奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第6話「合致しない歯車」

「さて、お二人とも。

 少なくとも態度面では一時間の授業で二度も注意を受けると言う失態を犯しているのですから、せめて山田先生に善戦(・・)はしてくださいね?」

 

 神通さんは二人を大人しくさせると二人に対してかなり棘のある言い方をした。

 その中で彼女はとても気になる言葉を混ぜていた。

 

 ああ……やっぱり、二人が負けること前提ですか……

 

 私は山田さんのあの高い射撃の腕と二人にはまだ備わっていない面持ちを目にして、彼女の実力が更識さんと同じか、それ以上だと認識した。

 よく考えてみれば、彼女は織斑さんと神通さんの傍らにいたのだ。

 並大抵の実力のはずがないだろう。

 

「え?あの、どちらが先で……?」

 

 セシリアさんは神通さんに対しておっかなびっくりで順番を訊ねた。

 ただその疑問を思い浮かべるのも無理はないだろう。

 いきなり、試合をしろと言われても順番があるものだと思うだろう。

 

「いえ。お二人で山田先生に挑んでもらいます」

 

 うわぁ……まさか、本当に……

 

 神通さんのその答えに私はある程度の流れでそう来るとは思っていたが本当にやるとは思いもしなかった。

 ただ流石にそれは山田さんでもきついのではないだろうか。

 神通さんのしごきはついに同僚にまでも及んだのだろうか。

 

 いや……よく考えてみたら、神通さんはよく駆逐艦二人相手に演習してましたね……

 

 呉時代に「二水戦」の訓練の中には駆逐艦が駆逐隊内で二人組を組んで神通さんに挑むと言う演習があった。

 その時、私たち十六駆は隊内で順番で交代して神通さんに挑んだが全く敵わなかった。

 神通さんは反航戦を衝突覚悟で挑んでくるし、探照灯で目潰しをして片方の視界を暫く奪ってくるし、自分で作った波でこちらの魚雷の軌道を少しだが変えてくるなど滅茶苦茶だった。

 その一部の戦術をいくつか私も盗ませてもらったが。

 ただ駆逐隊同士の連携は次第に戦場では使えなくなってしまった。

 十六駆の姉妹たちとはソロモン以降ではバラバラに行動することが多かったのだ。

 せめて「ブーゲンビル」で私がお姉ちゃんと一緒ならばお姉ちゃんと一緒に生還できたかもしれない。

 「天一号作戦」で天津風が参加できていたらあの悪魔相手に一矢報いて磯風や浜風、一人でも多くの味方を救えたかもしれない。

 

「え?あの、二対一で……?」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

 二人は戸惑っていた。

 だが、それは当たり前だ。

 なぜならば、二人は「数」と言う圧倒的な「ハンデ」を与えられようとしているのだ。

 「ハンデ」と言うのは一種の相手に対する侮辱なのは一夏さんの件で明らかである。

 

「安心しろ。今のお前たちならすぐ負ける」

 

 それに加えて織斑さんが最上級の焚き付け方をした。

 その直後、セシリアさんと鈴さんの負けん気が一気に悪い方に燃え上がった。

 恐らくだが、今の織斑さんの一言で二人には完全に勝算はなくなっただろう。

 二対一と言う点で数の利からある程度二人にも分があったし、鈴さんの実力ならば多少拮抗も出来ていただろう。

 そのまま長時間戦い抜けば、二対一と言う優位でセシリアさんが着実に削っていけば勝てる可能性もあった。

 しかし、今の二人はそれが完全にできなくなっている。

 先ず、二人は短気過ぎるところから持久戦に向いていないうえに両者とも必ず一夏さんに良いところを見せようとして足並みを揃えられないはずだ。

 

 織斑さん……わざとやりましたね……

 

 織斑さんは故意に山田さんを勝たせようとしている。いや、正確には二人を敗北へと導こうとしている。

 元々、山田さんの方に勝負の秤が傾いていたのをさらに傾かしたのだ。

 その理由は色々と浮かぶが、やはりすぐに増長しやすい二人に上には上がいることをその身に叩き込もうとしているのかもしれない。

 それにセシリアさんは確か、山田さんに勝っているのでどこか己を既に教師よりも上だと見ている可能性もある(「世界最強」の二人は除くが)。

 一方、鈴さんも神通さんの弟子と言うことで他の人間よりもごり押しで行けると思っているところがある。

 その証拠に今の彼女は完全に冷静さを失っている。

 あれは悪い突撃癖だ。

 ある程度の相手ならば通用するが相手が一枚上手なら必ず負ける。

 鈴さんはなんだかんだで長期戦を出来るにはできるが、それはあくまでも油断していない場合に限る。

 今の彼女は普段の山田さんばかりに気を取られていてそれができない。

 それが神通さんによって鍛えられた精神面が発揮できなくなっているのだ。

 そして、今の二人は非常に血気盛んである。

 ただそこに冷静さがない。

 これが相手がただの雑兵ならば勝ち目があったとは思うし蹂躙できたとは思うが、相手が神通さんと織斑さんのお墨付きである山田さんの時点で勝ち目が完全に失われた。

 

