愉悦神父はエクソシスト   作:風剣

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次回更新?下手したら秋になるんじゃないかな(白目)。
忙しい、うん。すまない大学受験なんだ。普通に落ちそうで死ねそうなくらい悩んでいたりするんだ。本当に執筆時間も取りにくくなってる。
なんなら三次創作書いてくれても良いんじゃよ。一万字単位の超大作なら尚良し(コラ
ツイッター始めたからね。生存確認程度に覗いてみてね。

やっぱりマシュは最高だと思うんだ



腐食

 

 

 黒の教団は、魔窟である。

 AKUMAに対する抑止、千年伯爵の危機から守る人類の守護者だから――というだけではない。何せ世界最古の聖遺物でもあるイノセンスの収集、管理、分析、加工、を一手に担う唯一最大の機関なのだ、常識で語れる部類に収まる筈もない。

 

 屋外は蝙蝠型の通信、ないしは監視用ゴーレムが飛び交い、研究棟では一部のブレーキの壊れた科学者(錬金術師)たちによる怪しげな開発が進む。あろうことか団員たちの職務を出自不明詳細不明の幽霊(66)が手伝うこともあった。真っ当な意味合いでの聖遺物とは聊か以上に趣が異なるとはいえ、『神の結晶』とまで呼ばれる遺物であるそれらを取り扱う人種がある程度の神秘性を帯びるのはいっそ当然とすらいえることであり。

 

 彼らの創り出す物質が時に埒外の事態を引き起こすことも、なんら不思議なことでもない。

 

「YAッッHOOOOOOOOOOO☆ 超! エキサイティンっっ!!」

 

「……」

 

 医療器具の運搬途中。科学班の研究棟から飛び出してきた白衣の研究者が、その貧弱ななりからは想像もできぬ敏捷性を発揮し目にもとまらぬ速度で駆け抜けていく。

 思わず動きを止め注視する少女の目前。よせば良いのにわざわざ入り組んだ通路へと突っ込んでいった彼は、通りがかった不幸な団員を含む障害物の悉くを薙ぎ倒して姿を消していった。

 破砕音と怒号悲鳴。現在進行形で醸し出される地獄絵図に、流石のカレンも頭を抱える。

 

「おぉゥ……。か、カレン。居たのか、怪我はないか……?」

 

「リーバーさん」

 

 バーサーカーな研究員を追いかけて来たのだろう、彼女の傍ではいつの間にか来ていたリーバーが汗だくになって荒い息を吐いていた。

 

 大方の事情を察し、辟易としながら眉間を押さえる。

 

「一体、なんなんですかアレは……」

 

「……室長謹製の超人薬、らしい。最近鬱っぽくなっていた奴に飲ませたんだが……」

 

「成る程、馬鹿なんですね?」

 

「返す言葉もない」

 

 コムイの作成したオクスリに手を出すことの危険性は周知のことである。もしかして疲れているのではないかと心配になったが--あぁいや、本当に疲れているのだろう。目に隈を作って深夜テンションって怖いなあ、と遠い目で呟くリーバー。流石のカレンも、その哀愁漂う背中には苦笑を浮かべるしかなかった。

 

 どうせ走り去っていった研究者も妙な場所に突っ込まない限りは暫くすれば戻ってくるだろう。馬鹿は放っておいて医療班としての職務を全うすることにする。

 

「その様子では碌な休息も取ってないんでしょう? 待っていてください、お茶を淹れるくらいならしてあげますから」

 

「おー、それは素直にありがたいんだが……。悪い、ちょっとあれを見て貰えるか?」

 

「?」

 

 首を傾げるカレンだったが、緊急の用事を抱えている訳でもなしとリーバーの言葉に素直に従う。台車に積み上げ運んでいた医療器具をひとまず研究棟出入口の片隅に寄せると、彼について書類の散乱する職場に足を踏み入れた。

 

「で、どうかしたんですか?」

 

