株式会社 鎮守府   作:不可

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13. 艤装の研究

「恐らくは例の研究の実用試験かと思われます」

 

 龍驤の陰謀論には惑わされた様子もなく、落ち着いた声で大淀がそう言う。

 

「例の研究っていうと、人間にも艦娘の艤装を使えるようにするっていう、あれか?」

「はい、提督。政府からの通常取引を一部変更する形で、こちらが提供する資源に艦娘用の艤装一式と実体化済みの艦娘用資源を含めています」

 

 従来の現代兵器のほとんどが、センサーに感知されないという深海棲艦の特徴の前に無力化した現在、兵力の中心は人間そのものだ。

 洋上に浮かぶ自動車サイズが精々の深海棲艦に、精密なセンサー無しでの照準は無謀極まりなく、例え座標をしっかり指定したミサイルを飛ばしても、相手も動く以上は当たらない。

 つまり、人類が扱う兵器は肉眼で測定しほぼ人力で照準する旧世代の遺物へ大逆行せざるをえなかった。

 かと言って自動小銃、やミニガンのような火力では駆逐艦の装甲を多少傷つけるのが限界で、対物ライフルを近距離で撃ってもへこませるのが精々だったりする。

 そのため、陸上の防衛は沿岸に設置された大口径砲と大型戦車がメインになり、護衛艦の装備は旧時代の軍艦よろしく中口径砲や大口径砲に換装されていた。

 それらも照準に関しては電子機器どころかアナログな感知器すら役に立たなかったので、人力に頼らざるをえないという人類科学の敗北を余儀なくされている。

 

 ただ、これまで人力での照準など全く重視していなかった現代兵器に慣れ親しんだ兵士たちは、そういった肉眼照準に戸惑うばかりだった。

 何せ深海棲艦が出没してからまだ二年とちょっとだ。

 熟練するにしても打開策を見出すにしても時間が足りていない。

 

 そこで、深海棲艦との戦闘に絶大な戦果を上げている艦娘の装備は、日本政府どころか各国の注目を集めてやまないようだ。

 ただ、艤装に関しても非常にオカルト的なトンデモ装備なので、通常の人間には全く扱えない。

 身に付けることができたとしても、その操作には艦娘たちの直感的というか感覚的な何かが必要となるので、そういったものを持たない一般人にはただの重い金属塊でしかないのだ。

 

「ふむ。改良実験に成功したのかな?」

「改良できたとしても微妙クマ。資源補給を受ける艦娘がいない以上、人間が艤装を使うには外付けで燃料や弾薬を用意しないといけないクマ」

「そうやなぁ。ウチらみたいに非実体の資源を貯蓄できるなら別やけど、実際一度出撃すれば燃料だけでも何百トン分も使っとるわけやからなぁ」

「ええ。電探や測距儀は構造上、艦娘から離れて使っても意味がありませんので、大型化してもただの的にしかなりませんしね」

 

 そう。燃料や弾薬の補給は艦娘自身が受けて、艤装は本当にただの装備でしかないのだ。もちろん、オカルト的な装備だが。

 そのため、この霊的装備を動かすには、同じくオカルト的な謎の資源を必要とし、それはこの鎮守府で生産されている。

 元は深海棲艦が使う謎の資源と呼ぶ膨大なエネルギーそのものを、鎮守府の施設を使って変性させることで艦娘が扱える戦闘資源、燃料や弾薬に、あるいは修復資源の鋼材やボーキサイトが得られる。

 こいつらも名前が付いているが、艦娘がそのまま使う分には特に実態のないエネルギーそのものの状態で補給させている。下手に実体化させると詰め込むのが大変だからな。

 

 そして、燃料弾薬タンクである艦娘がいない以上、人類が艤装を扱うにはその代替となる外付けのタンクが必須だ。

 人間の肉体には補給できないのは実証済みである。補給しても特に健康問題は無かったが、逆にエネルギーを留めておくこともできなかったようだ。

 

 こんな事情を押してでも人間が艤装を扱えるようになりたいというのは、ひとえにそれだけの必要性があるからだろう。

 

 現状の人間の防衛力には限界があり、深海棲艦による一斉侵攻こそ何とか抑えているが、日本以外は軒並みジリ貧だ。

 日本だってウチの鎮守府があるからまだ本土襲来をされていないだけで、離島なんかはとっくに敵の勢力圏に落ちている。

 幸いなのは、深海棲艦にとって陸地が常に棲地となるわけではない、ということか。

 幾つかの島は拠点として泊地化されたりはしているが、それにしたってあくまで敵の集結地点だというだけで、無限湧きしているわけではない。むしろ適度に間引くことができれば、周辺海域から深海棲艦が集まってくるので、その海域の沿岸部はかなり平和になる。無論、泊地に集結した大量の深海棲艦を下せればの話だが。

