Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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二十三話

「や。やっはろー……」

 

 沈んでるから。語尾、沈んでるから。

 

 前方に現れた女王に向かって、由比ヶ浜は語尾を急激に沈ませて、馬鹿さを前面に押し出した、独特な挨拶をした。その声色は不安と恐怖を感じさせるものである。

 この現状を把握するのは、ぼっちスキルを使えば容易なことだ。

 おおかた、アベクターの面々からも祭りに誘われていたのだろう。友情団結絆を重んじる彼等のチームでは由比ヶ浜はチームを裏切ったと見えてもおかしくはない。それは、由比ヶ浜自身も理解しているからこそ、テンションは零地点を突破してマイナスにまでなったのだ。

 葉山はこの程度で文句を言うほど小さくはないはずだ。戸部も空気が悪くなるのを嫌うため、追及することはなく、挨拶だけ交わしてこの場から離れようとするだろう。だが、三浦は違う。人となりを詳しく知らないが、身に纏う雰囲気がそう物語っていた。そして、葉山と戸部は更なる悪化を恐れ、三浦を止めるのを躊躇している。

 由比ヶ浜の挨拶を無視して、女王様は眉を吊り上げ、苛立ちを含ませて由比ヶ浜に問い詰めた。

 

「結衣、この前誘ったときは仕事があるから無理って言ってなかった?」

 

「その、なんといいますか……やむやまれぬ事情があるというか……」

 

「はぁ? その内容を聞いてんだけど」

 

 徐々に語気を強めていく三浦とは正反対に、由比ヶ浜の声は小さくなっていく。女王の逆鱗に触れないように、アベクター男子陣は一貫して無言を貫くようだ。

 俺としては彼等彼女らが揉めているのは大歓迎である。リア充という根絶するべき生命体が内輪もめを起こしているとなれば、メシウマでしかない。だが、今回は直にその現場に居合わせ、第三者としてこの場にいる。ましてや、小町に雪ノ下もいるのだ、火の粉が降りかかってきてからでは遅い。よって、自分と大切な人を守るためには、この空気の改善に取り掛かるしかあるまい。

 

 では、俺、比企谷八幡の八十八の特技の一つ。「遠まわしで物事を語る誘導術」を披露してやろう。ついでに一色の帰宅宣言も頂く。

 

 由比ヶ浜と三浦の間に入り込み、できるだけ媚びを売るようにして声を掛ける。

 

「お久しぶりです、三浦さん」

 

「あ? あんた誰……、ああ、あーしらのファンとか言って奴か」

 

「ええ。由比ヶ浜さんに仕事の依頼をしたあと折角だから祭りに繰り出してきたのですが、なにやら此方の不手際でアベクターの方々に迷惑をおかけしたみたいですね。一色、折角祭りに来たところで悪いが、集会所でクエスト完了の発行手続きをしてきてもらってもいいか?」

 

 ハンター間での依頼は意外にも盛んにある。指導だったり、単なる援助だったりと依頼内容は様々だ。

 三浦からすれば新米ハンターの俺が技術指南として由比ヶ浜に依頼したと思うだろう、雪ノ下や小町には護衛を頼んだと言っているため、会話をリードして、確かな言葉を出させなければすべてが丸く収まる。これこそ、ぼっちが持つ数あるスキルの内の一つだ。どうだ、凄いだろう。そこ、憐みの目を向けるのは止めなさい。折れちゃうでしょうが、心が。

 

「……はぁ、解りました」

 

 明らかに納得していない態度だったがこの際、形だけでも見繕えればなんだっていい。

 指示通り、集会所に向かうため俺のわきを通り抜けていくとき、「デートの時覚えていて下さいね」なんて呪詛が聞こえたことは八幡気にしないよ。

 一色の行動によって信憑性を増したからか、三浦の表情は納得といった顔に変わる。

 

「仕事の依頼? 結衣、こいつと狩りにでも行ってたん?」

 

「え、あ、うん!」

 

 この絶好のタイミングを逃さないと言わんばかりに、葉山が口をはさんでくる。

 

「優美子、結衣が依頼主と関係を築こうとしているのを邪魔したら悪いよ。結衣、頑張れよ」

 

 ハンターを生業として生きていくならば、依頼主との関係は掛け替えのないものになる。よい関係を築ければ専属で依頼が舞い込むことある。そして名が広まる起点にもなり得るのだ。個人で依頼が来るとなればそれだけで収入額が大きく違ってくる。とはいえ、依頼主の器量にもよるが貴族や王族、財閥の者からの依頼であれば下位クラスでも一回で数十万の依頼が来る。ソースは俺。あの時は報酬額を何度も見直したわ。

