Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか   作:名無し@777

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三十五話

「ま、またやっちゃた……」

 

 女性用更衣室に入ってきた『死神』に力の入った拳を一発、また入れてしまった。

 いや、でも今回はコイツが悪いし、不可抗力という訳で……いいよね。

 廊下でのびている死神をみて、私の行いを正当化しようとしていた時、店番のアイルーが通りかかった。

 

「ニヤッ、お客さん大丈夫かニャ!?」

 

 眼を閉ざしている死神と私を交互に見て、現状を悟ったのだろう。小さな体を震わして私と眼を合わせようとしない。

 好都合といえば、そうだけど、なんか釈然としないな。

 心の中でため息を吐きながら、平坦な声をだしてアイルーに呼びかける。

 

「そこのアイルー」

 

「は、はいニャ」

 

「そいつをどっかに寝かしといて」

 

「了解ニャ!」

 

 アイルーは死神の首根っこを掴んでそそくさとこの場を去っていく。それはジャギィから逃げる私の様に必死さが伝わってきた。

 そんなに怖がらなくてもいいと思うんだけど。

 

 誰もいなくなり、少しばかりムカつく出来事を忘れようと、温泉に浸かるためにタオルを探す。しかし、私が求めるものとは違う物を見つけた。

 それは武骨な長大の銃。モンスターから取れる素材は使われておらず、鉱石を主体で造られたメタリックな銃だ。

 先端にはロングバレルが設置されており、遠距離でも狙撃を可能とし、熱を吐き出すパイプを隠すことなく剥き出しにしている。連なる弾倉の大きさから連射数は相当のものに違いない。

 装飾品などは一切なく、ただ弾をどれだけ高火力で打ち出すかを考えているような銃だ。この重力感に満ち溢れた銃は私達ハンターの中で「ヘビィボウガン」と呼ばれる部類のものだろう。

 謎のヘビィボウガンに目を奪われていると、立て置かれている棚の中に、タオルを見つけた。

 

 誰かの忘れ物? でも、さすがにハンターで武器を忘れる奴がいるわけもないよね。

 

 一抹の疑問を残し、私は温泉へと向かった。

 

 

 

 

 

 温泉は良い。嫌な事も忘させてくれて心身ともに癒してくれる。

 岩で囲われた湯はモクモクと湯気をあげて私を歓迎してくれた。桶で湯を少しすくい、肩からかける。足からゆくっりと温泉に入り、肩までつかると、それだけで頬が緩んでしまう。程よい熱さが外から内まで私を温めてくれるのだ。この気持ちよさを味わって、頬が緩まない奴がいるだろうか。

 

「いや、アイツは眼を細めるだけかもね……」

 

 ぼんやりと煙の様に浮かぶ、『死神』の顔。

 私の頼みを引き受けてくれた稀有な奴。アイツにはメリットなんかないだろうに、ここまで付き合ってくれた事には感謝の言葉しかない。スケベな処もあるけど、それでも根は良い奴なのだろう。まだ三日程度の付き合いだが、それでも伝わってくる優しい気遣いが私を安心させてくれる。私の銀髪をみてもなんの反応もみせず、自然体でいてくれることがただただ嬉しかった。

 今からあの白疾風を狩る。初めてみた白疾風 ナルガクルガの攻撃に私は避ける事しかできなかった。きっと困難な狩猟になるだろう、それでも私達なら、死神がいるならやれる。頼れそうにない癖に何故かそう思わせられるのだから凄いやつだ。

 そして、狩りが終わればまた一人でモンスターに立ち向かわねばならない。

 「嫉妬の魔女」と同じ銀髪の私は、今までずっと一人で狩りをしてきた。頼れるのは自分と相棒の「エムロードフラップ」だけ。心細いなんて一度も思わなかった私が、本音ではアイツと離れるのが怖いと言っている。これが何かの間違えなら良かった、でも、プリシラ=バーリエルとの謁見、白疾風ナルガクルガとの一閃。どれもこれもアイツがいたから私は生きていられた。

 

 怖い。また、一人になるのが怖い。

 

