奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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第11話「正しさの間違い」

「……私の初霜に何をしているんですか?」

 

 我ながら白々しい台詞だと思いながらも実際、心の中では目の前の人間が私の戦友の名を冠した機体に手を出そうとしたことに憤慨していたので割とかなり怒気を込めて追求した。

 

「や、ヤチさん……!?

 ど、どうしてここに……!?」

 

 デュノアさんはまさかこんなにも早く自らの目的と現在の行為が発覚するとは思いもしなかったのか解析用の端末を隠そうとするのも忘れてただ動揺するだけだった。

 しかし、呆れたものだ。

 まさか、鍵を閉めるのも忘れて諜報活動をするとは本当に訓練を受けているのだろうか。

 余りにも迂闊過ぎているし、追い詰められた時の対処法も出来ていないことから訓練も受けていないようだ。

 

「私の「初霜」には紛失時のために所有者に座標を伝える機能があるんですよ。

 それで辿ってみたらまさかこの部屋から反応が出るとは思いもしませんでしたよ」

 

「……そんな……」

 

 少し嘘を交えて私は種明かしをした。

 

『雪風ちゃん。悪いのだけど「初霜」を囮にさせて頂戴』

 

 昨夜、私が物凄い大恥を掻いた後に更識さんはとんでもない提案をしてきた。

 デュノアさんを罠に嵌めるために何と「初霜」に発信機の機能を付けてデュノアさんを問い詰めると言ってきたのだ。

 当然ながら私は反発した。

 「初霜」は私の大切な戦友である彼女の名前を冠しているのだ。

 それを他人に弄くられるなど断じて我慢などできるはずがない。

 しかし、更識さんに頭を下げられたことと布仏さんに対ハッキング用プログラムを組み込んて貰って渋々了承したが。

 それと私に剥離剤を持たせどこかで更識さんも見張っている。

 あの掴みどころのない彼女だからどこで待機しているのかわからないのが怖いところだが。

 そして、デュノアさんはまんまとその罠に嵌まって尻尾を出した。

 

「で、何をしていたんですか?

 見た所その端末は「IS」接続用のコードがあるようですが?」

 

「あ、う……そ、それは……」

 

 ジリジリと私は彼女との距離を一歩一歩縮めた。

 彼女は自分の正体が露呈したことに動揺し、なおかつこんな場面を想定していなかったのかただただ焦るのみだった。

 余りにもお粗末過ぎる。

 

 ……こんな子に私は脅威を感じていたんですか……

 

 今のデュノアさんの様子を目にして私は彼女を過大評価したことに後悔を感じると共に彼女を使っている可能性のあるフランス政府とデュノア社に怒りを感じた。

 恐らく、目の前の彼女はこう言ったことに関しては訓練されてから日が浅い。

 同時に才能がない(・・・・・)

 怯えがあり過ぎてこう言ったことに向いてない。

 こんな子供が諜報活動に身を投じることに私はやるせなさを感じた。

 艦娘の私が言うのもどうかと思うがあの時の私たちは人類が滅びかねない状況であったからこそ許されることだったと考えている。

 加えて、私たちは生まれた時から戦うことを使命付けられていた。

 それを拒否する権利はなかった。

 中には電ちゃんや潮ちゃんのような性格的に大人しくて優しくて戦いそのものを苦手とする子、夕立ちゃんや深雪ちゃんのような戦いそのものに闘志を燃やす子、初霜ちゃんや綾波ちゃんのような誰かを守ろうとする子など戦いへの考えや姿勢を問わずに私たちは戦いに身を投じるしかなかった。

 でも、少なくとも私はそのことを恨んだことはない。

 あれは誰かがやらきゃいけないことだったし、きっと戦わなかったら戦わなかったで後悔をしていたし、戦えなかったら戦えなかったらで己の無力さを呪っていただろう。

 だけど、目の前の彼女は違う。

 彼女の背後にいるのはフランス政府と言うよりも「デュノア社」だ。

 目の前の彼女が「デュノア社」の社運への想いや社員の路頭に迷わせたくないと言う義務感で動いているのならばともかく、今の彼女にはそんな気概は感じられない。

 彼女が強制されているのだとしたら私は怒りしか感じられない。

 

 あ~あ……本当にどうすればいいんでしょうね……

 

 私は困っている。

 私の頭の中では「初霜」に手を出そうとしたデュノアさん、彼女と言う個人を顧みていないであろう「デュノア社」、そして、「初霜」を囮とした自分自身への怒りがごっちゃになっている。

 このまま彼女を詰るのははっきり言うと気が引ける。

 このままでは八つ当たりになってしまう。

 だけど、それでも私は目の前の彼女を止めなくてはならない。

 それが私の務め(・・)だからだ。

 

「もう一度、言います。

 デュノアさん……あなたは何を―――」

 

「雪風……?何してるんだ!?」

 

「「……!?」」

 

