Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
「で。何で八幡ではなくて姉さんが戻ってきてるの?」
比企谷君が姉さんに拐われて三十分後、帰ってきたのは姉さんだけだった。頼まれていた席取りは、アリーナの中央区域に陣取り、完璧なものになったのにも関わらず、彼はいない。
全く。何のために頑張ったのかしら。
「なんかね、帰り道に八幡は新しいクライアントと出くわして、商談が始まっちゃってさー。先に行っといてくれってことだったから来ちゃいましたっ」
ぺらぺらと流暢に喋り出す私の姉は、何処を見ても私とは違って、優秀なんだと自覚させられる。
私は何時から姉と自分を比べるようになったのだろうか。
入社してから? 研究院を卒業してから? 中学院に入ってから?
違う。本当は解っている。
姉さんと自分の才能の隔絶を感じ取った十歳の時からだ。私は姉さんの有り様に嫉妬して嫌悪してしまった。それでも姉さんは好意を向けてくれる。
だからこそ、どうすれば良いのか見当がつかない。謝ればいいのか、素直に敗けを認めればいいのか。
八年もの歳月を経た今でも、その答えは出ずにいる。
「まぁまぁゆきのん、ヒッキーが仕事なら仕方がないよ。せっかくだし、陽乃さんと一緒に見よ?」
「ですね、兄の席が余ってますし、どうですか?」
「さっすが、雪乃ちゃんのお友達! 良い提案をするね! 小町ちゃんもナイスアシストだよっ」
「はぁ……。どうせ提案が無くとも一緒に見る気だったでしょう」
「まぁねー。おっ、そろそろ始まるみたいだよ。」
軽快なファンファーレがアリーナ場内に流れる。そして、闘技場内に一人。ピエロ服を着こんだ男性が姿を現し、スポットライトに照らされる。
『レディィィィィィスエェェンドジェェェントルメーェェェェン!! 今宵はお集まり頂き有り様うゴザイマァァァス!』
「毎年喧しいわね、あの人」
「えー、なんかお笑い芸人ぽくって面白くない?」
「小町は雪乃さんの意見と同じですね、少し煩いです」
「私は良い演出だと思うな。好意的であれ敵意であれ、現れて早々、自分に目線を向けさせたんだから」
『では早速、クエスト内容について説明しまぁあっす! 今回はぁぁぁぁ、タイムアタック式ダイミョウサザミ連続狩猟だぁぁぁぁぁ!!』
ダイミョウサザミ。学院で習った、大型モンスターの一種だ。蟹のような骨格をそのまま巨大化させたモンスター。一般的に、甲羅はモノブロスの骨格を使用しているとされている。強靭な鋏は一発で人間を真っ二つにできるらしい。全く怖い話ね。
『まずはぁ! 下位クラスからいきまぁす! 参加ハンターは五名! 魔女、河豚、リリアント、そしてアベクターリーダーの葉山だぁぁぁぁぁ!』
司会者の最後の言葉に黄色の声援が沸き上がる。
「そういえばさ、雪乃ちゃん、隼人から求婚されているでしょ。どうするの?」
「えええっ! ゆきのん、葉山くんと結婚するの!?」
「お兄ちゃん死亡のご報告か……」
落とされた爆弾発言に、由比ヶ浜さんと小町さんは慌てている。けれど、私にはその気は一厘も無いわ。
「それを何故知って……いえ。次期当主が知らないはずがないわね。悪いけれど私は政略結婚なんて御免だわ。ハッキリとお断りさせて頂きました」
「へー。別にいいけど、お祖父様が本腰を入れたら抗えないよ。だから、今の内に権力持っておいた方がいいと思うなー。と、お姉さんは思います」
「解っているわ。私は私なりに動いています」
「そっか。なら安心だ」
姉さんは心底安心したような顔で、そう呟いた。たかだか私が解っていると言っただけでだ。本当に、姉さんの愛情はどう対処すればいいのか困る。
