Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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二十七話

「比企谷さんと同じクラスの川崎大志君です」

 

 遂に小町の口から聞いてしまったクソガキの名前。小町に寄り付く虫は極力排除してきたが学院までは手が届かなかった。なんたる失態、これは眼前で震えているクソガキを殺して償うしかない。だが、事はそう簡単にはいかないだろう。小町に雪ノ下、由比ヶ浜までもがクソガキに篭絡されてしまっている。俺の行動に目を瞑ることは無い。つまりは武力で排除することは不可能、他の手立てでクソガキを消さなければならない。

 先ほど狩ったダイミョウサザミの狩猟よりも脳を働かせ、思考の枝を生やしていく。ハンターとしての思考回路を駆使しても、どれもが遺恨を残してしまう結果になる。歯がゆい思いをしながら、残りわずかとなった枝の本数を最後まで突き詰めようとしていると、小町は俺が落ち着いたののだと判断したのか、話を切り出してきた。

 

 小町さん、今他の事考えたくないからやめて下さい。でも小町の話ならなんだって聞いてしまう八幡まじ優しい。

 

「でね、大志君から相談を受けたんだ」

 

「おいこらクソガキ、小町によからぬお願いをしたんだな、よし。牢屋暮らしを堪能させてやる」

 

「ご、誤解っすよ! 俺の姉貴について相談してただけっす!」

 

「ああ? 姉貴だ? 知るかボケ。手前でなんとかしやがれ」

 

「それが出来ないから相談したっす!」

 

 唇を噛みしめ、声を荒げる。その姿は八年前に見た鏡に映るだれかと似ていた。

 力が、己に力がないから問題に対して無力な自分を誰よりも嫌悪せずにはいられない。それはあまりにも身勝手で見苦しいことだとはあの頃の俺と同様、川崎大志も気づけないのだろう。

 悲痛の叫びに、俺は押し黙る。それを傍観していた者が、額に手を当てて話を促す。

 

「シス谷君、彼の要望をまず聞きなさい。でなければ本当に話が進まないわ」

 

「ジャンボ村の兄妹は皆シスコンなんだよ」

 

「私の育った村を貶める発言は止めなさい」

 

「ゆきのんジャンボ村出身だったんだ……」

 

 失言。雪ノ下は口を押えて苦虫を噛み潰したような顔を張りつかせる。小町は目線を下に落とし、その姿にクソガキは口を開いては閉じてと忙しない。

 

 謎の飛竜によって滅ぼされた俺の故郷でもある、ジャンボ村。一夜にして瓦礫と化した故郷の話は遠く離れたドンドルマでも有名な話になっている。由比ヶ浜がいつ頃からハンター業に就いたのかは知らないが、ジャンボ村が各所に出した援助要請を無視したことを気にしているならばそれはお門違いだ。謎の飛竜に対してこちらが得られた情報は漆黒の鱗を持つことだけ。そんな危険極まりない援助要請に村専属ハンターを出すのは村長として失格だ。ドンドルマはもちろん、最西端に位置する旧シュレイド王国に至っては最東端にあるジャンボ村に援軍を寄越したものの、十日以上掛かる道のり。一日で壊滅してしまったものだから三日目の進軍で帰国したらしい。援助要請に応えられなかった詫びとしてドンドルマを実質仕切っている長老委員会は避難民にみなし仮設を急遽建設し、衣食住を提供。旧シュレイド王国も同じく『ドンドルマに避難民が全て入った事を確認した上で』避難民が自国に来れば好待遇で待ち受けるとのことだった。旧帝国の狡猾さには笑いがこみ上げてくる、援軍を本当に出したのかも疑わしい処だ。ドンドルマのみなし仮設から出ていった時には一度旧シュレイド王国に向かうか悩んだものの、行った処で生活の保障が確実なのかは解らない。雪ノ下に小町が着いてくる事になってしまったので、当時の俺は少しは勝手がわかるドンドルマで生活していくことを決意した。一年前、シュレイド王国の王族が全員謎の死を遂げ、西シュレイド王国と東シュレイド共和国に分裂したことを知った時には血の気が引いたものだ。援助要請を無視した村も復興の助力は惜しまないと宣言。無論、復興する兆しは万に一つもないが。

