Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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二十八話

 日が昇って間もない頃、俺は武装を済ませて家を出た。四季折々の都とはいかないものの、ドンドルマは赤道から近からず遠からずといった位置に存在しているため、月毎に変わる風景は俺のひそかな楽しみとなっている。まだ五時頃だというのに暖かな日差しが夜に冷め切った道路を焼く。昼頃になれば道歩く人々は恨めしそうに太陽を睨むこと間違いなしだ。俺はしっかりとテロス密林に逃げるので問題ないですけどねはい。出勤中の社会人や物売りに来ている商人の歪む顔を想像して悦に浸るのは間違っていないはずだ。人間、人の不幸は蜜の味というくらいに他人が苦しんでいるのを奥底では望んでいるのだから怖い。その点、俺は特段他人が苦しんでほしいとは強くは思わない。他人にかまっている時間が惜しいからな、八幡まじスタイリッシュ。

 昨日の朝方に雪ノ下には引っ越しの動向についてちゃっかり先送りにしていたが、昨晩、雪ノ下さんから手紙が届いており、雪ノ下と小町の引っ越しは止めさせるように説得したという旨が綴られていた。ついでに「後輩に甘えん坊のお猿さん」というチクりどころかグッサリと嫌味が書かれていたがそこを除けば朗報だ。最悪は容認するしかないと腹を括っていたものだから喜びは一入、雪ノ下さんが住んでいる方角に足を向けて寝られなくなるレベル。

 歩き始めて五分、入り込んだ小路を抜け、一本筋の街頭に出れば、家並みや鉄工所が織り交ぜになって軒を連ね、アンバランスな街並みになっているが赤と緑の旗が交互に伺え、規則性を感じる。

 

 リオレウスとリオレイアを表したものだったか。自然への敬愛を忘れないようにってのは好感が持てるもんだ。

 

 いいか、比企谷。ハンターとはモンスターをひたすら殺せばいいってもんじゃない。自然とモンスターの調和を正し、人類に恩恵を齎すことこそが『モンスターハンター』なのだ。何処かの村ではモンスターの乱獲を容認、推進していると聞く。そうした村は往々にして滅びゆくだろう。自然に、いや、世界に拒絶されるからだ。決して我々人間がこの世界の覇者であるとは努々思ってはいけない。先人の絶え間ない努力と生死を分けた道があったからこそ人類はここまで発展できたのだ。私たちハンターは常にその事を忘れてはならないのだよ。

 

 かつて師匠から教わった事を思い出させてくれるこのドンドルマ特有の風土は嫌いじゃない。

 更に地を蹴ること三分、馴染みのある建物が視界に入る。だが、気になる点があるとすれば集会所の入り口に見覚えのある女性ハンターが立っていることだ。

 長い銀髪を後ろで一本に束ね、眠そうに尖った目を更に細めている。

 

 おいおい、はやすぎんだろ。

 

 人の事を言えた経ちでは無いが、よもや朝一番から待ち構えているとは思わなかった。

 俺の足音に気づいたのか、此方に顔を向け、仏頂面を崩し破顔する。と、思った束の間、五秒も立たない内にもとの仏頂面に戻る。

 

「よう、はぇーのな」

 

「まぁね。何時に集合とか言ってなかったし」

 

 なるほど。それでこんな朝っぱらから突っ立ってたのか。だったらなに、俺が昼頃にでもくれば炎天下の中待ち続けてたわけ? 根性ありすぎるだろ。

 

「……まさか、本当に来てくれるとは思ってなかった」

 

「ああ、俺も来るつもりは無かったけどな、事情が変わった」

 

「事情?」

 

「そうだ。お前が狩りを手伝えというならば手伝ってやる。だが、俺が提示する条件を飲めば、の話だがな」

 

「解った。その条件は何?」

 

 体を強張らせ、眼に覚悟の灯をたぎらせる。

 

「一つ、お前の名前を教えてもらう。二つ、クエスト内容は俺に一任してもらう。三つ、何故俺にこだわったのか、その理由を教えてもらう。嘘を吐けばその時点で交渉は決裂だ」

 

「……それだけ?」

 

「あ?」

 

「てっきり、体でも差し出せとか言ってくるのかと」

 

