奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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思えば……箒はこういう役目をやればよかった気が……


第13話「叱咤と足掻き」

「……ヤチさん……?」

 

「雪風!お前、何を……!?」

 

 デュノアさんの頬を叩いたことでデュノアさんは戸惑い、一夏さんは弱っているデュノアさんに鞭打つようなことをした私に対して反感を抱き、抗議している。

 

「………………」

 

『何を落ち込んでいるんですか?

 貴女は不知火型(・・・・)の三番目の姉なのです。

 泣いていて同情を誘うつもりならば不知火には期待しないことです』

 

 ……不知火姉さん。

 どうやら、私は正真正銘貴女の妹らしいです

 

 私は今の状況の中で不知火姉さんに冷徹なまでに怒られたことを思い出し、姉との不思議な共通点を胸に感じた。

 

「デュノアさん。

『仕方ない』とはどういうつもりなんですか?」

 

「……え」

 

 デュノアさんのとてつもなく気に障った言葉について私は訊いた。

 

「お、おい……雪風……?」

 

 一夏さんは私の行動に戸惑っている。

 どうやら彼は私が何をしようとしているのかわからないらしい。

 

「だって……仕方ない(・・・・)じゃないか……

 相手は国と大企業だよ?僕みたいな子供じゃ何もできないよぉ……」

 

 また(・・)デュノアさんは繰り返す。

 ああ、確かに彼女を取り巻く状況は絶望的だ。

 そこは彼女の言う通り、彼女だけ(・・・・)ではどうしようもない。

 しかし、だからこそ私は

 

「……貴女のお母さん(・・・・)がそれを聞いたらどう思うでしょうかね?」

 

「……え」

 

「……雪風?」

 

 彼女の「諦め」が気に入らないし許せない。

 彼女は確かに明日をも知れぬ身だ。

 だが、だからこそ彼女は「生きようとする意思」を最後まで持ち続けなくてはならないのだ。

 世界が彼女を殺すと言うのならば、彼女はどれだけ見苦しくとも生きる意思だけでも持ち続けなくてはならない。

 それは恐らく、彼女の母親の願いでもあるだろう。

 

「貴女のお母さんはきっと最期まで貴女のことを愛していたはずです。

 それなのにその貴女が諦めてどうするんですか」

 

 彼女の話を聞く限り父親の愛は感じられないが、彼女の『お母さん』と言う言葉には確かな幸福の色が感じられた。

 それは紛れもなく母親との思い出が彼女にとっての幸福だと言う事実であり、彼女の母親が娘を愛していた証拠だ。

 そして、彼女の母親は恐らく我が子のことを最後まで想っていただろう。

 だから、それを彼女の生きる意思に繋げる楔とする。 

『強く生きて欲しい』

 それは我が子へと託す親の願いだ。

 

『私は消耗品ですから……』

 

 かつて私が母同然である師の神通さんに向かって吐いてしまった言葉。

 今の彼女はあの時の私と同じだ。

 あの時の私もデュノアさんと同じで自らの生きる意思を自ら否定してしまっていた。

 そして、今の私がデュノアさんにしたように私も神通さんに叩かれた。

 比叡さんに助けられ、神通さんに助けられ、速吸さんや響ちゃん、夕凪ちゃんに助けられ、満潮ちゃんに助けられ、そして、磯風に助けられた。

 そんな私だからこそ、戦い抜けた。

 たまに辛い時もあった。

 それでも助けられた命なのだから、それは自分だけの命じゃないといつも自分を奮い立たせて来た。

 彼女たちの想いを私が心の底から抱くようになったのは総旗艦や訓練艦になった後だ。

 教え子や部下たちには沈んでほしくない。

 強く生きて欲しい。

 私は常日頃から思っていたことだった。

 だから、私はデュノアさんの母親の願いを蔑ろにする彼女の「諦め」が許せないのだ。

 

「でも……じゃあ……どうすれば……」

 

 ここで彼女は泣き縋って来た。

 恐らく、彼女の『生きたい』と言う意思を喚起させることには成功したらしい。

 今の彼女は絶望に怯えているがそれでも希望を捨てたくないと願っているのだ。

 恐怖することを忘れたくて恐怖を当たり前のように思う。

 それが彼女が抱いていた「諦め」だ。

 それは「生きること」を諦めたも同然だ。

 しかし、今の彼女はようやく「弱さ」を晒したのだ。

 誰かに助けを求める。

 それは「生きたい」と言う彼女の願いの表れに他ならない。

 

