Re:ゼロからはじめる俺のハンター生活は間違っているのだろうか 作:名無し@777
部屋の中からは音は聞こえない。やはり、眼前の家には誰もいないのではないか、という疑問は先ほどの閃きから完全否定される。
「サーシャ、どいてろ」
俺の後を追いかけてきたサーシャは、饅頭を口と両手に持ちながら首をコクリと動かして一歩下がる。持っている饅頭はどこから持ってきたのか非常に気になる処だが、今の処は後回しだ。
背に下げる愛刀で木製の扉を一閃、モンスターの甲殻も切り裂くハダチだ、容易に扉は縦に真っ二つに裂ける。
崩れ落ちる扉から煙が巻き上がり、一時まてば長い廊下が見えてくる。そして、此方に手を伸ばすようにして倒れている村長の姿も確認できた。
おいおい、予想的中しちまったのかよい……。
うつ伏せに倒れている村長の下に駆け寄ると、腹部付近に血溜まりができている。刺されてたのだろうか? 慎重に仰向けに移動させると浴衣の様な服ははだけており、帆豊満な膨らみが露わになっている。如何せん、目のやりどころに困るが緊急事態だ、四の五のしていられる時間は無い。
「失礼しますよっ」
羽衣リを開き、そこには流血の源が……無い。
は? ならこの大量の血は何処から? 失血処は腹部じゃない?
「八くん……ふしだらですね」
舌を出して俺を見る村長、死に際だった者がどいう理由で言葉を発しているのは理解できない、できないがわかる。
「あんた、なんで血のりなんか使ってんだよ……」
大きくため息を吐き、座り込む俺を見て、村長は心から楽しそうに微笑んでいた。
「で、なんであんな茶番をしてくれやがったんですかね、村長」
出された茶を一口含み、喉を潤す。小腹を満たすために茶請けに手を伸ばすが、皿の上に置いてあった菓子は神隠しにでもあったのか、眼を離した隙に全てなくなっていた。あるものといえばサーシャの太ももにある包み袋だけだ。
軽くため息を吐き、部屋全体を見渡すと、この広い居間、長方形のテーブルが中央に置かれ、刀――南蛮刀が立て掛けられている以外、物は何もない。居間はチリ一つ無く整えられているが所々に赤い斑点がしみ込んでいる。
「そうですね、何から話しましょうか」
「無駄にまとめずに最初から最後まで話してください」
「わかりました、わかりました。では、あの手紙が届いた事から話しましょう。あれは――」
穏やかな風が吹き、暖かな日差しが差す昼時、がこん。と、玄関先の方で音がなる。この音は幾度も聞いた郵便受けが開く音だ、特に驚く音でもない。だが、配達がきた時間帯が気になる。
村人や取引先との連絡ものは朝方にくるのが通例になってきたこの頃、昼時にきた『何か』は緊急連絡的なものかもしれない。
ともなれば、直ぐに確認するのが吉だろう。
げたを履き、玄関先に置かれている郵便受けを開けば、一通の手紙が入っていた。
滑らかな手触りの白封筒、貼り止めには二頭の虎が描かれたシールが貼られている。
日頃から扱っているものとは違う、異質の手紙。宛先も書かれておらず、些か失礼な事だが、無礼千万と切り捨ている気は毛頭ない。
すかせてみたり、傾てみたりと細工がされていないのを確認しながら居間に戻った私は、ゆっくりと封を切った。
中には紙が一枚入っているだけ、毒薬が塗られている痕跡も無く、ただの紙が一枚入っている。
物珍しい手紙を手に、私はどこかの街から貿易を持掛けられたのかと期待を胸に開く。
拝啓、ユクモ村村長様へ。そんな丁寧な一文から季節話に触れ、遂に本題の文がはじまる。
端的にいえば私の予想は後者があたってしまう。
手紙の差出人は東シュレイド王国のブルックリンなる人物からだった。
手紙内容をまとめるに、研究対象であったモルモットであるモンスターを逃がしたらしい。そのモルモットはユクモ村付近に逃亡したから捕縛するために干渉しないでほしいとのことだった。
そこまでは首を縦に振れる。だが、それに付属してユクモ村の管理権を寄こすこと、この一文は無理だ。加えて、村人全員の殺処分。絶対に無理だ。
無理、とはいっても面と向かって無理といっても強硬手段でくるだろう。国と村、どちらが優勢なのかは明らか、この村を守るには生半可な対抗手段では抗えまい。
私は考えた。面と向かっても潰される。私個人、村単位で動いても潰されるのは眼に見えている。なら、こちらも国から力を借りるしかない。それも内密に。いや、詳細を誰に漏らさずに。
