奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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少し、報告があります。
この作品で雪風の「お姉ちゃん」の雪風の呼び方を一部「ユキ」と呼ぶことに訂正しました。
やはり、ゆきしももいいですけど、○○雪風も良かったりします。



第16話「栄冠と言う言葉の重み」

「一夏が雪風やオルコットさんたちに勝てないのは少し動きが単純なのが理由だよ。

 「瞬時加速」も直線的だし」

 

「あ~、やっぱりか」

 

 神通さんが轡木さんの護衛として日本を発ってから三日が経ち、土曜日になった。

 この一週間、神通さんが不在になるので訓練の内容が少しスカスカになるのではと不安に思っていたが、どうやらそれは杞憂で終わりそうだ。

 シャルロットさんの教え方は控え目に言っても非常に優れており、更識さんにも劣らないほどだ。

 もしかすると、彼女は教師や教官としての資質があるのかもしれない。

 

「といっても、那々姉さんにも散々言われているけど「瞬時加速」の調節て難しいんだよなぁ……」

 

 一夏さんの言う通り、神通さんは通常の最高速度で一夏さんに色々な飛行操縦をやらせている。

 少しでも速さに慣れてもらうためだ。

 その際に私とセシリアさん、鈴さんはそれぞれ異なる役をしている。

 セシリアさんは背後から一夏さんを追撃しながら銃撃、鈴さんは最高速度の一夏さんの前方から一夏さんを通せんぼを行い、私はその三人を砲撃と雷撃し続けると言うものである。

 ちなみにその中で私たち四人にはそれぞれのノルマが存在し、一夏さんは鈴さんを突破すること、セシリアさんは一夏さん以外に銃撃を当てないこと、鈴さんは一夏さんを通さないこと、そして、私は三人全員に攻撃を当てることである。

 ノルマが達成されない場合にはノルマが達成されない限り続行することになる。

 その際に少しでも手抜きをすればそれはないものとされる。

 個人的には自分の役割はまだ生温いと思う。

 

「うん。それに「瞬時加速」て軌道を無理に変えると空気抵抗や圧力のせいで骨折とかしかねないから、そこら辺も危険だしね」

 

「あぁ~、だから那々姉さんも俺には普通の最高時速しか出させないのか……

 ただの精神論じゃないのか……

 やっぱり、すごいな……」

 

 一夏さんようやくなぜ神通さんが自分に「瞬時加速」をさせようとしないのか気づいたらしい。

 そう、「瞬時加速」は下手をすれば大事故を招きかねない。

 神通さんは一夏さんの「専用機」の攻撃手段が白兵戦しかないことは百も承知であり、相手に近付くのは当然「瞬時加速」を使わなければならないのも理解している。

 しかし、神通さんは操縦性の利かない「瞬時加速」に頼るのでは一手を読まれかねないことや、場数を積み重ねる前に怪我をしかねないことから、あえて通常の最高速度で馴れさせようとしている。

 

 ……でも、「瞬時加速」が可能になったらなったで……

 ……「瞬時加速」同士の反航戦をさせかねない気もしなくないんですけどね……

 

 今の訓練は完全に序の口だ。

 今は一夏さんが自らの「瞬時加速」の限界を掴めるまでの基礎訓練の時期だ。

 仮に一夏さんがしっかりと「瞬時加速」を完全に物にすれば、次は最高時速と「瞬時加速」を交互に繰り返す訓練をするだろう。

 恐らく、神通さんがシャルロットさんに留守中に一夏さんの指導役を任せたのは自分と異なるやり方をすることで一夏さんに一夏さん自身の戦い方を掴ませようとしているのかもしれない。

 

「くっ……!後から来たのに……!」

 

「なんで、先生は私にやらせないのよ……!」

 

「……わたくしも丁寧に教えていますのに……!」

 

 ……神通さん、私この三人を穏便に抑え切れるか分かりません……

 

 一夏さんとシャルロットさんの良好な関係を見せつけられてから篠ノ之さん、鈴さん、セシリアさんの三人は悔しがった。

 ちなみにこの三日間私と篠ノ之さんとの会話は皆無だ。

 理由は神通さんに言われた彼女の過去があるので多少は被害者として彼女を見なしているがやはり彼女の行動に対しての苛立ちはあるのでここで少しでも会話をすれば訓練全体に悪影響を及ぼしかねないので会話しない方が最悪の中の最善だと思ったからだ。