「そうですね……

 その前にデュノアさん」

 

「……何?」

 

 デュノアさんは子供の様に、いや、この場合はまさに子供そのものの反応をして私の声掛けに応じた、

 

「貴女は生きたい(・・・・)ですか?」

 

 私は当たり前のことを訊ねた。

 

「うん」

 

 その問いに彼女は強い意思で頷いた。

 今の彼女は弱い樹だ。

 風が吹けばそれこそ倒れる程の。

 しかし、それでも木の如く、最後まで根を張って生きようとしている。

 今の彼女は弱いはずがない。

 

「……だったら、ここにいろ」

 

「え?」

 

「……成程、その手(・・・)でいきますか」

 

 友人を助けたい一心で今度は一夏さんが動いた。

 私が彼が何をしようとしているのか理解できた。

 そして、同時に私と彼との違いも理解した。

 私は人を奮い立たせることしかできないが、彼は「与える」ことができる。

 ここからは彼の役目だ。

 

「特記事項第二十一、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。

 本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」

 

 彼は道を示した。

 彼女が生き残れる猶予を。

 なぜその事項を丸暗記していたのかは分からないし、すらすらと暗唱できたのかも理解できない。

 いや、きっと彼の『友達を守りたい、助けたい、救いたい』と言う気持ちが後押ししたのだろう。

 

「つまり、この学園にいれば、少なくとも三年間は大丈夫だろ?

 それだけ時間があればなんとかなる方法だって見つけられる。

 別に今は(・・)急ぐ必要だってないだろ」

 

 一夏さんの言っていることはただの時間稼ぎに過ぎない。

 しかし、今私たち外部の人間が出来ることはこれぐらいだろう。

 それに今のデュノアさんならば必ずこの時間を活かしてくれるはずだ。

 デュノアさんが『生きたい』と強く想うのならば、それは無意味には終わらないはずだ。

 本人が望めば偶然は必然となる。

 それはきっと

 

 「奇跡」なんかじゃありませんからね

 

 「奇跡」と称することすら烏滸がましい彼女自身の輝きとなるだろう。

 彼女は自分の足で歩めるはずだ。

 鳥が翼に鎖を付けられても自分で翼をへし折ってもそのまま残った脚だけで歩み続けていく程の意思を彼女は抱いているはずだ。

 

「一夏」

 

 一夏さんに道を示されたことでデュノアさんの表情からどこか空虚さが抜けた。

 

「よく覚えられたね。

 特記事項って五十五個もあるのに」

 

 彼女は冗談を言えた(・・・)

 つまり、彼女の心にゆとりが生まれたと言うことだろう。

 

「……勤勉なんだよ、俺は」

 

 と一夏さんはかっこつけようとするが

 

「……そうですね。

 なにせ、電話帳と教本を間違えて捨てながらも「IS学園」の教育レベルに付いて来れるほどですしね?」

 

「お、おい、雪風!?」

 

「ぷっ……!」

 

 少しその態度が入学初日からやらかしたあの件を見ていて鼻についたので私はあの件を持ち出してからかった。

 

「二人とも……ふふっ」

 

 どうやら一夏さんの励ましと私の皮肉もあってかデュノアさんは年相応の屈託のない笑顔をした。

 

「お、おい、シャルル……」

 

「……シャルロット」

 

「……え?」

 

「シャルロット。それがお母さんのくれた本当の名前。

 二人には僕の本当の名前を知っていて欲しいんだ」

 

「「………………」」

 

 デュノアさんはとても穏やかな表情をしながら私と一夏さんに自らの本名を告げた。

 それはつまり

 

「私たちを信じる(・・・)と言うことですか?」

 

 彼女が私たちに心を許してくれたと言うことなのだろうか。

 

「……うん。

 久しぶりだから、僕のことを真剣に考えてくれた人は……

 だから、その……二人には隠し事をしたくないんだ」

 

「………………」

 

「そうか―――ん?

