Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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十六話

金縛りになる暇はなかった。

 

予想外の事態に陥った俺達に出来たのは、謎の飛竜が放つ咆哮を、本能的に両手で両耳を塞ぐ動作だけだ。

 

「シャロロロ……」

 

 突如現れた黒竜は品定めでもしているかのように俺達を一人ずつゆっくりと見詰めてくる。

 この背筋が凍る恐怖の中でで動いた者は二人。俺と由比ヶ浜は退路を切り開くために左右に分かれ、ヤツに攻撃を仕掛けた。怖くて動けませんでした、そんな理由が通るのは三流ハンターまで。動けない奴は圧倒的力に蹂躙され、死を待つだけだ。それが嫌ならば例えガタガタ震えていたとしても生き残るため、生き抜くために行動を起こさねばならない。

 機動性を誇るナルガシリーズの性能を生かし、ジンオウガのように弧を描きながら接近するが、ヤツは動こうとせずその場に佇むだけ。この機を逃すべく、俺の対になって動く由比ヶ浜に目線で援護を頼み、更に速度を上げ、距離を積める。ヤツの翼膜に狙いを定め、一気に跳躍しようとしたとき、俺の視界からヤツは突如、消えた。更に言えば、由比ヶ浜の姿も、毒々しい古代林の風景もだ。代わりに見えたものは土と雑草の繊維。

 

 地べたに這いつくばる状態になっている、俺の上に大きな影が被さる。

 

「ヒッキーーーーーー!!!」

 

 由比ヶ浜の叫び声に呼応して、顔を上げてみれば 赤黒い鉤爪が俺眼球に飛び込んでくる。反射の域を越えたのではないのかと思うほど、俺は紙一重で体を横に飛ばし、地面に転がり込む。追撃を恐れ、俺は即座に起き上がり、がむしゃらに走った。

 あの好機を前にして俺は―――木の根に足を盗られ、転けてしまったのだ。

 常日頃警戒と周囲の把握を怠らない俺が、この重要な時に木の根に引っ掛かるといった、素人同然のミスを冒すなど比企谷 八幡に有り得るはずがない。

 先刻の回避動作もそうだ。本来の実力ならば確実に俺の眼球はヤツの爪に抉られていただろう。

 

 おかしい。何かがおかしい。

 

 考えがようとしても何故か頭が働かないため思考が纏まらず、更に混乱を呼ぶ。

 

「はぁはぁはぁっ……」

 

 体が熱い。脳が砂漠地で晒されているかのように熱い。

 

 喉が渇く。

 

 心臓の音が五月蝿い。

 

 落ち着け、落ち着け、落ち着け。

 

 暗示をかけるようにして、なんとか動機を落ち着かせる。明らかに異常をきたしている体に鞭を打ち、頭を空っぽにして遠方に聳える黒竜を観察すること全神経を向けた。

 いまだ見たこともない相手にやるべきことは情報収集に他ならない。平凡な俺は常が強者に打ち勝つためには情報を得ること。これは平塚師匠に教わる以前に獲得した俺なりのスタイルである。敵の骨格は、眼球の位置は、皮膚の色素は。あらゆる情報から考察し、強みと弱みををみつけ、徹底的に弱みにつけこむことこそが俺の狩りスタイルなのだ。かっこ悪いのかもしれない、惨めなのかもしれない。だが、だからこそ俺はここまで生き残ってこれた。

 

「プライドで飯が食えるわけがねぇ、なら捨てるのが最善だろうが」

 

 頭部には両眼共瞳はなく代わりに右目の位置に真っ直ぐと伸びた太刀筋の傷痕。鼻腔と俺達を噛み砕かんとする口。なにより特徴的な紫色に発光している触角が生えている。そして注意して見れば、ヤツの翼から大量に放出される、うっすらと紫色の粒子が見える。この燐紛を知覚した事で、いつのまにか、自身の回りにもその燐紛が舞っていることを確認した。

 いや、正確にはこのフィールド一帯に燐紛が巻き散らせれている。

 得た情報を己の知識をと経験から答えを導き出す。鱗粉、眼球が無い、己の異常。得たソースは大きい、だがそれでも言一手たりない。

 

「ア、アア、アアアアアアアアアアアアアアッ」

 

「! やべぇ……」

 

 奴がまいた鱗粉が色濃く見える場所に入った時だった。首を曲げあのおぞましい顔を向けてくる。奇声をあげ、強靭な脚をつかい飛び掛かってくると解ったのは奴が空中を舞っている時だ。走るタイミングなどなく、頭から少しでも遠方に飛び、間一髪で回避できたのは幸運だった。

 いや。正確にはこの危険と引き換えに得た情報こそが、最大の幸運だと言えた。

 過去に対峙してきたモンスターの中にフルフルやギギネブラといった、ヤツと同様に眼がないモンスターがいた。奴等は付近を視覚出来ないのに、どうやって補食や移動を行うのか。

 答えは視覚器官の替わりとなる特殊な器官が備わっているのだ。

 そして、ヤツにもフルフルやギギネブラと同様に眼の代わりとなるセンサーのような器官を備えて要る可能性があるのだろう。そのセンサーの役割をになっているのがあの触角である可能性が濃厚であり、翼から撒き散らされている燐粉が探知機なのだ。燐紛に関しては多岐にわたってその能力は違うが、今回の場合はあの燐紛が何らかの異常物質を獲物に取り込ませ、獲物の位置や熱量を把握しているのではないだろうか。