 どうにかしてこの気持ちを払拭しようと、目元まで顔を温泉に沈め、眼を閉じる。

 すると、鋭利になった耳から水温が聞こえてる。漂ってくる水の波や呼吸音。顔を水面からあげて湯煙の奥を覗き込むと、確かに人影が見えた。

 

 私のほかに誰かいたんだ。

 

 湯煙は徐々に薄くなり、もう一人の来訪者は姿を現した。

 

「……?」

 

 まだ10歳にも至っていないであろう華奢な少女。130センチ程度だろうか、シルクのように滑らかな肌と真っ白な肌をタオルで隠さずにはだけだしている。彫りの薄い顔は小さく、大きな瞳はエメラルド色の輝きをはなっていた。

 そして、なによりも目を引いたのは長い髪、私と同じ銀髪色の髪だ。背中に届くほど伸ばされた髪は私の髪色とは少し違い、白色に近い銀髪で透明感を帯びている

 少女は見知らぬ女に凝視され、首を傾げて固まっていた。

 我に返り、自分が失礼な行為をしていた事を自覚する。

 

「あっ、ごめんね? 別に何かあって見てた訳じゃなくて……」

 

「ねぇ、お姉さんは『嫉妬の魔女』?」

 

 顔色一つ変えずに、私を苦しめる質問をしてきた。いや、これはこの少女も同じく苦しむ質問だろう。

 

「ち、違うよ」

 

「そう。残念」

 

「残念?」

 

「うん。『嫉妬の魔女』だったらお礼を言いたかった。じゃあね」

 

 少女はおかしな事を言い残して私の前から去っていった。

 

 お礼を言いたい? 『嫉妬の魔女』のせいで苦しんできたであろう貴女が?

 

 聞きたかった事は山ほどあるが、もうこの場にあの少女はいない。

 

「……私もあがるかな。アイツまたせてるし」

 

 奇妙な少女と別れて、火照る体を冷ましつつ、防具を着込こんで脱衣所を出ようとした時だ。ふと、ヘビィボウガンの事を思い出した。限りなくゼロに近いが、温泉の気持ちよさで武器を忘れていったハンターがいるかもしれない。だが、余計な心配は必要なく、ヘビィボウガンは姿を消していた。

 

 

 

 

「んー。困りましたねぇ」

 

 温泉から上がって集会所に出たら、一人の男性が音を上げ、天を仰いでいた。

 音を上げていた男性は百八十センチぐらいだろうか、アイツみたいに猫背になっている上に、血色の悪い顔に濃いクマが浮かんでいた。それに相まって白スーツで固めているため尚更、今にも倒れそうだ。

 

「困りました。ええ、困りました……」

 

 これ以上頭を悩ませていたら、本当に倒れそうだな。

 こちらをチラチラと見ながら困った困ったというのは癪に障るが、このまま放置していたら周りの人たちが本当に困ってしまう。

 

「あの、どう」

 

「おお! ありがとうございます!! 神よ、この出会いに感謝します!!」

 

 私が言い切る前に、話掛けただけで神に感謝しはじめた。

 この人、苦手だ。

 

「で、どうかしたんですか」

 

「私はブルックリンと申します。美しき淑女よ、貴女の名前を聞いても?」

 

「それ、関係ありますか」

 

「ええ。貴女をどう呼べばわからない。これではお話もできません」

 

「……『魔女』とでも呼んでください」

 

「ほう、なんともユニークな名前ですねぇ。では『魔女』さん、私のお願いを聞いてもらっても?」

 

 大袈裟に恭しく頭を下げる。

 正直、話し方は苦手だが、私の髪の色を見ても顔色を変えず、ふざけた態度のまま接してくるこの男に嫌悪感は抱かなかった。

 

「内容によりますけど。まぁ、私もあそこの椅子で寝ている奴と狩りに行くので時間がかかるのは無理ですよ」

 

「んー。ノープログレム。私をユクモ村の村長を紹介してほしいのです」

 

「村長に?」

 

 私はこの村の村長とは仲が深いわけではない。それならば、アイツの方が適切だろう。

 

「それなら、私よりも適任がいるのでそっちに頼んでもいいですか」

 

「いいえ、折角だすから貴女の様な美人に紹介してもらいたいのです。無理でしょうか?」

 

