奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い 作:オーダー・カオス
恋愛は個人の自由だと思います。念のためにこれは言わないといけないと思いますので。
許容はするけど押し付けない。それが世の中大事です。
ヴォルテールの名言「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」こそが私の考えですので。
「失礼します」
「あら、雪風ちゃん。今日もご苦労ね」
「ご苦労様です。雪風さん」
いつもの様に雪風ちゃんが川神先輩との訓練を終えて生徒会室に報告に来た。
衝撃の川神先輩のカミングアウトの後、私は一応は二人のことをマークはしているがそれでも二人からは怪しい臭いはしてこないから一先ず安堵している。
それよりも私は雪風ちゃんの友人として最近の彼女を見ているとどこかホッとしている気がする。
今までの彼女はどこか心が折れそうになっているのに無理しながら立ち続けて来た気がしたのだ。
いやきっと彼女は心が折れても挫けることはなく心を失っても生き続けようとするだろうが、それでもそんな風にならなくて済んでいることに私は安心しているのだ。
そんなことになれば彼女は「人」ではなくただの「機械」になってしまう。
彼女や川神先輩が言う「艦娘」は生まれた時から「深海棲艦」と言う敵と戦うことを宿命付けられているらしく、一見すると「兵器」の様にも見えてしまう。
しかし、「兵器」が世の理不尽に憤ったり、友人に対しての敬意を見せたり、恩師との再会に喜んだり、戦友を誇ったり、記憶に想いを馳せて切なくなったりするだろうか。
少なくとも、「楯無」と言う「更識」の「道具」である私は自分のことを「機械」とは思ったことはない。
仮に世界が私から妹を奪うと言うのならば、私は世界を敵に回す覚悟もある。
それは私が「心」を持っているからだ。
一歩間違えれば私も「楯無」と言うただの「機械」になるだろうが、それでも妹を想う心だけは失いたくない。
そして、その危惧は目の前の友人にも同じことが言える。
彼女は時折、必要以上に自分を蔑ろにすることがあることからそれは決して杞憂ではない。
私は彼女には「心」を失って欲しくないと願っている。
だからこそ、私は彼女が最近になって気が軽くなっていることに嬉しさを感じている。
さてと……今日はどんな情報を聞かせてくれるのかしら?
私は任務の報告と同時に個人的に彼女の学園生活が気になって仕方がない。
それは彼女が人間らしく生きていることの証左であるからだ。
「どうだったかしら?
二人の転校生は?」
とりあえず、私は今日最も衝撃を与えたであろうドイツとフランスの代表候補生のことを訊ねた。
特に私は雪風ちゃんの前者に対する見方が気になっている。
彼女はある意味では雪風ちゃんとは鏡合わせなのだ。
だから気になって仕方ないのだ。
「……はい。ボーデヴィッヒさんに関しては脅威ではありませんが注意がいる人物だと思います」
「……脅威じゃないのに注意がいる?」
「ふ~ん?」
雪風ちゃんはかなり機嫌を悪くしながら冷淡に言い放った。
その一見矛盾した言い方に虚ちゃんは首を傾げるが、私は何となくだが雪風ちゃんの言いたいことが理解できた。
「……つまりは彼女を認めないということね?」
彼女がドイツの代表候補生をそう断じたのはそう言うことだろう。
雪風ちゃんも彼女も軍人である。
その雪風ちゃんが脅威と見なさないと言うことはそれはつまり、軍人として落第ということなのだろう。
「はい」
私の問に彼女は躊躇なく答えた。
決して相手を貶したりはしない雪風ちゃんらしくない態度ではあるが、彼女がそう言うのならばきっと何かあるのだろう。
「ふ~ん、じゃあその根拠は何かしら?」
私の知る限りあのドイツの代表候補生の実力と新型の「IS」は学年最強クラスだ。
下手をすれば川神先輩の弟子であり雪風ちゃん相手に互角以上の戦いをできる凰ちゃんクラスだ。
しかし、目の前の雪風ちゃんはそのドイツの代表候補生を強者とは認めない。
あまりにも意外だった。
「彼女はかつてのセシリアさんと同じ、いえ、それ以上に未熟です」
「へ~」
「オルコットさんよりもですか?」
虚ちゃんは少し意図が読めないようであるが私は雪風ちゃんが言わんとしていることが理解できた。
