愉悦神父はエクソシスト   作:風剣

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XX楽しいです。G級からのパワーインフレ凄いね。
気付けば以前の更新から二ヶ月弱……ははは、駄作家だからね、作品を放置しちゃうのもしかたがないね。
すっごく今更なんですけれど、FGO始めました。紅茶とすまないさん、ノッブ等と共にアメリカ攻略中。フレンドさんほんとにお世話になってます。CCCコラボまでの第一部クリア尽力致します。

更新も遅くなりがちの自分ですが、来年度からもどうぞよろしく。ご贔屓くださいな。



鏖殺の果て

 

 聖堂教会において、エクソシストという名称には二通りの意味合いがある。

 

 一つは、AKUMA(アクマ)に対する抑止力。黒の教団の擁する適合者たちだ。

 悲劇を食い物にして増大する千年伯爵の勢力は留まるところを知らず。アクマに数少ない有効打を与えることのできる存在として、イノセンスの担い手は大きな重要性を持っていた。

 

 もう一つは、一般層から上層部まで比較的広く知られている――悪魔祓いとしての、エクソシスト。

 荒事にこそ向いていないものの、聖地の管理、教会での洗礼、異端審問といった分野において彼等の果たす役割は大きい。特に異端審問において、独自の装備と鋼の如き信仰で心身を固めた彼等は、悪魔の形成する異界ですら用意には害を及ぼせぬ強度を持っていた。

 

 しかし、前述したように彼等には悪魔を滅す為の力はない。

 聖堂教会においてエクソシストの介入が許されるのは『救済』し得る範囲まで――そこから先は、『壊す者』の領分である。

 

 教会の異端審問員であり、教義に存在しない「異端」を力ずくで排除するモノたち。「異端狩り」に特化した巨大な部門である聖堂教会でも一際血なまぐさい部署に所属する彼らは、誰もが認める最高純度の信徒である。本来悪魔を斃す権利を持たぬヒトが、その権限を超越し神にのみ許される行いを「代行」し消滅させる戦闘信徒――それ即ち、『代行者』。

 

 ある者は、狂信者の集まりとこれを評し。

 またある者は、こう語った。

 

 ――修羅の巣窟、と。

 

 

 

 これ、は。

 

 耳元を掠める拳を知覚し、口元を引き攣らせる。交戦と同時投擲された黒鍵を回避、得物を手から失った今こそが好機と代行者に接敵した死徒は、己の失策を鋭敏に感じ取っていた。

 逃げれば良かった、せめて一定の距離を保つべきだった――無謀を悔やむも今更どうしようもなく、己に迫る危機を退ける為に力任せに手足を振り回す。

 

 これは、いけない。――死んでしまう。

 

 首を刈り取る手刀はへし折られ、鋭く伸びた爪による刺突は強引に抑え込まれた。零距離は不味いと判断、掴み取られた片腕を文字通り切り捨て、背後に跳躍するも――踏み込み一つで喰われる間合い。

 

 活歩の歩法、七歩の距離を喰い尽くす一踏み。想像もできぬ域まで積み上げられた功夫(クンフー)を前に、冗談だろうと口元を引き攣らせ。

 噴霧。

 

 二の腕から先を失った右腕の断面から噴き出したのは、鮮血ではなく濃質な蒸気。毒性を疑い息を止めた綺礼の視界から青年の姿が消え、紅の霧は瞬く間に周囲を呑み込む。一寸先すらも容易には見通せない血霧に険しい顔になる神父は、どこからともなく膨れ上がる殺意を一身に受けある疑問を浮かべ。

 

 背後からの、回し蹴り。

 

 目で追い切れぬ速度、城壁に風穴を開けかねない膂力。死徒の有する隔絶した身体能力を最大限発揮した蹴撃は、とても常人に凌げるようなものではなかったのだが。

 元とはいえ、彼は代行者。

 そして、ヒトとしての限界に囚われる程度ではーーとても、代行者を名乗れはしない。

 

「な、」

 

 唖然。掠り傷一つ負うこともなく懐に踏み込んだ神父に、とうとう死徒は硬直する。

 それも無理のないことである。誰が思おうか。――最低限の視界さえ確保できぬ状況にも関わらず、死角から襲いかかった人ならざるものの蹴撃を、生身の人間があっさりと受け流すなど。

 

 化剄、近接戦闘において八極拳はその本領を余すことなく発揮。絶招の域に在る代行者は見事なまでに死徒の強襲に対応してみせた。

 脚を絡めとった腕に蹴りの軌道を外され、青年の体勢が死ぬ(・・)。高速戦闘の渦中、絶技を前に致命的な隙を晒した。

 

