Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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お忘れの方が多いと思いますが、地獄のような時間割も過ぎ、SSを書く時間やっととれるようになりました。というわけで、私めのSSは今日この日をもって再開します!
 お前のssとかしらねーよという方が大多数かと思いますが、これを見てくださっているのも何かの縁、どうか、暖かく見守ってください。
 


二十八話更新記念SS 俺が弟子になったのはやはり間違っている

 この状態を言葉にするなら何が適切なのだろうか。

 机一面に乱立する酒瓶。テーブルに頭を置く我が師。それをまさかと見る周囲の客。そして苦笑いで師匠――平塚静その人を慰め、椅子に座らせる店員シル・フローブァ。

 解った。この状況を言葉にするならば

 

 

 

「カオスだ」

 

 

 

 

 

ドンドルマの一角にある酒場、一般人から竜人族まで誰でも金さえあれば飲める『豊穣の女夫人』から集会所に連絡が入った事は偽りなく事実だった。

曰く、酒乱の鬼が暴れているとか。

 

「すいません、シルさん。すぐそこの飲んだくれ引き取るんで」

 

「いえいえ。静さん、今日もやらかしちゃったみたいで……」

 

 背丈は俺の肩ぐらいで軽く、薄い茶髪色の、ウェーブをかけた髪形の女性。整えられた顔のパーツとエプロン姿から、美人貴婦人が多い『豊穣の女夫人』の店員の中でも際立って存在感を出す、対平塚師匠の店員と化しているシル・フローブァさん。彼女は憂いを帯びた目で師匠を指し、この惨事の発端を口にした。

 師匠に近づいて様子を窺ってみれば、朝方には「今日は大事な……だいっじな男の人との約束があるから修行は中止だ。てきとーにドスランポスでも狩って来い」と、喜々としていた顔は拳闘家が真っ白に力尽きていたような無残な顔に変わっていた。百面相もいいところだ。

 背に掛けていた【鉄刀】を師匠が座る横に置き、俺自身も相席する。まだ弟子入りして一週間も経っていないのにこの現場に出くわすのは五回目、師の不始末は弟子の不始末というが頻繁の起こりすぎるのはおかしい。これでは弟子入りしてよかったのかと自分の決断を疑ってしまう。

 泣き疲れて規則正しい寝息を立てる平塚師匠を見て、嘆息する他無い。

 

「今日はどこの人でしたっけ」

 

「教師を務めているらしいギルハードさん。お金を貸してほしいって言われて三十万ゼニー渡した後に姿をくらまされたらしくて」

 

「三十万ってこれまたいったな……」

 

 金額からおかしいって思わないのか。三十万ゼニーもあれば防具一式新調してもおつりがくるほどだぞ。

 

「ですよね……そんなお金あるならウチで高いお酒頼んだほうがいいのに」

 

 この人本当にたくましい根性しているよな。

 

「俺からしたら金に余裕があってうらやましいかぎりですよ。つか、さっさと稽古つけてほしいっすね」

 

「あはは……。そういえば、静さんの弟子にどうやってなったんですか? 弟子は取らない!って豪語してたのに、いつの間にか貴方が現れて驚いちゃいました」

 

「駄目だしされまくってなんやかんやで弟子になりました」

 

「なんやかんや、が知りたいんですよ、ぶー」

 

 上目遣いで、頬を膨らませて睨んでくる。

 可愛い。小学院の頃の俺なら即告白して振られているレベル。振られちゃうのかよ。

 

「あんまいい出会い方してないいんで、聞いても面白くないでしゅよ」

 

「面白いのか、面白くないのかは聞いてから聞いてから決めます!」

 

「いや、でも」

 

「あーあー、私何処かの酒乱に絡まれて疲れちゃったなぁ。誰かお話でも、例えば師弟のなれそめとか話してくれたら元気になれるのになぁ」

 

「……解りましたよ。繰り返しいいますが、本当に面白い事なんてないっすから」

 