小町さんと由比ヶ浜さんも安心した顔になったけれど、由比ヶ浜さんは少し青ざめている。
「ゆきのん、隼人くんとの事は優美子にいったらダメだからね! じゃないと……集会所が壊されるかもだから……」
乾いた笑い声がしぼり出されていた。
「え、ええ。解ったわ」
「小町もお兄ちゃんにも伝えて欲しくない……いや! 伝えてほしいですね!」
嫌よ! 八……比企谷くんにこんな話が伝わるなんて絶対に駄目だわ。
「別に伝える必要性が無いわ。あと、この話は本来、極秘となっています。勝手に言いふらしたりしないように。特に比企谷くんに言ったら……解っているわね」
「りょ、りょーかい」
「がってんです」
「私も解ったよー」
漏れて欲しくない情報を知られてしまった三人には、しっかりと口封じをしなければならないわね。脅しただけでは甘いかしら。
「あっ、ゆきのん、一人目が始まるみたいだよ」
『───と、言うわけで、さっそく始めてイキましょう! では、話題騒然のハンター、魔女さん、お願いしまぁぁぁぁぁす!』
私達が会話に夢中になっている間に、なにやら新たな参加ハンターが追加されたとか。比企谷君がいないことだし、正直、あんまり興味が無いわね。
司会者が漠転を連続で行い、中へ消えていくと、入れ替わりで武装した女性ハンターが登場した。
その女性の格好はまさに魔女。
黄緑色に光る服……防具は妖しさを出し、ドレス帯になっている腰から下は、フリルが荒々しく舞う。一見、綺麗に感じるが、顔を見れば背中に悪寒が走るわ。
能面。頭装備は顔全体を隠しきり、能面になっていた。
「へぇ、珍しい。ライゼクス装備なんて。それも女性用」
姉さんはぼそりと独り言ようにして呟いた。
「ライゼクス? 小町、それどっかで聞いたことがあるよーな」
「小町さん、貴女、現役学生でしょう。しっかりしなさい。ライゼクスは以前、新たに発見されたモンスターよ。その狂暴性はリオレウスも凌駕すると言われているわ」
「ライゼクスはまだ見たこともないんだよね、そういえば、装備も見たことなかったなー! 顔はあれだけど、それ以外は可愛いかも!」
ハンターである由比ヶ浜さんが少し悔しそうに見えるのは間違えではないのでしょう。所謂、ハンターの性ってやつね。
「ライゼクスは個体数も他の飛竜と比べて少ないんだよ。それでよく素材を集めきったわね。それに武器も一風変わった物を使ってるし」
竜歴院局長代理である姉さんは、魔女と呼ばれる彼女に興味を示した。
姉さんが興味を示すなんて、いつ以来かしら?
魔女の方へ再度視線を移し、腰に下げている武器へ目をやる。
一瞬、楽器なのかと思ったけれど、違うわ。ハンマーのような突起部分と、アルトリコーダーのような構造部分。この二つの特徴はある武器を指している。
「魔女ちゃん狩猟笛なんだ!? ソロなのに!?」
「ふふっ、面白いね、あの子」
「え? え? 何かあったんですか?」
小町さん……。貴女が私の処に就職できるのか不安になってきたわ。
「狩猟笛は本来、仲間をサポートする役割なのよ。奏でた楽曲によって色々な強化現象が起こるの。例としては飛竜の咆哮が五月蝿くなくなったとか、よく聞くわね」
「付け加えて言うなら、チームのサポーターだから、ソロには向かないんだよね。別にソロでもいけるけど、演奏中は無防備になっちゃうから守ってくれる仲間もいない。強化のために払うリスクが高すぎることになっちゃうの」
私と姉さんの説明を受け、小町さんは関心したように顔を綻ばせた。
小町さん、貴女が一番知っていておかしくないのよ。解っているのかしら。
「んー。でも、たぶん魔女ちゃんは大丈夫だと思うなぁ。だって、下位クラス史上二人目の『二つ名』だし」
