処女作の2投稿目だというのにこんなに間が空くのはおかしいだろ!と思われる方がいらっしゃるかとは思いますが、弁解の余地はございません。
本当に申し訳ありません。
ではまた今後ともよろしくお願いいたします。
2022年5月、当選者1000人のみという高い倍率の中、奇跡的にその内の1人となれた少年、
やっとあの世界に踏み入ることが出来る。それだけで起きた時から口元は緩み続けている。同じ学校のゲーマー達は全員悉く落ちたらしい。そして奴らは自分の学校にテスターがいるとは夢にも思っていないだろう。なぜなら特にゲーマーでもなく、尚且つ俺がそうであることを奴らも知っているが、俺たちが公表していないからだ。仮に言えばどんな手段を使ってでも俺から奪おうとすることが容易に想像できる。奴らに俺の一生分の運を使いきったであろうこのβテスターという権利を渡すわけにはいかない。むしろ渡すわけがないだろう。どんな条件を出されても渡さない。そんなことを考えるだけで優越感からか、笑いがこみあげてくる。このβテスターになった時から家族に悪い顔している、と何度も言われた。彼女からも言われてしまった。
彼女、
”片方が落ちても権利は当選した人のもの。恨みっこなし“、そういう約束は立てたものの、当初は2人とも落ちると思っていたので、本当に俺が当たった時には2人とも驚きすぎて何分かフリーズしてしまった。ふと横を見ると、喜んでいるようにも、悔しそうにも、悲しそうにも見える顔をしつつも、はにかみながらおめでとうと言ってくれたので、ありがとと短く礼を返すと、2人の間に緊張感が漂い始めた。彼女が深呼吸をして、いくよと言った。
当選していてくれ―
ギュっと閉じてしまった目を開く。そして目の前の液晶画面を見ると、“落選しました。正規版の発売をお待ちください。 アーガス”とだけあった。こんな簡素な2文ぽっちで人の心はこんなにも落胆してしまうものなのかと驚愕した。奇跡みたいな確率で俺が当選したんだから、瑞樹も当選してるんじゃないか。そんな甘い願望を持つことさえ罪であるように感じられた。そこで重要なことに気付いた。瑞樹は? 瑞樹は大丈夫なのか? しかしすぐには見れなかった。俺はどんな顔で、どんな言葉で瑞樹と向かい合えばいいのだろうか。とは言えこのままでいられるわけでもないのでゆっくりと横を見ると、彼女は呆然とした顔で未だ画面にくぎ付けになっていた。俺と同じことを考えていたのか、うそ… とか細く呟くと、悲しそうな表情でこちらに正対した。とっさに権利を譲ろうかと思うと、声を発する直前に満面の笑みでおめでとうとと言ってくれた。その、笑って細くなった目には涙が少し溜まっていた―
そもそも、この約束の提案者は彼女だった。2人ともMMORPG、及びRPGの類はほぼプレイ経験がなかった。しかしそれでも応募しようと思ったきっかけは、俺がネットサーフィンをしていた時に見た、ある広告を見たことだった。俺はそれを見た途端、その広告を無意識に押してしまった。何だこれは! なんだこの美しい世界は! これまでサイトに表示されているゲームの広告なんて見ても心は動かされなかった。なのに! この気持ちは何だ! 好奇心の赴くままにどんどん情報を調べ続けた。そして調べるにつれてますますSAOの世界に魅了されていった。”・ナーブギアなる装置を頭に被ってプレイすることで仮想世界にダイブできる ・魔法はなく、剣を使って戦う ・世界初のVRMMORPG“ これらの全く知らない、分からない言葉たちが更に想像力をかきたてた。特に魔法がない、というところに惹かれた。呪文を覚えるのかは知らないが、暗記は面倒で嫌だと考えているため、少しでも覚えることが少ないというのは大きなメリットだ。この時点で俺は既にこのゲームをプレイする気なっていた。そこで、ふと思い出した。広告にはβテスター募集とあったな、と。それについて改めて調べると抽選で1000人選出するらしかった。普段ならいくら欲しいものでも1000人しか当選しないようなものには応募なんてしようとも思わないが、どうしても今回はしなければいけないと思った。こんな素晴らしい世界に魅了せれる人は多くいて、倍率はこれまでの抽選の比ではないと分かっていても。
とは言えほんの少しでも確率上げたかったため、彼女に連絡した。もちろん瑞樹がゲームをほとんどしないことは知っていた。それでも誘うことにした。最初は応募の口を増やすためだったが、彼女にSAOの素晴らしさを伝えているうちに、自分のこの感動を伝えたい、この世界に一緒に入って同じ気持ちを共有したいという感情がどんどん強まってきた。その気持ちが伝わったのか、彼女は最終的には承諾してくれた。電話を切ろうとすると彼女から、もっと詳しい話を聞きたいから今から会いたいと言われたため1時間後、駅で会うことになった。
