奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
「皆さん、お疲れ様です
じゃあ、これから片づけをしましょうか」
「いや~、まさかここまでできるとは……」
「陽知さんでよかった!」
「最初はひやひやしたけどね……」
「やっぱり、学年最強の「ラーテル」の異名は伊達じゃないよね!」
「……ありがとうございます。
でも、「ラーテル」は止めてください!」
全員が「IS」の訓練を終えるのを確認した私はこれから片づけに移ることを伝えた。
私のグループの進行具合はどちらかと言えば順調であった。
少なくとも、一夏さんのグループとデュノアさんのグループよりは浮かれてはいなかったこともあって。
あの二人のグループの女子たちは何かと二人に近づこうと色目を使って進行を遅らせてしまった。
度々、神通さんの無言の圧力と流石に堪忍袋の緒が切れた織斑さんの拳骨で何とか無理矢理進行させられたが。
特に一夏さんのグループに関しては「IS」をしゃがまないで脱着したことで一々、一夏さんが抱っこをしなければならなかったのでかなりの時間を浪費した。
あれはいくら何でも時間の無駄過ぎるだろう。
確かに女性としてはああ言った抱っこには憧れなくはないが、私も司令にされたら嬉しいとは思うが。
しかし、時と場合は考えるべきではないだろうか。
この世界の日本の家庭科と呼ばれる授業には「TPO」と呼ばれる「時」と「場所」と「場合」と呼ばれる金言があるらしいが、彼女たちはそれを中学生時代に習わなかったのだろうか。
いや、もしかするとこの世界では「TPO」と呼ばれる金言を無視する特例事項でもあるのだろうか。
少なくとも、私たち駆逐艦は無礼講をする時は確りと場合は弁えているつもりだ。
「では、皆さん。
グラウンドに戻りましょうか。
遅れてグラウンドを走らされる前に」
―はーい―
色々とこの授業のことを考えているうちに格納庫に「IS」を運び終えてグループの生徒たちに私は少し冗談を含めながら言うと、生徒たちは少し笑いながら運動場へと戻ろうとした。
どうやら彼女たちから一定の信頼を得ることはできたようだ。
神通さんの顔に泥を塗らずに済んだようだ。
しかし、やはり彼女たちは素直過ぎてちょっと物足りない。
もう少し、反抗してくれてもいいと思う。
流石に篠ノ之さんやボーデヴィッヒさんみたいなのは勘弁してもらいたいが。
「……ん?あれは……」
私がグループの生徒たちと戻ろうとしている時であった。
ある程度のグループとすれ違っていたが、目の前から慌ただしく走って来る一台のカートとそれに続く生徒たちの一団を目にした。
あれは確か一夏さんのグループだったはずだ。
「ねえ、あれって……」
「織斑君のグループよね?」
「もしかすると、今終わったのかな?」
「まあ、あんなことしてたらね……」
グループの生徒たちもその一団の存在と正体に気づき、呆れだした。
多分、彼女たちは嫉妬も込めてそう言っているのだろう。
こちらの訓練中に一夏さんたちのグループのあの抱っこに対しては度々『いいなぁ~』とか言っていたし。
ただ私が気になったのは彼らが遅れていることだけではない。
それは
……なんでカートを押してるのに力入れてるのが一夏さんだけなんですか?