 そもそも、神通さんを嫌悪している彼女からすれば神通さんの弟子である私の言葉に耳を傾けることすらないだろう。

 長年、多くの上官や戦友、教え子、部下と触れ合ってきたがここまで会話がないのは初めてだ。

 口の悪い霞ちゃんや満潮ちゃんとも二水戦時代とはそれなりに親交を深めていた身ではあるが会話がない人間は初めてだ。

 

 ……今の三人を見ていると神通さんの今回の采配は正しかったと改めて痛感させられますね……

 

 三人の様子を目にして私は神通さんがなぜ鈴さんとセシリアさんに指導役を任せなかったのか理解できた。

 技術と知識のない篠ノ之さんは除外して恐らく、この三人の中一人を選んだ場合、誰であろうといがみ合うのは目に見えている。

 何よりも最初、篠ノ之さんが加わったことに白い眼を向けていた鈴さんがいつの間にかその事すら忘れてシャルロットさんに嫉妬し一夏さんに対して苛立っているのがその証拠だ。

 恋は盲目。まさにこれだ。

 

 ……シャルロットさんが()だとばれたら一夏さんの命はあるんでしょうか?

 

 本気で私は一夏さんの命が心配になって来た。

 ただでさえ表向きは同性同士の友人なのにそれすらも無視して、いや、例の一夏さんの発言を受けてただでさえ二人の関係を疑っているのにここでシャルロットさんが女性だと知れば嫉妬が爆発するだろう。

 そして、それは隠している期間が長ければ長いほど爆発力が増していく。

 この世界に来て学んだことであるが、火山はマグマの粘度が大きいほどエネルギーを蓄積し、そして、粘度の高いマグマの火山は一度噴火するととてつもない災害になるらしいがまさに今の彼女たちは嫉妬と言うマグマを溜めている。

 とても不安だ。

 

「一夏はもう少し躊躇わない方がいいと思うよ?

 多分、心のどこかでブレーキをかけているだろうし」

 

 その通り。

 シャルロットさんはかなり的確な指摘をした。

 一夏さんは訓練だと心に迷いが生じさらにはそれに連動して動きには無駄が生じてしまう。

 だから、神通さんはあえて反航戦に近い訓練をやらせて慣れさせようとしているのだが、やはり所々無駄な動きを作ってしまう。

 

「やっぱりかぁ……

 雪風との最初の試合だったら上手くいったんだけどなぁ……」

 

 一夏さんは私との初めての試合を思い浮かべた。

 

「え?確か、その時て一夏は初めての試合だって聞いてたけど……?」

 

 意外だったのか、シャルロットさんは私に顔を向けて来た。

 

「事実ですよ。

 実際、あの時の一夏さんの戦いには集中力が確かにありました。

 ただやはり、「速さ」は足りませんでしたが」

 

「そうなんだよなぁ……

 あの時も雪風が接近戦をして来てから急に流れが変わったんだ」

 

 一夏さんも自覚しているようだが、あの戦いで一夏さんは動きに無駄はなかったが「速さ」が足りず動く手が限定されてしまい、そのまま私に主導権を握られた。

 やはり、「速さ」をもっと追求するべきだろう。

 速きこと島風の如くの様に。

 

「え!?雪風て砲撃戦主体だよね!?

 なんで接近戦するの!?」

 

「え?だってそっちの方が命中率も上がりますし、相手の攻撃も避けやすくなりますし……」

 

「シャル、ル……雪風にそんな常識は通用しないぞ……

 何せ、こいつは鈴相手にタックルかましてそのまま鈴を捕まえたまま宙返りして鈴を投げ飛ばしてトドメにミサイルを撃ち込むような奴だぞ……」

 

「タックル!?宙返り!?投げ飛ばす!?

 どういう事!?「IS」の試合だよね!?」

 

「い、いやぁ……勝つ方法がそれだけでしたので……

 アハハハハハ……」

 

 私の今までの戦い方を知ったシャルロットさんは本気で驚いてしまった。

 と言っても私は駆逐艦なので接近戦をするのは仕方ないと思うのだが。

 

「……あれは今、思い出してもゾッとするわ……」

 

「と言うよりも雪風さんともいつの間にか、仲が良くなっておりますし……」

 

「………………」

 

 シャルロットさんとの親睦がいつの間にか深まったことにセシリアさんに指摘された。

 実際、私とシャルロットさんはこの三日間で練習の内容を考えることで色々と意見を交換し合ったりしたことで親交を深めた。

 ただそのおかげで学園全体で私とシャルロットさんにあらぬ疑いがかけられそうになっているが。

 

 神通さん、早くシャルロットさんの身の安全を保障してくれないと色々と私が困ります……!

 早く帰ってきてください……!!