約束した時間の5分前、駅に瑞樹はやって来た。俺を見つけた彼女はどことなく怒っているように見えた。
「もう! 会いたいって言った方が後から来るんじゃ私がちょっと性格悪いみたいじゃない! 私遅れてないのに! ちょっとそこらへん考えてよ!」
「いやー、ごめんごめん。いつも遅れ気味だから早く着ける時くらいは早く来て貯金しとこーかなーって思っただけだから」
「何よそれ。毎回毎回ちゃんと来ればいい話でしょ。貯金とか考えずに! ギリギリを狙わずに!」
「はいはい。これからまた気をつけるよ、多分。」
「多分ってなによ。も~」
とりあえず彼女とのいつもの茶番を終わらせるために話を切り出した。
「何はともあれ、久しぶりだな、瑞樹。」
「うん。久しぶりだね。アキ。あと、言うの遅れたけど来るの遅くなってごめんね。せっかくのデートなのに」
「いやいや、いつもは俺のせいでもっと遅れてるからさ。俺も久しぶりに瑞樹とデートできるの楽しみにしてたんだ」
「そう言ってくれると嬉しい。」
「それに…」
「それに?」
「き、今日も服装かわいいし」
「う、うん! ありがと!」
久しぶりに会うから少しおしゃれしたが、そうしようと思ったのは彼女も同じようだった。だからなのか、ありがとうと、そう、感謝を述べながら笑う彼女の笑みは、久しぶりに見たから、では説明がつかないくらいいつも以上に可愛く見えた。この笑顔にどれだけの勇気をもらったか分からない。本当に自分の横に彼女がいてくれてよかった、としみじみ思った。
出合ってから5分ほど経ち、待ち合わせ場所にいつまでもいても意味は無いと、落ち着いて話せる場所に向かおうと、近くの大きめの公園に行くことにした。
「ところで瑞樹、さっき送ったサイト見てくれた?」
「一応ざっと目は通したよ。アキの話とネットの情報を総合して考えると、私もすごく行ってみたい! 倍率は高いけど試す価値はあると思う」
「ほんとに!? 瑞樹、ほんとにありがとう!」
「そ、そんな大げさな! それにアキのためだけに応募するんじゃないんだからねっ! 分かってる?」
「ああ、もちろんさ! 瑞樹と同じ気持ちを共有できてることがうれしいんだよ!」
「まあ、それは私もだけどね。」
そうこうしている内に公園が見えてきたので、近くのコーヒーショップでコーヒーを買い、ベンチに並んで座る。
「あ、そうだ! ところで、応募についてなんだけど」
「もちろん分かってるよ。お互いに2人分ずつで応募するんだろ?」
「ううん。アキならその方法を採ると思ったけど、それはしない」
「じゃあどういうの考えてるんだ?」
「それは勿論、お互いに自分1人だけを応募するの。お互いに当たったら万々歳。2人とも落ちたらまあ、妥当ってとこね」
「それで片方落ちて、片方当たったら?」
「もちろん恨みっこなし! 当たった人のものよ! ・譲らない ・受け取らない ・欲しがらない の三原則を守りなさい!絶・対・に、よ!」
「確かにそれが一番公平、且つ正しいやり方、と言われる類のものなんだろうな。分かったよ。俺も異存はない。あと俺からもう2つ、追加したいルールがある」
「なに? どんなの?」
「まず1つ目、結果発表の日、合否メールはお互いに見ずに2人揃って2人のメールを一緒に見ること」
「それは私もそのつもりだった。場所はまたここでいい?」
「瑞樹も同じこと考えててくれてて嬉しいよ。こういうこと何んとなくで決めて後でお互いに疑心暗鬼になるの嫌だしな。場所は瑞樹に合わせるよ」
「私もアキと同じ考えでよかった! ならこの公園ね。それでもう1つは?」
「2つ目は、応募したこと自体誰にも公表しないこと」
「それはなんで?」
「それの1番の理由はもちろん、うちの学校にもこのテストに応募している奴が多くいるはず、ということだ。俺の知っているゲーマーな生徒や教師だけでも相当な数に上る。その上この魅力と話題性だ。俺らみたいにあまりゲームをしない人間も応募する可能性がある。それを考えるとうちの学校だけでも非常に高い倍率になるだろう。うちの学校から誰も当たらない可能性だってあるだろう。それならまだいいんだけど、もし俺たちの両方ないし片方が当たった場合どうなるか? 凄まじいことになるだろうな、とくに廃人級のやつらは。俺たちも、そして奴らも当たる可能性は低すぎてそんな場合はアテにできないから考えないんだけど、俺たちだけが当たった場合、”非ゲーマーに当たって、真のゲーマーである自分たちに当たらない“、という現実を直視できない可能性が高いからだ。そこでその状況を打破するためにどんな手段をつかってくるか分からない。金に物を言わせてくるかもしれないし、無理やり奪ってきたりするかもしれない。細かな手段は多く思いつかないけど、そうなった場合危険なことは間違いない。特に瑞樹は女の子だ。いくら運動部とは言っても男子相手には大きなハンデになりえてしまう。そんなわけで口外しないのが得策だ。今回は特に学校の人間に限って言ったけど、人はどこでつながってるか分からないからな。いろんな危険な可能性を考慮すると、この2人の秘密にするのがいい」