「二つ名? モンスターではなくて?」
由比ヶ浜さんの発言に、私は疑問を抱いてしまった。二つ名とは、種の異常体のことを指していると認識していたのだけれど。
「えとね。モンスターにも『二つ名』はいるけど、ハンターの方にも、なんていうのかな、凄い人にはつくんだよね、『二つ名』。やっぱ上位クラスのハンターが基本だけど、下位クラスにもこの前までは一人だけ、『死神』っていう『二つ名』持ちハンターがいたんだけど、つい最近になって『魔女』って呼ばれるハンターが下位クラスに出てきたの。私もほしいなー、二つ名!」
「なるほど。彼女がハンター側の『二つ名』っていう訳ね」
「お姉さんも彼女のことは知らなかったな。後で調べよっと」
『二つ名』の講義を受けていると、魔女が出てきた反対側の鉄格子が開け放たれ、ダイミョウサザミが場内に現れる。
『ではぁ、レディィィィィィゴーォォォォォ!!』
消えたはずの司会者の声が、アリーナ全体に反響し、歓声が一気に湧く。
と、同時に。魔女は武器を取りだし、曲を奏で始めた。
それは何処か不気味で艶やかな音色。
聞いては駄目なような、でも、聞きたいと思ってしまう。
演奏時間としては二分くらい。
その間、ダイミョウサザミも私達観客も、魔女の演奏に惹き付けられていたわ。
そして、演奏が終われば魔女はダイミョウサザミに向かって一気に距離を詰める。
「はやっ!!」
由比ヶ浜さんは魔女の動きに感嘆する。
確かに、私も驚いたわ。魔女の速さは防具を着こんだ人の動きには見えないのだから。
ダイミョウサザミに肉薄した魔女は、狩猟笛で殴り付ける。連続して殴打を食らったダイミョウサザミは、脚を素早く動かし、魔女の裏へ回ろうとするけれど、魔女は距離を取り、回避してした。
そして、再度接近。またもや狩猟笛で叩きつけて、攻撃がくれば距離を取る。この動作を繰り返すこと十五回目、ダイミョウサザミは地に伏せ、立つことは無かった。
『エェェェェェェンドォォォォォ! 黙々と安定した攻防を魅せてくれた魔女さんのタイムは───十八分四十秒でしたぁ!』
魔女の姿はいつのまにか消え、ダイミョウサザミの亡骸は係の者達が運んでいく。
『ではぁどんどんいきましょう!次は河豚さんでぇす!』
司会者が進行をハイスピードで行い、次のハンターが現れる。
次の試合も見ようかと思ったけれど、どうしても戻ってこない彼の事が気になってしまう。
「……ご免なさい、少しお手洗いに行ってくるわ」
私はそう言い残して、アリーナから出た。
* * *
雪乃ちゃんが八幡を探しにいってから、私は由比ヶ浜ちゃんに探りをいれようと思った。
小町ちゃんは目配せ一つで私がやろうとしてる事が解ったのか、観戦に夢中になっている風を装ってくれる。
流石は八幡の妹であり雪乃ちゃんの親友ね。
私は簡単な質問から切り出した。
「そういえばさ、由比ヶ浜ちゃんは雪乃ちゃんといつ友達になったの?」
「ほえ? あ、えーっと、つい最近です。ヒッキー経由で知り合って、友達になりました!」
「そっかそっか、ガハマちゃんは雪乃ちゃんと仲良くしてくれる……かな?」
私の問いに首をかしげて、疑問符を頭上に現した。きっと、意味がわからないのだろう。
雪乃ちゃんは才能はある。私の妹だもの。でも、私と比べてるから低く思っているのでしょうね。その思い違いが、雪乃ちゃんの周りには嫌味にしか聞こえないし、それを良くとらえたとしても、皆離れていってしまう。唯一離れなかったのは八幡と小町ちゃんだけ。
だから、私は見極めなければならない。
『お友達』なのか、『親友』なのか。