「うんうん! ささ、ウエキビールでも飲んで!」

 

「未成年に酒進める店とかやべぇなおい。まぁ、飲みますけど。そうですね、師匠と初めて会ったのは集会所で……」

 

 ほろ苦い発泡酒で喉を潤し、潰れている師匠の顔を横目で見ながらあの出会いを記憶の底から呼び覚ます。

 

 

 

* * *

 

 

 

 効率が悪い。

 狩りを終え、夜風吹き込む中、俺はハンター人生初の困難に直面していた。

 

「一回の狩りで強化ビンと麻痺ビンを全て消費しちまった……一ビン約五十ゼニーだよな……いくら?ねぇいくら出費したの?」

 

 俺の問いに答えてくれるものは誰もいない。いや、自分自身、己が誰よりも知っている出費額である。

 報酬額の三分の一。ビン系統だけでの報酬額は本来の三分の二となってしまった。

 集会所の隅で、所持している道具を確認していたら気づいたのだ。回復薬の消費は少ない。『弓使い』であるからこその特権だ。接近しなければならない近接系武器とは違って、遠距離からの狙撃により安全策がとりやすいのも利点だろう。俺自身、モンスターと接近するのは避けたかったから弓を選んだのだ。同じ後衛武器のボウガンと比べて、弾による激しい出費がないため、いままでやってこれたが、ランク2のクエストを受け始めた頃から厳しい経済難に陥っていた。

 先ほども言ったが弓はガンナーとは違い、高価な弾の消費が無い。その代わりに「ビン」と呼ばれる攻撃に付属効果をつける道具がある。例えば強化ビン。このビンに入っている薬を矢尻に塗るとモンスターに与えるダメージを上げる効果が付属される。目に見えて効果が顕れるのは麻痺ビンだろう。麻痺薬を矢尻に塗ることで毒がモンスターの体内にまわり、耐性以上の負荷を与えることが出来ればモンスターを「麻痺状態」にすることができる。モンスターの動きを一定時間止めることが出来るのだ、これは非常に有効な手段である。故に俺は窮地に陥った場合に限り、ビンのアシストを使っているのだが、近頃行った狩りは全てビンを使用している。ビンに回す費用が高すぎて、報酬額の三割以上を占めているなんてことはざらにあるのだ。これでは生活費はもちろん、小町の学費の貯蓄がままならなくなってきている。

 

 かくなる上は近接武器へ変更するしかない……か。

 

 いや安易に獲物を変えるのはまずい。結局は回復薬に砥石とかかる費用は変わらないうえに、武器と防具だって剣士用に新調しなければならない。武器の扱い方を乞う者もいないのだ。あまりにも計画性が無さすぎる。

 

 

 そんな屁理屈をひねり出して、俺は―――自分の見たくない部分に蓋をしていた。

 

 使い込まれた【ハンターボウI】を背に掛け、俺は解決策を思いつかないまま、問題を先送りにして自宅を目指した。

 

 

 

 

 

 

 集会所から歩いて二十分、都市のはずれにある木造の小屋が見えてくる。煙突から煙が薄灰色に湧き、空へ霧散していくのを眺めて、我が家では今何が行われているのかを察することができた。

 煙がオームライスやキノコノコごはんに姿を変え、腹を刺激してくる。胃は金切り声を上げて、足は速度を速めて家の脇に置かれている滑車の方へ向かい、武具を急いで隠し込み、我が家を出た朝方の格好に着替え直す。今にとれてもおかしくはない取手を回し、軋む扉をあけると少女が二人顔を覗かせた。

 

「おかえりなさい」

「おかえりー」

 

「ただいま」

 

「ごめんなさい、今料理中で手が離せなくて」

 

「いや、言葉だけで十分だ。んなことより、今日の晩飯は何なんだ?」

 

「今日はねー、リュウノテールステーキだよー」

 

「これまた豪華だな、なんかあったのか?」

 

「いいえ、たまたま特売だったからよ、もうすぐ出来上がるから座ってて頂戴」

 