 おい、雪風どうしたんだ?」

 

「……あ、いえ、何でもありませんよ……」

 

 デュノアさんの望みを聞いて私は少し彼女が羨ましくなった(・・・・・・・)

 私は更識さんや織斑さんと言った自らの素性を立場上知っていてもらえなければならない人間には素性を明かせた。

 しかし、一夏さんやセシリアさん、鈴さんと言った友人たちに本当のことを言えずじまいだ。

 更識さんと布仏さん、本音さんとは友人同士だ。

 しかし、それは彼女達と立場的に打ち解けることが出来た事が大きい。

 デュノアさんと私の場合、事情が違い過ぎるのもあるが、隠し事を続けるしかないのは本当に辛い。

 

 ……本当の友人なら何も隠せずに語れると言いますが……

 

 

 私は一夏さん達との友情と信頼を心のどこかで蔑ろにしているのではないのだろうか。

 

「いえ……一つだけデュノアさんに言いたいことがありました」

 

「……え?」

 

 そんな私だからこそ私はデュノアさんに言いたいことがあった。

 

「デュノアさん」

 

「何?」

 

 私は彼女にこれだけは贈りたかった。

 

()のあなたは十分、強いですよ」

 

 ……それも私よりも(・・・・)

 

「……え」

 

「雪風……?」

 

 彼女は私と違って人を信じられた。

 たった三十分も経たないうちに彼女は私を超えたのだ。

 だから、素直に称賛したくなったのだ。

 

「えっと、ヤチさん……?

 その……出来るのならば僕のことは「シャルロット」て……」

 

 私が彼女を称賛すると彼女は私に本当の名で呼ぶことをお求めて来た。

 

「……そうですね。

 じゃあ、この三人しかいない時にはそう呼ばせていただきますね」

 

 私は条件付きで了承した。

 

「……そうだね」

 

「ああ、確かにな」

 

 二人も納得してくれたようだ。

 今、本名を始めとしたシャルロットさんの実情に繋がることは些細な事でも周囲に露呈されると不味い。

 下手をすれば、「デュノア社」が新たに刺客を送りシャルロットさんだけでなく、現状を知る一夏さんも亡き者とする可能性がある。

 私に関しては私は自分で自分を守る気でいるが。

 

 彼女が演技をしているとしても更識さんが盗聴してくれているので判断は彼女に任せますか……

 

 一応、謀略と言う戦場なのでシャルロットさんを全面的に信用するのは危険だ。

 しかし、それでも私は彼女が真実を語っているのならば、助けたいし力になりたい。

 情に絆されたとも言えるが、私は彼女を助けたいと思った。

 

『撃ち方やめ!むごいことをするな!!』

 

 ……!?

 

 一瞬、身に覚えのない記憶のようなものが私の脳裏に浮かんだ。

 それは目の前で沈んでいく駆逐艦とその乗組員らしきアメリカ海軍の海兵たち。

 その光景には身に覚えはない。しかし、その何かを制止するような声には聞き覚えがある。

 

「……おい、どうしたんだ?」

 

「ヤチさん……?」

 

「……え?あ、いえ……」

 

 二人に声をかけられて私は我に返った。

 

 一体、今のは……?

 

 ただの記憶にしては明らかにおかしい。

 戦場の記憶は心にも身体にも沁み付いているが私はあんな光景は見覚えもないし、経験したこともないし、あの声に制止された事すらない。

 だが、それにしても妙に現実感のあるものだった。

 なんなのだ今のは。

 

 気のせいのはずです……今はそれよりも……

 

「……シャルロット(・・・・・・)さん。

 私のことは雪風と呼んでください。

 陽知じゃ、不公平なので」

 

「あ、うん」

 

 しかし、私は今はすべきことがあるので、今の白昼夢を気にするよりも彼女に私のことを本当の名である「雪風」と呼ぶように求めた。

 こうすることで私たちは互いに対等の関係になるはずだからだ。

 

「では、二人とも。

 私は自室に戻ります。

 具体的な対処法に関しては明日から話し合いましょう」

 

「ああ」

 

「うん。ありがとうユキカゼ(・・・・)

 

「どういたしまして……あ、それと一夏さん。

 一応、異性同士なので節度は保つよう―――」

 

「んな、心配は無用だ!!」

 

「ふふっ……」

 

「―――そうですか」

 

 私は一夏さんをからかい一夏さんは当然心外だと思って噛みついてきて否定するが、山田さんとの一件があるので個人的には不安である。

 とりあえず、それを言い終えると私は部屋を跡にした。

 シャルロットさんのことを焚き付けたのだ。

 ならば、私には責任がある。

 だから、更識さんに報告すべきだろう。

 それが私のケジメだ。




シャルロットはヒロインから外れました。
ただし、その分一夏に対する理不尽は減りました。
所謂、一夏に対する依存度が減ったと言うことです。
そして、かなり自立していきます。

ちなみに雪風の今回の異変は割とこの作品の根幹に関わる伏線でもあります。

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