「……つまりは視野が狭いと?」
きっとそう言うことなのだろう。
最近のオルコットちゃんは雪風ちゃんの報告を聞くなりには中々根性が据わってきているようであるが、雪風ちゃんと戦うまでは私も注目には値しないと思っていた。
ただの「IS」の腕に優れている代表候補生。
その過去にどれだけのものがあっても
だが、雪風ちゃんとの戦いや織斑君との試合で何かを得たことでようやく何かを掴めたことで注目に値するようになったと感じたのだ。
雪風ちゃんは要するにドイツの代表候補生をこう言ってはどうかと思うが有象無象の一つに過ぎないと断じたのだ。
「でも、『注意が必要』ていうのはどういうことかしら?」
ただその雪風ちゃんの下したもう一つの評に関しては気になったことがある。
いや、「注意」とは恐らく一種の職業病であるが安全管理上のものだろう。
「……ボーデヴィッヒさんはどうやら一夏さんに個人的な怨みがあるらしく、転校の挨拶を終えた後にいきなり暴力をふるおうとしました」
「……え?それは本当ですか?」
「……なんですって?」
雪風ちゃんの報告は意外だった。
しかし、同時に私はどうして雪風ちゃんがボーデヴィッヒちゃんのことを認めようとせず、注意を必要としているのか理解できた。
「ですが、彼女個人の衝動的な行動ですので特に脅威ではないと思います。
自分を律することのできない兵士は脅威に値しません」
ただ彼女からすればボーデヴィッヒちゃんはただの敵兵士、いや、取り扱い注意の火薬に過ぎないのだろう。
危険なのは確かだけどただそれだけだ。
ある意味では彼女らしいと言えば彼女らしいとも言える。
「……成程ね。
じゃあ、デュノアちゃんの方はどうかしら?」
ドイツの方の転校生の背後には組織的なものがないことは確定したので私は次にフランスの方の転校生について訊ねた。
私としては断然フランスの方が厄介だと思っている。
と言っても相手はたかだが最近まで民間人であった人間だ。
背後にフランス政府やデュノア社がいようとも既にそのことも把握済みであり対処は可能である。
それに既に情報戦はこちらがある程度上である。
そこまで脅威的ではないだろう。
きっと雪風ちゃんも同じ見解だろうと私は思った。
「更識さん。
デュノアさんの方ですが、こちらは
「「……え?」」
しかし、雪風ちゃんは沈痛な面持ちで異なる見解を示した。
私は彼女のその深刻な表情から彼女が本気でデュノアちゃんを警戒していることを察した。
「……どういうことかしら?」
一体、どのようにして雪風ちゃんがその見解を持つに至ったのかを知る必要がある。
少なくとも雪風ちゃんは自分自身のことはどれだけ大変でも報告や相談して来ない悪癖があるが、他のことは必ず私たち相談と報告はして来る。
ただその際の報告はさっきのボーデヴィッヒちゃんの時のようにあまり深刻にならずある程度気を引き締める程度だ。
だが、今の雪風ちゃんの顔は真剣そのものだ。
一体、彼女の目から映ったデュノアちゃんの脅威とはどんなものだろうか。
「……はい。
えっと……その……」
「……ん?」
雪風ちゃんは口を開くが舌は重いらしく言葉が出てこない。
私はそこに違和感を感じた。
それと心なしか、妙に雪風ちゃんの様子がおかしい。
「あ、あれです……デュノアさんは
「
なるほど、それは厄介―――え?」
「……え?色仕掛け?」
私は途中までその意味を理解できなかった。
いや、理解はしていた。
だってデュノアちゃんは女の子だ。
だから「色仕掛け」、要するに所謂「ハニートラップ」をして来るのは無理はないと思ったのだ。
古今東西、あらゆる諜報活動において最も容易で成功する確率が高いのは「ハニートラップ」だ。
これは一見すると男相手にしか通用しないと思われがちであるが実際は女相手にも有効である。
例えばバリバリの会社では堅物のできる女オーラを醸し出すキャリアウーマンでもホストに入れ込むことがあるだろう。
異性を使った色仕掛けと言うのは老若男女問わずに標的になりやすいものである。
しかし、私が疑問に思ったのはそこじゃない。
「……いやいや、雪風ちゃん。
デュノアちゃんは一応
前提が間違っているわよ」
「そうですよ。
なんで男の人相手に男の人がその……色仕掛けをするんですか?