「えと、私はゆきのんのことまだ深くは解りません。けど、ゆきのんみたいに、ずばって、正直に話せるようになりたいと思います。だから、私こそ、仲良くしてほしいと思っています」
ガハマちゃんの声は、回りの喧騒にかき消されることなく、しっかりと私にまで届けられた。
合格、とまではいかないけど、及第点は与えられるかな。
「そっか、雪乃ちゃんに嫉妬して嫌いになっちゃう子が多いけど、そうならないことを祈っておくね」
「私は絶対にゆきのんを嫌うことなんてないですよ!」
「うん、よろし───」
「なにがよろしくなのかしら」
あら。いつの間に帰ってきたのかな。
「雪乃さんお帰りなさいっ」
「お帰り。私とも仲良くしてって話をしてたの。ね、ガハマちゃん?」
「え? あ、はい!」
うん。空気が読める子は嫌いじゃない。
雪乃ちゃんが訝しげに此方を見てるけど、問題は無さそう。けど、気になること事がある。雪乃ちゃんの隣に立っている全身武装をしている女性ハンター。誰なのかは解るけど、何故観客席にいるのかが解らない。
「それよりも、なんで静ちゃんがいるの?」
「静ちゃんって言うな、陽乃。先生と呼べと言っているだろう」
ヘルムを脱ぎ、露になった顔は、私の幼少時期の教育係になっていた人、生きる伝説、平塚 静。その人だった。
「静さん!? お久しぶりですっ」
「お久しぶりです!」
「久しぶりだな。いや、由比ヶ浜に関しては久しぶりって程でもないか。朝方にあっているわけだからな。しかし、陽乃と知り合いだったのかね?」
「えと、今日知り合ったばっかっていうか」
「ふむ……。繋ぎ役の彼は何処にいる?」
「比企谷君ならクライアントと交渉中です。何処でやっているのか解らないけれど」
むむ。八幡を見つけられなくて不機嫌になっていますな。不貞腐れた雪乃ちゃんもかわいいなぁ。
「私の方こそ驚いたよ、ガハマちゃんが静ちゃんと知り合いだったなんて。今日は出ないの?」
「由比ヶ浜とは比企谷から繋ぎ合わせてもらったんだ。今回はちょっと訳あってな。傍観させてもらうよ」
「そっか。ああ、そう言えば、静ちゃんのお弟子さん、出るみたいだね」
「だな。私も来て初めて知ったよ。一体誰がそそのかしたんだろうな、なぁ陽乃?」
悪戯っ子のような笑みで、私を見てくる。
完全武装にも関わらず、観戦に徹するということは、主催者側と手を組んでいるということ。不測の事態があれば、観客席から飛び出す気なのね。
それを私に隠す気がないってことは、既に八幡と合流済み。此方の味方をしてくれるってことか。
「『死神』出るの!? ゆきのん知ってた!?」
「いえ、私はそもそも『死神』が誰なのか知らないのだけれど」
「小町、知ってましたよ。最初に放送流れてたので」
小町ちゃんは抜かりないなぁ。上手く気を引き付けたはずなのに、目敏く情報を得ているんだから。
「『死神』と呼ばれるのは私の弟子だ。そして、下位クラス唯一の『二つ名』持ち……いや、今は二人か。ちっ」
「平塚さん、お弟子さんがいらっしゃったんですね」
「まぁな。私とは似ても似つかない動きをするものだから、私の弟子なのかと思えてくるよ」
「似ても似つかない動き? 『死神』って常勝無敗のイメージだから静さんと似てる気がするけどなぁ」
「いや、違うよ。馬鹿弟子は私とは正反対、どちからといえば、今戦っている奴の方が、私と似た狩り方をする」
静ちゃんが場内を指差して、一人のハンターを示す。
そのハンターは流れるような太刀捌きで最初に見たダイミョウサザミよりも一回り大きい個体を圧倒していた。燃えるような赤色の防具で身を固めているが、その防具にはダイミョウサザミから受けたであろう傷は一つも無い。
「隼人、ね。静ちゃんと似てるの?」
いつの間にか予定では最後の参加者である葉山隼人が場内で舞踏を踊っていた。
