奇跡を呼びし艦娘のIS世界における戦い   作:オーダー・カオス

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夏イベ……やばい…欧州艦全く育成してない。
とりあえず、皆さん。暑いので熱中症に気をつけてください。


第18話「陽光に照らされて」

「「あ」」

 

 第三アリーナにてあたしは少しでも優勝に近付こうと思い、誰よりも早くアリーナに来たつもりだった。

 しかし、同じようなことを考えている人間はいたらしい。

 それもよりによってあたしと同じように一夏に好意を寄せている人間だった。

 しかも、あたしの知る限りではその中で一番警戒するに値する相手だった。

 

「奇遇ね。

 あたしはこれから自主トレするつもりだったんだけど」

 

「奇遇ですわね

 わたくしも全く同じですわ」

 

 どうやら、セシリアも月末の「学年別トーナメント」の特権にご執心らしい。

 その動機は至って単純。

 いや、あたしと同じだろう。

 何せ今期あのトーナメントの優勝者には特権として『一夏と付き合える権利』が与えれるらしいのだから。

 

 まあ、いいわ……

 確かにセシリアは強いには強いけど、雪風よりはマシよ……

 

 同じ男を巡る女の中ではセシリアは実際、先生との訓練で力を付けて来ている辺り、確かに警戒には値する。

 しかし、それでもあたしの方が圧倒的に実力では上だ。

 また、雪風も「トーナメント」には参加するらしいが、アイツのことだ。「特権」に対しては興味がないだろうし、恐らく先生が愛弟子の成長を見たいから参加させるつもりなのだろう。

 

 せめて、「特権」だけでも壊さないとね……

 

 今回の「トーナメント」はあたしも十分私情丸出しだが、それでも「特権」で一夏と付き合う気はない。

 あたしにとっては「恋」は何時だって本気だ。

 だから、アイツを惚れさせてから付き合うつもりだ。

 それを今回の「特権」如きで他の女に奪われるなんて我慢ならない。

 それが今回のあたしの大会への熱意の根底だ。

 

「ふ~ん?

 まあ、あたし雪風以外に苦戦するつもりはないわよ?」

 

「あら~?

 またまた奇遇ですわね?

 私()雪風さん以外に苦戦するつもりはありませんわよ?」

 

 どうやら、セシリアも雪風相手には分が悪いと認識しているらしい。

 悔しいが雪風と戦えば私が負ける。

 相性的にこっちの方が上だが、あっちは地力でそれを上回る。

 本人は『初戦だから勝てた』と宣っているがこっちからすれば初戦だからこそあれだけ戦えたのだ。

 雪風ならば絶対に異なる手を毎度使ってくるはずだ。

 あの機転の良さは異常だ。

 そして、一度でもペースを乱されると怒濤の攻撃に晒される。

 さらに性質の悪いことに雪風は防御にも秀でている。

 回避して戦いを長期化させて、相手に隙が生じるのを待ち続けて一気に反撃してくる。

 

 雪風が一夏を狙ってなくて良かった……

 

 今回の「トーナメント」で幸いなのは雪風が一夏に異性としての好意を持っていないことだった。

 と言っても、雪風のことだ。

 仮に一夏の事が好きであっても今回の「特権」に関しては『自分の実力で惚れさせてみせる』と啖呵を切って辞退するだろう。

 本当に眩しい。

 

「まあ、いいわ……

 ここでこの前の実習の件のことも含めてどっちが上だか教えてやるわ」

 

 そんなあたしだからこそ雪風に勝つまでは雪風以外には負けられない。

 だから、セシリアよりは上であること位は教えてやるつもりだ。

 

「あら、本当に珍しいですわね?

 わたくしも先ず貴女に勝たないと雪風さんに追いつけないと思いましたのでちょうどいいと思いましたのよ?」

 

 どうやらあちらも同じらしい。

 あたしが「双天牙月」と構えるとあっちも「スターライトMK-Ⅲ」を構えた。

 お互いに仕掛けようとした時だった。

 

「「!?」」

 

 突然感知した砲撃によってあたしとセシリアは緊急回避してあたしたちを砲撃したであろう張本人がいるであろう場を見た。

 そこにはその名に刻まれた色の如く漆黒に染められた機体とそれを駆る搭乗者がいた。

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

 セシリアが強い警戒と不快感、いや、ほとんど敵意に近い感情を露わにした。

 だが、その気持ちは理解できた。

 と言うよりも今のアイツの行動の時点で十分、敵意を向けるのは当たり前なのだが。

 

「どう言うつもり?

 いきなりぶっ放すなんていい度胸じゃない」

 

 あたしは「双天牙月」を構えると同時に「龍砲」を向けた。

 

「中国の「甲龍」にイギリスの「ブルー・ティアーズ」か。

 ……ふん、データで見た時の方がまだ強そうではあったな」

 

 開口一番に出て来たのは挑発だった。

 どこまでも目の前のドイツの「代表候補」は高圧的らしい。

 

「ふ~ん……それで?

