ああでも、このまま行けば織斑先生が義姉さんってことで、それはとても魅力的な―――」

 

「はわ、はわわ……!はわわ……!?」

 

 山田さんが訳の分からないことを語り出し、二人が衆目の面前で破廉恥な行いをして続けて、とりあえず二人を止めようとするが言葉も出ないし、身体も動かない。

 それどころか私は

 

 な、何をしているんですか!?

 

 羞恥のあまり両手で顔を覆ってしまった。

 いくら何でもこんな光景は私には刺激が強過ぎる。

 その時だった。

 

―警告―

 

「―――え?」

 

「―――ハッ!?」

 

 突然、ハイパーセンサーが作動し警告音が頭に響いた。

 混乱している私には何が起きようとしているのか理解ができなかったが一夏さんは私よりも早く、何かを察したようで身体を咄嗟に起き上がらせた。

 直後に

 

「え!?」

 

「うおっ!?」

 

 一夏さんがいた地点、正確には一夏さんの頭部があった地点をレーザーが横切った。

 レーザーが来た方向に目を向けると

 

「ホホホホホホ……。

 残念です。外してしまいましたわ……」

 

 笑顔であるが嫉妬と言う感情が丸出しなセシリアさんが「スターライトMK-Ⅲ」を例の射撃地点に向けていた。

 やはり、今のは彼女のものらしい。

 

「ちょっと!セシリアさん!それは危ない―――!!」

 

 今、この場には多くの「IS」を展開できていない生徒たちがいる。

 こんな場所で感情的になって避けることが難しいレーザー兵器を使用されて暴発でもしたらそれこそ大事だ。

 私は何としても止めようとするが

 

「―――え?」

 

 再び何かガシーンと不穏な音が響いて私は止まってしまった。

 よく見てみると今度は鈴さんが「双天牙月」を連結し投擲しようと振りかぶっていた。

 そして、そのままそれを投げた。

 

 鈴さん、あなたもですか!?

 

 妹弟子の暴挙に頭を抱えて内心泣きたくなってきたが、すぐに対処しようと思った。

 一応「白式」で守られている一夏さんはともかく下手に彼が避けたら他の生徒たちに「双天牙月」が向かって行く可能性がある。

 とても危険だ。

 

「くっ……!」

 

 私は「双天牙月」に単装砲を向けて弾こうとしたが

 

「あ、あれ……?」

 

 なぜか右手がぶるぶると震えていて照準が定まらない。

 それと同時に気づいたことがある。

 右手と言うか、身体全体、特に顔が未だに熱っぽい。

 もしかすると、先ほどの件を未だに私は気にしているのだろうか。

 

「……っ!皆さん、伏せてください!!」

 

 このまま単装砲をかましたら誤射する可能性もある。

 流れ弾などそれこそ危険すぎる。

 迎撃が不可能と見て私はクラスの皆さんになるべく被害が出ないようにそう叫んだ。

 

「うおおおおおおおおおっ!!?」

 

 そう叫ぶ一夏さんの方をみた。

 どうやら間一髪、仰け反ったことで回避できたようだがそのまま転倒してしまった。

 その後、往復する性質のある連結状態の「双天牙月」が追撃してきた。

 ただ一夏さんには悪いとは思うが「白式」展開中の一夏さんなら大事にはならないと言う安堵が私にはあった。

 とても気の毒ではあるが。

 その時だった。

 

「はっ!」

 

「……!」

 

 突然、二回の発砲音、直後にカキンカキンと二回の金属音が鳴り響いた。

 そして、私の目に映ったのは「双天牙月」が生徒たちのいない方向に弾き飛ばされた光景であった。

 私はそれを行ったであろう人物を求めた。

 すると、それはなんと意外な人物であった。

 迎撃したのは山田さんだった。

 だが、私が衝撃を受けたのは今の彼女の姿であった。

 今の彼女は体勢が倒れたままと言う不安定な状態にも関わらず、回転する「双天牙月」の両端の刃の部分を僅かな時間で二射で軌道を変えたのだ。

 何よりも今の彼女の表情は普段のおどおどしたような面持ちではなかった。

 誰かを守ろうとする強い意思の込められた目であった。

 全ての生徒たちが今、起きたことが信じられないと言った様子であった。

 当然、私もである。

 