「んー、聖堂教会の人員から臨時の報告書が届いてな。室長は自室に引っこんで怪しい実験を繰り返してるし、言峰さんは任務で出張中。内容に目を通そうにも、正直眉唾というか……教会独自の暗号とかがあるようだったら、ちょっと教えて貰いたいんだけど」

 

「あぁ、それで私に」

 

 聖堂教会の隠蔽が資料に仕組まれているとなれば、解読できる面々は限られてくる。エクソシストとして活動する綺礼は勿論、黒の教団に派遣される第八秘跡会も大半が探索部隊《ファインダー》として世界中を飛び回っているのだ。そう考えれば、先程の接触も恐らくは始めからカレンを探していたのだろうことは想像に難くない。

 

「とはいえ、私もそこまでの深度に在る訳ではありませんからね……。正直、力になれるとは思えませんが」

 

「いや、そこまで内容は複雑な訳でもないんだが……、うーん」

 

 一体どのような葛藤があったのか。悩ましげに腕を組んだリーバーは、嘆息した後に机の上に纏められた資料を手に取ってカレンに渡す。

 

「まあ直接見て貰わないことには伝わらない、な。取り敢えず目を通して貰いたいんだが」

 

「了解。…………あれ?」

 

 

「なんだ、暗号なんて欠片も使われていないじゃないですか」

 

 

「え?」

 

 

「悪魔の観測記録。座標は南イタリア……ちょうど、アレンや神田ユウが父さんとイノセンスを回収しに向かった古代都市の付近ですね」

 

 

 

 

 

        ***

 

 

 

 ■■■ ■

 

              ■■間■

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーバーと名乗った吸血種。その男のかつての人生を語ることには、最早何の意味も残されてはいない。

 

 生者はいずれ死に、そして死者は戻らない。姿を消した者の遺していったものもやがては時と共に風化し消える。

 栄枯盛衰、諸行無常。(ほのお)は燃え尽き生命(みず)は枯れ、肉体(からだ)は腐り果て気運(かぜ)も鎮まり無に帰る。

 Ash to Ash,Dust to Dust(灰は灰に、塵は塵に)――生を受けし者は自然の摂理に従い、生きて死んで骸を重ね、やがて大いなる循環に還る。ヒトがヒトで在る限り、その理には一厘の例外も許されない。

 

 ヒトならざる異形と、その手にかかった哀れな犠牲者を除けば。

 

 単純な話。

 どことも知れぬ地方都市。友と、家族と、近隣の人々と織り成す何の変哲もない日常を甘受していた青年は……突如現れた彼を獲物と見定めた怪物に襲撃を受け――何が起きたのかも理解できぬ内に、抵抗の余地なく喰い殺された。

 

『おぉ出た出た。なんか感激するなあ、うん! 素質あるね、君!』

 

 そしてその一週間後、青年は埋葬された墓地から這い出す。

 吸血鬼と呼ばれる者の前段階――意志なき動く死体(リビングデッド)と成り果て、強烈な衝動のままにかつての知己を喰らいながら。

 捕食、再生、捕食、再生、捕食再生捕食再生捕食再生捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食捕食再生――、

 

『おおきくなぁれ、おおきくなぁれ』

 

 ざらざらとした口内の異物を自覚する。生理的な嫌悪感に呵まれるままに吐き出したのは、どろどろになるまで血に濡れた髪の束。幽体の脳を形成し、自我を取り戻した青年が初めに目にしたのは。

 

 奇しくも、かつての家族の鮮血に染まった我が家であった。

 

 嗜虐的に嗤って。戸惑う彼に『親』は告げる。

 

『いやあ初めての眷属というのも感慨深いね。すくすくと育っていく子の姿は見ていて飽きさせなかったよ。調子はどう? 肉親の血肉はなかなか相性が良かったんじゃないかな?』

 