「では、はじめ!」

 

 号令が発せられ溢れ出る闘気のままに二人が飛び上がる。

 それを確認してから山田さんも戦場に臨む。

 

 完全に山田さんの勝ちですね……

 

 今の二陣営に存在した歴然とした差を私は感じた。

 山田さんは戦う前にどのようにして挑むのかをその直前まで考えようとしていた。

 それはまさに初霜ちゃんに聞かされた「キスカの奇跡」に挑む前の木村提督や阿武隈さんを思わせる。

 対して、鈴さんとセシリアさんはただ勢いに身を任せているだけだ。

 確かに時として、ああいう熱意は武器になるだろうし勝因にもなる時もあるだろう。

 だが、今の状況では逆効果である。

 これは「ダンピールの悲劇」を知る身としてこと言わせて貰うが「勇気」と言うのは冷静さがなければ意味がない。

 

「手加減はしませんわ!」

 

「さっきの本気じゃなかったしね!」

 

 二人は「スターライトMK―Ⅲ」と「衝撃砲」を山田さんに開始直後と同時に血気にはやって発射する。

 

「い、行きます!」

 

 しかし、それを山田さんは難なく回避する。

 それもその後のことを考えてセシリアさんの方に回り込むようにだ。

 ああすることで鈴さんは無暗に「衝撃砲」を撃てなくなる。

 「衝撃砲」はその性質上、迫撃砲と散弾銃としての用途を使い分けられる。

 ただ不可視の攻撃ゆえに味方との連携を取るうえではこれ程難しいものはないだろう。

 山田さんはセシリアさんを盾にすることで避けるのにかなり判断力を要する「衝撃砲」を実質封じたのだ。

 さらに

 

「……くっ!」

 

「……ちょ!?きゃっ!?」

 

 山田さんは間隙を与えずそのままセシリアさんを「レッドバレット」で銃撃する。

 それを見てセシリアさんは流石、「代表候補生」と言うこともあって瞬時に避ける。

 ただし、それによって目の前の死角になっていたセシリアさんが急に避けたことでそれらが全て射線軸上にいた鈴さんに直撃する。

 

「あ、アンタねぇ……避けるなら、避けるって言いなさいよ!!」

 

 いきなり避けられたことで自分に銃撃が降り注いだことに鈴さんはセシリアさんに抗議する。

 

「あなたの判断力が鈍いだけでしょうが!」

 

「な、何ですって~!!?」

 

 セシリアさんが反駁したことで鈴さんはさらに冷静さを失う。

 これを見て私は山田さんの技術だけでなく心理的な駆け引きにも感銘を受けた。

 私も他人のことを言えないが、あの二人は「我」が強過ぎる。

 二人とも、一対一ならばかなり優秀ではあるが、それが団体となると不安定になる。

 ただこの際だが言うが、今回の件は圧倒的に鈴さんが悪い。

 単純に比較すると鈴さんとセシリアさんならば圧倒的に鈴さんの方が実力が上だ。

 それに加えて、鈴さんの反射神経と臨機応変さは神通さんのお墨付きだ。

 鈴さんだったら、たとえ相手が誰であろうと即席の連携を取ることも可能だ。

 それは私が駆けつけるまで戦い続けた「無人機」における一夏さんとの連携で証明済みだ。

 しかし、今の鈴さんはセシリアさんへの対抗意識が邪魔して出来ていない。

 勿体なさすぎる。

 

「さて、今の間に……そうだな。ちょうどいい。

 デュノア、山田先生が使っている「IS」の解説をしてみせろ」

 

「あっ、はい」

 

 いやいや……多分、そんなことしているうちに終わっちゃいますよ?

 

 織斑さんの指示を受けてデュノアさんが解説を始める。

 それを聞きながら空の戦いを見上げてつつも私は「ラファール・リヴァイヴ」を使用した際のことを思い浮かべた。

 「初霜」をまさかあんなに早くに見せることになるとは思わず、「ラファール」と「打鉄」の両機を使用してみたが、やはり長年使われていると言うこともあって確かな信頼が両機にはあった。

 前者には今、隣でデュノアさんが解説しているように格闘・射撃・防御のあらゆる状況に対応しており、様々な戦術を駆使できるところに臨機応変さを感じ、後者は打たれ強さに定評があることから反航戦に長じており、銃器に関しても高い命中率と射程範囲を持つ「撃鉄」は砲撃戦らしく、「焔備」の制圧力は中々のものであった。ただ、私としてはもう少し駆逐艦で言う魚雷のような決定打が必要だとも思えるが。