 雪ノ下に促され、椅子に腰を下ろす。リビングから台所を眺めれば小町は雪ノ下が作り終えた料理を皿に盛りつけ、雪ノ下は黙々と次の仕上げにかかっている。妹と友人を連れ出して一か月がたった今、この風景も馴染みのあるものになった。更に言えば、彼女達の服装も馴染みのあるものになってしまった。俺の稼ぎが少ないばかりに服すら好きに買うことが出来ない、食事だって雪ノ下が創意工夫をこらして毎晩飽きのこない料理を作ってもらっている。原価三百ゼニーでレストラン顔負けの料理を作り出しているのだから頭が上がらない。こうして改めて見てみると、やはり圧倒的に金がない。当たり前に解りきっていたことだが、家の老朽、家族の生活事情を直に見て再度自覚させられてしまうのだ。

 

「おにいちゃん、どうしたの?」

 

「いや……なんでもねぇよ」

 

 香ばしく、肉本来の食欲をそそる香りを嗅ぐわせるステーキがテーブルに並べられ、野菜のミックスと玄米が食卓を彩った。それだけを見ておけばよかったものを、配られたコップの中に目を向けてしまう。コップにつがれている水に映る顔は眼が腐っていた。いや、いつも腐っているけど今の眼はやばい、危ない薬を使っていると思われてもおかしくは無いとまで言える。

 

「比企谷君、貴方目の濁り具合が深刻化しているわよ。何があったのかは知らないけれど誰かに言うと存外、よくなるものよ」

 

 エプロンを片手に俺の心境を言い当ててきた。ただ、問題としては眼の腐り具合で判別したことはいただけない。貴女、八幡鑑定レベルカンストしてますね。

 

「いや、本当に何もないんだけどな……ただ、なんだ。お前らにいつも苦労かけちまって悪いなっていうの?」

 

「「……。」」

 

「なんかいえよ恥かしい人みたくなってるだろーが」

 

「いやいや、おにちゃん。それはこっちの台詞だよ。半ば脅して一緒に連れてきてもらったうえに」

 

「私達のために働いてもらっているのだから。これくらいどうってこともないわ」

 

「……っそ」

 

 うなずくしかない。優しく、厳しい現状を受け入れてくれてる二人にこれ以上いう事は何もなかった。

 熱い肉を口に一切れ含み、口で広がる肉汁を楽しむ。飲み込めば体の芯から暖かくなっていくのは熱い肉を飲み下したからではないのかもしれない。

 

 

 

                                

 

 

 

 荒れ狂う風。槍の如く鋭く降り注ぐ雨。

 密林は嵐の渦の中にあった。

 

 弓を撓らせ、矢尻に塗った麻痺薬に祈りを込めて奴に放つ。放物線を描くのではなく、一直線に大気を切り裂き、それは狙い通り首元に突き刺さった。だが、俺が求めていた結果にはならず

 

 「っち!」

 

 波打つ水面から奴は顔を出し、ブレスを放ってくる。それはイャンクックのような火球ではなく、水を錬磨した、レーザーともいえる代物だ。俺めがけて発射されたレーザーは密林の大地を抉り、岩をも穿つ。

 回避しながらその光景を見て俺は依頼レベルの違いを感じ取った。

 

「ガァァァッァッァ!」

 

 滑らかな鱗に小さな瞳。そこだけみれば案外可愛いものだがあのリオレウスよりも逞しい巨躯に、尖った牙。大きな尾びれを見れば恐怖を抱かずにはいられない。

 水竜ガノトトス。本来ならばハンターランク1である俺が受けられない相手だ。傷負いという理由でワンランク下に下げられたこのクエストだが、傷負いであったとしてその脅威は全くと言ってもいいほど衰えてはいなかった。いや、だからこそ相手は全力で敵を排除しようとしている。高額な報酬に加え、昨日再度自覚させられた出来事が俺の背中を押し、危険度は跳ね上がると知りながらも挑んでしまった。