 多くのメリットが生まれる、依頼主との交流を邪魔するのはハンターの中でご法度である。暗黙の了解といってもいいかもしれない。

 だから、葉山は三浦を止める口実にして、双方に角が立たないようにしたのだ。

 

「ん。結衣、がんばりな」

 

「う、うん」

 

 由比ヶ浜と三浦は遺恨なく別れることができる目途が立った矢先、新たな問題が勃発する。内の猫愛好家によって。

 

「三浦さん、だったかしら?」

 

 アベクターメンバーがこの場から去ろうと、足を進めたとき、俺の後方から炎の女王の名を呼ぶ氷の女王の声が聞こえた。聞こえてしまった。

 

「なに」

 

「貴女、由比ヶ浜さんのお友達……失敬、お仲間なのよね。」

 

「あ? そうだけど」

 

「そう、余りにも一方的な会話に見えたからてっきり主従関係でもあるのかと思ってしまったわ」

 

 雪ノ下が淡々と言い放った一文がこの場の空気を凍らせる。それはベリオロスが放つ凍気ブレスと同等、いや、実際には見たことはないが新発見されたモンスター、マンモス型牙獣種、ガムートのスナイプブレスに匹敵するのかもしれない。

 この凍った空気の中で堂々と雪ノ下を睨むのはリオレイアの火球ブレス並の温度を放つ三浦だ。

 葉山も、俺ですら何もいえず固まる。

 

「それ、どういう意味だし」

 

「言葉のとおりよ、理解できないのかしら」

 

「このっ……!」

 

 雪ノ下の毒舌兼挑発に三浦は眉間に皺を寄せて激怒寸前にまでその表情を歪めた。二人の女王の間には一触即発な雰囲気が流れる。そこに、追撃を掛けるようにして、雪ノ下は三浦の顔を見て嘲笑う。それは「言い返せないのかしら」とでも言っているような笑い方だ。

 堪忍袋の緒が切れたのか、三浦は背に下げていた武器に手を掛けた。

 

 おいおい、それは洒落にならんぞ。

 

 ハンターが武器を人に向けるは犯罪だ。事によってはギルドナイトが飛んできてしまう。奴等に目をつけられたら最後、何らかの監視者が騒動に関わった者全てに付くだろう。強引ではあるが雪ノ下の頭を掴み、下げさせようと行動を起こす。が、それは徒労に終わった。

 

「雪乃ちゃん、それは少し言い過ぎじゃないかな」

 

 葉山が三浦の肩に手を置き、雪ノ下に勧告してきたのだ。

 

「貴方には関係ないわ。黙っていて頂戴」

 

「いいや。俺の仲間に暴言を吐いているのだから、リーダーである俺には君に対して文句を言う権利があると思う」

 

「……。」

 

 筋が通っている言い分に今度は雪ノ下口を閉ざす。この流れを逃さないように雪ノ下の手を掴み、後方に足を向ける。

 

「いやはや、内の者がすみませんでした。ではまた今度」

 

 話を一方的に打ち切り、脱兎のごとく逃げ出した。由比ヶ浜と小町も空気を読んで俺たちの後を追いかけてきてくれたのが唯一の救いだ、これであの場に残っていればまた戻らなければならなくなる。

 後ろを横目で見れば、アベクターメンバーの後姿が伺えた。そして、葉山隼人の鋭い眼光と目が合う。それはいつもの穏やかな瞳ではなく、影をおとした眼。葉山の目線はの先には俺が映っているはずだ、俺があの葉山を怒らせる様な行動をとった覚えはない。それでも、目を逸らしてはいけない、何故か理由もないのにもそう感じる。葉山も俺から眼を離そうとはせず、遂にはアベクターメンバーが角を曲がるまでどちらとも目を逸らすことはなかった。

 心中で蜷局を巻くあの言葉は、反響し、回り続ける。

 

 「雪乃ちゃん」、か……。

 

靄を切り払うために、少し速度を速めて目的地へと向かった。

 

 

 

 アリーナ。派閥代理戦争こと、狩人祭のメインである狩猟祭りはドーム状になっているこの建物で行われる。古来、コロッセオと呼ばれた闘技場と似せた造りをしているため、観客は全体を囲むように位置し、中央でモンスターが開け放たれるとなれば観客に危険が及ぶのではと思われるかもしれないが、その点においては問題ない。