カートを押している負担の割合が一夏さんが大きいところであった。
他の生徒たちは見た所、あまり力を入れずにいる。
ちなみに一夏さんのグループに篠ノ之さんと私が個人的に親しい相川さんもいる。
相川さんに関しては後で友人として一言言えるのでなんとか済むと思うが、私は篠ノ之さんに対してあのグループの生徒たちの中で一番気に食わなく思っている。
当然これは私個人の好き嫌いであるが私は篠ノ之さんに対してはボーデヴィッヒさんよりはマシではあるがあの一夏さんの姿を見てから気に入らないと思っている人間である。
理由としては彼女は守られていることに無自覚であるからだ。
その癖、一夏さんが自分以外の女性と一緒にいるとすぐに不機嫌になるし、何でもかんでも自分の思う通りになると思っているのだろうか。
彼女は一応、良識を弁えているとは思うがそれ故に自分の非を認められない。
きっと、それを理解しながらも。
何でもかんでも自分が正しくなければ生きていられないのだろう。
それに加えてこれだ。
『力仕事は男のやることだ』と言う周囲の考えに安易に同調し好きな相手を助けもしない。
呆れて何も言えない。
これで『自分はあなたのことが好きなんです』と言ったところで相手の気を惹く要素が本気であるとでも思っているのだろうか。
別に媚びを売ってもいい。
そこに下心があったていい。
それに確かこの世界の婚礼の場においては
『健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?』
と言う牧師か神父の前で誓うのが普通だと言われている。
私は別にキリスト教徒ではないがこの言葉に関しては美しさを感じている。
「愛」とはいかなる困難や辛苦が待ち受けようともその愛する人との絆を糧にして歩み続けるものだと私は考えている。
それなのに目の前の彼女は一夏さんが困っていると言うのに助けようともしない。
それに私は司令と榛名さんの夫婦、そして、金剛さんの姿を見ていてあの三人の「愛」に憧れていた。
だからこそ、彼女、いや、彼女だけではなく一夏さんを景品やら動物園の動物扱いする人たちに対しては苛立ちを感じるのだ。
本当は手伝いたいんですけど……
グループのリーダーがグループを放ったらかしにするのも気が引けますし、多分私が行ったら篠ノ之さんと揉めますし、他のグループの女子も我先にと向かいますね……
本当ならば一夏さんの手伝いをしたいが、生憎私はグループのリーダーである。
仮にここで私が一夏さんを手伝えば、グループの他の生徒たちに迷惑がかかる。
それに篠ノ之さんに私はどうも嫌われているので必ず言い争いになって逆に作業の邪魔になるだろうし、私だけが向かってもそれを皮切りに一夏さんに好意を寄せる女子や近づきたい女子が集まって全体に混乱が生まれる。
地位や役職は時として行動を縛るものであることを理解しているがやはり、歯痒い上に心苦しい。
思えば、私が最期に教え子を助けようと思ったのはある意味では今まで溜まっていたそう言ったことによる衝動なのかもしれない。
ごめんなさい一夏さん……
頑張ってください……
私はただ彼への申し訳なさと後ろめたさを込めて謝罪した。
……成長しましたね……雪風……
私は落ち込みながらも教え子が決められたグループのリーダーとしての役割を全うしている姿に嬉しさを覚えた。
なぜか最初は雪風は妙に不穏な雰囲気を醸し出していたが、グループの生徒たちがそれに不安を覚えていることに気づくとすぐに己の不手際を改めて生徒たちを安心させた。
そして、グループの生徒たちが使用する「IS」のことで迷うと的確な助言と指示を出し褒めるところは褒め、窘めるところは窘める模範的な指導を行っている。
恐らく、これが個人的な指導ならば私と同じような指導内容をしていると思うが、いや、本人はそうしたいのだろうが彼女はそれを踏み止まって無理のない指導をしている。
こちらの歴史と似ているように彼女は長年、総旗艦並びに訓練艦を務めてきたようであるが、きっとその経験が彼女を育てたのだろう。
ただ嬉しい半分、少し虚しくもあった。
彼女に聞いた話だと戦後の艦娘はいつでも軍を辞められたはずなのに彼女はそうしなかった。
ある意味、不器用な彼女らしいがもう少し自分のために生きて欲しかったとも思う。
……はあ、ですが……教え子に恥ずかしいところを見せてしまいましたね……
同時に私は自分の不甲斐なさを嘆いた。
生徒たちにグループになれと号令をかけてみたが、普通はあまり時間をかけずにバランスを考慮して自然とグループになると私は甘く考えていた。
しかし、蓋を開けてみたら生徒たちは一夏君とデュノアさんの所に集中してしまい、とても授業を進行できる状況ではなかった。
その際に私は若干の苛立ちと共に自分に対する憤りを抱きながらどうすればいいか分からなかった。
こんな状況は初めてだったからだ。
ようやく、先輩の助太刀で進行できたが我ながら情けないと思った。
私もまだまだですね……
自分の未熟さを知ることが出来たいい機会だったと私はある意味では今回のことを感謝している。