 目の前の事態を受け入れることも、相手がどのような存在なのかも理解できぬまま。

 迸る絶叫、荒れ狂う憎悪。

 もう他のことは何も見えていない。『親』に容易く取り押さえられるのにも構わず血肉で真っ赤になった犬歯を剥き出して襲いかかる青年は、嘲笑も玩弄も無視してひたすらに怨嗟を叫ぶ。

 もうどうなったっていい、死ね、くたばれ、殺してやる壊し尽くす――絶対に、許さない。

 誰だって良い、何だってする。ただ、力を貸してくれ。

 己から全てを奪った、この化け物を。

 肉体を捨て幽体を得、吸血種と成り果て男のその呪詛(ねがい)は――異界にまで届かんばかりの、まさに魂の慟哭と称するに相応しいものだった。

 

 故に、それは超常の存在に届いた。届いてしまった。

 

 その瞬間。

 いつか、世界のどこかで。人類に仇なす新たな異形が、産み落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

    ***

 

 

 

 

 

「ちょっと待ってくれ。え、悪魔? AKUMAじゃなくて? 実在すんの? マジで?」

 

「何を及び腰になっているんですか、イノセンスなんていうもっと物騒な代物をしょっちゅう取り扱っているくせに」

 

 後ずさりしながらそんな腑抜けたことを口にするリーバーに、冷めた視線さえ投げて少女は嘆息する。ある程度の常識を有する者ならまず目を疑うようなオカルティックな内容の文書を閲覧し、中身を把握した彼女はそそくさと書類をリーバーに押しつけた。

 

「ひとまず、これについては忘れることにします。私は自らの職務を全うし医療棟にいました。私はリーバーさんに会っていませんし、貴方も私に文書を預けることはありませんでした。良いですね?」

 

「え」

 

「それでは――「待て待て待て! 待って! え、マジ、そんな機密情報だったのかこれ――って絶対ウソだろその顔ぉ!? こら、あまり大人をからかうもんじゃない! せめて詳しく悪魔について教えてくれ!」……むう」

 

 別に、それ程詳しい訳でもありませんし。大雑把にしか説明できませんが。

 そう前置いて、カレンは語る。

 

 基本的に、AKUMAも悪魔も、所詮贋物(ニセモノ)でしかないのだと。

 

「偽物?」

 

「えぇ。或いは幻想種だったり人々の心象が生み出した化生だったりと個体差はありますが。真性の悪魔というのは、どうやら相当な規格外みたいで。少なくとも西暦に入ってから彼の存在は観測されていないようですけど」

 

 だが、偽物であろうがなかろうが悪魔という概念がそこに『在る』だけで人類にとっての最大の脅威となることに変わりはない。神が全知全能なら悪魔は人知無能。手の届く範囲にありながら決して理解できない極限の深淵。人間の願いに取り憑き、その願いを歪んだ方法で成就せんとする第六架空要素。

 

「願望器としては下の下、それこそ悲願が達成するより先に主の精神が限界を迎えるような危険極まりないものなのですがね……。それでも、外法に手を出す者は後を絶たないようで。憑かれた愚か者の後始末は、基本的に聖堂教会に一任されています」

 

 ――それでも、本気で潜伏した悪魔の観測をするのは容易ではないのですが。

 そこだけは酷く忌々しげに呟いた少女の横顔は、どこか痛々しい印象を伴わせて。一時期聖堂教会の修道院でシスターとして活動していたことをを知りながらもその詳細を把握していなかったリーバーは僅かに訝しんで――黒の教団でも確かにその特異性を発揮していた、彼女の体質について思い当たる。

 

「被虐、霊媒体質……?」

 

「あ、気付いたんですか」

 

 気軽に彼女は腕を振る。

 幾度となく一流の医師たちによる処置を施されても尚、包帯の内側に痛ましい傷痕を残すその腕を。

 