「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。

 今くらいの射撃は造作もない」

 

 そんな沈黙の中、他人に常に高圧的で人を褒めるようなことをしない織斑さんが高評価を下した。

 織斑さんが表に出して認める。

 これはとんでもないことではないだろうか。

 

「む、昔のことですよ。

 それに候補生止まりでしたし……」

 

 織斑さんの明かした事実に山田さんは顔を赤らめて普段通りになってしまった。

 ただ私としては彼女は自信がなさすぎるのではと思ってしまう。

 長い戦いを経験してきた身として言わせてもらうが、多分彼女の技術は「二水戦」の平均かそれ以上だ。

 

「謙虚も度が過ぎれば卑屈ですよ。

 山田先生?」

 

 そんな私と同じ感想を抱いている人間が当然ながらいた。

 神通さんも織斑さんに続いて山田さんを称賛した。

 

「あなたの技術はやはり優れています。

 それは私が保証します」

 

「か、川神先生……」

 

 神通さんは本気で山田さんを評価している。

 あの人があそこまで誉めるのは稀だ。

 教え子の私たちの場合は尻を蹴り上げる時に褒められるが、そう言った事を抜きにして褒められるのは本当に貴重なのだ。

 山田さんはそれを聞いて少し感動している。

 でも、どうやら彼女は山田さんに対して称賛だけで終わるつもりはないらしい。

 

「同じ「代表候補生」であっても他に「IS」を展開していない生徒たちがいるにも関わらず感情的になって武器を振り回すような人もいますので。

 そう言った方よりも山田先生は非常に素晴らしい方だと思いますよ?」

 

「「ぎくっ!?」」

 

 ああ……それはごもっともですけど……

 

 神通さんは山田さんを称賛すると同時に鈴さんとセシリアさんに強烈な皮肉をかましてきた。

 それを聞いて、()「代表候補生」の二人は青ざめていく。

 

「……お二人とも?

 もし、攻撃が織斑君と陽知さん、山田先生以外の人に当たっていたらどうしたんですか?」

 

「そ、それは……その……ですね……あわわ……!?」

 

「ご、ご、ご、ごめんなさい!!」

 

 神通さんはクルリと二人の方に向き直ると一歩ずつゆっくりと笑顔で近づいていく。

 「IS」を展開していないにも関わらず、「IS」展開中の二人を圧倒している。

 流石、神通さんだ。

 

 でも……神通さんなら、もう少し早くに二人を止められたような……

 いや、流石に神通さんでも無理ですかね?

 

 師をどこか盲信しそうになっている自分を私は戒めた。

 そのまま、織斑さんの方に向き直りぺこりと頭を下げてから元の列に戻ろうとした時だった。

 

「……川神の奴……耳が真っ赤なのがまだ戻っていないぞ……」

 

「……え?」

 

 織斑さんの少しため息混じりの指摘に思わず、神通さんの耳をハイパーセンサーで拡大した。

 すると、指摘通り彼女の耳は真っ赤であった。

 彼女がなぜ耳を真っ赤にしているかと理由を考えたが

 

 ……もしかすると、神通さんが二人を止めなかったのは……

 

 すぐに私は答えに気づいてしまった気がした。

 どうやら私と同じように神通さんも一夏さんと山田さんの例の一件で羞恥を覚えて身体が動かなかったのだろう。

 ただ、そう考えると神通さんはあの二人の例の一件を止められた可能性もある。

 

「……ゆっきー……顔真っ赤だったけど大丈夫だった?」

 

「ふえっ!?」

 

 「IS」を収納し元の列に戻った私に対して本音さんの容赦のない指摘が来た。

 そんなに私は動揺が顔に出ていたのだろうか。




雪風の時代的にこれは過激だと思うんです。
あと、神通さんにも。

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