株式会社 鎮守府   作:不可

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10. 艦娘はアメーバ並み

 我が株式会社 鎮守府は二十四時間営業である。

 主に二交代制なので、その辺は近いうちに是正したいところだ。

 とは言うものの、業務内容が多すぎて所属している艦娘や妖精さんたちの人手不足は甚だしく、三交代制までの道のりは遠い。

 今の業務内容のままだったとしても、各従業員の負担を増やさずに移行するためには、最低でもあと三個艦隊の艦娘が必要だろう。大淀が言ってたから、間違いない。

 

 人間とは違って、体力というか持久性の凄まじい艦娘たちは、二交代制どころか、丸二日の拠点防衛任務でも十分果たせるほどタフだ。

 だが、いかにタフだからといって本当にそんなペースで勤務させていれば遠からずオーバーワークで沈んでしまう。

 艤装の大破や身体の負傷程度なら、鎮守府の入渠施設を使えば修復できる。

 何せ艦娘は人間もないし、地球上でこれまで人類が確認してきた大型動物とは大きく異なる。そのためか、艦娘は死んでも死なない。いや、人間であれば致命傷になる怪我でも死なない。

 

 頭を打ち砕かれようと、腕を吹き飛ばされて何リットルもの血を流そうとも。

 生命活動は停止し、一見死んだような様子を見せるが、入渠させて損傷を修復し、補給と休養を摂らせれば普通に生き返る。

 

 そもそも艦娘は生命体ではあっても生き物ではない。いや、変な言い方だが、俺の異能たる鎮守府が教えてくれるイメージとしてはこんな感じなのだ。

 生き物として存在しているように見える彼女たちは、あくまでも鎮守府の機能が、艦の魂の記憶に何らかの方法で依代を与えているのであって、遺伝情報によって成長した哺乳類とは全く別物なのだ。

 それが何故あのような美少女の外見ばかりを取っているかは甚だ疑問ではあるが、どいつもこいつも俺の精神の紳士的野性味をくすぐり殺してくるほど俺好みなのとは全く別の理由がどこかしら探せばあるはずだ。

 

 ともかく、彼女たちの艦娘としての身体はあくまで依代であって、その本体はここ鎮守府のどこかに保管されている魂の記憶なのだ。

 だから肉体的にどれほどの損傷を受けようと彼女たちはここで復活できる。

 

 しかし、沈んではならない。

 

 鎮守府は動かせないので、遠洋で沈んでしまった艦娘は二度と復活できなくなるのだ。

 魂の記憶は鎮守府にあるのだから、新たな依代を与えれば復活できることもないのだが、記憶や人格は魂にのみ宿るものではないらしい。

 肉体や艤装にも、少しづつではあるが個体を構成する何かが宿っているらしく、最低でも三割以上の元の艦娘の肉体が残っていないと上手く復活できないらしい。

 沈んでしまうと、それはもう復活ではなく新しく建造する、ということになるらしく、とても似ている別人が生まれるらしい。

 

 流石に、家族も同然の従業員たちをそんな消耗品扱いするわけにもいかない。

 だから鎮守府から出撃する艦娘たちの最優先目標は常に、必ず鎮守府へ帰島すること、である。ちなみに第二は、沈まないこと、だ。第三以降にその時の作戦目標などが指示される。

 

 で、休養を挟まない全力の出撃期間が長ければ長いほど、艦娘はその戦闘能力を保てなくなる。

 無論、大艦隊を組んで代わる代わる休養を取りながらであれば、かなりの長期間行動が可能とはなるが。

 

 戦闘能力が下がった上に大きく負傷してしまうと、艤装が限界を超える。過剰負荷によって浮力すら保てなくなった艤装は、逆に艦娘を捕らえて離さない錨になる。

 

 当鎮守府も発足当初は戦力が過小極まりなく、無理な出撃が当然だった。

 新造艦にロクな訓練や指導も行えず、艦隊指揮のドシロウトだった俺では、当時はまだ四方八方から押し寄せてくる敵深海棲艦に対して散発的だったり場当たり的な指示ばかりを出していた。

 建造に次ぐ建造でなんとか数を揃えるまでは、俺に助言できる艦娘ですらそんな余裕はなく、皆必死で俺とこの鎮守府を守ってくれた。

 疲労の限界に達し、それでも強襲奇襲を重ねる敵の迎撃と時間稼ぎに、と修復も休憩も途中の艦娘が無理やり出撃していったのも一度や二度ではない。

 

 今の状況は当時に比べて遥かにマシとは言え、それでも艦娘の中には日々の疲労を抜ききれずに過ごしている者もいる。

 駆逐艦の一部には、部屋から出られないと訴える者もいるようだ。どうにかして、艦娘たちの負担がより軽くなる艦隊運用を考えねばならん。

 

 現在の人員ではこれ以上の分担も難しくなっている。つまり、艦娘の絶対数を増やすべきなのだろうが、これも上手くいっていない。

 

 艦娘は鎮守府の工廠において建造されるのだが、これはかなり不確かな機能なのだ。

 鎮守府が必要性を感じ、かつそのための資源やその他何らかの条件が揃った時に初めて俺が建造を実行させることができる。

 これは鎮守府設立当初から変わらない。俺が、俺の自由意志で決められるのは建造の許可を与えるか否かだけであり、建造の時期や何を建造するかは常に鎮守府が勝手に決める。

 そしてここ何ヶ月かのところ、鎮守府の建造機能はずっと沈黙を保っており、追加の建造が一切出来ていない。

 

 確かに鎮守府の業務はほぼ問題なく回せているが、そろそろ増員したいものだ。

 

