Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
「馬鹿なのかしら貴方は」
開口一言目は罵声だった。
「あの空の王者と言われるリオレウスが森丘にいたのよ? なのにのこのこと森丘に行くとは馬鹿以外にあり得ないでしょう。貴方みたいな貧弱でおつむが悪い人……物体は家で引き込もってハンターの方々がリオレウスを狩るのをお願いしておけばいいの。たかが商人である貴方がいては邪魔にしかならないのだから。解った?」
「俺は人ですらないのかよ……」
「何か言ったかしら」
「なんでもねーよ……」
「まぁいいわ。それよりも外に置いてある商売道具とやらを部屋の中にさっさと入れなさい」
彼女───雪ノ下雪乃はそういって我が家の玄関前に置かれている滑車に指を指した。
滑車の上には俺の装備品が布の下に隠れており、ばれる心配は無いが、安心できる要素はこの場に一つもない。
「あ、ああ」
内心、切迫感と緊張感で胸が苦しいがどうにか平静を保ち、滑車に近づく。
はっきりいって万事休す。絶体絶命だ。
俺の装備品は布を極限まで延ばしてやっと全て隠せる程の大きさである。無論、装備品を一つでも外に出せばアウト。
抜かった。甘かった。
まさか雪ノ下がこの時間まで起きてるとは思いもしなかったのだ。
火竜との激戦で疲労が溜まっていたとはいえ、安易に楽な方へ結論を導いた。少し考えれば別の方法があったはずだ。そう、例えば何処かの宿で一泊した後、雪ノ下が確実にいない時間帯に戻ってくればよかった。しかし、時間は巻き戻せず、刻一刻と時は過ぎていく。
「何をしているの。早く入れなさい」
雪ノ下から促され、これ以上立ち止まることは許されなくなった。
もう考えていられる時間は無い。だが、滑車の上の荷物を部屋に運ぼうとした時点で俺の死亡は確定する。
八方塞がりな現状を打開するためには───あの秘技を使うしかない。
「あ、あー。そうだった、そうだったぁー。友人と飲みに行く約束をしてたんだったぁー、じゃあ、そう言うことで」
秘技 友人と飲みに行くからまた今度。
これを言えばどんな堅牢で堅物な人でも取り合えず口実として許しを出すはずだ。
なんともすごい友達という人間関係。
ああ、これが友情の力と言うのですね。違うか、違うな。
偽物の力を借りて、会心の一撃を放つ。だが、雪ノ下は真顔でそれをたたき斬ってきた。
「何を言っているの。貴方に友人なんていないでしょう」
「……。」
そうでした。忘れてました。
静寂がこの場を支配する。俺と雪ノ下はまるで幾年の時を過ごし、離れ離れになってしまった友人との再開したシーンの如く、見つめ合った。
方や、相手の隙を伺うように。
方や、相手を殺さんとするように。
両者の睨み合いは永遠と続くのかと錯角するが、それは、第三者の手によってその均衡は破られた。
「あ、おにいーちゃんお帰り!」
マイエンジェル小町。
いや、神、女神。
貴女が作ってくれたこの隙を私は見逃さない。
俺は瞬時に滑車に手を掛け、町の方───ドンドルマの方へ駆け出した。
「あっ、待ちなさいひきがやくん!」
「え? え?? おにいーちゃん!?」
呼び止める声を振り切り、先へ先へと進む。
男とは振り返ってはならないのだ。
主に、身のために。
***
逃げられた。
まったく。何を考えているのかしら。
こんな時間まで待たせておいて、帰ってきたと思ったら逃亡。
「雪乃さん、何があったんですか?」
「解らないわ。滑車の荷物を部屋に入れろと言ったら突然訳のわからない行動を取り出して」
「それは……あれですね、きっと私達には見せられないような物を売っていたんですよ、きっと」
「見せられないような物?」
「はい。その、男性向けの商品と言いますか……」
男性向けの商品。
あれよね。Rー18な商品を売っていたってことよね。
つまり、その売れ残りが……。
「ゆ、雪乃さん? 」
「ええ、大丈夫よ。彼が帰ってきたら言わなければならないことが出来だけだから」
「それは如何様な? 」
「不埒な悪徳商売を辞めなさい、とね」
私の言葉を聞いた小町さんはひきつったように笑みを浮かべ、「お兄ちゃん、ごめん……」と呟いていた。
彼が走っていった方に目を向け、思う。
無事で良かった、と。
ポッケ村に商売に行ってくるという置き紙を見たのは家に帰って直ぐだった。
私は急いで看守さんの元へ行ったが、既に彼は出て行っしまっていた。
彼が商売に出掛けていった数分前に森丘にリオレウスが現れたと情報が来たのだ。彼はポッケ村に行く際は森丘を経由して行く。
そう、空の王者 リオレウスがいる森丘を経由して。
私はリオレウスの件を知らせるために仕事を切り上げ、家に帰ってきたのに。
後悔した。
私がもっと早くその情報を手に入れていれば。私がもっと早く行動を起こして彼に追い付けていればと。
彼は平凡な商売人であるのに、変な方向に正義感がある。だから、きっと彼はリオレウスに襲われている人がいたら自分を犠牲にして助けてしまうだろう。
『自分より助けた人物の方が価値があるから』
という、自身を下に見すぎている価値観のもとに行動を起こすのだ。
彼が出ていったのは昼過ぎ。普通ならば日が落ちた頃には帰ってくるのにも関わらず、彼は帰ってこなかった。寝られない、寝られるはずがない。リビングに座って待っていたものの、あまりにも心配になりすぎて小町さんから心配されてしまった。これではミイラとりがミイラになる様なものだと考え、もう床につこうとした最中、我が家の玄関は開かれたのだ。
安心しすぎて彼に飛び付きそうになってしまったけれど、なんとか踏みとどまり罵声を放った。
玄関に近付き、開かれたままの扉を閉めるため、ドアノブに手をかける。
そして彼がいなくなってからはたと気が付いた。
「お帰りなさい」
言い忘れていた言葉を彼がいるであろう方向にかけ、先ほどあった不安は言葉と共に闇夜へと消えていった。