「えぇ、それこそが私の唯一の天職でした。悪魔憑きに対する抑止。異形を探り当てるという一点において、私以上の効率性を持った人間は聖堂教会にもいなかったと思いますがね」

 

 悪魔は人間の体を用いて受肉しようと働くが、苗床になる人間の精神が耐えられず、周囲に魔を撒き散らして自壊するのが通例。悪魔に憑かれると他の要素に異常が起き、最後には肉体も変化して異形の怪物と化す。高位の悪魔ほど「症状」が表に出づらく検知が困難で、露見するのは大惨事が約束された後になりやすい。

 そんな修羅場において人ならざるモノに反応して聖痕(ステイグマ)をその身に発現させる体質は、なるほど重宝されたことだろう。実際探索部隊での任務も、彼女の献身によってアクマの襲来を未然に防いだという事例は指だけではとても数えきれないものがあった。

 

 その、代償は。

 

「……む」

 

「カレン?」

 

 一度だけ。机に腰を下ろそうとした彼女の姿勢が、ぶれた。

 何事もなかったかのような表情で体勢を直した、が――閉口するリーバーの顔を見て、困ったように肩を竦める。

 

「体調が悪化したら声はかけますよ。何事もホウレンソウは大事ですからね」

 

「あぁ、そうだな。……うん。それが、良い」

 

 自分だけが大人らしからぬ動揺を見せてしまっているのがなんとなく気まずくなって、咳払いをしてリーバーは一言尋ねる。

 悪魔の実在を伝えられてから、ずっと気になっていたことではあった。

 

「なあ。……もし、アレンたちと悪魔が遭遇したら。撃退、討伐を果たすのに、どれだけの見込みがあると思う」

 

「さあ。ケースバイケース、というのが率直な所感ですが」

 

 

「仮に、悪魔憑きが『末期』のレベルまで進行していた場合。代行者一人とエクソシスト二人程度では、とても手が足りないのではないですかね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソレを取り繕っていたものはもうない。

 

 全て失われた。全て剥ぎ取られた。全て削り落とされた。

 ソレを戒め、ヒトとして、死徒として振る舞わせていた束縛はもはや存在しない。死徒が永い年月を懸けて実装するに至った封印を完全にぶち壊してしまう程に、あの代行者が与えた損傷は甚大だった。

 

 故に、彷徨う異形が新たな依代を求めるのも当然の帰結で。

 

 途中発見した白い装束の遺体を貪り、肉塊は蠢く。

 

 足りない。足りない。足りない足りない足りないこの程度じゃまだ駄目だ死ぬ死ぬ助けやだ足りない足りない欲しい欲しいのもっとまだタリナイだから助足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足らな

 

「お」

 

 まだ、最大の脅威である代行者の死は確認できていない。

 どこまでも忌々しい事態だ。看過することはできない障害だ。まず間違いなく殺せる、ほぼ完全に喰い潰せる程度の相手だが――それも、万全の状態での話だ。

 あぁ憎たらしいことだ。あの元契約者(きゅうけつき)め。まさか外殻どころか、霊核にまで無視できない傷を負うことになるとは想定できなかった。

 

「いぎ、ぎひぅ!? な、なんだ、おま」

 

 もう、手段を選ぶつもりはなかった。生きた人間やあの死徒と比べれば酷く使い心地の悪そうな物件ではあったが――降霊術式(・・・・)を組み込まれているからだろう、霊媒としての格は十分なものがあった。

 

「や、yだ。やめ、やめ。ぐぃっ!? や、あAa。aaarあああああああああああ!!??」

 

 

 

 いただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 心配そうに見守る人形の前でびくびくと痙攣し、跳ねるように飛び起きた少年は、鈍痛とともに流血する左目を抑える。

 

「これ、は」

 

 ――タスケテ。

 

 間に合わなかった、致命的なまでに届かなかった救いの手。

 その断末魔は、生々しく少年の耳朶にこびりついていた。

 

 

 

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