 不健康そうな顔で微笑み、再度頼み込んでくる。

 ここまで言われたら無下にもできないか。

 

「まぁ、いいですけど。ブルックリンさんは何故村長に会いに? ユクモ村の方でも行商の方にも見えないんですけど」

 

 ここまできたら紹介するのはいい。だが、何処の者なのかがわからなければ、紹介のしようが無い。それに、村長の敵であれば近づけさせるのも危ないだろう。

 最低限の情報を知る必要があるのだ、そして見極めなければならない。

 

「私は東シュレイド共和国の防衛機関『SSAZ』の一員です。今回は少しばかり困った事態になりまして……。ユクモ村の村長に交渉をしにきたのです」

 

 ブルックリンさんはそう言って社員証を私に見せた。

 そこには相変わらず体調が悪そうな顔で笑っているブルックリンさんの写真がはりつけられており、社員コードが横に打たれていた。『SSAZ』がどの程度の機関なのかは分らないが、国の防衛機関、西シュレイド王国で云う処の『王国騎士団』の様なものだろう。驚くことにも、眼前の男は『SSAZ』の部隊長を任されていた。

 

「部隊長をされているんですね」

 

「ええ、といっても情報管理が主の部隊ですから。名ばかりのものです」

 

「とりあえず、分かりました。村長はここを降りた処にいるとおもいますから」

 

「そうですか、それはよかった! サーシャ、行きますよ!」

 

 すぐに会えると分ったからか、安心した顔で温泉饅頭販売している処に向かって、誰かの名を呼んだ。

 すると、屋台裏から一人の少女がトコトコと此方に向かってくる。その少女は紛れもなく、温泉で出くわしたあの少女だ。

 

「ブルックリン、お腹すいた」

 

「温泉饅頭食べなかったんですか?」

 

「ブルックリン、お腹すいた」

 

「んー。わかりました。お仕事が終わったらご飯にしましょう。頼みましたよ」

 

「ん。」

 

 ブルックリンの言葉を受けて、頷いた少女はふらりと出口へと向かっていく。

 

「あの、さっきの子は」

 

「あの子は私のパートナーですよ。あの歳でよくできた子です」

 

「そう……ですか。よかったらあの子とお話できませんか?」

 

 ブルックリンさんは眼を丸くして、驚いた顔をしたが靨をつくって笑った。

 

「ええ、構いません。――仕事が終われば、ね」

 

 あの子とまた話せる。それだけで、ブルックリンさんの仕事を応援する気になった。

 善は急げと、ブルックリンさんを連れ立って村長の下へむかおうとした時だった。

 

「ああ、よかった。まだいましたね」

 

 着物の裾をすりながら、村長は私達の前に現れた。

 

「村長、この人が」

 

 ブルックリンさんの事を紹介しようとしたが、村長は私の言葉に耳を傾けず、ブルックリンさんに頭を軽く下げた。

 

「はじめまして、ユクモ村の村長をしている者です」

 

「おお、そうでしたか! 貴女を探していたのですよ! 『魔女』さん、ありがとうございます! ではまた後で」

 

「長旅疲れたでしょう、ゆっくりしていってくださいね」

 

 村長は何を言っているのだろうか。これが昨日であればわかる。だが、今から狩りに出向く者にゆっくりしていけとは言わないだろう。

 疑問を抱えながら、離れていく二人の背中を見ていると、村長は戸棚に畳まれていたタオルを手に取り、私の下に戻ってきた。

 

「あの、村長」

 

「貴女、髪がまだ濡れていますよ。ほら、引っ掛かってます」

 

 村長は話を聞かずに、近づいてくる。そして私に抱きつく様にして髪を触ってきた。いきなりここまで親しくされたことに、驚いていると、村長は耳元で小さく、それでもハッキリと呟いた。

 

「川崎さん、お願いします。直ぐにあの子達を狩りにいってください」

 

 それはどういう意味なのか。

 ただ単純に脅威をはやく消したいという訳なのか、それとも違う思惑があるのか。

 

 

 

 何も聞くことができず、村長はブルックリンさんと共に消えていった。

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