 ハンターになってからクエストの失敗を一度も行っていなかったせいか、俺は心のどこかで失敗することはありえないと高をくくってしまっていたのだ。そして、結果はこれだ。

 

「シヤァァァァ!」

 

「―――!!」

 

 回避先に連続でブレス。これを避けられるほどの技量は持ち合わせてはいない。馬鹿正直に食らい、吹き飛ばされる。ガンナーの脆い防具ではガノトトスの水ブレスを防ぐ事はできず、ほぼ威力は殺すことなくそのまま胴体を射抜かれた。草木をなぎ倒しながら俺は岩壁にぶちあたることで体を地につける。吹き飛ばされた時に弓は砕かれ、使い物にはならないだろう。加えて言うならば防具も脱ぎ捨てるのが賢明だと言える。もはや狩猟を続行できるような状態ではない。脳裏に浮かぶ数通り術数を検討する間も無く非情にも、現実は刻一刻と過ぎていく。

 

 迫りくる巨体の進行。

 

 脳は動けと、左に避けろと指示を出すが、体はいうことを聞かない。

 

 ガノトトスのギラついた瞳をまじかにして俺は骨を砕かれ肉をグチャグチャ潰される、肉塊への末路を想像したが、その時は訪れることは無く、代わりに海の中へダイブする体験をした。

 自分で飛び込んだのではなく、前方からではなく、後ろから強烈な一撃が俺を襲ったのだ。

 水が口かたら体内に入り込み、肺を汚染する苦しみを味わうことで生を自覚し、光を求めて無様にも上へと体をもがかせた。必死に水面へ視線向け、虚ろな光を目指して手足をバタつかせる。しかし、光は一瞬にして闇に包まれるのと同時に何かに押し潰されて俺は再度、海の中へに沈んでいく。ザラついた肌触りにむせるような血の匂い。俺は何に押しつぶされたのか把握すると共に脱兎のごとくソイツ―――ガノトトスから距離を取り、斜め四十五度に進行先を変更する。

 初めて死の覚悟をすれば何故だか海の中に沈む。海面にでようとすればガノトトスが落ちてきた。この一連の流れは五分もたってはいない。遅めのカップラーメンよりも短い時間で、だ。

 

 くそが。これどういう状況だよ!

 

 俺を押しつぶしたガノトトスの巨体をすり抜け、再度地上を目指す。その時の死ぬ気っぷりといったら最高潮のものだろう。涙と鼻水を海水で混ぜこぜになったのはこの瞬間以外ありえないことだったに違いない。いや、集団リンチあったあの日の夜もそんな感じだったわ。訂正する。

 残り少ない酸素を吐き出し、勢いよく空から空気を吸い込んだ。冷え切った体を突風が煽り、体感的に海水の中と変わらないほど、雨が俺を撃つ。。

 

 

「さっさとあがれ」

 

 脱力した体を波に任せて浮かんでいると、密林の大地から声が掛かる。それは凛と鋭く、自然と従ってしまうものだった。

 指示の通り海を泳ぎ、砂浜に出る。立ち上がる事も出来ない俺の目線の先には二脚のブーツが視界に入った。俺が装備しているグリーブとは天と地の差ほどの強度であることを素材となっている鱗一枚で感じ、この理解不能な状況の中でどのレベルのハンターが俺を見下してるかがわかってしまう。

 上位ハンター。ひよっこハンターである俺が烏滸がましくも目指している、ハンターとしての頂。俺と眼前に見える奴は月と鼈ほど格が違う。何故、下位クラス、それも最底辺のクエストにトップランカーがいるのかは解らない。発注ミスか、それとも、何かしらの事情があったのか。

 

「立て。ガノトトスは移動しただけだ。仕留めるぞ」

 