「はっ、差し出されても俺には手が余るからな。意味のない要求はしない。で、いいならはよ話せ、時間がもったいないだろうが」

 

「私の名前は川崎沙希。クエストに関しては任せる、ただ、報酬金額が一万以上のクエストでよろしく。アンタじゃないと駄目なのは収入額と力量の問題、私はあと二週間で結構な額を稼がなきゃいけないの」

 

 名前の提示には渋るかと思ったがあっさりと暴露してきた。目的は単純、金をより効率よく稼ぐため。変に密猟が目的で騙されたなんて事にならなそうでひとまず安心できる。しかし、二週間以内という制限はどこか引っ掛かった。ハンターには徴収金は無い、川崎の腕ならばソロで衣食住も問題なく賄えるだろう。家の滞納賃、武器の新調、いくつか大きく金銭面的に困るものは浮かび上がるがここまでして金を集める理由にはならない。いや、家賃に関して常識的にはぶっちぎりでアウトではあるがそんなもの些細な事だ。だったんだよ。

 大家のおばちゃんが毎晩怒鳴りに来た思い出に浸っていると、小町が申し訳なさそうに顔を沈めていた記憶が連鎖して甦る。多額の学費を払ってもらってることに心が痛んでいたのだ。そして、そんな理由で愛する妹を悲しませてしまった事が情けなかった。あれからは平塚師匠の助力もあり、目に見えて金に困ることは無くなっていき、生活が改善されていくにつれて小町の笑顔が増えていったことが、なによりも得難い報酬だ。

 今日も小町は学校に行って勉学に勤しんでいるのだろうか。心がぽかぽかしてくることを考えていると、ふと、大事なことに気が付く。

 

 そいえば、此奴もあのクソガキも学生だったよな。

 

 あのぼったくり学院の学生。それも二人。中流家庭では決して払っていくことの出来ない金額だ。下位クラストップランカーである俺ですら、一人分がやっと。それを二人分となると単純計算、働き手が二倍いる。ここまでくれば答えに気が付かない馬鹿じゃない、川崎家がどの位の家庭なのかは解らないが、少なくとも、上流貴族とまではいかない平民なのは間違いない。となれば親御さんに圧し掛かってくる負担は尋常ではない。日中働き、三百六十五日休みもなく働くことを強いられる。それを承知の上で娘息子を入学させたことに確固たる愛を感じる。だが、現実は愛と正義だけで乗り越えられるほど甘くはない、不足分が出るのは時間の問題だ。頭が回る川崎が、その危うい問題点に気づかないはずがない。そこで川崎はハンター業に目をつけ、学業とハンター業の二足の草鞋を履いているのだろう。

 

「ねぇ。はやく行かない? 私も時間が惜しいんだよ」

 

「オーケー。先に言っておくが生半可な実力と覚悟じゃ死ぬからな。俺に責任追及するなよ」

 

 俺の脅しに、川崎は大胆不敵な笑み返した。

 

「むしろそうこなくっちゃね」

 

 今どきの女子高生はこんなにもアクティブなのだろうか。川崎の返事に小町のこれからが心配になりつつも、集会所の中で待ち受ける一色の方へ向かうのではなく体を九十度回転させ、ある目的地へと歩を進める。

 

「ちょっと、どこ行くのよ。アンタまさか明日からやるとか言い出さないでしょうね」

 

 厳しい目付きで俺のとった行動の是非を問いてくる。それはおかしな反応ではなく至って正常、むしろ俺がとった行動がおかしい。

 クエストを受けようとしているのに、集会所に入らず、真逆の方向へ進み始めたのだから。

 俺たちハンターは基本、集会所の受付側部に立てかけられている巨大なクエストボードに貼られている依頼書を見て、依頼内容や報酬額を吟味し、依頼を受けようと思えばボードから依頼書を剥がしてカウンターへ持っていく。その後は受付嬢の指示に従い、署名まで書けば晴れて受注完了になる。他にもギルドの方から指名を受けて依頼を受ける場合はある、例えば先日の一件。一色から平塚師匠への指名依頼がそれにあたる。