「――」

 

 時が止まる。走馬灯に近い感覚。驚くほど緩慢(スロー)に映った視界の中で、神父の拳が硬く握り潰されて。

 

「、や」

 

 胴を圧搾(シェイク)する衝撃、グチャグチャに爆ぜる臓物。砲弾の如き勢いで宙を駆けた身体は廃屋を四棟ほどぶちぬいた先でようやく止まり、建造物の壁にめりこんだ彼を追い討ちとばかりに投擲された黒鍵が磔にした。

 

 死。ここまでの破壊と殺戮から逃れる術は、もはや青年には残っていなかった。

 

(惜し、かったな)

 

 だというのに――いやだからこそ、彼は薄く笑う。

 何者にも見通しきれない複雑な心境を示すかのような、どこまでも引き攣った笑みだった。

 

(あと、少し早ければ。お互い、楽だったろうに――)

 

 なにか。

 細い糸が、切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――歌う。

 自分はそのために造られたのだから。

 

 ――歌う。

 もう自分にはそれしかできないから。

 

 ―ー歌う。

 間もなく逝ってしまう、唯一の主のために。

 

 

 

 美しい旋律の、造花の子守唄。それを奏でる人形は、悲鳴を上げる身体の不調を自覚しながらも一心不乱に歌い続ける。

 歌って、謡って、唄って。

 やがてミシミシと肢体の軋む音が響くと、頭部の金属部分を露出させる彼女は腹立たしげに鼻を鳴らして歌うのをを止めた。

 

「ララ……無理をしてはいけない。君は、もう」

 

「ん」

 

 ガシャ、と金属質な音を立てたのは、ほっそりとした少女の脚に小突かれた一本の腕。肩の関節から指先に至るまで原型を留めぬまでに壊され切ったそれは、ほんの数分前までは彼女の片腕として機能していたはずのものだった。

 

「……ううん、平気。自分の機能(からだ)のことだもの、怪我がどの程度酷いのかも理解しているわ。……だから、平気」

 

 ――まだ、私は歌える、と。己の身を案じてくれる翁に、ララは気丈に微笑んで見せた。

 グゾルにも限界が近づき、傷ついた自身の体はもはや機能の停止を待つのみ――もう碌に動くこともできず、残された時間は僅か。それでも、少女の願いを全うするには十分なだけの余裕があった。

 

「私は、大丈夫だから。最期まで、ずっとグゾルと一緒だよ」

 

「ララ、君は--」

 

 隻眼の少女の慈しむような視線に、束の間翁は言葉を失う。胸中の葛藤を俯いて耐え忍ぶ彼は、やがてぽつりぽつりと呟いた。

 

「……君は、怖くなかったのかい」

 

「?」

 

「エクソシストが来る前、彼に襲われた時のことを思い返すと。正直なところ、今自分がこうして生きているのが、奇跡のように思えるよ。それほどまでに……彼は、異質だった」

 

 自分たちを庇った教団の人員に対して『彼』の振りまいた悪虐が脳裏を過ぎったのだろう、身震いするグゾルの言葉を否定できる要素はどこにもなかった。一度は彼に--シーバーと衝突し、一撃で破壊(こわ)されかけた彼女が何よりもその恐ろしさを理解している。

 

 如何に、イノセンスを動力として動く特別製であろうとも――それが人の手で造られたものである限り、絶対に死徒には敵わない。

 

 けれど。

 

「直接会って、分かったことがあるの」

 

 一つしかない眼を細めて、枯れ枝のように干涸らびたグゾルの手を握って。

 核心を、突く。

 

「アレは、シーバーだけれど、シーバーじゃない。もっと、別の--」

 

 どしゃっ。

 

「!?」

 

 唐突に響いた物音に驚愕し背後を振り向いたララ。無駄だと悟りながらも壊れ切った腕を慌てて隠そうとした彼女は、地下住居の一角に侵入したそれを目の当たりにして言葉を失う。

 一目で重傷と分かる深手を負った、二人の青年。自分たちを救助するべく駆けつけたエクソシストと探索部隊(ファインダー)の人員を抱えた少年が、その白髪を紅く濡らして倒れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 未だ生々しい感触の残る右の拳。それを握り、開き、また握る。

 不愉快そうに眉を顰める綺礼は、胸中を満たす違和感の正体を探るべく幾度となくその動作を繰り返していた。

 

 そう、違和感。過酷な鍛錬、比喩抜きの死線において培ってきた代行者としての直感は、あの死徒との交戦の瞬間から普段相手にする異端との違いを察知させていた。

 一層浮き彫りになったのが、先の一幕で青年がその身から噴き出した血潮の霧――あれに乗じて逃走されれば綺礼には死徒を追跡する術はなく、死徒もある程度はそれを理解していた様だった。