 私はなるべく自分の感情を抑えようとしながら彼女を問い詰めようとしたが失敗だった。とある人間がこの場に乱入、いや、正確には戻って来た。

 

「……一夏さん」

 

「一夏……」

 

 それはこの部屋の住人である一夏さんだった。

 私はまさか、こんなにも早く彼が戻って来るとは思わず、思わぬ計算違いに陥り焦りを感じた。

 それはデュノアさんも同様であったが、私とは異なり彼女は焦りだけでなく恐怖と絶望、そして、悲しみを顔に滲み出していた。

 

 どうやら……一夏さんに対する友情は本物だったようですね……

 

 デュノアさんの表情を目にして私は彼女がこう言ったことに罪悪感を抱くことに本当に向いていない(・・・・・・)と思った。

 

「……デュノアさんが私の「初霜」に何かしようとしていたので問い詰めていただけですよ」

 

「なんだって……?」

 

「……うっ」

 

 とりあえず、私はデュノアさんがしようとしていたことについて一夏さんに説明した。 

 一夏さんはそれを聞いて信じられないと言った顔になり、デュノアさんは一夏さんに知られたことに悲痛さを見せた。

 本当にどこまで向いていない(・・・・・・)のだろうか。

 

「今、机にあるその端末は「IS」のプログラムに接続するものです。

 それをデュノアさんは私の「初霜」に使おうとしたんですよ」

 

「なっ!?それは本当なのか、シャルル!?」

 

「………………」

 

 私がデュノアさんの机の上にある端末を指差して説明すると一夏さんはどこか辛そうな顔をしてデュノアさんに確認を求めた。

 デュノアさんは一夏さんの反応を目にして顔を俯かせるだけだった。

 

「なあ!?嘘だと言ってくれ!」

 

「一夏さん……」

 

 一夏さんはそれを信じたくないと思ってか懇願するように言う。

 一夏さんは気づいていないようであるが、仮に彼の望み通りの答えが帰って来たら、今度は私が嘘吐きになってしまうことに。

 だが、私は彼の心情を見て心が痛む。

 一応、本音さんと交代しながら二人の様子を観察していたが、会ってから僅か一日程度であったが二人はとても楽しそうだった。

 一夏さんからすればこの学園で出来た唯一の同性の友人だ。

 きっと話も弾んだりしたのだろう。

 今なら彼の『男同士っていいよな』に込められた心情が理解できてしまう。

 しかし、増々ここで本当のことを明かさなければならないと思った。

 それは他ならない一夏さんとデュノアさんのためだ。

 仮にデュノアさんが「白式」を完全に解析したらそれは完全に一夏さんを裏切ったことに他ならない。

 それは裏切られた一夏さんもそうだが、裏切ってしまったデュノアさんにも大きな傷を残す。

 今の彼女を見るとかなり辛そうだ。

 何度も思ったが彼女は向いていない(・・・・・・)

 それはまだ彼女が私や更識さんと違って「普通」に生きていくことの出来る証拠だ。

 だから、仮令恨まれようともここで本当のことを明かさなければならない。

 私が口を開こうとした瞬間だった。

 

「……本当だよ」

 

「……!」

 

「シャルル……?」

 

 なんとデュノアさんが自白してしまった。

 デュノアさんは俯かせていた顔を上げるとその目には涙が溜まっていた。

 

「……やはり、あなたは「デュノア社」の……」

 

「……え?」

 

「そうか……気づかれちゃったんだ……」

 

 既に知っていた事実を私はあたかも今、気づいたように装った。

 私が護衛任務を受け持っていることは事情を知っている人間以外には知られる訳にはいかない。

 隠し事をしているようで辛い時もあるが、それでも更識さんと織斑さんへの恩がある。

 だから、我慢しようと思っている。

 

「……あなたが「デュノア社」の人間でなおかつ、そんな端末を持っている時点で大体把握できますよ」

 

 トドメに私は彼女の目的を推察できる材料を口に出した。

 

「「デュノア社」は「第三世代」の開発が遅れています。

 そう考えれば、私の「初霜」を解析しようとしたのも納得できますよ」

 

 私は「答え」から「過程」を考える帰納法で思いついた彼女の正体を判断した理由をさも演繹法で導き出したように打ち明けた。

 帰納法は今回は現行犯かつ更識さんの優秀な諜報能力があってこそできることなのでこの場限定であるが。

 昨日はおかげで大恥を掻いた。

 

「お、おい……雪風、俺はお前が何を言っているのか―――」

 

 事情を知らない一夏さんは困惑し私に説明を求めた。

 いや、彼も気づいているのだろう。

 けれども、デュノアさんと言う「IS学園」での初の同性の友人を信じたくもあるのだろう。

 これは私にも何も言うことが出来ない。

 なぜならば、私は「裏切り」など経験したことがないからだ。

 「艦娘」の敵は「深海棲艦」だけだ。

 人類共通の脅威相手に寝返る味方などいない。

 いたとしても、それはあれらを『天の裁き』だと考える邪教徒や元々、自分たちの派閥や栄達、虚栄心しか考えないような私たちが嫌悪するような利敵行為を行った人間ぐらいだ。