 そして特例として一つ、ギルドを介さずに依頼を受けることがあるのだ。それは名の知れたハンターのみが行える方法。実力だけじゃない、人脈の広さ、運だっているがその手段が確立してしまえばギルドで受ける依頼の三倍以上は稼げる。

 

 

 

「明日からやるさ----西シュレイド王国直轄の依頼をな」

 

 

 

 川崎の頓狂な声がドンドルマ中心部に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 半年前ならば馬車を使って三日間以上かかる道のりを、今は三時間で上空から超えた。

 機構学の発展によりいち早く完成された空を渡る箱舟「飛行船」。

 詳しい仕組みは解らないがガスを使用することで空に飛ぶことが出来るように設計された人類の絶え間ない研鑽と努力の結晶だ。

 

「もう! 恥かいちゃったじゃない!アンタがいきなりあんなこと言うから!」

 

 ドンドルマ南東部に造られた飛行場から飛び去って三時間経った今でも、川崎の怒りは静まる気配はない。むしろ増しているまである。しっかりとヘルムまで装備しているため、能面が感情を露わにするのは少しばかり愉快なものだ。

 

「あそこまで驚くと思わなかったんだよ。だいたい驚くにしても大袈裟すぎだろ、リアクション芸人か」

 

「普通驚くわよ! 王国直轄って騎士や近衛隊のみが承るものでしょう、なんで下位クラスのちょっと名が知れてるだけのハンターに依頼が来るのよ! もしかして、貴族育ち?」

 

「残念ながら庶民中の庶民だ。底辺からみた方が早いかもしれん」

 

「じゃぁなんで」

 

「……『運が良かった』、それだけだな」

 

「はぁぁぁぁ?」

 

 そう、運が良かった。非常に、とてつもなく。

 俺があのファンキーな男と傲岸不遜な女とであった、あの女曰く「妾のための世界が動かした」出会いを鮮明に思い出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死神』と呼ばれるようになった頃だ。ドンドルマに西シュレイド王国からの依頼が貼られていた。内容は「魚竜のキモ」五つの納品。報酬額は一万ゼニー。金に困っていた俺は破格の報酬額に飛びついた。何か裏があるのではないかと勘ぐりながらも、飛竜討伐となんら変わらない報酬額を目にして手を出さないのは罰が当たるというもの。一目散に受注を行い、迅速にガレオスを狩った。移動に五日要したものの、狩り自体は三十分もかからず終えたので、総じて十日以内には納品できるはずだった。はずだったのだ。

 

 ドスガレオスの強襲。

 

 砂漠を走る馬車は粉々になり、運転手は気絶。俺は対飛竜用の準備をしていなかったため、一目散に逃げた。運転手を抱え、それはもう無様に逃げ回ったのだ。セクメーア砂漠を乗り越え、狩場の異なる砂漠、デデ砂漠にまで走り抜けた。だが、それでも執拗にドスガレオスは俺を追いかけてくる。テリトリーからはずれれば大型モンスターであれども追ってくることはまずない。ないはずだったのだが、俺の思惑を綺麗さっぱりと裏切り、狩場を超えても俺とドスガレオスのランデブーは繰り広げられた。

 デデ砂漠はセクメーア砂漠よりも別格と言えるまでに過酷な狩場だ。苦渋の決断をして入ったはいいものの、ドスガレオスはニコニコ顔で俺を追ってくる。さらに言えば一度も来たことがない、上位クラスの狩場に俺は気が動転して奥へ奥へと逃げ込んでしまった。ともなれば必然と来る逃げ場のない僻地。

 断崖絶壁を背後に俺は死を覚悟する。

 運転手を担ぎながらでも闘ってやると、愛刀を構え、ドスガレオスの攻撃モーションを知覚した時だった。

 

「よーうにぃちゃん。だいぶキまってるじゃねーか」

 

 背後から、否、上空からファンキーな声が人と共に落ちてきた。

 ライダーパンツにライダージャケットをインナーも無しに肌に一枚、ファンゴの毛皮を使用したマントを羽織り、旧シュレイド王国近衛隊兜を被った、なんとも舐め腐った格好をしている男が俺とドスガレオスの間に落ちてきたのだ。だが、なによりも気を引くのは防具ではなく左肩。技物と見られる大剣を軽々しく握る鍛えられた右腕と同様の腕は左側には無かった。