「……何しているんですか二人とも?」
昼休みが終わった後、私はセシリアさんと鈴さんの様子が妙におかしいのを見て、理由は大体理解できるが一応訊ねてみた。
ちなみに私はと言うと、本音さんたちのグループと一緒にいた。
その際に相川さんには一応、先ほどのことに対して一言言っておいた。
今の目の前の二人を見てみるとあれだ。
明らかに何かを軽蔑する目、具体的に言えば不潔なものを見るような目、象徴的に言えば白い目を向けている。
そして、それらはとある人物と言うよりも物理的にも彼女らの常日頃からの態度で大体察することもできるが一夏さんに向けられている。
「一夏の奴……本当に最低……」
「一夏さん、本当に不潔ですわ……」
やはり、私の考えている通りであった。
一体、今度は何をやらかしたのだろうか。
こういう場合は一夏さんが九割悪いか、一夏さん以外が一割以下悪いことが多い。
それにしても不潔とは。
その、確かに彼は今日あまりにも破廉恥なことをしたがあれは事故であったはずだ。
あまりのことに私は彼に対してドン引きしたが故意ではなかったはずだ。
それだけで彼を不潔と断じているのだろうか。
「一体、何があったんですか?」
一方からの証言を鵜呑みにすることはマズいとは思うが、このままでは埒が明かないので多少の彼女たちの主観が入っているとは思うが証言を求めようと思った。
「一夏の奴……男同士はいいな……とか言うのよ……」
「はい?」
鈴さんはいきなり意味不明なことを言ってきた。
「昼休みに一夏さん私たちの身体をジロジロと見て来たのですわ!」
すると今度はセシリアさんが憤り気味に補足してきた。
「え?あの一夏さんがですか?」
私はセシリアさんの言葉を聞いて耳を疑った。
一夏さんは確かに今回の山田さんとの件であんな卑猥なことをした。
しかし、あれはあくまでも事故であったはずだ。
それに彼は女性に対して猥褻なことをするような人ではないはずだ。
彼は良くも悪くも紳士的だ。
先程のカートの件も恐らく、彼なりの紳士的な一面の表れだろう。
どこまでお人好しなのか呆れるほどだ。
だからそんな彼が婦女子の身体をジロジロと性的に見るようなことをするとは、いや、割と山田さんを見ていたような気がしていたが、少なくともジロジロと露骨には見るとはとても思えなかった。
「そうよ!それに今度は男子の方を見て『男同士っていいよな!』とか言ったのよ?!」
「ぶっ……!!」
鈴さんの衝撃な言葉に私は思わず噴いてしまった。
何と言ったのだろうか、この人は一体。
「え、いや、それって……」
余りの衝撃に私は混乱してしまった。
鈴さんの発言が正しければ一夏さんはその、つまりは男同士の付き合い、何と言うか秋雲が嬉々としてネタにしそうな方面の意味を口ずさんだらしい。
まさか……一夏さんが女性の好意に疎いのは……
思わず私は邪推してしまった。
何だ今日は。
今日はこう言った私の羞恥心を煽ることばかりの厄日なのか。
……あれ?それってある意味マズいのでは?
一夏さんがそう言った性的嗜好ないしは性癖、恋愛観を持つのは確かに私の価値観からすればけしからんとは思うが個人のことなので気にしないとする。
しかし、今回彼がデュノアさんを男性として見るのは、取り分け恋愛対象として見るのはとても危険なのではないだろうか。
デュノアさんは所謂スパイ、つまりは工作員だ。
ただでさえ同じ男として近づきやすいのにそこに一夏さんの性癖が加われば一夏さんが油断しかねない。
下手をすれば籠絡されかねない。
まさか……フランスは!デュノア社はそれを狙って……!?
何という情報収集力だろうか。
対象の性癖すらも把握して油断させる。
かの国は中々の強敵だ。
更識さんはこのことを知っているんですか?
更識さんは一夏さんのそう言った情報を私に伝えていなかった。
何ということだ。
更識さん、いや、この国の諜報部の裏をかくとは怖ろしい相手だ。
私は戦慄を覚えた。
これが更識さんの戦場なのか。
……マズいです!!
私は最悪の事態を想定してしまった。
一夏さんが男好きだとする。
となるとこんな女だらけの閉鎖された空間に同じ男子、それも女子からも美男子とされる男子が来る。
さてどうなるだろうか。
なんとかしなくては……!!
恐らくフランスは一夏さんのそう言う性的嗜好を考えてデュノアさんを送り出し籠絡させようとしているのだ。
しかし、最悪なのは相手が男ではなく実は女であることだ。
仮にこれで一夏さんがデュノアさんに手を出したら一夏さんは婦女子に暴行したと思われるだろう。
この「女尊男卑」の時代だ。
それは余りにも致命的だ。
そして、それをネタに脅して「白式」の情報を引き出す。
だから、あんなどう見てもバレバレな男装をしてるのだろう。
何という悪辣な一手だ。
「……お~い、雪風?」
「雪風さん、どうしてそんな険しい顔をしていらっしゃるのかしら?」
二人に声をかけられながらも私は返事をする余裕がなかった。
これは一夏さん最大の危機だ。
何とかしなくてはならない。
とりあえず、雪風。先ずは君が落ち着け つ「水」
皆さんも色々と思い込みに気をつけましょう。