「ああ。彼は感覚で避け、移動している節がある。ほら、次左に避けるぞ」
と、言った次の瞬間には、実際に左に転がっていた。
そして、またもや無慈悲な斬撃の嵐をダイミョウサザミに浴びせている。
「ほんとうだ! なんで解ったんですか!?」
「感覚だ。何となく左に避けた方がいい気がする、そんな曖昧なもので行動したんだよ、彼は。もれなく私もそうだがな」
続けざまに隼人のパーソナリティーを言い当てていく。
「彼は全てにおいて問題なくこなせる技術と才能があるだろう。故に、感覚で動く。それは一流ハンターには不可欠な要素だ。
それに加え、定石を完璧にこなせる技術がある。何れは彼も上位に上がってくるだろうな。む、それにしても彼は筋がいい」
隼人は太刀使いとしての基本連続技を通し、隙が出れば狩技を駆使して着々と攻める。間合いを上手くとっているのも、静ちゃんからしたら好ポイントなのだろう。
「平塚さんに誉められているなんて、隼人くんやっぱ凄い……!」
ガハマちゃんが隼人に称賛の声を送っていると、彼が対峙していたダイミョウサザミは糸が切れた人形のように動きを止めた。
静ちゃんが隼人のことを誉めているのは、素直に実力を認めているのもある。けど、結局は愛しのお弟子さんを彼と比較して褒めあげたいからでしょう。
この読みは絶対に当たると思うな。
長らく忘れていたアリーナの進行はついに終盤。残すは一人だけとなった。
『エェェェェェェンドォォォォォ!完璧な太刀捌きで銀冠クラスのダイミョウサザミを圧倒したぁ! そしてぇ、葉山さんのタイムは───十分ジャストでしたぁ!!』
司会者が言ったタイムに、割れんばかりの拍手と声援が沸き上がる。隼人は大きく手を振り、ファンサービスを忘れていない。
このアリーナにいる人々の中で、声援も拍手も送らなかったのは私と雪乃ちゃんくらいだろう。
『では、ついに最後の挑戦者! 乱入枠、そして下位クラスにて既にその名を刻むハンター、『死神』の登場だぁぁぁぁぁっっ!!』
煙り玉を用意いたのか、登場口には白い煙幕が巻き上がる。
そして、その中からのそり、と。
黒ずくめの男が出てきた。
その防具は隼人が着ていた物と比べて、貧弱に見える。だが、見えるだけで、強化を幾度も重ねているはずだ。実際の強度は同格なのだろう。
まぁ、でも。露出部分が随所にあるからやっぱ防御力は低いのかな。
「彼が静さんのお弟子さんですか?」
「ああ。あの黒ずくめが私の弟子だ」
「へぇ。小町初めて……んー? でもなんか見たことある気がする……」
「あら、小町さんもかしら。私も何故だが見たことがある気がするのよね」
あちゃー。やっぱ少なからずは気付くよね。
まぁ、そのためのフォローが私の役目でもあるけど。
「雪乃ちゃんも小町ちゃんも、見たことあると思うよ。彼、有名だからさ。記事とかで取り上げられてるし」
「うむ。あの馬鹿弟子はやりたい放題だからな。飛竜の連続狩猟をこなしたり、特殊個体に挑んだりと、全く仕方がない奴だ」
静ちゃん、仕方がない奴だ、とか言っといて嬉しそうな顔をするのはどうかと思うよ。
弟子の武勇伝を話したがるのは止めないとね。そのかわりに、さっきの話の続きしていいからさ。
「で。静ちゃんと、あそこの彼は何が違うの?」
「うむ。あの馬鹿弟子は……ハンターとしての感覚機能が薄い」
「え、それじゃあ隼人くんの方が凄くない?」
「そうだな。感覚といった才能おいては先程の彼の方がいいだろう。だが、奴は感覚だけで避けないだけだ。そして、全てを計算して動く」
「どういうことなのですか? 平塚さんの主張では、感覚で動けるものがハンターとして一流であるとお聞きしましたが」