 つまり、建前上は問題は解決しているわけだ。由比ヶ浜が援助要請を断った、ないしは帰国したとしていても、それは致し方がないこと。責め立てられる事ではない。

 

「で。クソガキ。お前の相談ってのはなんだ」

 

 気まずい空気を換えるため、仕方がなく、クソガキに話を振る。

 

「あ、えっと、俺の姉貴、川崎沙希っていうんっすけど……朝帰りどころか、家に何日も帰らなくなってしまったんす」

 

「で」

 

「それで、姉貴が久々に家に帰ってきた時……血の匂いがしたんっす」

 

 ごくり、と喉を鳴らしてクソガキは不気味なことをのたまった。

 

「血の匂い? 肉でも捌いてたんじゃねぇの」

 

「姉貴はまだ女高学院生っすよ!? 俺たちの学院はバイトだって規制されてるし……。なんか、動物の匂いとかじゃなくてもっと生々しかったっす」

 

 小町とクソガキが通う王設ロミクス学院は中学院から大学院まで一貫して学べるエスカレーター式の学院だ。卒業後の就職先は大手企業や官僚、研究職と将来が約束される職場ばかり。その代わり入学適性試験の難易度が高いこととズバ抜けて学費が高額である。小町は遠慮して働くと言っていたが、俺だけではなく雪ノ下の説得もあり、入学を決意してくれた。同じレベルの高い学院に在籍するクソガキの姉はなんらかの事情で生々しい血を体に染みつける事をしている。それを不安に思ったクソガキは小町に相談し、流れで雪ノ下と由比ヶ浜も相談に乗っていた訳か。

 

「だから、小町さんに相談したんっすけど、『私のおにぃちゃんが解決してくれるかも!』って言ってくれて」

 

「おい小町、なに言ってくれてんの?」

 

「……てへっ」

 

 頭を軽く小突く仕草がむかつく。超絶むかつくが可愛いから許す。

 

「お願いしますお兄さん!  俺の姉貴が何をしてるのか調べてもらえないですか!!」

 

「俺はお前の兄では断じてない。そして悪いが断る」

 

「えー!! 小町の顔丸つぶれじゃん!」

 

 我が妹は悲鳴を漏らし、苦言を吐く。

 

「いいじゃん、おにぃちゃん商人で顔が広いから大志君のお姉さん見つけるのなんてちょちょいのちょいでしょ!」

 

「商人にとって誰かを調べ上げたりするのは掟破りなんだよ。信用問題にまで発展しかねないんだ。収入がなくなるのは最も困っちまうだろうが」

 

「比企谷君、私からもお願いします。協力はもちろんするわ」

「あたしも! お願いヒッキー」

 

 雪ノ下、追従するように由比ヶ浜までもが断った理由を聞いて尚、何故だかクソガキの肩を持つ。

 

「お前らなんでそこまでしてクソガキの問題を解決したいんだよ」

 

 俺の問い掛けに、二人とも口を開かず、小町も巌に目を合わせようとしない。

 

 意味が解らん。言えない事情があるってことか。

 

「俺の姉貴は……『嫉妬の魔女』って言われてるからっすよ、たぶん」

 

 愁いを帯びた目で、クソガキは達観した声で俺の質問に答えた。それが二人の理由になっていたのかは、バツの悪い顔をしているのを見て確信する。ただ、疑問が残るとすれば――。

 

「『嫉妬の魔女』? なんだそれ」

 

キーワードである『嫉妬の魔女』なる存在が解らないということだ。自慢ではないが各所に飛び回る職柄、知識に関しては相当なものだと思っている。

 

