※誤字を修正しました。(2016.01.21)
しばらくは平穏な日々を過ごした。
本土から資源の発注が増え、さり気なく艤装と実体化済みの艦娘用資源も要求量が増えてきている。
例の研究が順調なのかどうかはまだわからないが、龍驤の調べでは人間の不可解な失踪は流石に無くなったらしい。
既に各方面とも人事異動も落ち着いた頃だし、今更新しく人を動かせば誤魔化しきれないだろうとのことだ。
協力して欲しいなら正面から言えばこっちも快く協力できるんだが、相手が秘匿している研究にこっちから協力を申し出るわけにもいかない。
「まぁ今のところ鎮守府にも余力ができつつあるからな。そう急ぐこともないか」
「どうされましたか、提督」
思わず出てしまった独り言に反応する不知火。
数週間前に一気に建造できた駆逐艦たちの教練進捗の報告に来ていたのだ。
艦娘は建造時から何の訓練もなしに海面に立てるし海上を走れる。戦闘だって誰に言われることもなくできる。
しかし、艦でありながらも人型である彼女たちの建造時の戦闘性能は、あまり優れているとは言い切れない。
ハッキリ言って、深海棲艦と同レベルである。
深海棲艦たちに知能や戦術はあっても成長や工夫がない。
生まれ持った個体の力でただゴリ押ししているだけだ。そうでなくては、圧倒的な物量差と種としての強靭さの前に人類が今も生存していられるはずがない。
ヤツらはあくまで機械的に動くので、対応策さえ見つければ艦娘がいなくとも凌ぐことは可能だ。
新造艦娘はそんな深海棲艦と同レベルの戦闘しかできない。単調すぎるのだ。
それでも艦隊を組めばそうそう負けたりはしないが、そもそも物量差があるため、同レベルの動きではいずれこちらが消耗させられてしまう。
そうならないよう、鎮守府の防衛にある程度余裕ができてからは、必ず各員に技術向上のための訓練と意見交換会を課しているし、新造艦娘にはそれらを学びやすくまとめた教練課程を用意している。
その教練がいよいよ修了しそうだというので、今日は指導側の駆逐艦である不知火に話を聞いてみている。
正直、俺が聞いてもあんまり意味は無いのだが、今はちょうど暇だし、不知火も秘書艦室の木曾と打ち合わせをしていただけなので、暇つぶしに付き合ってもらうことにした。
「なんでもないさ。それで、新入りたちの様子はどうだ?」
「順調です。先日神通さんと矢矧さんが演習中にもかかわらず、出没したはぐれ深海棲艦の対処に向かった際も、大きな失敗は無かったようですし。不知火の時もこのような教練があればもっと鎮守府の状況をよく出来ていただろうにと思います」
「それは重畳。まぁ、あの時は確かにキツかったけど、それを乗り越えられたからこうしてこの教練課程も作れたんだしな。あと神通たちのは流石にやり過ぎだと思うぞ」
「わかっています。何にせよ、そろそろ輸送任務につけてみても良いかもしれません」
「そうか。ちょうど輸送船の数が増えそうだったからな」
「はい。先程木曾さんと大淀さんにも相談しておきました。今ある輸送船護衛部隊に増員する形で最初は様子を見るとのことです」
九州南洋の防衛事情は更に激しさを増しているようだ。
今のところこちらが実力支援する事態にはなっていないが、消費される弾薬資材の量が半端じゃなくなっている。
何せ深海棲艦は海上を動く物体としては小さすぎる。
遠距離から狙いをつけて撃つなど、大戦時の熟練砲兵でも難しいだろう。
従って現在九州方面の防衛は、とにかく砲弾を局所的にバラ撒いて何とか当たることを祈る、という旧帝国軍が聞いたら妬ましさで憤死しそうな戦法だ。
敵の出現頻度が上がっているからか、消費される弾薬が馬鹿にならず、こちらからは材料だけじゃなくて完成品まで売りつけているほどだ。
元々こっちで完成品まで製造できなくもなかったのだが、それでは国内の製造業が儲からないということで材料だけ提出して、弾薬類は本土で工場生産させていた。
今や国の基幹産業ともなったその弾薬生産が追いついていないというあたりに、日本の追い詰められようも伺えてくる。
やはり弾のバラマキは効率が悪すぎるのだが、現状その改善策がない。研究中ではあるようだが。
「まぁ、結構なことさ。またウチで中古のコンテナ船を三隻も買わされたが、こっちの景気はまだまだ良いからな。というか二次関数レベルだ。本格的に国外輸出しだしやがったから、取引量がまた増えた」
「妖精さんたちも増員が必要ですね」
妖精さんは鎮守府に宿るスピリチュアルな存在だが、どこで寝泊まりしてるのかとかは一切わかってない。
不眠不休で働いているわけではないようだが、彼女ら用の宿舎などが存在しないのだ。
多分鎮守府自体に宿ってる守護霊とか付喪神的なアレなんだと思っている。
彼女たちを増員するには、ちょっとした儀式が必要だ。
妖精さんたちの人手が足りていない場所で俺が「あ~あ……もっと妖精さんがいてくれたらなぁ……!」と大きな声で叫ぶと、どこからともなくワラワラと湧き出てきて作業の手伝いを一斉にしだす。
超ハイペースに作業を進める傍ら、増えた妖精さんたちはチラチラと俺を気にしてくるので、そこで「ありがとう! 妖精さんがたくさん居てくれて、とても助かるよ!」と俺が叫ぶと、妖精さんたちはテレテレしながら定着してくれる。ちなみにここで何も言わずに作業が終わってしまうと、妖精さんたちは寂しそうな顔をしてどこかへ消えていき、総員は全く増えない。あくまで一時的なお手伝いで増えてくれるのだが、その場合でも「ありがとう! 今日は特別に忙しかったから皆が手伝ってくれて助かった! また今度もよろしくな!」と感謝を伝えれば満足そうな顔をして元の数に戻ってくれる。非常に理不尽でファンタジーな生命体だが、彼らなしに鎮守府は万全に機能しない。
「そうだな。購入した船を半艤装化する改修にも人手がいるし、この際は長期的な増員をして今後に備えるか」
「それが良いと思います」
購入した中古船が鎮守府に着いたら、妖精さんに増えてもらおう。
彼女たちも飴とか甘いお菓子類が好きな娘も多いので、その時は本土から大量に金平糖でも取り寄せておこう。
ウチの鎮守府の妖精さんは喋りません。
ただ、テレパシーっぽい不思議パワーで意思疎通してくるので、彼らの求めることとかは言いたいことは何となくわかります。
でも艦娘と提督以外にはテレパシーを受信する能力がないと理解できないです。
ちなみに、妖精さんの増員には「提督が必要としている」という状況が必須なだけで、本文のように作業中とか決まっているわけでもないですし、締めの言葉が必要ってわけでもないです。あったら妖精さんも嬉しいってだけで。
妖精さんたちも鎮守府を通して得られる資源だけで活動できるので、甘味なんかは純粋に嗜好品です。中には塩物のほうが好きな娘も居ます。
その分、資源の提供がない場所では活動どころか存在すらできなくなるので、基本的に鎮守府から出ません。