「たしかにそうだ。だが……いや、見れば解るだろう。見ていろ、奴はきっと、攻撃を止めない。そして、回避もしないだろうな。これは絶対だ」
静ちゃんの述べた事が妄言に感じたのか、三人は渋い顔をして彼を見る。
確かに、モンスターの攻撃を避けない。加えて攻撃を止めないなんてことは、それこそあり得ない。
モンスターの攻撃は一つ一つが重い。小学院に通う子供でも解りきっていることだ。
なにより、武器を常に振るには体力が持たない。
ハンターであるガハマちゃんからすれば、妄言や世迷い言にしか聞こえないのかもしれない。
お弟子さん……八幡へ目線を向ければ、太刀を鞘から取りだし、腰に刃を添えている。
そして、彼が向かい会う先は、隼人が対峙していたダイミョウサザミよりも二倍近く大きい個体が、佇んでいた。
「金冠クラスか。それも特上だな」
「これって、死神さんが他の人よりも不利ってことですよね?」
小町ちゃんの疑問はその通り。
個体差によって体力や攻撃力が違う。通常個体、銀冠クラス、金冠クラスと、金冠クラスになれば、通常個体の二倍の強さを誇っている。
だが、今回はアリーナの大会。運も実力の内というように、仕方がないのかもしれない。一部暗躍された気もするが、問題はないだろう。
八幡なら、ね。
『ではぁぁぁ!!! 下位クラス最後の闘いを始めまぁす!レディィィィィィゴォォォォォ!』
司会者の声によって切られた闘いの火蓋は、両者が動いたことで始まりを告げた。
ダイミョウサザミの動きは遅くはい。あの巨大の割には速度は通常個体と変わらない、いや、さらに速い。だが、それよりも速く。影を縫うようにして、狩人が動く。
開幕当初、腰に添えていた太刀を人外の早さで抜き放ち、ダイミョウサザミ懐に斬り刻む。その速さは肉眼で追うことは出来ない。鬼神の如く太刀を振り続け、ダイミョウサザミをダウンさせたかと思えば、更に勢いを増して斬りつける。そして、立ち上がったかと思えば、太刀使いの妙技、鬼神斬りを連続で叩き込み、再度沈ませる。
異常な光景だ。
狩人の何十倍も大きいモンスターが、ただその場に立ち竦み、命を削られているのだから。
歓声は起こらない。拍手もない。
ただ、何か夢物語でも見ているような気がしている。
「これは……。どういうことですか」
誰も言葉を口にすることが出来ない中、雪乃ちゃんが疑問を呈した。
「見ての通り。ただ斬りつけているだけだ。ただ、一発を深く。より深くダメージが与えられる場所を見抜いて、数分の狂いもなく斬りつけている」
「あの馬鹿弟子は確かに感覚といったものが薄い。だが、観察眼、フィールドと敵と自身を三次元で捉えることが出来ている。これは私でも出来ない事だよ。そして、ずば抜けた演算処理能力を使ってより効率的にダメージを与えている。今回は、ダイミョウサザミのダウン率でも計算しての行動だろうな。数学は苦手な癖に何でこういったことが出来るのか、不思議でならんよ。つまるところ、あいつも天才、凡人であったとしても努力をし続けられる天才だということだ」
「つまりは、全て計算して、猪突猛進に攻撃している訳ですね。ですが、それは危ないことではないですか? 計算外で相手から攻撃を受ければ、彼の思惑は破綻すると思いますが」
「ふふっ、その通りだ。それを解って奴はやっている。もう二つ、才能があるんだよ」
「もう二つ?」
「引くぐらいに臆病なことだ」
「それは、才能、なんですか?」
「ああ、才能だ。気持ち悪いぐらいに臆病だから、絶対に予防線を張る。だから、負けない。ほら、くるぞ」
眈々と斬り込み、敵を沈めていたが、遂に、ダイミョウサザミから凶悪な鎌を使った攻撃が飛んできた。
だが、八幡は避けることはなかった。