 俺に指示を飛ばし、待つこともなくガノトトスの逃亡先であるエリア2へとそいつの足は迷い無く向かっていく。

 ここで待ってくれと、リタイアすると伝えるほどの体力は残っていた。武器も防具も使いものにならない奴が狩猟に参加するのは邪魔者に他ならない。

 それでも、「ハンター」として、俺は奴の指示通りに向かわなければならない。成す術もなく殺されるとしても、今この瞬間、この場所で生きる者として。

 奴の姿は既になく、震える足に力を込めて立ち上がる。弓を捨て、弓矢を一つ手に取り、さざ波と重なる木々の音を残して俺は奴の後を追った。

 

 

 

                                  

 

 

 

血が舞っていた。それは噴水の如く、鮮やかに、芸術的にある中心点から留めなく規則的に。

 グリーブしか見れなかった時とは違い、今は奴の全体像が見える。細い体つきに凛々しい顔。重い武器を自在に操る引き締まった筋力から男と思えなくもないが男性には見られない胸部の膨らみがそれを否定する。

少しばかり露出が多い着物と見紛う防具、そして武器――太刀を振るう姿は舞を披露しているのかと勘違いしてしまう。汚点としては彼女の舞う処には真っ赤な血が付きまとっていることだ。

 

「しっ」

 

 斬る。

 

 彼女は斬るという動作に全身全霊をかけている。それは新米ハンターである俺にすら理解できるほど、彼女の覇気が数百メルテ以上離れている俺を奮い立たせていた。その覇気をまじかにうけるガノトトスはたまったものではないだろう。戦闘が始まって五分余り、やはりきつかったのか、俺の防具を粉々に砕いたレーザーを発射し、陸から海へ逃げようとする。仮に俺が彼女の立場にあるのなら左に避けた後、ギルドから支給されている『音爆弾』を使う。これは俺に限らずとも七割のハンターが同じ行動を取るだろう。リスクを極力下げ、安全に狩りを遂行する。これこそが狩猟における目指すべき処だからだ。

 だが、彼女が目指す処は違うらしい。

 砂地を蹴り、回避する。その点に関しては同じだ。回避先が前方、当たればただでは済まない水のレーザーの真横をすれすれに転がることを除けば。勢いを殺すことなく、レーザーを発射し硬直状態であるガノトトスのもとまで転がり込む。後は同じことだった。ひたすらに太刀を振り回し、ガノトトスの腹を裂く。

 攻めの一手。彼女と同じ行動をとれるものがハンターの中で何割いるのだろうか。それは俗にいう「天才」と呼ばれる者たちのみがとれる行動であるのかもしれない。だが、それでも彼女がとった行動はその枠に収まらない。

 苦悶の呻き声をあげ、体を震わすガノトトスはその巨躯を揺らして死神を振り払おうとする。しかし、それでも鎌は深く深く、止まることなく入り込んでいく。

 太い脚に当たればそれだけで地に叩きつけられる。尻尾に掠りでもすれば俺のところまで吹っ飛ばされるだろう。それほどのリスクがあるのにも関わらず、彼女は太刀を振るう手を休めない。絶妙な位置取りを一片の狂いもなく行い、遂には脚に溜めた負荷を利用してあのガノトトスを地に転がす。それでもなお、彼女は腕を振るう。

 

 

 ―― いや安易に獲物を変えるはまずい。結局は回復薬に砥石とかかる費用は変わらないうえに、武器と防具だって剣士用に新調しなければならない。武器の扱い方を乞う者もいないのだ。あまりにも計画性が無さすぎる――。

 

 

 逃げていた。

 

 女性であるハンターの背水の陣もかくやといった行動に、俺は背けたかった問題を直視してしまった。

 

 あの細い眼光が。尖った牙や爪が。荒々しく堅牢な鱗が。初めてランポスと対峙した時は体が震えて錆び切った機械のように動きが取れなくなった。釣りや虫取りをして稼いだ小金で買った片手剣を投げ出して逃げ帰った。

 

 俺は、モンスターが怖くて仕方がない。

 

 「―――! ――けろ!!」

 

 費用や雪ノ下達のためだと言い訳を並べてハンターとして最大の問題を避けていた。

 