 一応開発部に打診している計画はあるものの、実際はどうなるのかわからない。

 狙い通りに成功してくれたら現状をどうにか改善できるだろう。まぁ失敗したらまた次の案を考えればいいか。

 

 

 さて。現在一五一○。そろそろ日本本土への買い出し組の帰島時間だな。出迎えに行くとしよう。

 

「筑摩。買い出し組の出迎えに行くぞ」

「あっ、提督。もうこんな時間でしたか。わかりました」

 

 昨日の昼前、一緒に買い出し組を見送った筑摩を秘書艦室から呼ぶ。中で作業をしていた他の秘書艦たちが口をそろえて「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。

 筑摩は何やら書類をまとめていたようだが、隣で作業していた鳳翔が笑ってそれを引き継いだ。

 ありがとうございます、いえいえ、などといった落ち着いたやり取りを済ませた筑摩を伴って水上艦入港施設に向かう。

 

「買い出し組は今回コンテナ船が一隻だったよな?」

「はい。旗艦は球磨さん、以下四名と休暇申請をしていた龍驤さんが着いていたようです。コンテナ船ですが、こちらからは調味料を主とした食糧物資を満載して向かいましたね。報告によれば予定していた商品の納入はすべて完了していたそうですので、買い出し作戦はいつもどおり大成功ですね」

「そいつは重畳。買い漏らしがあると騒がしいヤツも出てくるからな。機雷原も上手く突っ切れたか?」

「ふふっ、はい。それにしてもあの浮遊機雷は凄いですね。艦娘には一切反応しない、なんて」

「一応従来の技術でも作れないことはないとは思うぞ。量産コストがどれほどになるかは分からんが。俺としては艦船を艦娘一人だけで思うままに操船させられるほうが驚きだよ」

 

 鎮守府を中心として半径百キロの円環状には、深海棲艦絶対コロス機雷がバラ撒かれている。この超性能機雷によって鎮守府は敵の侵攻ルートを限定し、防衛の効率を上げている。

 ただ、この追尾式自走機雷はあくまで艦娘に対して反応しないのであって、他の存在は深海棲艦だろうと民間船だろうとお構い無しで突撃対象だ。

 なので、通常の輸送船はわざと開けられた機雷原の空白海域を通らねばならなかったのだが、そこは敵にとってもたった三つしかない侵攻ルートだ。昼夜を問わず断続的ながらひっきりなしに突っ込んでくる敵艦隊の合間を塗って行き来するのは、あまりにも危険すぎた。

 輸送船は足が極端に遅く、もし敵艦隊に補足されたらまず逃げられない。

 

 実際何度か敵艦隊に遭遇して輸送船が沈みかけたこともある。

 その時も開発部に、どうにか通常の艦船も機雷の対象外に設定できないかと頼み込んだのだ。

 

 その依頼に開発部の妖精さんたちは十分応えてくれた。艦娘が通常艦と同調することでその船を艤装の延長として動かし、艤装の延長である船は機雷から反応されなくなったのだ。

 ただ、問題が無くなったわけでもなかった。

 

 どうにも、艦娘が船と同調する時に俺以外の人間が乗船していると気分が悪くなるらしく、耐え難いらしいのだ。

 無論、船の航行は艦娘一人がすべてこなせるようになったので、船員が乗り組む必要はなかったのだが、だからと言ってハイそうですかとは行かないのも人情だ。

 乗組員としてのプライドがある船員の少なくない数が、流石にそれは、と強く申し出て一悶着あったのだ。

 

 結局その件はこれまで使っていた船は日本国内の輸送か日本海側での輸送用に回すことにして、俺が何隻かの中古輸送船を買い取ることで事無きを得た。

 まぁそのおかげで俺は中型タンカーを二隻、大型コンテナ船を五隻に中型を四隻も所有することになったんだが。

 

 その中の中型コンテナ船一隻を護送しているのが、球磨率いる買い出し部隊だ。

 港で物資の積み下ろしと積み上げをするだけなのだが、本土に上陸できるため、意外と好奇心の強い艦娘たちにとっては資源輸送任務と並んで人気がある。

 資源輸送は主に鎮守府が産出させる原油モドキや各種鋼材のインゴットを運ぶ。食糧や弾薬に関しても、国内で生産できなかったり製造できないものを輸送している。

 

 それに対して買い出し部隊は、艦娘や俺が欲しいものを現地に注文して受け取りに行く部隊だ。

 入港先にはお邪魔する迷惑代というか入港料として幾つかの嵩張らない支援物資を大量にお渡しすることにしている。

 賄賂とは言わないが、ウチからひっきりなしに輸出しているとは言え、国民全体が文明的な暮らしを維持するにはやっぱり物不足な現状だ。

 政府の方も黙認しているし、港側も全部懐に入れたりはしない。

 こちらとしては遠征させた艦娘たちが変に絡まれたりせずに帰ってきてくれればそれでいいので、何の問題もない。

 

 さて、そろそろそのコンテナ船も十分近づいてきた。先頭を行く艦娘の顔が認識できそうな距離である。




ちなみにリアル電脳世界の当鎮守府は過去に不沈艦を沈めてしまったことがあります。
あまりの無能提督っぷりに絶望すること二ヶ月ほど艦隊業務どころか始業もままならない時期がありました。
慢心、ダメ。絶対。
そんな彼女ともう一度巡りあうこともでき、今日も彼女は提督の執務室でパンツを助けさせてくれています。

イベント時には水上打撃部隊の主力でもあります!
かわいい! つよい!

最近のイベントは終わるたびに金剛型一番艦の呼びかけが胸に刺さりますね。
でも甲でE-5とかE-6とか、ゲージ割すらできないんです。ごめんなさいお姉さま。もう許して。
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