 まぁ泊地は動かないので、旧来のミサイル兵器による爆撃が容易でもあるため、そこまで難しいわけでもない。

 

「仮に本当に人間が扱うのであれば、稼働時間はどれだけ多く見積もっても三十分。戦闘行動をするなら十分ももたないでしょうね。それ以上の燃料を積めば人体のほうが潰れます」

「ロボットみたいに合体すればええんちゃう?」

「図体がでかくってもただの的だクマ。二人分の重量で同じ俊敏さを求めたら結局燃料消費は激しくなるクマ。トロトロ動いてたらそれこそただの射的だクマ」

「十分でも海上で深海棲艦に対抗できるとなればやるかもな。普段は護衛艦に乗り込んで、甲板上から援護射撃をしていればいい。敵が接近してきたら短期決戦で出動。こうすれば艦上で補給を受けながら、断続的にだけど長期的に戦える」

「なるほどなぁ。よー考えるで」

「実際のところはわからないさ。でも、もし実験が成功していれば。この方法なら日本の防衛力はグッと高まると思わないか?」

「ありえなくはありませんね。事情はどうあれ、漁船の被害が増えているのは確かです。近海の漁場を確保したり、あるいは沖縄の奪還を図る上では非常に魅力的な手法に思えます」

「魅力的なだけだクマ。沖縄なんか奪還しても継続して守るにはこっちからの補給が間に合わないし、漁場なんかいつ深海棲艦が湧いてくるかわかったもんじゃないクマ」

 

 確かに球磨の言うことも尤もなのだが、そこは追いつめられた人間の心理。

 絶望的な状況に僅かな希望の光が見えれば、人間はどうしても縋ってしまうものだ。そんな微かな光では救われないと、どこかでわかっていても。

 

「まぁ十分でも人間だけで戦えるようになれば大したもんさ。上手く行けば俺たちが負担している戦闘海域も自分たちでどうにかしてもらえるかもしれんしな」

 

 基本的に太平洋側で発生した深海棲艦は、太平洋中から集まってくる何かの流れに沿ってこの南鳥島を攻めてくる。かつては太平洋の一大棲地だったこともあり、向こうも奪還しようとしてか、単に棲地だから集結しているのか、かなり広範囲にわたってその集結網は広がっている。

 ただ、この網は隙間なく編みこまれたものでもないようで、一部の海域で発生した深海棲艦は通常通り手近な陸地に攻め込む。

 日本近海にも幾つかそんな海域があり、政府からの警備依頼を受けてウチの鎮守府が代わりに対処していたりする。

 

 毎日湧いているわけでもないが、週に何度かは湧くので、専門の遠征部隊を組んで周回させたりしている。

 これが結構バカにならない負担で、向かう先にいる戦力に比べてこちらの派遣人員が多すぎるのだ。

 しかし海域を移りながらほぼ毎日連戦となるので、これ以上艦隊の人数を減らすわけにもいかない。事実、遠征部隊の総旗艦である長門からは帰島するたびに追加の人員をそれとなく要求されている。

 

 あいつらが戻ってきて常に鎮守府で待機できるようになれば、鎮守府全体の三交代制も実現できるのだが……。

 

「おおぅ! そうなったらまた休日を増やせるなぁ!」

「よいことを聞いたクマー!」

「そう簡単には行かないと思いますが、そうなって欲しいですね」

 

 それからは細々とした報告を龍驤から聞いて解散することにした。




海上を二本足で立って自在に航行できるというだけで超技術というかオカルトすぎる気がします。
体重が十キロもないとかなら可能かもしれませんが、接水面積的にどんな浮力の受け方すれば実現できるんでしょうね?
ちなみに、人間が携行できる火器で深海棲艦に一番有効なのはロケットランチャーです。
一発で沈めることはできませんが、何発か当て続ければ駆逐艦なら余裕で倒せます。

洋上で数撃ちゃ当たるミサイル攻撃をするよりは弾薬の消費効率は良いのですが、ロケットランチャーが使える射程圏内まで近づくのが難しいので、人名の損耗率がやばくなります。

そもそも敵艦載機がいたら機銃だけで人間なんて薙ぎ倒されちゃいますし、駆逐艦でも艦砲射撃の射程は数キロあるという理不尽世界なので。命中率的に、深海棲艦も目視ギリギリの距離まで近づいてから本格的に打つんですけど。
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