 個人的には私は「打鉄」の方が性に合っている。

 同時に両機とも、まだまだ工夫次第によってはやっていける機体だとも感じた。

 ただ、やはり特殊機構のある「第三世代」はかなりの強敵であり、「第二世代」をこれからも運用するとするならば、基本的な出力、燃費、運動性、後付け装備の改良をしなくてはならないと思うが。

 実際、私たちも装備を人間の人たちが最初に作らないと妖精さんたちが作れなかったのでソロモン以降の敵勢力の新型の艦載機や電探には何度も苦しめられてきた。

 あの戦いで我々が勝てたのは「烈風」の量産が成功したことでそれを大鳳さん、飛龍さん、信濃さん、雲龍型姉妹が運用し制空権を取り戻せたことや米軍が深海棲艦の作戦をハワイに追いやられた事と母国奪還による執念で予測できるようになったことが大きい。

 ただそれでも彼我の戦力差が大き過ぎて「天一号作戦」による誘導とアメリカ本土奪還部隊の二つにわけることしか元々ない勝算をギリギリで上げることでしか勝てなかったが。

 

「ああ、いったんそこまででいい。

 ……終わるぞ」

 

 機体の性能の重要さを噛み締めながらも織斑さんの言葉で私は上空の三人に今度は意識を集中した。

 

 あ~あ……本当に山田さんにいいようにやられてるじゃないですか……

 

 上空の戦いにも一応、目を凝らしてみたが山田さんが完全に航空優位どころか、制空権確保になりそうな感じで流れは一度足りとも変わることはなかった。

 山田さんはセシリアさんを盾にし続けて鈴さんを封殺し、しびれを切らした鈴さんが「衝撃砲」を乱射、それがセシリアさんの回避先を制限し山田さんそれを見逃さずすかさず銃撃、セシリアさんは状況を打開しようとビットを飛ばすも今度はそれが鈴さんの行動を抑制してしまっている。

 さらに山田さんの攻撃は止まらず

 

「きゃあ!?」

 

「ぐっ!?」

 

 完全に誘導されたセシリアさんが鈴さんにガツンと音を鳴らしながら衝突した。

 当然、それを逃がすはずもなく山田さんが手榴弾を投げ、ドカンと言う爆発音が鳴り響いて二人はドサ、ドサと地面に落下。

 完全に試合終了である。

 何というか、余りにも技量的にも心理的にも見事過ぎて何とも言えない。

 神通さんが評価するのも理解ができる。

 それに対して

 

「くぅ、ううう……まさか、このわたくしが……」

 

「あ、アンタねぇ……何、私の前に立ち続けてんのよ……」

 

「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと「衝撃砲」を撃つからいけないのですわ!」

 

「こっちの台詞よ!大体、避ける時にはちゃんと伝えなさいよ!」

 

 二人は完全に責任の擦り付け合いを始めてしまった。

 元々、空間制圧能力の高い武装を持つことから互いに互いの行動を制限してしまったのが今回の戦力的な敗北だろう。

 心理的な敗北としては当然ながらお互いを尊重していないことだろう。

 特に鈴さんに至っては確実にセシリアさんのことを補助できたにも関わらずやろうとしなかった。

 いづれにしても、神通さんのダメ押しもあったが「代表候補生」の名ががた落ちな気がするだろう。

 その証拠に一組二組の生徒たちからはクスクスと笑われている。

 能力ならば未だしもこう言った面で笑われるのは恥だろう。

 特に貴族であるセシリアさんにはかなり堪えただろう。

 

「さて、これで諸君にも「IS学園」教員の実力は理解できただろう。

 以降は敬意を持って接するように」

 

 織斑さんは二人の醜態に関しては言及しなかった。

 つまりは最初かこうなるとおもっていたし、今回のことは何かと馬鹿にされがちな山田さんの面目躍如のためにやったのだろう。

 悪く言えば、生徒二人をダシに使ったとも言えなくはない。

 一方、神通さんはと言うと少し残念そうな顔をしているが落胆は窺えなかった。

 どうやら彼女も大体は同じ思惑だったのだろう。

 きっと、神通さんのことだ。

 鈴さんの件は個別指導ばかりしていたので協調性がないのも仕方がない。

 今度からその欠点を補っていこう。

 と前向きな考えをしているだろう。

 あと、性質の悪いことに神通さんも織斑さんも決して、セシリアさんと鈴さんが勝てるとは思っていない。

 すこし、不憫ではあるが、この敗北を機にセシリアさんと鈴さんにはさらなる成長が求められる。

 二人とも未熟ではあるが、こんなことで折れるような人間ではない。

 むしろ、これからが期待できる。




なんだか今回の件を見ているとどれだけスペックのいい兵器や合理的な戦略があっても運用方法、と精神状態がしっかりしてなかったら意味ないんだなぁ……と思いました。
クラウゼヴィッツの精神的な摩擦とはこういうことを言う気がします。

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