 左腕が、無いのだ。

 

「なんかしらねぇがこれも縁だ。加勢するぜ」

 

「いや、それは助かるが……」

 

「んん? ああ、此奴、下位クラス雑魚じゃねぇか。にぃちゃん、俺がぱぱっとやっちまうからそこで肩に担いでる爺さん守っときな」

 

 俺にそう告げるやいなや、片腕の男は疾走。両手で持たなければ持ち主の方が振り回されてしまう大剣を片腕で易々と御し、ドスガレオスの頭部を絶った斬る。

 ドスガレオスは勢いよく血を出し、茶色の鱗を朱に染める。さりとて、飛竜種がその程度でくたばる訳もなく、刃を向けてきた敵に砂漠から身を乗り出して突進。水竜ガノトトスにも引けを取らない巨躯に体当たりされれば意識は混濁の海に落ちてしまう。大剣使いは太刀使いとは違い、獲物の重さから俊敏には動けない。機動性を捨てた変わり得た凶悪な攻撃力と大剣の腹を使ってガードが出来る機能がある。故に、目の前で起きた驚天動地の動作を見るまでは大剣でガードし、耐えるのかと思っていた。

 疾走。

 太刀使いである俺よりも尚速く砂を巻き起こし、四方八方に動き回って回避したのだ。

 大剣使いの極致、ヒット&ウェイを完璧に熟し、大きな隙が出来れば空中で力を溜め、ぶった切る。

 片腕の男が魅せる狩り方は自由奔放、エリアルスタイルということを加味してもその動きはケチャワチャのように天衣無縫な動きだった。

 

 上位ハンターってのはここまで化け物なのかよ……。

 

 砂竜が絶命するのに時間はかからなった。大剣を片手で巧みに回しながら、背に掛け直す。

 

「なかなかアッパーはいった野郎だったじゃねぇか」

 

 こうして、俺が三日三晩にわたった逃避行は片腕男の乱入により、あっけなく幕を閉じた。

 

 その後の顛末としては、納品期日が間に合わないことを知り、俺自身が王都に向かい依頼主に直接手渡すため奔走。結局は一日遅れの納品となってしまい、貴族様ならばお怒りだと思えばそうでもなかった。

 

「世界は妾にとって都合の良いようにできておる。これもまた同義よ」

 

 あまりにも高慢ちきな態度に驚愕していると、ここまで付き合ってくれた片腕男は苦笑しながらも真っ赤なドレスを着込む女性のフォローする。

 

「これが姫さんの普通だからよ、そう怪訝に思わんでくれや」

 

 それ以来、時折あの『血染めの花嫁』から指名依頼を受けるようになったのだ。俺にとっては高額な報酬と貴重なパイプが出来る。しかし、あちらにとっては専属騎士である片腕男を使えば済む話をわざわざ金を払ってまで雑魚に依頼をだしているのだ、メリットなど一つもみられない。愚直にも、疑問をそのまま口にすれば帰ってきた答えはあの言葉。

 

「言っておろう。この世界は妾に都合よくできておる。妾の意志が世界の意志、損得勘定など意味は無い」

 

 要領を得ない答えが返ってくる。理解できない思想ではあるが、現にこの姫が生きてきた道筋は全て彼女に幸福をもたらしていた。疑問を持つこと自体が間違い、片腕男は最後にそう俺に助言を残し、彼女と共に去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神、死神!」

 

 景色は一変、雲一つなかった暁の空は見事な飛行機雲を幾も絡み合い、無数の鳥たちが力強く羽ばたいていた。

 

「いきなり黙り込むわ、もう王国につくってのに無視するわ、アンタほんといい性格してるね」

 

 景色は変われども、川崎の機嫌は変わらない。いや、悪化の一歩を辿っているのだから変わらないってのには語弊が生じる。

 空を駆け、見えてくるのは荘厳美麗な城。ドンドルマでは見かけられない、代々紡がれてきた、由緒正しき「城」だ。城を囲むように城下は繰り広げられ、上空からでも何万人もの脈動を感じ取ることができる。

 

 西シュレイド王国。今も伝説の龍の加護を受けし国。

 

 飛行船は下降し、彼の国に降り立った。

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