 これらの説が正しければ、体内にその燐紛取り込んでしまったために、身体に異常が出たのだ。全て仮説に過ぎない。だが、俺の直感がそうであると告げる。この直感を頼りに俺は今まで狩りを行ってきた。ならば、今回も従うまでだ。

 

 結論。弱点と思われる触角にダメージを蓄積させればこの現象を止めるができるかもしない。そして、狩ることも可能だ。

 

しかし、それは俺が全身全霊、なりふり構わず行動しなければならない。そのためには固まっている材木座と青ざめた顔で此方に走ってくる由比ヶ浜を守ることは出来ないだろう。

 軋む体を動かし、材木座の元に駆け寄よった。手で仰ぎ、由比ヶ浜も此方に向かわせる。敵を前にして恰好の的になってしまうが、三人一ヶ所に集まり、早口で俺は指示を出した。

 

「班長代理権限において指示を出す。お前ら二人は平塚さんを探しに行け。逃げる時間は俺が稼ぐ」

 

 返答はない。

 言葉が出てこないのだろう。

 何故あんなヤツが眼前に佇んでいるのか。何故ルーキーがヤツの相手をするのか。何故体は異常をきたしているのか。

 

 二人とも解らない事だらけで、判断する材料もない。そして、判断ができなければ行動もできない。

 

 判断ができないのは二人が無能だからではなく、ただ単に未熟だからだ。ハンターであるならば、「狩り」をする中で突発的な問題は少なからず出てくる。今回はその問題が大きすぎた。ただそれだけのことだ。しかし、この一秒が生死を分けるものだったとしても、彼等は未熟さ故に、問題の大きさに押し潰されて、動くことが出来ないのだ。

 故に、俺は人間の本能に葛を飛ばす。

 

「さっさと動け!!死にてぇのか!!」

 

「「……っ!!」」

 

 『死』という最も生物の本能を刺激する言葉を使い、それは譫言ではないぞと、黒竜が喉を鳴らす。

 俺の怒号が届いたのか、黒竜の威嚇に刺激されたのか。はたまたどちらもとなのか。二人は一目散に俺達が向かうはずだったエリアへと走り出していった。黒竜は彼等が逃げ去って行くのを黙って見逃してくれる事はなく、四肢と一対の翼脚で地を蹴り、俺達の命を削り取ろうとしてくる。

 

「……悪いが少しばかり付き合ってもらうぞ」

 

 向かい討つように太刀を下段に構え、振り上げられたヤツの 赤黒い鉤爪をいなし、紫色に光る触角を剃るように刃を滑らせる。

 

「グギァ!?」

 

 ヤツは獲物に反撃されると思っていなかったのか、大きく仰け反り、後退した。ちらりと後方を伺えば、彼等は無事、別のエリアへと移動していることが確認できる。

彼等を逃がせたことに安堵できたのは束の間、完全に怒らせてしまったようで、ヤツから放たれる殺気は一点集中、俺に当てられていった。それに呼応するように、大気は更に毒々しく染まっていく。

 

「あー……めんどくせぇ。なんでこんなことになんだよ……。報酬金額分じゃ全然足んねぇだろ……これじゃ、まじもんのブラック企業レベルだな」

 

「シャロロロ……」

 

「……まぁ、さっさと帰って一色に文句言わねぇとな。あと小町にあって愛でまくらねば」

 

 膨らみ続ける絶望に文句と願望を言って落ち着かせる。

 どうせ一人では逃げることは出来ない。それに逃げ切ったとしてもヤツがドンドルマを襲うことになれば雪ノ下や小町が危険に晒されてしまう。危険分子は早めに摘まねばならない。

 

 胸騒ぎがしたのだ。

 

 先刻、ヤツと肉薄したとき、ヤツの燐はとても懐かしく感じた。一体何故そう感じたのかは今は解らない。しかし、それは俺にとって大切な事だと、俺の中で誰かが喚き散らしている。

 

 なにより俺の仕事は。

 

 

「───お前らを狩ることだからな」

 

 

 恐怖に押し潰されそうになっていたとしても、もう俺の体は震えることはない。思考が鈍ることはない。

 体の細胞はまだかまだかと、エネルギーを蓄え続け、精神は一点の曇りもなく研ぎ澄まされる。

 この肉体と精神を鍛え上げてくれた恩師の教えを思い出す。

 

『殺られる前に殺れ』

 

 俺は平塚師匠が掲げている狩猟理論を信じ。

 

『例えモンスターであったとしても、これから行うのが真に命の殺り合いであるならばこそ、自らの名を名乗れ』

 

 平塚師匠が通せと言った義を通す。

 

 太刀を中段に持ち直し、ゆっくりと深呼吸をする。殺気を絶え間なく放つヤツを前にしてのこの動作が紛れも無い愚行であることは百も承知だ。だがその間、ヤツは俺を襲わず、俺もヤツに攻撃を加えようとはしない。モンスターと意思疎通が出来るとは一厘も思っていなかったが、先程から、恰も俺に合わせているかのような動作に、もしかしたらとの思いが浮かぶ。

 

 俺が口を開くと同時にヤツは空気を体内に送り込む。

 

 

「平塚流ブシドースタイル 比企谷八幡、推して参る」

 

 

「シギャァアアアァァッッ!!!」

 

 

 

俺の宣言とヤツの咆哮を皮切りに、一対一の殺し合いの幕が上がった。

 

 

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