 見た目だけで判断するなんてアンタの目も大概節穴なんじゃないの?」

 

 あたしは敢えて買い言葉を叩いてやった。

 こう言ったことは先生との訓練で慣れている。

 確かにあたしは馬鹿な一面があるけれど、先生には

 

『そう言うことは戦いの時に爆発させなさい』

 

 と言われている。

 ただ一夏の件になると焦りで直ぐに爆発してしまうけれど。

 

「全くですわね……

 弱い犬ほど威勢がいいと言いますが……

 今、そのことに強く共感しましたわ」

 

 あたしの口撃でセシリアも冷静さを取り戻して慇懃さを込めた毒を吐いた。

 挑発は自分のペースに相手を乗せることだ。

 それをあたしは先生との訓練の初日で何回も学ばせてもらった。

 ただ先生には

 

『貴方は少し現金な所があります。

 目先のことばかりに気を取られてはいけませんよ?』

 

 と忠告されているのに一夏のことになるとどうしても冷静さを失ってしまう。

 我ながら不肖の弟子だと感じている。

 と少し自嘲している時だった。

 

「……はっ。イギリスの「代表候補」ならともかく、中国の「代表候補」には拍子抜けしたな……」

 

「……な!?」

 

「ちょ、セシリア乗っちゃダメよ……

 ……それどう言う事よ?」

 

 ボーデヴィッヒはどうやら一応はあたしのことを高く買っていたようだ。

 全く嬉しくはないが。

 

「決まっているだろう?

 貴様はあの「もう一人の世界最強」の弟子なのだろう?

 ならば注目に値すると思っていたのだが―――」

 

 どうやら目の前の奴は私が先生の弟子であることに注目していたらしい。

 しかし、続く言葉は

 

「―――量産機相手に専用機で二対一で挑みながら負けるとは。

 川神那々の無能さ(・・・・・・・・)が際立つな」

 

 一瞬何を言っているのか解らないほどに不愉快極まるものであった。

 

「……今、なんて言った?」

 

 目の前の奴は何と言ったのだろうか。

 こいつは誰を侮辱した。

 と言うよりもこいつは何で喋る口を持っているのだろうか。

 

「はっ!

 所詮は教官が棄権したおこぼれで「もう一人の世界最強」になっただけの人間……

 たかが知れているな」

 

「……黙れ……」

 

 その口を開くな。

 何も考えられずに無意識のうちにその言葉をあたしは出していた。

 だけど

 

「……ん?」

 

「黙れって……言ってんのよぉ!!!」

 

「鈴さん!?」

 

 その一言が引き金を、引いた、火薬に火を着けあたしは最早理性すら捨てて「龍砲」をぶっ放した。

 この女はよりによってあたしではなく、先生を侮辱した。

 ああ、中国でもこんな奴らはいた。

 

『織斑千冬のおこぼれで栄光を手にした』

 

『本当は大したことがない』

 

『一度も大会に出たことがない』

 

 と先生に追いつけない人間は己の怠慢さを誤魔化すために先生のことを陰で侮辱し続けた。

 

 ふざけんじゃないわよ!!

 あたしを馬鹿にするのならいくらでもしなさいよ!!

 でも―――

 

「先生を侮辱するのだけは絶対に許さないっ!!!」

 

 あたしは自分でも自覚するほどに馬鹿だ。

 なんで先生に気に入られたのかすら理解できないほどに浅はかな所だってある。

 それでもあの人はあたしを『自慢の教え子』と言ってくれた。

 たったそれだけであたしが目の前の女を殴る理由は十分だ。

 あたしはボーデヴィッヒに接近戦を繰り広げようとした。

 

「……ふん」

 

「……!?」

 

 しかし、衝撃弾が直撃したと思った瞬間、なぜかボーデヴィッヒは吹き飛ばなかった、いや、そもそも何事もなかったかのように立っていた。

 

「くっ……!?」

 

 それを見てあたしは一瞬、思考が止まりそうになったが、直感的に『マズい』と思って引き下がった。

 

「馬鹿め」

 

「ぐっ……!!?」

 

「鈴さん……!?」

 

 当然ながらボーデヴィッヒはそんな隙を見逃すはずもなく大型カノンで追い打ちを仕掛けて来てあたしはそれを諸に受けてしまった。

 

「くぅぅ……」

 

「鈴さん、冷静におなりなさい!!」

 

 あたしはダメージを負いながらも直ぐに目の前のボーデヴィッヒに再度攻撃しようとしたがセシリアが止めに入って来た。

 

「どきなさいよ……

 アイツの顔をぶん殴ってやらないと気が済まないのよ」

 

 アイツはよりにもよってあたしが最も尊敬する人を侮辱した。

 それだけは絶対に許しておけない。

 私が制止を振り切ろうとした時だった。

 

「いいえ!止めますわ!