 

 割とこの件に関しては深刻だ。

 それとシャルロットさんと私は同性だ。

 それさえ、証明できればこの件は直ぐに収まるだろう。

 と私が神通さんに心の中で懇願していると

 

「ねえ、ちょっとあれ……」

 

「ウソ、ドイツの第三世代型だ」

 

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど」

 

「……ドイツ(・・・)

 

 突然、アリーナ中がざわつき出し、その際に聞こえた『ドイツ』と言う言葉に私は嫌な予感を感じた。

 

「………………」

 

 やはりですか……

 

 私の予感は当たり、私の知る限り篠ノ之さんと並ぶ、いや、それ以上に一夏さん関連の出来事においては火薬庫に等しいボーデヴィッヒさんがこの場に現れた。

 見た所、かなり不穏そうなのは明らかだ。

 いや、元々転入してきてから周囲と馴染もうともせずにいたり、それ以前に一夏さん相手にいきなり暴力を振るおうとする等、友好的ではないのは周知のことであるが。

 

「おい」

 

 しかし、そう言った事さえ抜きにしても今の彼女はこちらに、いや、一夏さんに敵意を向けている。

 

「……なんだよ」

 

 一夏さんはあまり関りたくないようで仕方なし気に返答する。

 

「貴様も専用機持ちのようだな。

 ならば、話が早い。私と戦え」

 

 ボーデヴィッヒさんは一夏さんに戦いを挑んできた。

 

「イヤだ。理由がねえよ」

 

 それに対して一夏さんは拒否した。

 きっと一夏さんのことだ。

 戦いが恐いとかそんなの関係なしに意味のない争いそのものが嫌なのだろう。

 

「貴様になくても私にはある」

 

「………………?」

 

 ボーデヴィッヒさんの言葉に私は疑問を感じた。

 いや、それ以前にどうしてボーデヴィッヒさんはここまでして一夏さんを嫌悪するのだろうか。

 ふと一夏さんの方を見てみると

 

 ……一夏さん?

 

 彼はどこか忌々し気な表情をしていた。

 一体、どうしたのだろうか。

 と私が彼の変化を気にしていると

 

「貴様がいなければ教官が大会二連覇(・・・・・)の偉業を成し得たことは容易に想像できる。

 だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

 

 ……二連覇!「第二回モンド・グロッソ」のことですか……

 

 ボーデヴィッヒさんは敵意に満ちた言葉を一夏さんに向け、私はそれを聞いてようやく彼女が一夏さんをなぜ憎むのか合点がいった。

 確か、「第二回モンド・グロッソ」において織斑さんは自ら決勝を棄権した。

 その理由は未公表であったが一夏さんが大会中に誘拐された為らしい。

 そして、ボーデヴィッヒさんの発言からするとどうやら彼女は自らの教官である織斑さんが大会二連覇の栄光を手にすることが出来なかったのは一夏さんが原因だと思っているらしい。

 

 ……なんですか、それは……

 

 私は彼女の一夏さんへの身勝手な嫌悪に対して苛立ちを募らせた。

 確かに織斑さんが二連覇出来なかったのは一夏さんの誘拐が原因だ。

 だが、それの何がいけないのか私には理解できない。

 

「また今度な」

 

 当の本人である一夏さんは気が乗らない様子で勝負を断った。

 ボーデヴィッヒさんに対しての苛立ちがさらに募った私だが、本人が望まないのであれば私がとやかく言うことはないだろう。

 と思った矢先

 

「ふん。ならば―――」

 

「……!」

 

 やはり、そんなに容易く引き下がるつもりはないらしくボーデヴィッヒさんは

 

「―――戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

「くっ……!!」

 

「雪風!?」

 

 「IS」を戦闘状態に移行させ左肩の大型砲を一夏さんに向けて来たので私は一夏さんの前に直ぐに出て、そのまま砲雷撃戦の構えをした。

 

「また貴様か……そこをどけ、私が用があるのはそこの男だけだ」

 

 私と言う乱入者にボーデヴィッヒさんは苛立ちを募らせ、私にまで敵意を向けて来た。

 いや、正確には敵意を弾丸共に放って私諸共一夏さんを害そうとしているのだろう。

 

「お断りします。

 生憎。軍人が民間人に銃を向けるのを目にして看過できるほど私は誇りは捨てていませんので。

 それに……今のやり取りを聞いていて個人的に増々、貴女に対しては不快感を感じましたのでね……」

 

「……雪風?」

 