それはいくら何でも……」
私と虚ちゃんは当然ながら突っ込みを入れた。
デュノアちゃんは女であるが
それなのに男相手にハニトラと言うのは明らかにおかしい。
「いえ、ですからフランスは……一夏さんの……その……恋愛観を利用して……こう言った奇策を仕掛けて来た可能性があります……!!」
「「……はい?」」
だが雪風ちゃんは全く臆することなく、いや、どちらかと言うとほとんどやけっぱちに私たちに自らの主張をぶつけて来た。
何を言っているんだろうか。この娘は。
「いや、奇策て何なのよ?」
ただ彼女がここまで必死に伝えようとしているのだ。
その「奇策」と言うのは余程の根拠があるらしい。
「はい……デュノア社は恐らく、一夏さんが……その……あれです―――」
雪風ちゃんはなぜか妙にしどももどろしながら説明しようとしてきた。
「―――
「「……え?」」
直後彼女は躊躇うことをせずに、いや、敢えて躊躇わないために勢いのままに言い走った。
雪風ちゃんのその衝撃的な報告に私と虚ちゃんは面食らったと言うよりも思考が止まった。
何を言っているのだろうか。この娘は。
「い、いや……雪風ちゃん……あなたが何を言っているのか理解できないのだけど……」
「ですから、デュノアさんは一夏さんの性癖を利用して彼に近づき弱みを握って情報を引き出そうとしていると思われます……!」
私は思わず確認した。
しかし、返って来たのは語調の強さと真っ赤になった顔であった。
この娘はどうしてそう言った答えに至ったのだろうか。
きっと、ふざけていない。
マジだ。
「……雪風ちゃん。とりあえず落ち着いたら?」
きっと彼女は色々と混乱しているのだろう。
そうだ。きっとそうに違いない。
「……ですが!」
「……とりあえず、根拠だけでも聞かせてくれないかしら?
どうしてあなたがそう考えたのか……ね?」
私は彼女を落ち着かせようと思った。
彼女は冷静になれば客観的な目線に立つことが出来るはずだ。
「は、はい……」
どうやら説明はしてくれるようだ。
ちなみに虚ちゃんはと言うと、雪風ちゃんと同じように顔を真っ赤にしている。
二人ともこういうことに耐性がないのだろうか。
……今度、こういうことで二人をからかってみようかしら?
私は二人をいじるいいネタを仕入れたと密かに思った。
「実は昼休みが終わった後にセシリアさんと鈴さん、後こちらは様子だけでしたが篠ノ之さんも同じように一夏さんを見る目がいつもより……その……汚いものを見るような感じでしたのでセシリアさんと鈴さんに何があったのかを訊ねたんです……」
「ふ~ん、それで?」
「はい。すると、最初は一夏さんのことをしきりに『不潔』と言い出したんです」
「……『不潔』ですか……」
『不潔』ねえ……
この時点で大体察することができるが、恐らくこれは嫉妬等の感情に目が眩んだ二人の言葉を雪風ちゃんが珍しく真に受けたのだろう。
ただその理由は納得できる。
恐らく雪風ちゃんはこの手の話題に耐性がなく羞恥心で思考が短絡的になってしまったのだろう。
……この娘、本当に三十路なの?
実年齢と釣り合わない彼女の性に対する羞恥心に私は思わず心の中で笑ってしまった。
意外な弱点だ。
……夏が楽しみね……
私はとりあえず、本音ちゃんに水着を選ばせる時が楽しみになってきた。
ここは本音ちゃんのチョイスに期待だろう。
「それでその……最初にセシリアさんが一夏さんが自分たちの身体をジロジロと見て来たと言ったんです」
「……ん?」
続いて出て来た雪風ちゃんの証言に違和感を感じた。
いや、と言うよりも
……これ完全に早とちりよね?
早くも答えに至ってしまった。
彼女は気づいているのだろうか。
自分が矛盾したことを言い放ったことを。
「あ、あの……雪風さん?
それって……もしかすると―――」
虚ちゃんもどうやら気づいたらしく、これ以上雪風ちゃんが羞恥心で悶えないように止めようとしたが
「虚ちゃん。証言は最後まで聞くものよ?」
「―――お、お嬢様!?」
こんな面白いこと、じゃなくて、大事なことは最後まで聞くべきだろうと思い、私は彼女の制止を遮った。
情報は確りと全て知る必要がある。
これは情報を司る人間として当然のことである。
「じゃあ、雪風ちゃん。
続けてね♪」
「え?あ、はあ……」
「お嬢様……」
私と虚ちゃんのやり取りを目にして雪風ちゃんは多少戸惑うも私に催促されて再び説明に入ろうとした。
そんな私を虚ちゃんは呆れた目で見ている。
こんな娘だからこそ虚ちゃんは信頼できる。
側近としても友人としても。
「その後、鈴さんがその……一夏さんがデュノアさんの方を見て『男同士っていいよな~』と言ったと証言しました……」
「へえ~」
そして、どうやらそれが決定的な理由となった証言らしい。
と言っても大体今回の件を理解した私としてはそこまで深刻に感じないけど。
雪風ちゃんには気の毒だけれど。
「それに一夏さんの鈍感さを考えると……つまり、一夏さんは―――」
「ぷっ……」
「―――え?」
「あはははははははははははははは!!