 私は親しい人間に裏切られたことがない。

 あるとしても、それは「別離」や「失恋」と言ったどうしようもないことであるし、そもそも「裏切り」ですらないことだろう。

 だから、私は一夏さんがどれだけ辛いのかと言われても、私が同情やら、理解やらを口に出すのも烏滸がましいことだ。

 痛みは分かる。

 ただそれだけでしかない。

 それを『分かる』と言えるほど私は強くはないし、思いあがってもいない。

 

「……「企業スパイ」と言う奴ですよ」

 

 それでも彼が知りたいと思っている「答え」を私は混じり気のない言葉で突き付けた。

 

「「企業スパイ」……?」

 

「「デュノア社」、いえ、フランスは欧州連合の中では最も「第三世代」の開発が遅れているんですよ……

 だから、デュノアさんを「IS学園」に送り込んだんですよ。

 何せ、この学園は機密情報の宝庫ですから」

 

「……あ」

 

 私は一夏さんに「IS学園」がどういう場所なのか、その価値を分かり易く示唆した。

 一夏さんは心の機微には疎いが、こう言うことに対する理解はかなり早い。

 とりあえず、一夏さんもデュノアさんの、いや、「デュノア社」の目的は察することが出来ただろう。

 それに加えて私はもう一つ

 

「……デュノアさん。あなた、本当に男性(・・)なんですか?」

 

「……!」

 

「……え?」

 

 彼女が話しやすいように指摘した。

 それを口に出した瞬間、デュノアさんはさらなる衝撃を受け、一夏さんは素っ頓狂な顔をした。

 どうやら、未だに一夏さんはデュノアさんが男だと信じているらしい。

 

「なんでそう思うの……?」

 

 デュノアさんは驚愕しながらも理由を訊ねた。

 これは誤魔化そうとしているのか、それとも白状したいのかのどちらかだろう。

 恐らく、後者だろう。

 彼女は今、「諦め」を顔に浮かべている。

 今、私が彼女にしていることはほぼ拷問に等しい。

 「正論」や「真実」が全て正しいとは限らない。

 それらは時として、人を傷つける道具になる。

 それで相手を苦しめることを何も思わないのならばそれははっきり言えば、心への暴力に他ならない。

 これは30年の人生で学んだ事ではあるが人は「正しい」ばかりでは生きていけないし、正しく生きていけない人もいるし、常に正しく生きていける人もいないだろう。

 それを自覚しながらも私は彼女の「嘘」を終わらせようと思った。

 

「……世界第二の男性適合者が話題にならない方がおかしいでしょうが」

 

「あ、そういえば……」

 

 当然、一夏さんの時の件の反省もあるとは思うが、今回の件はいくら何でも騒がれなさすぎる(・・・・・・・・)

 私のいた世界でもそうであったが「新聞」と言うのは売れそうなネタならば殆どが真偽や人の尊厳を問わずに食いつく。

 「人類の救世主」と言える司令や榛名さんの結婚生活や彼らの娘、「中華民国海軍総旗艦」たる私の事実無根な異性関係等、少しでも隙を見せたりすれば直ぐに下世話な話や解釈、誇大報道をしようとしていた。

 特に私が憤慨したのは司令と榛名さんが取材拒否をしたら、彼ら夫婦を侮辱するような記事を書いたことだった。

 戦後、戦死した大和さんの人気が高まる中、本来ならばあの作戦で大和さんの役割をするはずだった榛名さんを貶めることは多々あったのだ。

 さらにそこに金剛さんと司令、榛名さんの三角関係も加わって、話に尾ひれがついていき榛名さんへの誹謗中傷は酷かったのだ。

 当然、私を含めた艦娘及び海軍関係者のほぼ全員は現役退役、国内外(海外の艦娘やあの日本嫌いのハルゼー提督すらも含めた海外の海軍関係者)問わずに激怒して榛名さんの名誉回復は成った。

 と言う元の世界でもそう言ったことがあったので今回の件で騒がれないのは私には異常に見えてしまうのだ。

 

「そこまでばれちゃったんだ……」

 

 デュノアさんは上を仰いだ。

 その顔は悲しみと共にこれ以上嘘を吐かないで済むことに安堵を覚えているような顔であった。

 

 ……本当に向いてませんね(・・・・・・・)




ちなみにハルゼー提督がわざわざ大嫌いな日本のことなのに激怒したのは彼も娘のように可愛がっているあの不死身の英雄艦が既に自分の所から旅立っていることによる親心があったりします。
あの人、割と曲がったことが大嫌いなので(アイスの行列の件や部下の日系人を差別しなかった件等から)決して日本のためにやったわけではないです。

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