 全てに当て嵌まるとは言わないが、己を殺し得る者と相対した死徒は基本的にその場からの離脱を図る。無論聖堂教会の面々がみすみす獲物を逃してしまうような布陣を敷くことは少なく、最終的には代行者との交戦を余儀なくさせられることとなるのだが……それでも、好機が生じれば大抵の死徒は逃走を選ぶだろう。『生り立て』のグールから『頂点』の二十七祖まで一度は死を経験した彼らは、命というものの軽さと重さを人間以上に理解しているのである。

 にも関わらず彼は徹底した抗戦を選び、背後から奇襲した――その末路を、恐らくは予期していながら(・・・・・・・・)

 

 その、ある程度永い時を生きた死徒としては異様なまでに血迷った(・・・・)判断は、精神汚染という単語を綺礼に連想させて――、

 

「ぉ、う」

 

「……これは驚いた」

 

 ここまで殺し尽くして、まだ命脈を保っているとは。

 そう感嘆する綺礼の視線の先。拳の一撃で臓物を挽き肉にされた上から全身を黒鍵に串刺しにされた死徒が、半霊体の刃に身を貫かれたまま小刻みに痙攣していた。

 明らかに死に体、しかし乱暴に撒き散らされる悪意は本物。存命を確認した悪鬼を前に洗礼詠唱の行使を検討し始めた神父の前で――腕が、動く。

 

「ひいっ、た。ぐぶ、ぎゅぁ」

 

 血腥い臭いが、一気に広がる。言語として成立しない呻きは、喉を黒鍵に貫かれた弊害か。息苦しそうに唸った青年は、胸部を踏み潰されるのも無視し(・・・・・・・・・・・・・・)首に手を伸ばし――水っぽい粘質な音を立てて、黒鍵の刃を引き抜く。

 

「おぉぉぉおおおおおう……て痛ァっ!?」

 

「!」

 

 真っ当な呼吸も許さずに拳打を叩き込むも、ぶちまけられた怒声と共に魔力の爆発が巻き起こる。警戒も露わに距離を取った綺礼を一瞥し、彼は躰を紅く染めたまま忌々しげに舌打ちした。

 

「つくづく容赦ないねえ、代行者。淡々とした面構えをしておいて、その実おっそろしい程の加虐趣味ときた。他の面子も皆そんな面倒くさい性質(タチ)してんのか? ()でもそこまで歪んじゃいないってのに」

 

「……」

 

 どう、判断すべきか。

 歴戦の代行者が、相手の本質を掴み兼ねる。言動パターンの僅かだが確実な変化、浴びせられる魔力の増大、致命傷を受けても尚問題なく動けるほどの生命力。予想以上に高位の死徒だったのか、あるいは気づかぬ内に幻惑などの魔術を行使していたのか。それとも――、

 

 ――そもそも、死徒ではなかったのか。

 

「あぁ、死徒だぞ? それに、あんたがやりたい放題やってくれたおかげで耐久限度はとっくに食い潰されてる。傷も治りはしないから今も正直凄く痛くてな……、まあ、こうして動いているのは、そうだな。――『訳ありの怪物』とでも認識してくれればいい」

 

 生命(いのち)の光が欠如した眼で厭らしく嗤う姿に、これまでの取り繕っていた様子はなかった。相手の言葉が嘘ではないと判断し、脳裏に『候補』となる存在をピックアップし――あるものを、思い浮かべ、

 

 瞬時に逃走を選択、背を翻して駆け出す。

 

「取り敢えず死ねよ、害虫」

 

 原形を失いかけていた死徒の片腕が、爆ぜる。

 噴き出す鮮血、途方もない悪臭。ぐちょぐちょと何かを潰して現れたのは、五感の全てを閉ざしてしまいたくなるような醜悪な肉塊――機能美のないぶよぶよとした肉は瞬く間に膨張し、濁流のような勢いをもって綺礼を呑み込んだ。

 

 

 

 其は、災禍の具現哉。

 

 其は、魔を総べるもの。

 

 其は、魔を象るもの。

 

 会えずとも。逢えずとも。遭えずとも。ヒトは、誰もがそれを知る。

 

 

 

 

 第六架空。悪魔――顕現。

 

 

 

 




 アレンが死んだ!(フライング)

* 一度作品を非公開して各所の脱字を手直ししました。一部の方々にはご心配をおかけしてしまい申し訳ありません。今後とも、どうぞこの作品をよろしくお願いします。
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