フェイト達との出会いから数日が過ぎ、約束の金曜日になった。
誰よりも早く先に帰り、道着に着替えて自宅の道場で待つ
ただ1人、日の沈み始めた道場で座禅を組み、久方振りに昂ぶる心を鎮める
ーーーーーーーー来た
道場内には既に先程までの静寂は無く、闘争の空気へと変化して互いを威圧する
ゆっくりと立ち上がり、木刀を掴む手に力を込める
ーーーーこれだ、やはりこうで無ければ楽しくない
この世に生を受けてから、幾度も強いと言われていた敵と戦っても感じられなかった充足感と高揚した自らの魂
零にとっては唯一無二の親友にして、
拓哉にとっては永久不変の親友にして、
気付けば
そうだよなぁ拓哉、やはり…普通では満たされなかったかな?
零と戦るのは本当に久しぶりだ、あぁ…今までの奴らは何処か物足りなかった。
強いとは感じたがその程度だと、その程度でしかないのだと負ける気がしなかった
昔、一度だけ零…お前と戦ったあの時からな!
「「は…はは…ははははは!」」
久しぶりの感覚に思わず笑ってしまう、どうやらこれ以上は耐えられそうも無い。
「永極神皇一門、玖龍護神流 武帝術継承者『玖龍 零』」
「我流剣士『神崎 拓哉』」
名乗りは終えた、後は剣を交わすたけだ。
「いざ…」
拓哉は脇構えにして、下から斬り上げる事を示唆し
「尋常に………」
零もわざと上段に構え、上から斬りつける事を示唆し
「「勝負‼」」
ズドンッ‼
開始と同時に踏み込み、零は上から叩き斬る様に、拓哉は下から切り上げる様に剣を振るう
共に全力、共に全霊、2人の木刀は当たると同時にその圧に耐え切れずへし折れる
だがそんなことで止まる事は無く、折れた木刀を振り切ると同時に投げ捨て、拳を握り追撃する
ここまでは前回と変わる事が無かった、そして今回も…
「くっ…!」
「ハッ…!」
クロスカウンター気味に決まった拳によるダメージを、二人とも当たる直前に後方へ飛ぶことで軽減している。
「いってぇっ!クラックラする!はははっ!やっぱりお前と戦るのは楽しいなぁっ!零ぉっ!」
普通の奴なら最初の一撃で墜ちるだろうに、やっぱりお前は面白いな…此処からが本番だ
「白けさせてくれるなよ?」
壁際まで下がり、掛けてあった物を二本取り、一本を拓哉に向かって投げる
「受け取れよ、木刀より真剣の方が使いやすいだろう?」
「あぁ、木刀じゃ砕けちまって意味がねぇ、遠慮無く使わせてもらうぜ」
二人の全力に耐えられる木刀はそう多くない、しかも打ち合うというのなら最硬度の木刀でも四度が限界だった
それも三度目には木刀全体に亀裂が走り、四度目には完全に砕けていた
「特別製だ、そう簡単には砕けまい…第二ラウンドと行こうか」
「修行の成果、見せてやるぜ!」
一片の躊躇無く刀を抜き放ち彼等は駆けた、その速度は御神真刀流の神速には劣るものの常人の目には映ることすら無く、武人であったとしても彼等の姿を捉える事ができる者は稀である、とても小学生の身体能力で出せる速度では無い
「せぁっ!」
不意に背後から迫る刃でさえ、零にとっては必殺の一手と成り得ない、本家の次期頭首であり、既に頭首としての仕事もしている彼にとってこの程度は温いと言わざるを得ない
「ふっ…!」
横へと振り抜いた刃が背後から迫る刃を弾き、反撃の代わりに真空刃が飛ぶが拓哉も同等の真空刃を放つ事で相殺される。
「「うぉおおぉぉぉぉ!!」」
幾たびも剣が衝突すると同時に火花が散り、一瞬の拮抗の後に駆け抜け、壁や天井すらも足場として衝突と回避を繰り返す。
「我流・飛槌!」
両手で剣を持ち、上から全体重を掛けて叩き斬る様に振り下ろす拓哉
「神閃・天昇!」
それに対し、全身をバネにするかの様に屈み、飛び上がる勢いを使って斬り上げる零
刃が搗ち合い、衝撃で手が少し痺れたまま鍔迫り合いへと移行する。
本来ならこんな状態での鍔迫り合いなんて危険すぎて出来ないんだが、やっぱり手加減されてるな
「くっそ」
拮抗している様に見えるが、零は手を抜いている。
今だって、自分から鍔迫り合いをやめて下がるなんて隙の多い事をしやがる
「まだ、足りない…」
あぁ足りない、全然駄目だ、それじゃあ俺には届かねぇよ
零は迫る刃の腹を蹴りで弾き、拓哉は弾かれた刃を床に突きたて回し蹴りを放つがしゃがんで避けられる。
「ふっ!」
しゃがんだ状態からのバク転で振り上げられた零の足をバックステップで躱しつつ距離を取り、剣を構え直す拓哉。
それに対し構えず、腕を下げただ立っている零。
「まぁまぁ…ってところか」
「ふむ、あと半歩前に居たら当たってたな…成長はしているようだ」