 造りは簡単だがその堅さは尋常ではないのだ。

 古龍撃退特殊外装『撃龍槍』ですら壁に穴を開けることは出来ないとされているほどの強度。内壁、外壁、鉄柵にまで入念に手入れをされているこのアリーナであれば、例え火竜のブレスでも壊れることはないだろう。

 アリーナ会場の入り口にはすでに長蛇の列ができていた。列をなす人だかりの中には大きな看板を持ち、紙を売りさばく者がちらほらといる。

 彼らが掲げている看板には出場ハンターの名前が大きく記載されていた。そう、つまりは賭博。だれが今回の優勝者になるかあてるゲームになっているのだ。リレック、魔女、マエストロ。どこかで聞いたことがあるハンターネームが連ねられている。そして、葉山と、愚直に本名で書かれているのを発見してしまう。

 

 葉山もでるのか。何処のもんが抜いたんだか。

 

 失礼なものいいだが、下位クラスで二つ名でもない彼を抜いたのは、一体何処の者なのだろう。

 悶々と考えに耽っていると、右腕が引っ張られる。

 

「その、そろそろ離してほしいのだけれど……」

 

 蚊の鳴くような声が真横から聞こえ、その言葉解釈すると同時に俺は瞬時に右手に感じていた温もりを、雪ノ下の純白の左手を慌てて手放す。

 

「わ、悪い」

 

「い、いえ。私の不備が発端なのだから別に気にしてないわ」

 

 なんだ。自分に非があると認められているのか。

 雪ノ下の性格から言って三浦の言動が悪いからとでも言いそうだと思っていたが、頬を赤らめて、羞恥に浸るほど解っていれば特にいうべき言葉ないだろう。ならば、言うべきことがあるのはただ一人。

 

「そうか。ならよかった。それでだ。……由比ヶ浜」

 

「うっ……」

 

 うめき声上げるな、呻き声を。

 

「お前にも事情があるとは思うが、今回ばかりは看過できないぞ」

 

「うん……ごめん。優美子にはあとでちゃんと謝っておく」

 

「そうしてくれ。あの女王が暴れだしたら愛しの集会所が破壊されかねない」

 

「それは言い過ぎだから!」

 

 いや。案外間違っていいない気がする。

 

「小町もそう思うだろ」

 

「んー。小町、それよりも気になる事があるんだけど」

 

「気になる事? 何かあったか?」

 

 問いかけなおして、はたと気が付く。

 もしかしたら俺の会話に違和感を感じ取られてしまったのかもしれない。

アベクターとの会話でしくじったか? いや。多少なりと問題は起きたが大きな失敗は無かったはずだ。いやまて、我が妹は俺と同じく察しがいい。俺のポーカフェイスや誘導に気づかれた恐れもある。もし、俺がハンターではないかと審議を取られる質問がきてしまったら逃れられる気がしない。むしろ、絶対真相を突き詰められてしまう恐れが高いぞ。

 小町の口が開くその前に、どうにか話題の変更をせねばならない。

 

「こ、小町。質問はまた」

 

「雪乃さん、葉山さんっていうイケメンと知り合いなの!?」

 

 そっちかー……。小町グッチョブ。

 

「ええ。家の繋がりでね。彼とは何回か顔を合わせたことがあるわ」

 

 雪ノ下の言い様に、何故だか黒い感情が沸々と湧き上がってしまう。気づいた時には嫌味ったらしく呟いてしまった。

 

「顔を合わせただけって割には名前で呼ばれていたけどな」

 

「それは葉山君の父親が雪ノ下財閥の専属弁護士をしてくれているからよ。仲が良好であると周りに知らしめる必要があるのでしょうね、母から呼び方を何度も注意されたわ。貴族、派閥間では良くあることだわ。虫唾が走るけれど」

 

「ほぇ~、偉い人達って大変なんだね。ん? てことはもゆきのんお嬢様なの!?」

 

「一応、財閥の娘ではあるわね」

 

「すごい! 私、初めてお嬢様とあったよっ」

 

「凄くはないわ。ただ生まれの家が財閥であっただけ。本当に凄いのは……」

 

 雪ノ下最後まで言い切ることはなく、俯いてしまう。失われた言葉の先はなんなのか。俺にははっきりと解る。

 誰にも優しくて何でも最高の頂にまで容易に届ける人物。可愛く美しく、秀才なあの人は、本人ですら剥がすことのできない仮面をかぶる人。

 

 

「あれ、雪乃ちゃん? 久しぶりー!」

 

 

 それは、遠方から近づいてくる人物に他ならない。

 

 

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