「お兄さんしらないんっすか!?」

 

「だから俺はお前の兄じゃない、次言ったら殴り飛ばすぞ。知らん。何者だよそいつは」

 

 自身の無知さを指摘された気分になりどうにも棘のある言葉がでてしまう、いや常にクソガキに関しては棘はあるな。

 

「有名なおとぎ話に出てくる災厄の魔女っす。名前は「サテラ」。サテラは禁忌の竜を操り、この世界を滅ぼそうとしたらしいっす。実際に西シュレイドと東シュレイドの中間にある遺跡にその爪痕がのこっているっす」

 

 聞いたこともない話だ。だが、このおとぎ話に出てくる魔女とやらは実在してることが濃厚。小町や雪ノ下まで知っていたならば俺が無知なだけか。少しばかり、なんといえばいいのだろうか、小骨が喉に引っ掛かったような、得体のしれないものを踏み潰したような、疑念が蜷局をまいて渦巻く。

 俺が喋らないことに続けろと感じたのか、クソガキはさらに話を続ける。

 

「そして、『嫉妬の魔女』について解っていることは二つ。名前がサテラってことと髪が透き通った銀色だってことっす。俺の髪が銀色だから察しているとおもうんすけど、姉貴も銀髪、それも、おとぎ話にあるような綺麗な銀髪っす。だから……」

 

 それはつまり、クソガキの姉は伝承の魔女と似ているということか。

 

 胸クソ悪い。

 

 一瞬で、雪ノ下と由比ヶ浜が、そして小町がクソガキの肩を持った理由が解った、解ってしまったことが何よりも吐き気がしてしまう。

 クソガキの姉は生まれてから常に奇怪な視線を送られ続けていたのだろう。魔女のおとぎ話は聞く限り、知っていて当たり前、ポッケ村からセクアメー砂漠に渡って伝わっているものと伺える。忌々しい魔女と同じ色の髪であるからと暴力暴言は日常茶飯事だったのかもしれない。理由は違えど、あの苦しみを味わった俺と雪ノ下からすればクソガキの姉の話を聞いて眼を背けることなど断じて、出来ない。何かと正義感の強い由比ヶ浜も同様、小町に関しては『また別の理由』があるだろうが、概ね理解はできた。

 そして、一度目に『嫉妬の魔女』の名を聞いた時のことを思い出す。

 

 

 

----私が『嫉妬の魔女』に似ているのが気持ち悪いのは解る。でもお願い。もう後がないの、一週間だけでいい、私に貴方の時間を下さい----

 

 

 

 ああ、そりゃあ血の匂いがするわけだ。

 

 

 

 

「条件がある」

 

 

 

 俺の声に四人は目を輝かせて此方を凝視する。

 

「一つ、クソガキの姉の問題を暴いたとしても、その後の援助は保証しない。二つ、この件に関しては俺だけで動く。下手に動くと本当に職を変えなきゃいけなくなるからな。三つ、ここで話した事は他言無用だ。以上三つの条件を飲めば、それなりに動いてやる」

 

「はい!お願いしますお兄さん!」

 

「お前一遍死んでみる?」

 

「ひどいっす!!」

 

「ほいじゃ、俺は早速動く。悪いが準備があるんでな、小町、祭りでの行動クエストはクリアでいいな」

 

「え? あっ、うん、クリアだよ」

 

 絶対忘れてたよこいつ。

 

「由比ヶ浜、悪いが小町と雪ノ下を家まで送ってってくれ。なまじ男よりも、ハンターの由比ヶ浜の方が信頼できる。クソガキはさっさと家に帰れ、いいか、今回の話は誰にも言うなよ」

 

 了解の返事も聞かず、俺は明日から始まる----特殊クエストの準備をするため、墨汁をぶちまけたような空の下、人込みをかき分けて自分の足音に追われるようにして夜道を歩いた。

 

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