 私がボーデヴィッヒさんに苛立ちをさらに募らせた理由。

 それは彼女が軍人でありながら、「栄光」だとか「名誉」だとか「偉業」だとかに目を奪われていること、そして、そんなことのために家族の絆を否定したことにある。

 軍人は確かに誇りは大事だろう。

 しかし、そんなことの為に命を無下にする等、私は一番嫌いだ。

 失った命は二度と返ってこない。

 なぜか私自身も生まれ変わることができ、神通さんにも会えたが。

 でも、他の会いたかった人々には会えなかった。

 お姉ちゃんにも、時津風にも、天津風にも、磯風にも、浜風にも、浦風にも、谷風にも、黒潮お姉ちゃんにも、他の姉妹にも、二水戦のみんなとも、金剛さんにも、比叡さんにも、大和さんとも、そして、初霜ちゃんとも。

 もう一度、お姉ちゃんに会ってまた「ユキ」と呼んで欲しいし、時津風とも遊びたいし、天津風の少し困った顔を見たいし、磯風とも張り合いたいし、不知火姉さんに『貴女は間違っていなかった』と言いたい。

 そんなことすら出来なくなるのが「死」だ。

 私にとって軍人は生きている間は何よりも命を長らえ戦い続けなくてはならないものだと考えている。

 「死」と引き換えの「名誉」、「偉業」、「栄光」等はせめての感謝の気持ちだ。

 そして、織斑さんが一夏さんを助けたのは当たり前だ。

 それは織斑さんにとっては「名誉」や「偉業」や「栄光」なんぞよりとっては一夏さんのことがよっぽど大事だったからに過ぎない。

 それを一方的な考えで織斑さんの選択を否定するのならば、私は姉妹を失った身としては断固として許すつもりはない。

 

「そうか……!!」

 

「……!!」

 

 ボーデヴィッヒさんは私が引き下がらないことを悟るとそのまま砲撃しようとし、そのままこちらも応戦しようとしたが

 

「雪風、僕がやるから」

 

「え」

 

 ある声が聞こえて来たので私は応戦を控えたがボーデヴィッヒさんはそのまま止めず砲撃した。

 しかし

 

「……こんな密集空間でいきなり戦闘を始めようとするなんてドイツの人は随分と沸点が低いんだね。

 ビールだけでなく、頭もホットなのかな?」

 

 それは私とボーデヴィッヒさんの間に入ったシャルロットさんが展開したシールドによって阻まれ、ガゴキンッと音を鳴らすだけだった。

 そして、シャルロットさんはそのまま「ガルム」を展開し牽制した。

 

「貴様……」

 

 さらなる横槍を入れられたことにボーデヴィッヒさんはさらに敵意を増し、今度はシャルロットさんにまで敵意を向けた。

 

「フランスの第二世代(アンティーク)ごときで私の前に立ちふさがるとはな」

 

「未だに量産化の目処が立たないドイツの第三世代(ルーキー)よりは動けるだろうね」

 

 この場には既に一触即発の危機をとうに超えている不穏な空気が漂っていた。

 

「そこの生徒!何をやっている!学年とクラス、出席番号を言え!」

 

 そんな中、この場の監督官の教師がこの事態に気付き制止を呼びかけた。

 

「……ふん。今日は引こう」

 

 どうやら今回は幕引きの様らしい。

 ボーデヴィッヒさんは流石にここまで邪魔をされたからなのかこの場を後にした。

 

「二人とも、大丈夫?」

 

 シャルロットさんはボーデヴィッヒさんが去ったことを確認すると私たちに向かって無事かを訊ねた。

 

「あ、ああ。

 助かったよ」

 

「ありがとうございます」

 

 実際、今回の件ではシャルロットさんの助太刀には助かったのは事実だ。

 「初霜」の場合、防御機構がない為、攻撃は回避すると言う方法でしか対処できず、一夏さんを連れて回避することぐらいは容易いことだが、それだと他の生徒に被害が出ていた可能性があった。

 そのため、刺し違えることしかできなかったのでシャルロットさんの援護に助けられたのは本当のことだ。

 

「そう。よかった」

 

 シャルロットさんは本当に嬉しそうな顔をした。

 彼女は本気で私たちを友人として見てくれている様だった。

 

 しかし、本当に彼女は厄介ですね……

 

 今回は引き下がってくれたがボーデヴィッヒさんはかなり危険だ。

 己の持つ力の恐ろしさを理解していない。

 それにやはり軍人として彼女のことを私は気に入らない。

 自分の感情優先で周囲の安全を顧みない。

 私はそこが気に食わなかった。




神通さんの時報ボイスを聞いて雪風の弁当の件は……
あぁ、やっぱりこの二人こういう関係だよね。と思いました。

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