 「おい! 避けろ!!」

 

 やれるつもりだった。例え恐かろうが、遠距離武器で安全にマージンを取っていればいつかは上位ハンターにもなれると、そう思っていた。

 

 「ク、カ、カァァァァァアア!!」

 

 だが、駄目だった。遠距離だろうが近距離だろうが俺達ハンターは「モンスター」と命のやり取りをする者。そこに恐怖があってはハンターなど続けていくことはできやしない。

 

 揺れる砂地。雄たけびをあげながら近づいてくる巨大なモンスター。体は震え、歯はガチガチと鳴る。遠方では女性ハンターが何か叫んでいるが委縮した俺には聞きとることが出来ない。それでも、ガノトトスは脚を前後に揺らして近づいてくる事だけはしっかりとわかる。防具も弓もない俺には避けるしかないのは一目瞭然だろう。しかし、足は思うように動かない。真横に飛び、回避しろと危険信号が鳴り響いているのにも関わらず、右手に握りしめられた弓矢に折れんばかりに力を込めて、迎え撃つように足は前へ重心を傾け始める。

 毒も麻痺も、ビン強化しているわけではない、変哲もない弓矢を――

 

 

「ああああああああああああああああああああああぁぁぁぁああああっっっ!!!」

 

 ―――ぶん投げた。

 

 逃げることしかできなかった俺の、最後のしっぺ。

 

 すまん。小町、雪ノ下。

 

 たかだか弓の投擲で大型モンスターが死に絶えることはあり得ない。となれば必然的に俺はあの丸太のように太い脚に押し潰される。襲い来るであろう強烈な痛みを少しでも緩和するため、目を強く瞑る。脳内では既にミンチにされている己の姿が鮮明に浮かび上がってくるが、またもや、その時はこない。

 力強く瞑っていた瞼を緩め、ゆっくりと開けば、そこには地に打ち上げられた巨大な魚の死体がある。それはまぎれもなくガノトトスの死体であり、しっかりと奴の眼光に突き刺さった矢が、俺が起こした奇跡の証拠となっていた。

 

 

 

「あー……、もう、疲れたわ……」

 

 

 

 震える足でまっすぐに立つことすらできなくなり、その場に崩れ落ちる。

 逃げに逃げてきた結果、俺は最後の最後で勝った、いや、狩ったらしい。真横に見える大海の中から一粒のマカライト鉱石を探し出す並みの奇跡を俺を引き起こした。無論、あの女性ハンターの猛攻があったからこそのこの結果だ。俺一人では本当にひき殺されていただろう。脳裏によぎったあの女性ハンターの事を思い出し、せめて礼を言わなければと動かない体で視線だけを動かしてかの者を探す。

 

「中々に度胸があるじゃないか。見直したぞ」

 

 俺の頭上、いや、後方というのが正しいのだろうか。女性ハンターは俺を見下ろして呟いた。

 

「だがまぁ、あれは運が良かったというのが本当のところだ。無謀とまでいえる」

 

 んなこと解ってますよと、口にする気力はないが頭の中だけで返答する。

 

「射撃の時、目線が泳いでいるわ、臨機応変に対処することはできないわ」

 

 あんたと同じにしないでください。こっちは凡人なんですから。

 

「あと目が危な過ぎる。あの人よりも腐っていて驚いたよ。だから下手をうつとは思っていたがな。なんで連続ブレスを予想しない、詰めが甘すぎる」

 

 それ、関係ないでしょ。虐めか、いじめなのか。

 

「だがしかし、最後は勇気がある行動ではあった。最初は見限っていたが……陽乃の頼みでもある。君」

 

 なんすか。

 

 

 

 

「私の弟子にならないか?」

 

 

 

 

 俺はまともに働かない思考で、考えることを放棄し、俺らしくもなく、今後の事を無視して軋む首の痛みに耐えながら、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

                                  * * *

 

 

 

「へぇ、じゃあ、弓矢投げてあのガノトトス倒したんだ!」

 

 話を終えた後、興奮気味にシルさんは感嘆する。

 

「まぁ、そうなるんすかね」

 

 別に普通だし? なんか上手くいって武勇伝ができただけだし?