受け止めたのだ。太刀の腹で。
そして、そのまま滑らせて力を外へ流し、縦一文字に斬る。続けざまに体を捻らせ、大きく斬り抜けた。その後、ダイミョウサザミの胴体から無数の切り傷生まれ、黒い血液が撒き散る。
「『平塚流 鏡華の構え 潜竜ヶ滝の陣』。奴が私から学んだ唯一の狩技だ。他のやつも教えるといったが、要らないとほざいてな」
静まり返ったアリーナで、豪快に笑う。
「私とは違って勝つ狩り方じゃない。あの馬鹿弟子は負けない狩り方なんだ。まったく、男が女々しいやり方をする。だがまぁ」
そして、静ちゃんは満足そうに言った。
「常勝無敗。それは変わらんがな」
司会者が開始の合図を出してから、五分未満。
八幡はダイミョウサザミの命を刈り取った。
* * *
ありえない。
金冠のダイミョウサザミをソロで、それも補助も無しで五分未満で狩り終える。それは非現実的な行いでありながら、しかし、今しがた観衆の前で実行されたことだった。
私は目の前で行われた狩りに、繰り広げられた絶技に感嘆するしかなかった。そして、だからこそ私自身の眼で見たことであっても心のどこかで否定せずにはいられない。そうしなければ、私の中の常識が常識でなくなってしまいそうだったから。
私と同じ二つ名? レベルが違うわよ。
目前で、偉業と呼んでも差し支え無いことを成し遂げた太刀使い。下位クラスで二つ名を持つハンター。通称、『死神』。つい先日まで下位クラスで二つ名持ちは彼、『死神』だけだった。
私が『魔女』と呼ばれるようになるまでは。
慢心しているつもりは無かった。
他人が何と言おうとも私はお金を稼ぐために、上にいかなければならないのだから。
だが、今まで眼中になかった下位クラスで、私と同格とされていたハンターに初めて興味が湧いた。単独で飛竜連続狩猟やアベクターですら退けた特殊個体のリオレウスを狩るほど実力の持ち主ならば、私一人では達成できない高額報酬クエストも『死神』と組めば成功させられる。
別に死神と組まずとも、アベクターのようにフルメンバーで行けばクエストを完遂することは出来るだろう。けれど、それでは報酬額や素材は分配となる。少しでも早く多くのお金が欲しい私にとって、それでは駄目なのだ。
彼と手を組むことで私が受けるメリットは、そのまま『死神』にも当てはまるだろうし、恐らく戦闘の相性も悪くない。
聞く限り、独壇場無双の太刀使いと呼ばれているから、前衛特化なのは間違いない。私の武器、狩猟笛でバックアップし、『死神』の邪魔にはならない上で攻撃を行えば、狩猟効率は格段に上がる。
そう考えれば、両者にメリットがある事なのは明白だ。
だから、この提案を持ちかける前に自分の眼で『死神』の実力を確かめようとした。
結果は――私の予想を大きく上回るほど、『死神』は猛者だった。
私の援護など不用だと感じるくらいに。
眼で追うことが出来ない、高速の剣線。
止むことはないダイミョウサザミの黒い血の雨。
モンスターという、人間の何倍もの力を保有する生命体を太刀一つで、黙らせる。
アベクターリーダー、葉山隼人が魅せた技の数々は確かに目を引き付けられた。でもそれ以上に、『死神』の剣劇は――目が離せなくなるのだ。
実力は合格。いや、私が、不合格なのだろう。
でも、結納金の期限は遂に二週間まで迫ってきた。
ハンター同士の協力は両者にメリットがなければ結ばれない。私はそれを承知に上で頼むしかないのだ。
懐に仕舞われた一枚の写真を取りだし、潰れないよう、握り締める。
「お姉ちゃんが何とかするから、待っててね――大志」
覇気を出して此方に近づいてくるハンター。
『死神』に視線を移し、私は震える体に活を入れた。