株式会社 鎮守府   作:不可

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15. 長門はガチ

 今日は普段の鎮守府防衛や資源輸送任務に加えて、本土周辺海域にポップした深海棲艦を討伐して回っていた遠征組の帰還予定日だ。ちなみにポップとはいわゆるネトゲ用語の「敵が出現する」という意味であって、某大魔導士のように瀕死の大ピンチから起死回生の気合と機転で大活躍するアツい主人公化の意味では決してない。

 

 日本近海どころか太平洋の大半とその周辺にポップする深海棲艦は基本的に鎮守府のあるここ南鳥島を目指して押し寄せてくるのだが、一部の例外海域で湧いた敵はその流れに乗らず、手近な陸地へ侵攻していく。

 小規模艦隊のポップ程度なら今の日本の防衛力でもなんとかなるので、自衛隊で対処することになっている。鎮守府と政府との契約によれば、日本近海に出没する深海棲艦の内、八隻以上からならる敵艦隊もしくは正規空母・戦艦を含む敵艦隊が日本本土へ侵攻する場合、その対処をウチが引き受けることになっている。

 日本本土沖では大抵が駆逐艦・軽巡洋艦級の深海棲艦しかポップしないものの、南西諸島海域や北方海域の奥地では空母も戦艦も湧きたい放題だ。

 

 この世界がゲームさながらだったなら、叩きまくって格好のレベリング場になっていたかもしれないが、残念なことにこの世界にはレベルなんていう便利なステータスは存在しない。

 個々の火力や装甲値は艤装からある程度推測できるが、艦娘個人の戦闘能力などはその娘自身の経験と才能に依存しているため、具体的にどれくらい強いとかは数値化できない。

 敵を倒して経験を積むことはあっても、それは単に慣熟したというだけで、その娘自身が強くなったわけでもない。

 

 レベルというシステムは無いとはいえ、戦えば戦うほど戦闘経験とは積もるもので、積み上げられた経験は何よりも優る武器だ。

 遠征や鎮守府防衛で常に戦い続けている第一線級の艦娘たちは、他のベテランとも言える艦娘たちと比べてさえ別格に強い。

 

 そんな歴戦の猛者の中でも、極めて戦地指揮能力に優れている戦艦が長門だ。

 彼女が聯合艦隊を指揮した場合、艦隊の戦闘能力は飛躍的に高まる。

 個々の艦娘の特質や敵の性質を知り尽くした彼女が繰り出す指示は一々的確極まるもので、且つとてもシンプルだ。

 聯合艦隊内の各部隊や戦隊との連携を極限まで意識した用兵は、数にして倍する程度の深海棲艦の艦隊であれば余力を持って圧倒できる。

 

 また、彼女自身の戦力もふざけたレベルで、直撃弾なら大概の敵を一発で沈めてしまう、まさに戦艦の名に恥じぬ超火力。それも彼女自身の努力と歴戦の経験から命中精度は驚異的なレベルで、戦闘詳報によれば、十五キロ圏内の命中率がおよそ七割、十キロ圏内で九割、通常の戦闘距離である五キロ圏内では牽制目的以外は全て命中弾とかいう変態だ。

 一度彼女に、どういった理屈でそんなにバカスカ当てられるのかを聞いたところ、「全ては日頃の弛まぬ努力のなせる業だ。砲の特質を知り尽くすほど撃ちまくり、一分先の敵の動きすら予測できるほど敵を知り尽くし、空気の濃淡が匂いでわかるほど風の動きを読み尽くす。さすれば当たらん弾など無いさ。私もまだまだだがな」とのことであった。近くで偶々それを聞いた神通も納得顔で何度も頷いていたものの、そんな芸当マニュアル化できるものじゃないし、多分あの二人の訓練を真似できるのは艦娘といえど極々少数だろう。

 

 まぁ、そんな彼女なので、日本近海の敵ポップ海域を周回していく遠征任務では大活躍に次ぐ大活躍だ。本来なら水雷戦隊の戦隊長である神通や矢矧もこの周回遠征部隊に編成されていたのだが、数週間前に建造された駆逐艦たちの教導のために引き抜いたのだ。

 長門からは戦力低下について文句も言われたが、随伴の補給船に簡易修理施設と明石をつけることで了解を得られた。

 