ダメ、もう無理……あはははははははははははははは!!」
「……え、更識さん?」
「はあ……」
ついに我慢できず私は雪風ちゃんが本気でそう言った勘違いをして必死に悩んでいることがドツボに嵌まってしまい馬鹿笑いしてしまった。
「あ~、ごめんなさい……
どうしても我慢できなくて」
「え?え?え?」
私は未だに笑いを引き摺りながらも雪風ちゃんに一応謝罪した。
私の一連の反応を見て雪風ちゃんは私と虚ちゃんに交互に視線を配った。
その様子は子栗鼠のように見える。
この娘が学年内で「小動物」扱いされるのも納得してしまう。
うん。この娘、やっぱり日常と戦闘時では全く印象が違う。
「……雪風ちゃん。いくら何でもそれはないと思うわよ?」
「……え!?何でですか!?」
雪風ちゃんは本気で訊ねて来た。
いや、逆になんでそう思うのかと逆に訊き返したくなると思うけど。
なんとなくだけど、この娘が真面目なことが今回の騒動の理由だとは見当がついているが。
「だって、雪風ちゃん。
自分で織斑君が女子たちの身体をジロジロと見て来たのを聞いたじゃない?」
「……あ」
そう、雪風ちゃんは、いや、オルコットちゃんは最初に織斑君が自分たちの身体をジロジロと見て来たと証言しているのだ。
この時点で既に彼が女性に対して性的な見方をしているのは明らかである。
と言っても、両性愛者、所謂「バイ」という可能性もなくはないが、それだと後の『男同士っていいよな』という証言は『男同士
「それに中学時代の彼のことも調査したし川神先輩にも人間関係を確認したけどそう言った彼の行動は見られなかったわよ?」
「……え?そうなんですか?」
「……はい。お嬢様もそう言った事には抜かりはありませんので……」
私の指摘に雪風ちゃんは虚ちゃんに確認を求めた。
すると虚ちゃんは私の発言を肯定した。
「それに雪風ちゃん……
今回の件、二人以外から言質は取ったの?」
「……あ」
雪風ちゃんのその様子からどうやら雪風ちゃんは一方の証言しか耳に入れてなかったらしい。
これは雪風ちゃんらしくないミスだ。
証言と言うのは一見すると、衝撃的なものではあるがそれを裏付ける証言がなければそれは決定的なものにはならない。
例えば、クラスのいじめでいじめっ子が徒党を組んで『いじめはなかった』とか、『先にあっちがやって来た』と言う自分たちに有利な嘘の証言をすることだってある。
逆に女性が噓泣き等で周囲の同情を誘い男を悪人に仕立てることだって昨今の「女尊男卑」の風潮ではよく見られる。
だからこそ、証言と言うのは必ず一方の証言を鵜吞みにするのではなく、双方の証言を照らし合わせて後はその際の状況や証拠でどちらの方が正しく事実を追求しなくてはならない。
少なくとも、それが「更識」と言う家で育ってきた私の学んだ「情報」というものの見方だ。
「と言うことで、雪風ちゃん―――」
私はトドメに
「―――今回の件は雪風ちゃんの早とちりだったわね?」
「ぐふっ!!?」
「ああ!雪風さん!?」
あえて具体的に何も言わないでそう言った。
すると今までの自分の言動とそういったものへの耐性のなさからボワっと音がして来そうなまでに雪風ちゃんの顔は真っ赤になってしまった。
とりあえず、彼女の誤解は解けたようだ。
う~ん、でも……確かにデュノアちゃんは厄介ね……
しかし、雪風ちゃんの言う通りデュノアちゃんは厄介だ。
何よりもあんなバレバレの男装に織斑君は騙されている。
こうなると完全に隙が生じるだろう。
仕方ない……少し、リスキーだけど……
「ねえ?雪風ちゃん……少し、提案があるんだけど?」
私はデュノアちゃんの尻尾を出すとある策を雪風ちゃんに提案しようと思った。
ここだけの話、台湾の方の雪風の絵を見て少し涙ぐみました。