「うん、分かったよ。分かりやすい説明、ありがと。確かに私昔からバスケやってるのに帰宅部のアキに筋力とかで勝てないし一理あるかも」
「いえいえ、どういたしまして。瑞樹にそう言ってもらえて嬉しいよ。あと何かある?」
「あ、じゃあ1つだけ。お金のことなんだけど…」
「ん? あ… お金ないのか… そっか、急だったもんな。4万くらいするのに先に言ってなかった。ほんとにごめん。足りないってことであれば俺g…」
「ううん! 違うの! そっちのお金は用意できるの。あ、いや、出来ないかもしれないんだけどその…」
「え? どういうこと?」
「そもそも我が家にはパソコンがないんです!」
「え… あ… そうだったのか… ごめん、そこを考慮できてなかった…」
一体どうしたものか… βテストに応募するしない以前の、思いもよらない壁にぶち当たってしまった。俺の家は新しい物好きで機械オタクの父親の影響でデスクトップ、ラップトップ、タブレット、スマートフォンと大体の電子通信機器は揃っていたため、頭のどこかでどこの家庭でもそういう環境になっているのだと思っていた。しかし、現在の俺にとって最も身近な存在である瑞樹の家では、PCが1台もないという、最もあり得ない状況が存在していた。なんにせよ、することは1つ、PC、とりわけSAOがスムーズにプレイできるスペックのデスクトップを入手すればいいのである。それ1台さえあればSAO以外にも様々な用途に、数年間使用できるPCを手に入れることになる。しかし、いかんせん初期投資が高い。お小遣いの前借? 口座から引き落とす? いや、どちらにしても親に怪しまれてしまう。今までそんなことをしてこなかった娘がいきなりそんなことしてきたら理由を問いただすだろう。もしそこから他者に広まってしまったら… そう考えるだけで戦慄が走った。その時、あることを思い出した。
「そういえば、この前父さんからもう使わなくなったのもらったな。もう持ってるからいらないって言ったら、これ色々といじって機械慣れしとけって言われたんだけど。それがまだ残ってるからそれ使うか」
「ほんと!? ありがとう! でもそれってすぐ使えるの?」
「ん~、たぶん無理だろうな。スペックが古すぎる。SAOに使うんだったら中身入れ変えないと」
「ふーん。そうなんだ。じゃあ使えるようにするためにも勉強しないとね」
「そうだな。幸いにも父さんから教科書はもらってるからそれ読んでからこれからのことは考えるか!」
「そうしよそうしよ! じゃあ今からはちゃんとしたデートね! せっかく会えたんだから時間たっぷり遊ぶわよ!」
「ああ、もちろん!」
俺のその言葉でSAOに関する話をひとまず終え、しばし2人きりの時を楽しんだ―
このような経緯を経ているため、是非とも瑞樹と一緒にプレイしたいという思いが強かった。あれから2人で勉強して父の中古PCをセッティングしたのも楽しかった。正直自分が落ちてでも瑞樹にプレイしてほしいと思っていた。しかし俺は、でも… と考え直してみた。
瑞樹は昔からバスケットボールを続けているだけはあり、負けず嫌いで、又これと決めたことにはとことん拘る性格だった。そんな彼女はもちろん自分で決めたルールを破ることはなく、またそのルールを知りながら同情心などでこちらがそれを破ることになる言動をするといつも怒ったり拗ねたりして手が付けられなくなる。そんな理由からいつも瑞樹のルールには従うようにしているし、それ以上に、決め事があるときの瑞樹からは絶対に破らせないという意思がひしひしと伝わってくるので、こちらも破っては瑞樹に失礼だという思いから自然と瑞樹のルールを守ろうという気持ちが芽生えてくる。
今の瑞樹からもそれと同じ雰囲気が感じられる。それに今にも泣きだしそうな彼女の顔を見たことで、改めて絶対に譲ってはいけないと感じ、ありがとう、と一言返した。
これよりも先に出ている作品で、題名や内容、コンセプトが同じものがあるのを知っている、という方はお知らせください。即刻削除いたします。