東シュレイド王国よりも早くモルモットを処理して恩を売る。これこそがこの窮地を脱する方法。
「という訳で、、王都に対して依頼を出したのです。ここ数日は緊急ということで受理されるのか心配で気が気ではありませんでした」
眉を傾けて微笑む。
「そして、貴方方の存在に気が付いたのでしょうね。ブルックリンは依頼の取り消しと、私を行動不能する手段をとってきました。無論、ばれることも危害を加えてくることは想定内でしたので、刺されるタイミングで血のりを使ってごまかしました」
凄いでしょ、と軽口を叩く村長は俺の顔をみて表情をこわばらしていった。
「アンタ、俺と川崎が危険なめにあうことは想定ないだったはずだ、それも川崎をそそのかして死地へ送った。どいうことだよおい。まさか、川崎の腕を見余った、とかはないよな」
村長は俺達が負うリスクがどれだけ危ないものなのかを承知の上で騙した。古くからの知人である俺に加えて、ユクモ村を救うために死を覚悟して狩りに行った川崎をだ。
「ええ。川崎さんだけでは厳しいでしょう。ですが、貴方がいれば違う。八君ならきっと私の隠し事にも気が付いて依頼を放棄し、帰っていくでしょう。ですが、もう遅いのです。彼女は行ってしまいましたよ」
俺と村長は真っ直ぐに睨みあい。思いをトレースする。
ふざけるな、俺と川崎はアンタの手駒じゃない。
わかっています。それでも私はこの村の『長』なのです。村を守るためならば鬼畜道にも身を落とします。どうぞ、外道に踏み入った私を罵ってくれても構いません」
どちらも譲れないものがある。俺だって家族を守るためならば村長と同じく鬼にでもなる。昔は守られる身だったからこそ、村長を信頼しきっていた自分の認識不足、というよりは思い込みに腹が立つ。
あの村長が俺を騙す訳がない。そんな思いを押し付けて激怒するのは畑違いにもほどがある。
「そうだな。確かにそうだ。今更アンタに文句をつけた処で事態が収束する訳でもない。思惑通り手のひらで踊ってやるよ、ああ踊ってやるさ」
「ええ、踊ってください。ブルックリンは川崎さんを追って狩場に向かっているはずです。それよりも早く、討伐をお願いします」
「承知」
これ以上言葉を交わす意味もなければ時間もない。ブルックリンが用意する討伐メンバーは腕利きにまず間違えばないはずだ、討伐対象がモンスターであれ人間であれ、すみやかに完遂するだろう。
「サーシャお前、どうすんの」
「八幡、村からでるの?」
「ああ」
「ダメ」
「それでもいく」
「村から出るなら殺す」
「殺されてもいく」
「……ここでお菓子食べながら一緒に昼寝」
「無理、川崎ってやつが黒ひげ危機一髪してるからな、助けにゃならん」
「どうしても?」
「どうしても、だ」
サーシャは首を降ろし、沈黙。何を考えているのかわからないが、この少女と今からドンパチを繰り広げれば確実に川崎を助けることはできないだろう。だが、絶対に助けることができない訳ではない。川崎自身のポテンシャル、ブルックリン側の不慮の事態、いくらでも可能性はある。
「三食昼寝付き、あとお菓子と八幡」
「は?」
三食昼寝にお菓子は解るが、俺とはなんだ。とうとう人間すら食うのかこいつは。
「この条件なら、従ってあげる」
「いや、まて、意味が解らん」
「部下に、なってあげる」
「俺の、部下?」
使える主を変えるのは多くの危険がともなう。優れた狙撃手であるサーシャがそれをわかっていないはずがない。それを理解して、サーシャは俺に使えてもいいと言っているのだ。
覚悟。これは、一生サーシャの出した条件を果たし、守り抜くと言い切れる覚悟がいる。
問題は山づみだ。もともと打開策としてこの依頼を受けたのに、それが更なる問題を生み出すとは何事だよ。不運にもほどがある。だが、現状を打開するにはここで悩んでいる暇もなければ必要は、無い。
「八幡ってのはよくわからんが、わかった。背中を頼むぞ、サーシャ」
「……うん」
こうして契約を交わした時に思ったは一つ、悩み事が数多く交差してるが、ポーカーフェイスなこの少女が魅せた笑顔は一級品だった。
走る。走る。走る。
全力で、それこそ、死に物狂いで走る。それでも、私の脚力では奴の追撃から逃れることはできない。迫りくる刃が空気を裂いて近づきてくるのが解る。即座に体を左側に捻じ曲げて飛び込んだ。それと同時に何かが私のいた場所に抉りむ。
「ほ、ほんっと、洒落にならないんだけど」
アイツの装備で見慣れた漆黒の刃。それが今、私の心臓を貫こうと迫ってきたのだ。