 普段の遠征部隊には、消費した燃料や弾薬を補給するために資源を積み込んでおく輸送船をつけているのだが、資源は補給できても艤装の損傷を修復することができなかった。

 高速修復材は艦娘の身体には使えても、艤装には効果がない。

 従って、遠征中に艤装が破損すると戦線復帰は難しくなるのだ。

 この辺りの事情に、矢矧と神通がやたらと回避訓練を重視する原因がある。

 

 この問題は長門にとって非常に悩ましいものであったし、俺にとっても悩ましかった。

 高速修復材は艦娘でも使えるが、艤装に関しては全般的に妖精さんがいなければ何もできない。例え修理用の機材があっても、艦娘はそれを感覚的に扱えないのだ。

 かと言って妖精さんを補給船に乗せても、妖精さんたちは鎮守府から離れられない。

 存在するだけで資源を消費してしまう妖精さんは、海上を走るだけならほとんど燃料を消費しない艦娘と比べて非常に燃費が悪いのだ。

 

 そこで工作艦である明石を艦隊に加えることで、遠征先での簡易的な修理や大破時の応急処置が出来るようになると思いついたは良いものの、この案にも問題はあった。

 

 明石は工作艦の艦娘ではあるが、同時に工廠の妖精さんたちの統括的立場でもあった。

 彼女が陣頭指揮を取ってアイデアや作業指示を妖精さんたちに伝えることで開発を強力に進めてきていたので、彼女が開発部から長期間抜けるのはあまり歓迎できないことであった。

 艤装の修理作業や量産作業などは既に決まった工程なので明石の指示もほとんど必要ないが、新装備などの開発には彼女の力無しではこれまでのような迅速な進捗は期待できない。

 鎮守府の人手不足を解消するための幾つかのプランを研究している開発部の遅滞は、遠回しに自分の首を絞める、とまでは言わないものの、自分の足を引っ張っているようなものではある。

 

 それ故に、基本的に明石は工廠勤務。特別に必要な場合のみ遠征艦隊に随伴する、というふうに取り決めていたのだ。

 

 今回は神通と矢矧という、水雷戦隊の要の二人を引き抜いたわけなので、交代の人員として多摩と長良を加えているとはいえ、急場の連携では思わぬ被弾を招くかもしれない。遠征中の被弾はかなりの問題になるため、これを対処するべく工作艦明石の随伴を許可されたし。とは長門の言だ。

 まぁ、これには俺も納得だったので、明石に言って開発進行の調整をしてからしばらくは遠征勤務に就いてもらうことを了承してもらった。

 

 そんな遠征部隊が今日、南方の周回任務からやっと帰島する。

 帰島後は一日の完全休養日と一日の自由行動時間を経て、早々と次の北方周回遠征に出ることになっている。

 

 哨戒任務にでている伊五八からの報告によれば、北方の目標海域ではまだ敵ポップの兆候は見られていないようだが、前回の遠征時期を鑑みればそろそろ次のポップが迫っている。

 

 まぁ、とにかく今は大仕事を終えてきた彼女たちを出迎え、しっかり労ってやることが重要だろう。

 電信連絡によれば大過なく作戦を終え、順調に帰島航路に就いていると聞く。

 時間的にそろそろ機雷群のあたり、鎮守府から百キロほどの位置に来ているだろうから、遠征部隊の巡航速度を考えればあと二時間か三時間ほどで着くだろう。




ウチの鎮守府の長門はガチ変態レベルの戦闘能力です。
回避運動に専念した神通と矢矧に夾叉で射撃できるレベルです。
ちなみに、新造艦の駆逐艦娘の教練修了の目標が、神通か矢矧どちらかとの演習中、二時間以内に至近弾を二発撃つこと、となっています。
殆どの駆逐艦が「一発はラッキーに賭ける、二発目は奇跡を祈る」と言って白い目で演習に臨みますが、そんな腑抜けた目で神通さんや矢矧さんと演習すると懲罰訓練で三回くらいゲロを吐くまで追い込まれるので死に物狂いで演習します。

長門さんは十五キロ先でも七割の命中率を誇っていますが、これは辛うじて敵が水平線の手前にいるからであって、その先の敵には流石に命中精度が下がります。二十キロ先で三割くらい。
ちなみに、史実での大戦時に二十キロ先の命中率三割とか化物戦艦は(多分)いません。
大和なんかは三十キロ先の敵に砲撃できたようですが、艦娘は身長が五十メートルもないので、目視可能距離は精々十五キロから二十キロ未満です。
水平線より奥の敵への砲撃は、電探と呼ばれる艦娘特有のカンだよりなので、基本的に牽制射撃にしか使えません。長門は三割で当ててきますけど。
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