「当然だろ、お前こそリミッター掛けてそれとか…また実力上がってんじゃねぇか」
「当然だ、アレから二年だぞ?くくっ…まぁ、そこの床の修理代はチャラにしといてやるよ」
隙がある事が既に此方を誘う罠であり、幾度も繰り返される剣戟の中に活路を見出さなければ、零を打ち倒すことができない
零が本当に本気ならば、技の名を言う必要も無く、一瞬で決着が着くからだ。
技名を宣言している今はまだ、リミッターが無意識の内に働いているのだろう。
目の前に現れた刃を横薙ぎで弾き、刃を返しながら振り抜く
「我流ゥ…一文字ぃ!」
「温い!」
横一文字斬りを剣の届かない紙一重の位置で止まり回避し、技後硬直の隙を狙って一閃するも、上空に飛び上がることで回避した拓也へと追撃する
零は全力ではあったが、本気ではなかった。
リミッターが掛かっているからとかそんな意味では無い、まぁ今の状態で出せるのはリミッター解除時の三割程だがそんな事は関係無く、本気ではなかった。
「武神・昇竜!」
その拳は精確に拓哉の鳩尾を狙うが、防がれる
「っらぁ!」
空中で零の腕を防ぐ事で受けた衝撃を利用して体制を立て直した拓哉は…
「我流・天墜!!」
上空から幾つもの急所を正確に狙った刺突を放つ、得物が真剣であるというのに、何の躊躇いも無く穿つ。
こんな程度の攻撃にあいつが当たるわけが無いと、この程度では殺せないとでも言う様に。
そして、それに答えるかのように零も刃を振るう。
「神閃・時雨!!」
精密な刺突……ただそれだけを追求した連撃に対し、無数の斬撃で拮抗する。
デタラメに剣を振るっている様に見えるのに、その刃の先には俺/拓哉が放った刺突の刃がある。
そんな動作を苦もなく行っている
「チィっ!」
「遅いぞ!」
このまま変わらず続くのではないかと言えるまでに拮抗した状態で突如、零は後方へと飛び…それに倣う形で拓哉も動きを止めると、言った
「そろそろ決着つけないか?」
「そうだな、このままじゃジリ貧だしよ、次の一撃に全てを賭ける」
拓哉は納刀し、中腰で構えて柄に手を添える。
ーーーーー居合
それは一瞬で勝負が決まる技であり、零に対して行う場合は自殺行為とも取れる技だ。
それに対し零は剣を持つ右手を前にし、左手には鞘を逆手に持つと腰の辺りに構える…
「…刹那は使わない」
「…っ!!」
拓哉は怒りを顕にする。
零の、玖龍家の武術である玖龍剣術『神閃』、その中でも零が最も得意とする『神閃・刹那』は、零の手によって極地に至り、上位互換まで存在する技だ。
リミッターが掛かっているとは言え、それを使わないと言ったのだから。
「まだ刹那を使うまでにお前が至ってないだけだ」
「くそぉ…」
まだか、まだ…目の前に立つ同い年の少年に届かないと言うのかのか
自分の実力不足だと言われた自らへの怒り
そしてあまりにも高い零という越えるべき友の強さへの嫉妬が
少しずつ彼の思考を鈍らせていた。
それを見て、零は言った。
「はぁ…手を抜いてるつもりはないぞ、この構えが何の構えなのか、お前は知ってるだろうに」
そう、この構えは『神閃・鵺狩』の構えである。
神閃の中でも難度の高い技であり、簡単に言えば相手の技を打ち落とし、自らの剣を当てるという動作を追求し、少しでも見切りのタイミングを間違えれば死に直結しかねないカウンター技だ。
「…すまねぇ、俺が馬鹿だったぜ」
「構わんさ、お前のタイミングで掛かって来るがいい」
そう言い放ち、零は目を細めると同時に息を吐き、集中する。
音が、消えた。
道場内には鳥の鳴き声、車の走る音、人の声、風の音すら入る事無く、静寂に包まれる。
拓哉は、ジリジリと間合いを詰め、今の自分が出せる最高の速度で踏み込み、抜刀した。
「取ったーーーーーー!」
「ーーーーーーーいいや、取られたんだ」
結果はーーーーーーーー零の勝利
零に放った一閃は僅かに刃を弾かれた事で剣線がずれ、零の頬に擦り傷を付け、振り抜かれたところを、鞘で首を強打され、意識が薄れていく
あぁ…ははっ、まだ…届かねぇ…か…
拓哉は薄れ行く意識の中で笑い、こう呟いた後に意識を失った。
「つぇえよ、親友」
「当然だろ、親友」
まだ負けるわけにはいかないからな
倒れる友を支え、床にゆっくりと寝かすと縁側に立ち、夕焼けの空に薄っすらと浮かぶ月を見上げ、意識の無い友へと話しかける
「お前はまだまだ強くなるよ、なぁ…
呟いた言葉は突如強く吹いた風に紛れて共に消えていった。
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