「ガルルル……」
丸太のような太い四本の脚で俊敏に動き、長く撓る尻尾で隙も無く攻め叩てくる。こちらが防戦一方になるのは致し方ない事とはいえ、そろそろ攻め手にでなければ消耗戦になってしまう。そうなればこの依頼は失敗。意図は解らないが、村長に託されたこの依頼は終わってしまう。
武器を出せば、その分移動速度は低下し、奴――ナルガクルガの攻撃を避けることは出来ない。
「っていっても避けるので精一杯なんだよ、ねっ!」
こちらが一息つく時間を貰えることはなく、今度はその卓越した脚力で跳躍、私を押し潰しにくる。
真っ直ぐに突っ込み、ナルガクルガが宙を舞う中をすり抜ける様にしにして位置を交代した。
ナルガクルガと対峙してまだ三十分程度しか経過していないのにも関わず、既に回復薬類は半分を切った。一次撤退も試みたが、それも許されず現状攻撃を避けるので精一杯なのだ。もし、アイツを待っていればここまで最悪の状況にはならなかっただろう。きっと今頃アイツは呆れながら、全力でこっちに向かっているはずだ。行動を共にしてまだ数日程度しかたっていないが、断言できる。駆けつけてくれると。
今の私がするべきことはナルガクルガの攻撃を捌き、時間を稼ぐこと。
「それじゃ、もう少し頑張りますかっ!」
一度の跳躍では縮まらない距離をとった今こそ、攻め手に転じる好機、ここを逃す理由はない。
この三十分間、ずっと防戦に回った甲斐もあり、攻撃パターンは大方把握できた。大きく分けて跳躍、尻尾による叩きつけ、鱗を飛ばす、噛み付きの四つ。この中で一番攻めやすいのは
「グガァァァ」
開いた距離を詰めようと、左右に揺れながら突進してくる。そして、最後には噛み付いてくる。ここまでわかれば、最善手は今の場所から右に八歩程度動く!
案の上、私がいた場所に着地し、一回転、その後顎を開いた。
右側によっていたが故に、攻撃範囲に入ってしまっているとはいえ、それはこちらも同じこと。何より、打撃性の武器を持ち、敵の頭を殴れる立ち位置にいるのはこれ以上はないといっても過言ではない程の攻撃チャンスだ。
「せぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
腰に力を入れ、八割程度の力でナルガクルガの頭部に向けて相棒を叩きつける。続けて、二発、三発! 体を回転させ、頬をに勢いよく叩きつけた。
一連の攻撃を入れ終われば即離脱。欲をかいて攻撃を続けていればどこかで致死量のダメージを追うことになる。それだけは避けなければならない、否、攻撃を受けることは本来あってはならないのだ。
二十メルテ程距離をとり、奴に目を向けると、頭を振りながら私を探すように首を振っていた。そしてこちらに首を向けた瞬間、眼が合う。尖った眼に委縮してしまいそうになるが、ここで気を弱らせてしまえば確実にやられる! 次の攻撃に向けて腰を落とした瞬間、奴は息を大きく吸い込んだ。
「やばっ」
咆哮。直視したが故にわかる次の行動を予測できても、対策を打つことはできなかった。攻撃を意識したばかりにどこに避けるかしか考えていなかったのだ。私は本能的に眼を瞑り、両手で耳を塞いでしまい、その場で固まってしまう。
ほんの数秒程度だ。目を瞑ったのも、耳を塞いだのも。ほんの数秒程度だ。ナルガクルガが眼前に迫り、顎を開いているのを確認したのも。
「やらかしちゃったなぁ……ごめんね」
もう避けることはできない。頭を喰われるか、体ごともっていかれるのか。できるだけ苦痛を感じまいと、私は再度、意図的に目を閉じた。最期に謝ったのは誰に向けてなのか、自身でもわからない。
「なに諦めてんだよ馬鹿野郎」
銃声。
二つの音が同時に聞こえた。体だが何かに引っ張られ、瞬時に奴との距離が十メルテ程離れる。
「いいか、ハンターなら喰われるとわかっても攻めろ。諦めるなとは云わん、あがけ」
「それ、誰の言葉?」
「師匠の言葉」
「だろうと思ったよ」
「加えていうなら、そもそも喰われる対面にするな、だけどな。ちなみにこれば俺の言葉だ」
「やれるもんならやってみろってやつだね」
漆黒の鎧を纏い、死んだ魚の様な目をした男は軽く息を吐き、一言。気だるげに太刀を手に取り、地面に這わせる。
「ほんじゃ、俺の言葉のデモンストレーションとでもいきますか」
いつもは曲がって小さな背中に見えるが、今だけは頼もしくみえるのは間違っているのかもしれない