 

「んな訳ないだろう」

 

 鼻をフラヒヤ山脈レベルに高くしていると、右側方からまったの声がかかる。

 

「平塚さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、問題ない。あのクソ男のあれをもぎ取って火山のマグマに沈める計画を立てたからな。大丈夫だ」

 

「それ大丈夫じゃないでしょう……」

 

「それよりもだ。さっきの馬鹿弟子の話は真っ赤な嘘だからな」

 

「いや、現に俺が生きてるのが証拠でしょう」

 

「違う。比企谷がてきとーに投げた矢がたまたまガノトトスの眼に刺さってひるんでいる内に、私がヤったんだよ。弓矢一つでくたばる飛竜がいてたまるか」

 

「たしかに……あっ、でも、ひるませたのは八幡くんですし!」

 

 シルさん、フォローありがとうございます。ただ、もう少しわかりにくくしてくれると嬉しかったなうん。

 

「ふん、少し動き方を覚えたくらいで調子にのるからだ。君は太刀が一番あっているというのに何故弓を選んだのか、そもそも」

 

「あーあー、解りましたよ。その話は帰ってから聞きますから。シルさん、今日はそろそろお暇します」

 

「ふふっ、はい、もう夜遅いですし帰りには気を付けてくださいね」

 

「はい。じゃあまた」

 

 シルさんと別れの挨拶をしている間にも、師匠のご高説は続いており、何故だが複数の男と思わしき名が飛び交っていた。ライネットさんとベルクーリさん確実に手を組んでんだろそれ。

 

「師匠。帰りますよ」

 

「ああぁ? まっだだ。いいか、よく聞くんだ。ロズワール・L・メイザース、この男だけは許さない。お前もこの名を聞き次第、私に報告するよーに!」

 

「はいはい、オズワールですね。解りましたから。ほら、肩掴んで」

 

「っちくしょうあのやろう、何がいい男を紹介するだ、いい男だったよこのやろー」

 

 いいおとこだったんかい。

 師匠の肩を取り、玄関へと向かう。散乱していたビンも、此方を凝視していた客もいなくなったこの店から、最後に声がかかる。

 

「八幡君」

 

「はい」

 

「弟子、なってよかったね」

 

「……そうっすね」

 

 なんだかんだといっても、一流ハンターから直々に指導してもらっているのだ。飲んだくれであったとしても、無償で面倒を見てもらっている人には変わりない。あの時は考えも無しに弟子になったが、間違ってはいなかったのかもしれない。

 何故だか、夜風から潮の匂いを感じとり、空を仰いでいると、我が師から次の修行内容が下される。

 

「おい、明日からは三の型からやるぞ、合格できなかったらさっきの武勇伝(笑)、広めるからな」

 

 

 

 

 

 ―――訂正。この平塚静の弟子になったのはやはり間違っている。

 

 

 

 

 

 

 

 




話は変わりますが、当ssの別作品への移行のくだりについたてですが、一つ報告があります。
結論からいいますと、あれは廃止します。
理由としては、単純に解りにくいからですね。はい。昔の自分が何やら必死にがさくしていたようですが、もう本当に解りにくいうえに面倒くさい。これでは見る気にもなれませんよね。故に廃止します。しかし、話の軸や内容に関しては一切変更はありません。ただ、作品の出す順序が変わるといったところでしょうか。色々別SSに話を飛ばす予定でしたが、あらずし(?)らへんの処に書いてある部の順序によって話を進めます。ですので、今は俺ガイル▶だんまち▶このすば!▶黒水▶リゼロと、一部さくごと完結させてから次の部に移ります。
前回までしち面倒なことをさせて真に申し訳ありませんでした……。今回の失敗を活かして次に進んでいきたいと思います。

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