「あっ、来たみたいやで……」
希が指さした方を見ると、生徒会長の絢瀬さんが仏頂面でやってきたの。みんな絢瀬さんの通り道をさっと身を引いて作ったわ……
「にこっち、またな。絵里ちー!」
希は絢瀬さんのところへ走っていったわ。希がポケットから――なぜマイクを持ち歩いてるのかしら。何でも持ってるの?ドラえもんなの?希は――マイクを取り出して、絢瀬さんにあげて、絢瀬さんも軽トラの荷台に乗ってマイクで話し始めたの。
「おはよう。高坂穂乃果……さんだったかしら?」
「あっ、はい! 高坂穂乃果、二年生です!」
「そう……まず一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
「どうぞ!」
「そう。まずこの何台もある……軽トラは何なのかしら?」
「あっ、はい! 私のうちの軽トラです!」
「穂むら……和菓子屋さんよね?」
「はい! パパと従業員の人たちに頼みました!」
「なんで……こんなことしたのかしら?」
「みんなに話を聞いてほしかったんです。ENPAがダメだっていうこと……」
「そう……あなたがどんな考えを持とうとそれは自由よ。だけどこういうふうにみんなに迷惑をかけるようなやり方はどうなのかしら?」
「それは……ごめんなさい……だけどもうこうするしかなくて……」
「高坂さん!」南理事長が学校の先生を引き連れてやってきたわ。遅い!遅いわよ!
「高坂さん! すぐにそこから降りなさい! 高坂さんのお父さんも! 従業員のみなさんも! 軽トラをどかしてください!」南理事長が声を張り上げて叫んだわ。
穂乃果のパパさんも従業員も運転席でみんな眼をつぶって黙ってるばかりだったらしいわ。
「お母さん! お願い! 穂乃果ちゃんにもう少し話させてあげて!」二年生の生徒が人混みのなかから飛び出してきて、南理事長の前にしがみついて泣きながら訴えたの。そこで思いだしたわ。ことり……理事長の娘の南ことりよ! 穂乃果って子の友だちなのかしら。
「ことり! どきなさい!」
「いやぁ! どかないもんっ!」
絢瀬会長が軽トラの荷台の上から南理事長に微笑みかけて
「理事長。私に任せてくれませんか?」
って言ったから南理事長も
「絢瀬さんが言うなら……三分だけ待ちましょう……」って。絢瀬会長は白くて綺麗な歯を見せて笑顔で
「ありがとうございます」って……かっこいいじゃない……
「さて穂乃果さん……まず言わせてね。誰からENPAについてのそういうふうな否定的な意見を教わったのかはわからないわ。だけどみんなに私の考えを説明させてもらってもいいかしら?」
穂乃果は後ろを振り向いたの。後から聞いたところによると、業者用の車の後ろには海未って言う子、穂乃果の友達の一人が隠れていたそうね。どうも今回の事件は穂乃果という子と、その海未という子が共謀して引き起こした事件らしいわ。その海未という子は青っぽい長髪に『ENPA粉砕!』って白い布地に赤い字で書かれたハチマキを結んでいてね。そのライトブラウンの瞳をギラギラと輝かせて、眉間に皺に寄せていたわけよ。それで穂乃果が振り返ると、穂乃果を見上げて、それで親指を上に上げて……わかるでしょ?……グッドサインよ、頷いていたわけよ。穂乃果はそれで自信を持っちゃって絵里に微笑んだのね。片手も前に出しちゃってどうぞってかんじに……
「絢瀬さん。どうぞ!」
「ええ、ありがとう。高坂さん」
絵里はマイクを握って聴衆であるところのにこたち生徒へ話そうとしてにこたちのほうを向いて、まず深く深呼吸したの。だけどすぐには話さないでマイクを握ったまま。にこたちは戸惑ったわけだけど、絵里はにこたちが静かになるのを待っていたのね。にこたちが静かになると、コホンって咳してから静かに笑みを浮かべて話しだしたわ。
「みなさん、おはようございます。生徒会長の絢瀬です」絢瀬さんが話し出すと、生徒たちは喜んで叫んだわ。
『絢瀬さん!』とかね。
絢瀬さんは叫んだ女の子に向かって小さく手を振ったけど、すると手を振ってほしくてみんな叫ぶわけよ。にこもつい叫んじゃったわ……もしかしたらにこにも手を振ってくれたかも……
「みなさん、ENPAはみなさんにとって不都合なものなどでは決してありません。それは生徒会の周知によってみなさんわかっていてもらっていると思います!」
絢瀬生徒会長はマイクを握っていないほうの手を虚空に突き上げて、絶叫したわ。するとみんなが割れるような拍手をしたの。こーゆーのをカリスマって言うんでしょうね。やはり人を惹きつける人っていうのはまずプロポーションが違うわ。うん。
だから穂乃果がそこに横槍を入れてくるのが本当にムカついたわ。
「いいえ! ENPA制度はダメです! 絶対!」
穂乃果が本当にムカついたものだからにこもついヤジを入れたわ。
――反対! 反対言うなら理由を言いなさいよ! 理由を!
ヤジった後で気づいたのだけど、にこは少し大きな声で言い過ぎたみたいで、みんながにこのほうを振り向いてじーっみてるわけよ……にこ、ちょっと恥ずかしかったわ。だけど、絢瀬生徒会長がにこのことに気づいてくれて優しく微笑んでくれたの。すると希も軽トラックの荷台に足をかけて乗りこんだわ。
「三年生の矢澤にこさん! どうぞ、こちらで貴重な意見聞かせてくださーい!」
希……余計なことを! にこは行きたくなかったんだけど、周りの人がにこに優しく微笑んで前に押し出してくれるし、絢瀬生徒会長もにこを手招きしてくれるわで、断るわけにも行かなくて、あれよあれよという間にいつの間にかにこも白い『穂むら』って書かれた軽トラックの荷台の上に、穂乃果、絢瀬会長、希と四人で並んでマイクを握って、全校生徒の前で意見を話すことになってしまったの。歌なら歌えるんだけど……なんか……緊張する……