 なぜならばここに川神先生―――

 いいえ、雪風さんがいれば必ず貴女を止めるからですわ!!」

 

「……!!」

 

 セシリアの口から出て来たのは先生の名前だけではなく雪風の名前だった。

 

「きっと、あの人もここにいたら貴女と同じようにボーデヴィッヒさんに挑む筈ですわ……

 でも、そこには確かな勝利への筋道が在ってこそですわ!!」

 

「……アンタ……」

 

 セシリアの叱咤を受けてあたしは冷静になれた気がした。

 セシリアの言う通りだ。

 きっと雪風もこの場にいるのならばあたしと同じように先生を侮辱したボーデヴィッヒを叩きのめすだろう。

 いや、それよりもあたしは正直言って驚いた。

 まさかここまでセシリアが雪風のことを買っていたとは思いもしなかったのだ。

 しかし、きっとそれはあたしのガムシャラと異なるものだろう。

 

「……ユキカゼ(・・・・)

 ああ、あの目障りなアイツか?」

 

 セシリアの口から出て来た雪風の名前を耳にして、ボーデヴィッヒは気に障ったらしい。

 そう言えば、雪風は何度かボーデヴィッヒの邪魔をしているらしい。

 ボーデヴィッヒからすれば、目障りこの上ないだろう。

 しかし、ボーデヴィッヒはとんでもない勘違いをしているらしい。

 

「ふん……「第三世代」でも「代表候補」ですらない雑魚に何が出来ると言うのだ?」

 

「……はあ?」

 

「ぷっ……!」

 

 ボーデヴィッヒのその言葉にあたしは呆気に取られてセシリアは笑いを堪えるのに必死そうだった。

 何を言っているんだ目の前のアイツは。

 

「……貴様、何が可笑しい」

 

 セシリアが笑ったことにボーデヴィッヒは馬鹿にされていると気付いたのか不愉快そうに訊ねて来た。

 いや、セシリアが笑うのも無理はない。

 あたしもボーデヴィッヒの人を観る目の無さにには呆れを感じているのだから。

 

「フフフ……ごめんなさい。

 だって、貴女。この学年で最も強い方を雑魚(・・)と見当違いのことを言ったのですもの……

 可笑しくて仕方ありませんわ」

 

 セシリアはこれでもかとボーデヴィッヒをこき下ろすかのように笑って答えた。

 今のはかなり効いただろう。

 その証拠に

 

「……何だと?」

 

 ボーデヴィッヒは今の言葉が信じられないと言った顔をしたのだ。

 どうやら本当にボーデヴィッヒは雪風の実力も実績も知らないのだろう。

 

「そうよ。何せ先生の一番弟子(・・・・)だもん。

 悔しいけどね」

 

 あたしは悔しさを感じながらも援護射撃をお見舞いすると共に先生の名誉挽回の事実を叩き込んでやった。

 

「何……?」

 

 さらなる事実にボーデヴィッヒは困惑しだした。

 どうやらボーデヴィッヒはなぜか先生に対して敵愾心を抱いているらしい。

 それも一夏と同じくらい。

 あたしを狙って来たのもどうやら先生の弟子だからだろう。

 

「貴女、本当は大したことがないのではありませんの?」

 

 そして、トドメにセシリアは強烈な一撃を叩き込んだ。

 ああ、きっとそうだろう。

 先生も言っていた。

 

『鈴さん、貴女は少し蛮勇が過ぎます。

 ですが、貴女の蛮勇は相手が誰であろうと挑もうとする貴女の真っ直ぐさによるものです。

 少なくとも、相手を見下して自らを大きく見せようとする人のものと違ってそれは貴女を強くするでしょう』

 

 ボーデヴィッヒは己を大きく見せようとしているだけに過ぎない。

 だから、雪風の強さを見抜けなかったのだ。

 いや、正確には見抜きたくなかったのだ。

 

「……貴様ぁ……!!」

 

 今のボーデヴィッヒは滑稽だ。

 ボーデヴィッヒはどうやらあたしを倒すことで先生の名を貶めようとしていたらしい。

 しかし、それは前提として間違っていた。

 なぜならば、本当に自らの優位性を誇示したいのであれば、不肖の弟子であるあたしよりも一番弟子である雪風を倒すべきだったのだ。

 これは最早茶番以外の何物でもない。

 

「ならば―――」

 

 セシリアによって完全に自らの面子を潰されたボーデヴィッヒは

 

「―――先ずは貴様らを叩き潰してからあの女(・・・)を倒すのみだぁ!!!」

 

「「!?」」

 

 そのまま怒り、恥辱、虚栄心を込めて吠えるか如くカノンを発射して来た。

 

「「いいですわ―――/いいわ―――」」

 

 それを避けた後あたし達は得物を構えて

 

「「―――雪風さんに勝つ前に貴女などに負けてたまるものですかぁ!!!/―――雪風に勝つ前にアンタなんかに負けてたまるかぁ!!!」」

 

 奇遇にも(・・・・)同じように乗り越えたい相手への追求心を叫びながらボーデヴィッヒに挑んだ。




一夏関連を除くとかなり精神的に成長し強化されている原作ヒロインズ

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